「I. レトロスペクティブ 1965-2005」と「II. ハワイ」の2部構成からなる森山大道の写真展。雨の肌寒い夕方だったけれど、いつもに比べて人が多い。やはり人気がある人なのだろう。レトロスペクティブはなんせ40年近い活動の集大成だけに若干駆け足な感じは否めないが、その分写真家としての道筋が見えやすい。良くも悪くも教科書的な展示という感じがした。
印象に残ったのは70年代に北海道で撮られた写真(「何かへの旅」と題されていた)と、80年代の「光と影」パート。たとえば前者の「釧路」の車の中からの雨や「津軽海峡」の海、そして「桜花(10)」、また後者の「タイヤ」「靴」「キャペツ」など。主題自体にストーリーがあるわけではないが、光と影のみで語られるその厚みにしばらく目を離すことができなかった。この感覚を文章で書けるだろうか、いや相当難しいな、と妙にプレッシャーも感じたりして。
でもその後に続く90年から2000年代にかけての作品群「新宿、ブエノスアイレス、ハワイ」は、作品としての完成度は格段に高いのだろうが、見ていてもうひとつ気持ちが入らなかった。実は「作品」でないことが森山氏の魅力なのではないだろうか。
ところで会場で何組か、写真を見て連れと笑っている女性客の姿が目についた。声は小さいし迷惑とかそういうのではなく、ただそのリアクションが不思議だった。もしかしたら森山写真の真っ直ぐさは、どこかでユーモラスなオーラを発生させているのかもしれない。「靴」とかちょっと微笑ましかったし。でも一体何がおかしかったんだろう。
美術館を出ても雨はまだ降り続いていた。少しだけ色を失った恵比寿の風景が、展示室の写真とつながっているように思えた。
印象に残ったのは70年代に北海道で撮られた写真(「何かへの旅」と題されていた)と、80年代の「光と影」パート。たとえば前者の「釧路」の車の中からの雨や「津軽海峡」の海、そして「桜花(10)」、また後者の「タイヤ」「靴」「キャペツ」など。主題自体にストーリーがあるわけではないが、光と影のみで語られるその厚みにしばらく目を離すことができなかった。この感覚を文章で書けるだろうか、いや相当難しいな、と妙にプレッシャーも感じたりして。
でもその後に続く90年から2000年代にかけての作品群「新宿、ブエノスアイレス、ハワイ」は、作品としての完成度は格段に高いのだろうが、見ていてもうひとつ気持ちが入らなかった。実は「作品」でないことが森山氏の魅力なのではないだろうか。
ところで会場で何組か、写真を見て連れと笑っている女性客の姿が目についた。声は小さいし迷惑とかそういうのではなく、ただそのリアクションが不思議だった。もしかしたら森山写真の真っ直ぐさは、どこかでユーモラスなオーラを発生させているのかもしれない。「靴」とかちょっと微笑ましかったし。でも一体何がおかしかったんだろう。
美術館を出ても雨はまだ降り続いていた。少しだけ色を失った恵比寿の風景が、展示室の写真とつながっているように思えた。