唾液はのどを潤すただの水分程度に考えがちであるが、その働きは神秘に満ちています。
唾液は毎日1リットル以上分泌される液体で、一番人が使いやすい分泌液の一つと言えます。
分泌された中性の唾液は、食道内を洗浄、中和し、胃から逆流し食道内に残留した胃酸が食道粘膜を損傷するのを防いでいます。
簡易的に液体として使う場合もあり、チラシやビニール袋を開ける際に指に湿り気を与えたり、怪我をした時に傷口に塗りつけることもあります。不思議なことに唾液で舐めたあとの傷は、治りが早いのです。しかもバイ菌で化膿しませんし、傷跡が残らないのです。
人が意図して出せる分泌液は非常に少ないため、唾液ほど本来の用途以外に用いられている分泌液はないと思います。
では、本来の目的とは一体何なのでしょう?
唾液には、以下の八つの素晴らしい働きがあります。
① 「お口の粘膜を潤し、お口を滑らかにする(潤滑作用・湿潤作用)」
お口の中には、硬い歯とやわらかい粘膜が同居していますが、しゃべったり、食べたりしても傷つかないのは、唾液がお口の中を潤しているからです。
② 「消化を助ける(消化作用)」
唾液の中には、消化酵素のアミラーゼが含まれています。アミラーゼは、糖質を分解し、体内に吸収しやすい状態にする酵素です。アミラーゼは、炭水化物(米やパン)だけに効く消化液です。
唾液は炭水化物に含まれる糖類を細かく分解することが出来ますが、この酵素は胃に入ってしまうとその機能を失ってしまいます。つまり、胃で炭水化物は分解されないのです。
胃は非常に強い殺菌能力や消化能力を持っているにも関わらず、人間の最大の栄養源である糖類を分解する能力を持ちません。つまり、お米は胃で消化できないので、唾液で消化する必要があるため、「ご飯はよく噛んで食べなさい」と言われるのです。
③ 「飲み込みを助ける(咀嚼・嚥下作用)」
唾液との混和で適当な食塊ができるため、飲み込みやすくなります。
④ 「生体を守る(生体防御のはたらき)」
人体で外に開いている部分(お口、目、鼻など)には、外から浸入してくる細菌などを防ぐ役割をしている生体防御機能がはたらいています。唾液に含まれるリゾチームは、その役割をするひとつで抗菌作用を持った酵素です。
リゾチームは唾液だけでなく、涙や汗、リンパ腺、鼻粘液、肝臓、腸管など、生物体内に広く分布していて、色々な細菌感染から生体を守り、生命維持に欠かせないものとなっています。また、唾液に含まれるムチンは、菌を凝集させ、菌塊とし、口内から排出するはたらきをしています。
他に免疫グロブリン、ラクトフェリンなどの抗菌物質が含まれており、実に十数種類もの殺菌作用を持った成分を含み、それらが口内に入り込んだ様々な細菌やウイルスを殺して「免疫」の役目も果たしているのです。
⑤ 「味覚」
私たちは、主に「甘味」・「酸味」・「塩味」・「苦味」・「うま味」といった5つの味を感じとっているので、毎日の食事を楽しむことができます。これは、食べ物に含まれる味物質が、唾液の中に溶け込み、舌の「味蕾(みらい)」と呼ばれる味覚受容器に届けられることで、味を感じることができるからです。
しかし、唾液がないと、潤滑作用がなくなって舌がこすれて味蕾がなくなったり、舌炎を起こして味蕾がはたらかなくなったりします。また、味物質もきちんと味蕾に届かなくなります。つまり、唾液がなければ、私たちは物の本来の味がわからなくなるという“味覚障害”に陥ってしまうのです。
⑥ 「お口の中を清潔に保つ(洗浄作用、自浄作用ともいう)」
唾液は、お口の中を洗い流す役目を果たします。だから唾液の分泌量が少なくなってしまうと、お口の中が汚れやすくなり、ムシ歯になったり、口臭が出たりしやすくなります。
⑦ 「お口の中のpHを一定に保つ(緩衝作用)」
唾液中の重炭酸塩(イオン)[HCO3−]のはたらきによってお口の中のpHを中性に保とうとします。特に、飲食後はお口の中が酸性に傾きがちです。酸性の状態が長時間続くと、歯が溶けてムシ歯になりますが、唾液のもつ緩衝作用によって、お口の中をいち早く中性に戻すことで、歯が溶けて、ムシ歯になるのを防ぎます。ですから、中性に戻す能力が低い唾液を持つ人はムシ歯にかかりやすいといえます。
⑧ 「酸によって溶けた歯を修復します(再石灰化作用)」
ムシ歯菌が出した酸によって歯のカルシウムやミネラルが溶け出しますが、唾液にはカルシウムやミネラルを歯に補充し、修復するはたらきがあります。これを再石灰化作用といいます。この再石灰化作用が弱い人はムシ歯にかかりやすいといえます。
このように、唾液は私たちの生命活動を維持する上で、とても大切な働きをしていることが分かります。
最後に、唾液のもつ若返りパワーについても一言。
老化の原因の一つとされる活性酸素に対して、唾液は分解して除去する働きがあるのです。
つまり、唾液がたくさん分泌されればそれだけ肉体の老化を防いで、いつまでも若いことになります。また、唾液が増えることはガンや腫瘍などの命に関わる病気を未然に防ぐことにもつながると言われています。
普段何気なく食べている物でも、今よりほんの少し噛む回数を増やすだけで、唾液の量が増えて簡単にアンチエイジングができます。「唾液は若さの秘薬」、そう言われるのは決して大げさな表現ではないようです。
この良いこと尽くめの唾液を、「地に唾を吐き捨てるとか、唾を飛ばす」とか、そのようなもったいないことをしてはならないのです。
貴重な唾液を創り出していただき、神仏にお礼申し上げます。
---owari---
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