淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

中国映画「薄氷の殺人」。全編を覆う底冷えのするような感覚と、ラストの切なさが素晴らしい!

2015年01月18日 | Weblog
 映画「薄氷の殺人」を観る。
 中国映画である。
 前評判がけっこう良かったので、かなりの期待感をもって観に行った。

 中国の小さな街がスクリーンに映し出される。
 季節は冬だ。
 空は一日中凍えていて、暗鬱な空から冷たい北風と一緒になって雪が落ちてくる。

 都会という華やかさは、この厳寒の街には一切皆無だ。
 古く寂びれた商店街。朽ちた廃墟のようなビル。寒くて人影の疎らな雪道・・・。

 映画の中に登場する人物たちはみな、真っ白な息を吐き、ぶるぶる震えながら憂鬱な表情を浮かべ、互いに途切れた会話を交わしてゆく。
 とにかく、映画の全編を覆っているのは、心底寒そうな冬の街の風景と、そこで寒そうに震えている孤独な人間たちの姿である。
 
 その何もない辺鄙な街で殺人事件が発生する。
 郊外にある石炭工場の中で、バラバラになった遺体の一部が発見されたのだ。
 そのバラバラ死体は、数十キロ離れた場所でも見つかり、地元の警察がその捜査へと乗り出す。
 主人公である、バラバラ死体殺人事件の解明を任された男性刑事は、交際していた女性と別れてからというもの自暴自棄な生活を送っていて、酒びたりの毎日に明け暮れている。
 
 やがて、バラバラにされた遺体の身元が判明する。
 遺体は男性で、その妻も捜査の中で確認されるのだが、事件の重要参考人として追った男は追跡の末に銃を乱射して逆に殺され、仲間の警察官も2名殉職してしまう。
 事件は曖昧のまま、振り出しへと戻ってしまった・・・。

 そこからまた、5年の歳月が流れる。
 主人公の警察官は相変わらず酒びたりの生活を繰り返していて、ある日張り込みをしていた同僚と街で出くわすのだが、彼は何故か、5年前に起こった殺人事件の関連から殺された男の妻の行動を探っていた。

 その内偵理由を問うと、未亡人となった妻の近辺で、奇妙な殺人事件が連続して起こっていることからの、内偵であることが分かってくる。
 ずっと事件の全貌を解明しようとしていた主人公もまた、今はクリーニング店でひっそりと働く、今は未亡人となった妻に、警察の身分を隠して近づくことを試みる・・・。
 
 殺人事件は最後の最後で意外な結末を迎えることに。
 ちょっとしたどんでん返しが映画の中に用意される。

 ただ、そういうクライマックスを、監督はあえて過剰な演出で盛り上げようとしない。そこが、この映画「薄氷の殺人」の魅力にもなっている。
 映画はあくまで、淡々と進み、ラストの切ない花火のシーンへと流れてゆく。ラストは美しく、そして儚く、つらい。

 ネタバレになるので、結末は観てからのお楽しみということになるのだけれど、映画は真犯人を追いつめるサスペンスに比重を置くのではなく、中国の、辺鄙で活気のない地方都市の一角で蠢く、ある一組の男と女の、哀しくて切ないラブ・ストーリーとして捉えるべきだ。

 映画「薄氷の殺人」は、静かな映画である。
 寡黙で、静謐で、肌触りは冷たい。
 観ているうちに、こちらも厳寒の街の中に独り取り残されているような感覚を覚える。
 「薄氷の殺人」は真冬の映画である。

 映画「薄氷の殺人」は、2014年の第64回ベルリン国際映画祭で、最高賞である金熊賞と男優賞をダブル受賞した。

 『恍惚のエンディングに震えずにはいられない』。この映画に対する、ある映画評論の一部である。

 映画は、深い余韻を残したままで、静かにその幕を閉じてゆく・・・。
 
 










  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする