TRASHBOX

日々の思い、記憶のゴミ箱に行く前に。

偶然と想像——実は緻密に巧まれた短編たち

2021年12月19日 | 映画とか
17日の金曜、『偶然と想像』の初日を東急文化村のル・シネマで。
なんと同館初の邦画とのことだが、なんとなく納得。
もしかしたら、「邦画も上映したいが、初めてにふさわしい作品は」みたいな模索もあったのだろうか。

それはともかく、素晴らしい1本だった。
第一話の「魔法(よりもっと不確か)」から、会話の緊張感に魅せられた。
一歩踏み間違えば落っこちてしまう塀の上をひょいひょい歩いて行くような、心の際のやりとり。
決して心地よいわけではないのだが、心をつかまれる。

第二話「扉は開けたままで」の心理的な二転三転を経て、
第三話「もう一度」のヒリヒリするようなファンタジーを見終えてのカタルシス。
振り返れば、この順番も巧みだなぁ。

初日のゲストとして登壇した第三話の出演者、占部房子さんと河井青葉さん(濱口監督は隔離中のため電話参加)。
占部さんは、「何度も本読みをしたので、撮影中も隣に監督がいるみたいだった」とコメント。
なんだか役者の中に染みこんだテキストが、画面を通じて浮かびあがってきたようにも感じられた。

濱口監督の演出に対して、一部では「棒読み」との批判もあるらしい(監督自身も、そういう話をインタビューで述べていた)。
しかし表面的な抑揚ではなく、テキストの芯をどう羽ばたかせるかという点では、このやり方は有効なのかもしれない。
この点、まずほとんどの観客が字幕で理解する海外での賞で高評価を獲得していることともつながるのではないだろうか。

たぶん、しばらくは関連記事やインタビューを見つけて読むのが楽しみになりそうだ。
濱口監督の仕事は、作品そのものにくわえて、創作の根っこにある厚みにも物語を感じる。まだまだ目が離せないなぁ。

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