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今とは違う本当の御伽草子「一寸法師」について考える

2009-09-24 10:41:07 | 神話・御伽噺・民話・伝説

1 今は昔、現在でいう大阪市に初老の夫婦がいた。

 ふたりにはその年まで子供がいなかった。そこで住吉神社へお参りをし、今年こそは授かりますようにと、今でいう高齢出産覚悟でお祈りをした。

 お婆さんは四十一歳で身ごもった。

2 「こんなことならもっと早くお参りすればよかったね。」

 と、いいながらもお爺さんはたいそう喜んでいた。

 しかし五ヶ月、六ヶ月過ぎようとも全くお腹が大きくならなかった。それでも十月十日経つと陣痛が起こり、それは、それ3 は小さくてかわいらしい男の子を出産した。竹の物差しではかると一寸(メートル法で3㎝)しかなかった。

 現代で言えば超未熟児の赤子(あかご)は病気こそしなかったが、一向に背丈が伸びな4 かったので一寸法師と名付けられた。

 老夫婦が我が子を化け物か妖怪だと思うのも致し方なかった。住吉大明神様はいかなる罪の報いにて、このような罰をわれらに与えるのだろうと思うようになった。一寸法師は十三歳になっても人並みに背丈にはならなかった。12 このままでは嫁も来ないし、老後も面倒見てもらえない。いっそうのことどこへでもやって、立派な男の子でも養子にもらいたいと老夫婦は話し合っていた。

 一寸法師は両親が自分を可愛がっていないことに気がつ5 いていた。追い出されるのなら自分から出ていった方がまだ格好がいい。一寸法師はお婆さんの裁縫箱から針を一本盗んで腰に差し、お爺さんの使っていたお椀と箸を持って家を出た。

 6 一寸法師は武士になるために、近くの川にお椀を浮かべ、箸を櫂(かい)の代わりに都へと上っていった。

 こうして一寸法師は京都までやってきた。繁華街はまるで異国の地のようであった。人の多さといったら尋常ではない。小さな一寸法師に誰も目を留め8 ず、踏み殺されないようにするのが精一杯だった。

 三条の宰相殿という方の屋敷にやってきたのは本当に偶然のことだった。人の足がない方へそれていったら庭に上が9り込んでいたのだ。

  誰もいないので「お頼み申す。どうか少し休ませて下さい。」と、叫んだところ、奥から宰相殿が出てきた。宰相殿はおもしろい声の持ち主を一目見たくて出てきたのだった。だ10 が、そこには誰もいない。どうしたことだろう。下足(げそく)をはいて庭へ出ようとした。

「ああ、お待ちになって下さい。私をお踏みにならないで下さい。」

 一寸法師が足下で叫ぶと宰相殿はお気づきになって、

11 「これは可笑しい。」

 人間の姿をした小さな生き物に大変興味を持たれて、大笑いされた。

 一寸法師は宰相殿に気に入られ、可愛がられていたことは確かだった。しかし、それは、愛玩動物のような扱いの可愛がられようだった。

 そうこうするうちに一寸法師は十六歳になっていたが背丈は元のままであった。

 宰相殿には十三になる美しい姫君がいた。一寸法師は一目見たときから恋に落ちていた。身分も違えば背丈も違う。かなうはずのない恋であったが、一寸法師はどうにか妻にしたいと思っていた。

 一寸法師は謀略を立てた。して、ある夜、祈祷などに使用する神聖な米を用意して、姫の寝室に侵入し、ぐっすり眠っている姫の口元にその特別な米を何粒かくっつけました。

そして、翌朝、「姫が神聖な神の米を盗んで食べた。」と宰相殿に訴えたのです。

当時の神仏に対する恐れというのは、今とは比べ物になりませんから、当然宰相殿は「このような行儀の悪い娘に育てた覚えはない。一寸法師共々始末してやる。」と激怒して、姫を即座に勘当してしまいます。宰相殿は姫を可哀想に思い誰か止める者はいないかと思いますが、継母の事であるため止めもせず、女房たちもつき添いしなかった。

 一寸法師は策略どおり、姫とここを出ていくきっかけをつかんだ。姫は白昼夢でも見ているかのようで、何がなんだか分からなかったが、父上の剣幕に驚いて一寸法師と出ていかざるを得なかった。

12_2  誰も引き留めてはくれないことを寂しく思いながらも、姫は、船に乗って京都を離れた。風にながされて着いたのは風変わりな島だった。人の気配がない陰気くさいところだ。妖怪でも出てきそうだと思っていたところにふたりの鬼13 が現れた。

 千里先まで見えるという眼を持つ鬼は一寸法師を見つけると言った。

「あんなちびには似合わない、いい女をつれているぞ。」

「ちびは喰って、女を俺たちのものにしようじゃないか。」

 141 1412 142 赤い顔をした鬼は一寸法師をつまみ上げると芋虫を飲み込むように、噛まずに喉へ通そうとした。一寸法師は鬼の喉チンコをうまい具合につかむと、反動をつけて鼻に潜り込んだ。針でちくちく粘膜を突き刺すと、赤鬼は鼓膜が破れんばかりの大声を張り上げた。耳をふさいで逃げ回るとどこをどう入ったのか、一寸法師は鬼の目から出てきた。

