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有志舎の日々

社長の永滝稔が、 日々の仕事や出版・学問などに関して思ったことを好き勝手に 書いていきます。

近代の「家」と農村の再検討

2015-08-30 22:31:01 | 学問
現在刊行されている『岩波講座 日本歴史 近代2』に載っていた「地主制の成立と農村社会」(坂根嘉弘 執筆)を読んで衝撃を受け、続けて『日本伝統社会と経済発展』(坂根嘉弘著、農文協、2011年)を読みました。
坂根さんのこれらの作品では、戦後の歴史学で「日本の近代化が遅れた元凶」「封建的・半封建的」と言われていた「家」制度と日本的「村」構造こそが、逆に明治以降の日本の経済発展の基礎であり、社会の安定性を作りだしたものであるということを主張されている訳です。
これは、これまでの地主制史・村落史・農村経済史の研究成果を全くひっくり返すような重大な研究だと思うのです。
この研究を肯定するにしても否定するにしても、この研究の登場によって近代日本社会そのものの評価をもう一度やり直さないといけなくなってしまったということは事実だと思うのですが、私は専門家ではないので自分で研究は出来ないから、かわりに日本の「家」や村落について色々と本を読み直しています。
歴史学はもちろんですが民俗学も大事ですし、ひとつ気付いたのは文学作品も大事だということです。
そういうなかで横溝正史の作品も読み直しています。
たとえば、『獄門島』(作品の舞台は1945年)のなかには「封建的な、あまりに封建的な」という章があって、そこでは網元の「家」相続を傍系男子にさせるために直系女子を次々と殺していくという連続殺人の動機が語られます。
現在の若い読者からすると「何でそこまでしなければいけないの」と感じてしまう殺人動機だろうと思うのですが、当時はこれに説得性があったということなので、そういう日本の「土俗的な家制度」というものへの体感が無くなってしまい、わかりにくくなってしまっているのだろうと思うのです。
そうすると、今こそ日本の近代地域社会の姿をもう一度きちんと提起し直さないといけないのではないかと思うのです。当然そこでは、単に経済発展に役立ったという評価だけではなく、一人一人の「生」を主体にして書いていくことが必要で、個人を縛り続けた因習や無言の同調圧力のような、ある世代にとっては「当たり前に知っていた」ということも、改めて具体的に示し直していかないとダメなのではないか、そういう本を作れないものか、と考えています。
農村史専攻の方々、ぜひお考え下さい。
先日、このことをある政治史の研究者に話したら、「女性史・ジェンダー史の人が坂根さんの研究になぜ反論しないのか分からない」とおっしゃってました。たしかに、それにあたっては「(近代)日本の家父長制」を正面から問い直さないといけないので、ジェンダーの視点をきちんと入れて考えていかないとダメだと思います。
それとも、もうそういう研究は本になっているんですかね?
教えていただけると助かります。

安彦良和『王道の狗』を一気読み、感動!

2015-08-29 22:07:46 | 日記
『王道の狗』全6巻(講談社版、現在は中央公論新社文庫コミックスに収録)を一気読み。素晴らしい作品でした。
『機動戦士ガンダムThe Origin』の作者・安彦良和による、自由民権運動から日清戦争期の日本・朝鮮・中国を股に掛けた歴史劇画です。
秩父事件・大阪事件の残党・加納周助が、田中正造・勝海舟・陸奥宗光・金玉均・全琫準・孫文といった人物に出会いながら激動の19世紀東アジアを駆け抜けていきます。
背景となっている史実もしっかりとリサーチされていて近代史に詳しい人間ほどニヤリとさせられます。
物語の終盤、主人公(彼が秩父事件の生き残りという設定がたまらない)が、日清戦争を外務大臣として指導した陸奥宗光に対し放った言葉、
「日本を清国との汚い戦争に向かわせ、しかも戦勝を利して過大な領土割譲を強要し、独立保護の美名に隠れて朝鮮を支配下に置いて両国人民の心に日本憎しの想いを植え付けた。アジアに仇をなす行為だ、それは!」
ここに安彦さんの歴史観がはっきり出ており、大いに共感しました。
それと細かいところでは、自由民権運動の国権主義的な在り方にもきちんと批判の目が向いていて、さらに感動。
オススメです。

