TRASHBOX

日々の思い、記憶のゴミ箱に行く前に。

「生命科学者ノート」のノート/その5

2018年05月01日 | 読書とか
白い予定表 pp.124-127

「けれども、このごろ、物珍しい世界をのぞき見したり、素晴らしい人に接することができただけで、自分が成長したように思い込んでしまう危険も感じている。人間の中には、他人との接触で育っていく自分と、自分自身とのつき合いの中で大きくしていかなければならない自分とがあるはずだ。しかし、外からの忙しさにかまけていると、ついあとの方を忘れがちになる。時には、ちっぽけな自分をとことん見つめ、その中から何かを引き出すことに専念する努力も必要だということはよくわかっている。それなのに、中から湧いてくる気持ちに、ゆっくり目を向ける余裕がもてない」

(研究者の知人の手紙を引用して)「不安定ながらただ一つのことに全神経を集中させ、心も生活も、よろこびも焦りも全部そこに投げ入れて、ひたすらその一筋の糸を見失うまいとつとめている生活」

「しばらくは不義理を承知で、できるだけ予定表を白くすることに努めてみよう」とくくられるこの一章。ソーシャルな世の中で、忘れてしまいそうなことへの教訓として、いろいろ考えさせられる。


生命科学者ノート (岩波現代文庫―社会)
中村桂子
岩波書店