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英文ケースレポートの書き方 BACKGROUNDを書く

2016-05-14 | 勉強会

英文ケースレポートの書き方

 

徳田安春

 

BACKGROUND を書く

~症例の重要性は“三段論法”でまとめよう~

 

l         ポイント

 

では、今回はBACKGROUND(INTRODUCTION)を書いてみよう。ポイントはこれ。

 

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症例の重要性をまとめる3つのポイント

ルール①:背景文で起こす.

ルール②:追加の問題点を指摘する.

ルール③:本症例の意義を述べる.

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そう。流れはシンプル。なぜこの症例報告は重要かを説明するためにはまず、①これまでに判明している関連事実を述べて、さらに②追加の問題点を述べて、③この症例報告による意義を書けばよい。専門分野以外の医師が読んでもわかる程度にわかりやすく書く。BACKGROUND(INTRODUCTION)は論文のセールスポイントとなる部分なのでたいへん重要だ。逆に、ここがきちんと書かれていないとリジェクトの可能性が高くなるのだ。それではサンプルからみていこう。前回のサンプルと同じClarithromycin-induced haemorrhagic colitisから引用した(1)。

 

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Previous reports have shown that penicillin is the most frequent antibiotic that can cause haemorrhagic colitis associated with Klebsiellaoxytoca; but there are some reports that indicate clarithromycin as a cause of it. In addition, clarithromycin is frequently, and occasionally in a long term, prescribed by many physicians in Japan, for sinusitis, bronchitis or bronchiectasis. Our patient developed haemorrhagic colitis associated with K oxytoca after a course of clarithromycin, which had been prescribed for upper respiratory tract infection. Thus, we should be careful about drug-induced haemorrhagic colitis when our patients would develop diarrhoea while on clarithromycin.

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l         背景文(文章)で起こす

 

上記サンプルでは次の文で起こされている。

 

Previous reports have shown that …; but there are some reports that indicate ….

 

薬剤性大腸炎の原因としてペニシリン系抗菌薬が有名だがクラリスロマイシンの報告例もいくつかはあることを述べている。前半の節が現在完了で後半の節が現在形になっていることに注意。前半の節は従来の説を述べたものであるが、後半の節は最近の説を示したものであるからだ。

 

ただ、内容としてはReview Article的の「背景」文レベル。トップジャーナルの最新レビューあるいは最新の原著論文を読んでから書けばよい。この文で引用元の論文は下記である。

 

Yilmaz M, Bilir YA, Aygün G, et al. Prospective observational study on antibiotic-associated bloody diarrhea: report of 21 cases with a long-term follow-up from Turkey. European Journal of Gastroenterology and Hepatology 2012; 24(6):688–94.

 

前章でも述べたが、コピー・ペーストはもちろん禁じ手。あくまでも「参考」にして書くのだ。

 

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コラム:普段から英語で医学論文を読もう

 

症例報告を英語で上手に書きたければ、症例報告を英語で継続的にチェックする習慣をつけることがお勧めである。ここで「チェックする」と書いたが、これは「読む」とは異なる。タイトルと抄録を「さーっとながめて」読むべき症例報告かを判断することが重要であり、多忙な医師にはいちいち全ての症例報告を熟読する時間などありえないのだ。一旦「読む」と決めてもすべての文章を読む必要はなく、自分が関心を持つ箇所のみでよい。症例報告は地域における最新の疫学的な特徴を反映するリアルタイム的な知識として、日常診療での鑑別診断にも有用であるので、日本内科学会のInternal medicineなどを定期的にチェックすることは有用であろう。たとえば、Familial Mediterranean fever(家族性地中海熱)は従来、日本国内での発症はまれといわれていたが、最近ではかなりの頻度で認められることが判明している。これもまずはInternal medicineのcase reportに登場してからその知識が全国に広まった(2)。最近ではなんと66才での国内発症例も報告されている(3)。このような知見を知っておくと、我が国での不明熱患者の鑑別診断の診療レベルがアップする。日本で臨床をしているので国内発症の症例報告にも注意することが重要で、欧米のジャーナルだけよんでおけばよいというわけではないのだ。

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l         追加の問題点を指摘する

 

続いてのつぎの文は、クラリスロマイシンの臨床現場での過剰使用に関する問題点を表している。

 

In addition, clarithromycin is frequently, and occasionally in a long term, prescribed by many physicians in Japan, for sinusitis, bronchitis or bronchiectasis.

 

これは追加のポイントだが大きな問題である。単にクラリスロマイシンの副作用症例報告をしてもあまり社会的なインパクトは大きくないように感じるが、この文を読むと、この抗菌薬の特別な使われ方が示されているので、この症例報告が重要なことを示唆するのに有用な一文である。

 

l         本症例の意義を述べる

 

1.症例の簡単な記述は必須

 

この症例報告が重要なことを示唆するのに有用な一文を吐き出した絶妙のタイミングで症例を記述する。

 

Our patient developed haemorrhagic colitis associated with K oxytoca after a course of clarithromycin, which had been prescribed for upper respiratory tract infection.

 

単なる「風邪」に対して処方されたクラリスロマイシンを服用後にKlebsiellaoxytocaによる出血性腸炎を発症した症例を経験したと述べている。ここで重要なことは因果関係について断言しないことだ。科学的には「関連して」発症したという書き方が好まれる。

 

2.今回の症例報告の重要性を語る文で結ぶ

 

Thus, we should be careful about drug-induced haemorrhagic colitis when our patients would develop diarrhoea while on clarithromycin.

 

上の文章で、患者が複数形のpatientsとなっていることより、「一般化generalizability」に成功している。このような言い回しをしてこの報告の重要性について念を押しているのだ。この「念押し」の文はdiscussionのパートに移動させてもよいが「重要なことは先に述べる」という英文構造の原則に従うと、ここでまず入れておくほうがベターといえる。

 

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コラム:普段から英語で医学教科書や総説を読もう

 

症例報告では最新医学の重要な知見について英文で書く必要がでてくる。うまく書けるようになるためにはそのような文章で完成品を読めばいいのである。それではそのような「完成された」英文はいったいどこにあるのではあろうか。それはtextbook(オンラインも含む)やreview articleである。内科領域の代表的なプリントベースtextbookには、Harrison’sやGoldman & Cecil’s、Current Medical Diagnosis & Treatmentがある。オンラインリソースには、UpToDateやDynaMedがある。UpToDateのチャプターごとの最後についているサマリー文章はとくに勉強になる。最近の調査では、研修医もオンラインリソースの利用が増えてきていることがわかった。一方、総説ではやはりNEJM、 Annals、 JAMA、 Lancet、 BMJなどのトップジャーナルの最新の総説の信頼性が高い。このようなトップジャーナルで総説の執筆を担当するひとはその分野で世界的にも信頼されているエキスパートであることがほぼ保障されている。EBMを厳格に適用する人たちからはこのようなレビューはnarrative reviewなので著者のバイアスが含まれている可能性があるとはいわれているものの、このようなトップジャーナルで総説を書く人はEBMを理解した立場でできるだけ科学的な中立性を保つ姿勢がみられる。とにかく重要なことは「英語で」日頃から読むことであり、製薬会社や翻訳したものをネットで読んでいるようだと英文執筆のゴールは遠いままになるのだ。

 

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参考文献

 

1)Miyauchi R, Kinoshita K, Tokuda Y. Clarithromycin-induced haemorrhagic

colitis. BMJ Case Report. 2013, 20 August 2013.

2)Tomiyama N, Oshiro S, Higashiuesato Y, Yamazato M, Sakima A, Tana T, Tozawa M,

Muratani H, Iseki K, Takishita S. End-stage renal disease associated with

familial Mediterranean fever. Intern Med. 2002 Mar;41(3):221-4.

3)Inoue K, Torii K, Yoda A, Kadota K, Nakamichi S, Obata Y, Nishino T, Migita K,

Kawakami A, Ozono Y. Familial Mediterranean fever with onset at 66 years of age.

Intern Med. 2012;51(18):2649-53.

 

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