有志舎の日々

社長の永滝稔が、 日々の仕事や出版・学問などに関して思ったことを好き勝手に 書いていきます。

連続する学術書出版社の解散・破産

2016-08-01 10:32:22 | 出版
創文社と新思索社について、「出版状況クロニクル」2016年7月には、以下のように暗澹たる記事が(12項と13項)。

12.学術出版社の創文社が2020年をめどに会社を解散すると公表。新刊発行は来年3月までとされる。
これは人文書出版社に静かな波紋として、大きく拡がっていく気がする。創文社は千代田区一番町に自社物件不動産を有し、高定価、高正味と学術出版助成金に加え、日キ販をメインとする安定して取次と常備書店網を備え、盤石の学術出版社と見なされてきたからだ。それゆえに『ハイデッガー全集』やトマス・アクィナス『神学大全』の企画刊行も果たせたと思われてきた。
その創文社でさえも売上の回復が見こめず、解散に向かうとすれば、日本でもはや大学出版局を除いて、学術出版は不可能だと考えるしかない。

13.これも人文書の新思索社が破産。
 負債総額は5000万円。小泉孝一社長が亡くなり、事業を断念したことで、取締役が破産申し立てに至ったとされる。
実は「出版人に聞く」シリーズ〈15〉の『鈴木書店の成長と衰退』の小泉孝一は、この新思索社の経営者であった。
このインタビューは2011年11月に行なわれたのだが、その直後から連絡が取れなくなり、四方八方手を尽くしたけれど、探すことができなかった。そのためにインタビューは3年ほどペンディングになっていたのである。
しかし取次の危機も顕在化してきたため、そのままにしておくには惜しいこともあり、あえて刊行したという事情も付随していた。
だがこの本の刊行後も、小泉の消息への多くの問い合わせは寄せられたが、本人からは何の連絡も入らなかった。
そしてそれから2年後に、新思索社破産と小泉の死の知らせを受けたことになる。だがいつ亡くなったのか、在庫はどうなるのか、破産に至る経緯と事情はどうだったのかは、まだ何も伝わってこない。

上のコメントで、
「日本でもはや大学出版局を除いて、学術出版は不可能だと考えるしかない」という見通しに果たしてどう反論していけるか。
生き残ることでしか反論し得ないけれど、どの学術書版元も綱渡りであり、もはや収益を上げるどころか生き残ることさえ容易ではない状況。
これまで大きな販売先だった公共図書館は予算削減と人件費削減で選書できる人がいなくなり、民間委託と「民意を尊重する」方針により、貸し出し・リクエストが多いベストセラー本を優先して購入する一方、貸し出しが少ない(つまり「民意に沿わない」)専門研究書は殆ど購入しなくなった。
そして、社会全体から学術書を買う人は減って、街の書店は次々倒れ、大型店も撤退が増え、中堅取次も消えて小規模版元には返品の洪水が押し寄せて資金繰りが悪化。
おまけに、著者である大学の研究者の方々は校務に忙殺され、研究が出来ないので原稿も出来てこない。

こうした何重にも取り巻かれた困難のなかでは、たしかに大学出版局ではない、営利企業である一般学術出版社が社会に存在しうる可能性は極めて小さくなっています。
いずれはアメリカのように、学術出版は大学出版局だけが担うものになっていくのかもしれません。
でも、もう少し有志舎は足掻いてみようと思っています。
果たして私の引退と一般学術書出版社の消滅と、どちらか早いか、文字通りのサバイバル競争です(笑)。

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