企画のこと

2015-08-28 14:22:50 | 出版企画をめぐって
今日は、新しい出版企画を企画書にまとめました。
前から漠然と考えていたものですが、ここで形にしておこうと昼前から集中して作業し、先ほど完成。企画書と同時に著者への依頼状も準備しました。
有志舎は一人出版社なので、企画会議なんてものはないですから、自分で考えたままで依頼できます。だから、わざわざ企画書にしなくてもいいだろうと思われるかもしれません。でも、私は殆ど企画の依頼の際には、企画書と依頼状をセットにして郵送します。
ただし、相手のメールアドレスしか分からないということもあるのですが、そういう時でも企画書は作って添付ファイルで送ります。
つまり、口約束だけで企画は進めないというのが原則。ただ、原則なので例外はあるかもしれませんが。
なお、飲み屋でまとまった企画も、文書にして後日に著者・編者へ送ります。そうしないと、無かったことになってしまうからです。「企画は会議室で決まるんじゃない、飲み屋で決まるんだ」というのは一面での真実ですが、飲み屋の話だけにしたら企画にはならないので、必ず文書にして著者に示さないといけない。

こういう、「企画は必ず文書にすること」というのは、吉川弘文館時代に上司から教わったやり方で、基本的には今も守っています。それは私が律儀だからではなく、そうしないと後で絶対分からなくなってしまう(私も著者も)からです。いつも、たくさんの企画を同時進行で進めていますので、企画の内容や進行状況を忘れてしまうのです。
だから、企画は必ず文書にまとめ、進行状況も企画ごとに記録をしておきます。
面倒なのですが、これをサボると「これはこの前会った時に聞いたっけ?聞かなかったっけ?」と絶対分からなくなってしまうのです。
つまり、私は私の記憶を信頼していないのです。
とはいえ、年をとるごとに次第に億劫にはなってきています。いつまでこの原則を続けられますか・・・・・・。

夏葉社の島田社長と一人出版社について愚痴り合ったの巻

2015-08-25 11:38:44 | 日記
先週、地元・高円寺の「古本酒場コクテイル」で飲んでいたとき、有志舎と同じように一人出版社である夏葉社の島田潤一郎さんがやってきました。コクテイル常連の荻原魚雷さん(作家・エッセイスト)と打ち合わせとのこと。
初対面だったのでご挨拶させてもらい、魚雷さんが来られるまで、一人出版社の苦悩について色々と話し(ほとんど愚痴だったが)、共感し合いました。

島田さん「長くやってれば、少しは経済的に楽になるんでしょうかね?」
永滝「いやあ、もう10年やってますが、ちっとも楽にならないので、ずっと苦しいままなのかもしれませんねえ(笑)」
島田さん「ええ~、そうなんですか?!」

という訳で、島田さんは夢も希望も無くなってしまったかもしれませんが、お互い何とか頑張って生き残っていきましょう。

その島田さんと荻原魚雷さんのトークイベントが、本に関するイベントを色々やっている西荻ブックマーク主催であるそうなので、勝手に告知させていただきます(有志舎は西荻ブックマークとは何の関係もありませんが)。

「古本と詩と出版と 荻原魚雷・島田潤一郎トークイベント」
6月に新刊『書生の処世』(本の雑誌社)を刊行した荻原魚雷さん、出版社夏葉社の島田潤一郎さんのトークセッション。
[イベント概要]
この6月に新刊『書生の処世』(本の雑誌社)を刊行した荻原魚雷さん。
アメリカンコラムに私小説、ノンフィクションからマンガまで、さまざまな本が登場する同書には、 楽しく暮らすヒントをもとめて読書する日々が綴られています。
今回のブックマークは、この4年ぶりの著書刊行を記念して、魚雷さんに登場していただきます。
お相手は、夏葉社・島田潤一郎さん。同時期に夏葉社で復刊された詩集『小さなユリと』(黒田三郎)には、 魚雷さんの見事な解説も収録されています。
意外にも、公の場でのトークは初となるおふたり。
2015年の出版と本の世界をめぐって、リラックスしつつも充実したお話が聞けそうです。ぜひおいでください!

なお、古本酒場コクテイルは、こういう本好きな人びとが出会う交差点みたいなお店です。もちろん、本好きじゃなくても、単にお酒が飲みたいだけでも大歓迎。皆さん、是非いらしてみてください。週末であれば私もカウンターにいるかも(別に会いたくもないか・・・)。