14  これに恐れおののいた鬼は打ち出の小槌もなにもかも、置き去りにして極樂淨土の戌亥〔西北〕の、いかにも暗き所へ、ようやく逃げていった。

「打ち出の小槌は何でも願いが叶うのですよ。」

 15 と、姫が教えてくれたので一寸法師は早速試してみることにした。一番の願いは……。

一寸法師は小槌を乱暴に手に取り、激しく打った。「大きくなあれ、大きくなあれ。」

 一寸法師は小槌を激しく振りながら言った。それは姫を抱かんとする欲望からであった。すると、身長は六尺(メートル法で182cm)になり改名しなくてはならないくらい大きくなった。小さすぎてその顔立ちはよくわからなかったが、大きくなってみると何とも立派な青年だった。出し抜かれたことも知らず、姫はたちまち惚れてしまった。

「どうかわたくしと一緒になって下さいまし。」

 一寸法師はもちろん喜んで受けた。そして、先ずは飯を打ち出し、飯を食べ、金銀を打ち出し京へ上った。五條あたりに宿をとり、十日ほど滞在していたが、一寸法師の噂は世間に広まり、宮中に呼ばれた。帝は一寸法師を気に入り、中納言まで出世した。

16 その後も小槌で金や銀を振りだして、たいそう金持ちになった。子供も三人授かった。

 結局のところ、巡りに巡って、住吉大明神のお約束どおり、末代まで繁栄していった。老夫婦はというと、寂しく貧しい暮らしを続けていた。一寸法師をぞんざいに扱わなければ、恩恵にあやかることができたであろうに。

 これこそ、我が子を大切にしなかった老夫婦に与えられた罰であった。

-とぎ【御伽】

《貴人・敬うべき人のための「とぎ」の意》1夜のつれづれを慰めるために話し相手となること。また、その人。「若君のをする」2 寝所に侍ること。また、その人。侍妾。3「御伽話」の略。「の国」

ほう-し【法師】

1 仏法によく通じ、人々を導く師となる者。また一般に、僧。出家。ほっし。2俗人で僧形をした者。「琵琶(びわ)―」「田楽」3 《昔、男の子は頭髪をそっていたところから》男の子。

辞書:大辞泉より

上記の御伽の解説で分かるとおり、「御伽噺」とは本来子供のものではなく、大人のためのものだったのです。

ですから、この「一寸法師」も単なる勧善懲悪的な話しではなくひねくれものの小さな男が野望を抱いて京は上り、女を騙して結婚し、父母は差し置き自分だけが裕福になるという、極めて現実的な人間の本性を描いたものだったのです。

この噺が夜のつれづれを慰めるための噺だとすると、「大きくなあれ、大きくなあれ。」という言葉も男性そのものをさしているような気さえします。普通、背丈の場合、「高くなれ。」も即は「伸びろ。」が一般的だと思います。

その一物を見て、姫がその気になったのだとすれば、かなりエロティックな「夜伽噺」だったのではないでしょうか。

昔話の絵本では、侍のような姿で描かれている一寸法師ですが、この「法師」という呼び方でわかる通り、彼は侍ではなく、「法師」の類に入れられる職業だったと思われます。上記ほう-し【法師】参照。

しかし、お寺で修行した話は出てきませんから、お坊さんではなく、祈祷師、あるいは陰陽師・・・といったたぐいの職業ではないでしょうか。当時は、こういった人たちも法師と呼ばれていたようです。そうすれば、彼が祈祷に使う神聖な米を持っていた事も頷けます。

そして、加えて、彼は鍼灸師でもあったのではないかとも感じられます。

それは、彼の持っていた刀がわりの針です。これが、いわゆる縫い針ではなく、鍼灸に使う針だったとしたらどうでしょう。

この時代、原因不明の病気は何か悪い物が体に入って起こると考えられていて、そういう場合は僧侶と祈祷師と陰陽師と医者・鍼灸師が、協同して治療にあたるというのが普通のことでした。

その原因のわからない悪い物を「鬼」と表現する事も、周知の通りです。

つまり、この一寸法師の物語は、無名の陰陽師が、その祈祷と鍼灸の技術で、有力な貴族の姫を病気から救った事によって名声を得た話が、徐々に変化し、勧善懲悪、立身出世の噺になったのではないでしょうか。

しかし、この噺は矛盾に満ちています。一寸法師は鬼退治して名を上げたのではなく、鬼の残していった宝を奪い、打ち出の小槌で財を得たのです。鬼即ち悪人の上前をはねて財宝を奪い、打ち出の小槌という不労所得により財を得たのです。

一寸法師をぞんざいに扱わなければ、恩恵にあやかることができたであろうに。老夫婦は罰を受けたのだという結末は本末転倒かと思います。

ぞんざいに扱ったからこそ一寸法師は家を飛び出したのであり、可愛がって育てていれば、何もおこらなかったことになります。これこそが、この物語の皮肉なところなのかもしれません。

娘は濡れ衣を着せられた状態で一寸法師に預けられるが、求婚者の携えてきた食物を口にすればその男の意思を受け入れたものと見なす観念が働いているという説もあります

「さて一寸法師は是れを見て、まづ打出の小槌をらんばうし〔亂暴しであらう:烈しく打つ意〕とあるように、しかしこれには無理があります。一寸法師に小槌が持てるはずがないからです。そこは荒唐無稽の噺として、ここにこそ一寸法師の姫に対する欲望が表れているのだと思います。

現代では、姫が小槌を打つように改変されていますが、本来は違うのです。

尚、「鬼」については2009.08.29を御参照下さい。

一寸法師における打ち出の小槌は、姫との結婚の条件を整える道具であった。また、2009.04.16浦島太郎では、玉手箱乙姫との絶縁を完成させる。何か不思議な感じがする。

したっけ。

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