人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ジョセフ・バスティアン ✕ リディア・ツウチャア ✕ アジア・ユース・オーケストラでストラヴィンスキー「火の鳥」、マーラー「交響曲第4番」他を聴く

2023年08月31日 00時11分00秒 | 日記

31日(木)。月末を迎えたので、いつものように8月の3つの目標の達成状況をご報告します ①クラシック・コンサート=15回(今夜の公演を含む)、②映画鑑賞=8本、③読書=4冊でした    かつて8月はコンサート閑散期でしたが、「フェスタサマーミューザ KAWASAKI 」が始まってから書き入れ時になりました

ということで、わが家に来てから今日で3152日目を迎え、ロシアが旧ソ連時代の1940年、ポーランド将校ら2万2000人以上を殺害した「カチンの森の虐殺」の事実を否定し始めたが、今般のウクライナ侵攻でロシアの戦争犯罪が非難されるなか、自国の負の歴史を書き換える意図がある  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     プーチン政権にとって 負の歴史の書き換えなど朝飯前だろう  世界は認めないけど

 

         

 

昨日、夕食に「赤魚の粕漬焼き」「生野菜とアボカドのサラダ」「冷奴」「豚汁」を作り、「鯵のタタキ」と一緒に食べました 和食はヘルシーで美味しいですね

 

     

 

         

 

昨夜、東京オペラシティコンサートホールで「アジア・ユース・オーケストラ東京公演2023」を聴きました プログラムは①グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲、②ストラヴィンスキー:組曲「火の鳥」(1919年版)、③マーラー「交響曲第4番 ト長調」です 演奏は②のソプラノ独唱=リディア・ツウチャア、管弦楽=アジア・ユース・オーケストラ(AYO)、指揮=ジョセフ・バスティアンです

「アジア・ユース・オーケストラ」は中国、香港、台湾、日本、韓国を含むアジアの11か国・地域から厳しいオーディションを通して選抜された若い演奏家約100名から構成されています イタリア・ベルガモ市での2週間のリハーサル・キャンプに続き、国際的に活躍する著名な指揮者やソリストとの4週間のツアーと、毎夏合計6週間の活動を展開しています 今年は、コロナ禍を経て4年ぶりに国際演奏ツアーを再開しました

指揮をとるのは今年からAYO首席指揮者に就任したフランス出身のジョセフ・バスティアンです グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラやバイエルン放送交響楽団のバス・トロンボーン奏者を経て指揮者になりました

 

     

 

自席は1階21列11番、センターブロック左通路側です

開演前から奏者の若者たちがステージ上にスタンバイして、それぞれのパートの練習に勤しんでいます オケは左奥にコントラバス、前に左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという対抗配置をとります コンマスは男性です。どこの国の出身でしょうか。コロナ前は女性のコンマスが多かったように思いますが、男性も存在感を増してきたのでしょうか。16型ともなると弦楽器群の威圧感を感じ、ステージが狭く見えます

1曲目はグリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲です この曲はミハイル・グリンカ(1804-1857)が1838年から42年にかけて作曲、1842年にペテルブルクで初演された歌劇の序曲です

コントラバスがステージ下手に陣取っている関係で、バスティアンは上手から登場します 彼の指揮で演奏に入りますが、弦楽器群の”マスの力”に圧倒されます この曲は「いかに速く演奏するか」を競うようになりがちですが、さすがに100人規模のオケを揃えるには無理があると見えて、そこそこ速いテンポで演奏されました 4年ぶりのあいさつ代わりの演奏と言っても良いかもしれません もっともメンバーは総入れ替えになっていると思いますが

2曲目はストラヴィンスキー:組曲「火の鳥」(1919年版)です この曲はイーゴル・ストラヴィンスキー(1882-1971)が1909年から1910年にかけて作曲、1910年にパリで初演されたバレエ音楽を、組曲として編み直した作品です 第1曲「序奏」、第2曲「火の鳥の踊り」、第3曲「火の鳥のヴァリアシオン」、第4曲「王女たちのロンド」、第5曲「魔王カスチェイの凶悪な踊り」、第6曲「子守歌」、第7曲「終曲」の7曲から成ります

この曲ではフルート、オーボエといった木管楽器が素晴らしい演奏を展開していました また、コンマスのヴァイオリン・ソロ、女性チェロ奏者のソロも聴きごたえがあり、ホルンが素晴らしかったです

 

     

      プログラムはコロナ前の半分以下の37ページ  厳しい財政事情が伝わってきます

 

プログラム後半はマーラー「交響曲第4番 ト長調」です この曲はグスタフ・マーラー(1860-1911)が1892年と1899年から1901年にかけて作曲、1901年にミュンヘンで初演されました 第1楽章「中庸の速さで、速すぎずに」、第2楽章「落ち着いたテンポで、慌ただしくなく」、第3楽章「静かに、少しゆるやかに」、第4楽章「非常に心地よく」の4楽章から成ります

ソプラノ独唱のリディア・ツウチャアは1975年、ドイツのフラウブルク生まれ。ウェールズ音楽演劇大学、マンハイム音楽大学で学び、ヨーロッパを中心に活躍しています

バスティアンの指揮で第1楽章に入ります この曲でもフルート、ファゴットといった木管楽器が良く歌い、女性ホルン奏者が素晴らしい 彼女はこの楽章に限らず、息の長いフレーズも難なくこなし抜群の安定感で演奏していました。この人はプロになれると思います 第2楽章ではコンマスのソロによる切れ味鋭い演奏が光りました また、クラリネットが冴えていました 第3楽章は大好きなマーラーの交響曲の中でも特に好きな楽章なので、一音も逃すまいと耳を傾けました 冒頭、コントラバスのピッツィカートに乗せてチェロとヴィオラが奏でる美しいメロディーに身を委ねましたが、何という遅いテンポか 途中で止まるかと思いました これ以上遅くしたら演奏が崩壊していたかもしれません ギリギリのところで踏みとどまって、第5番の第4楽章「アダージェット」に匹敵する美しい音楽を淡々と奏でました この楽章でもホルンとオーボエが素晴らしい演奏を繰り広げました バスティアンはこの楽章に相当のこだわりをもって演奏しているように思いました 楽章の終盤でクライマックスを迎えるタイミングで、舞台上手からソプラノのリディア・ツウチャアが登場し、指揮者の上手でスタンバイします リディアは美しく良く通るソプラノでマーラーを歌い上げました 最後の音が鳴り終わり、バスティアンのタクトがゆっくりと降ろされると、会場から大きな拍手と歓声とブラボーが飛び交いました

カーテンコールが繰り返され、バスティアン ✕ ツウチャア ✕ AYOはマーラー「リュッケルト歌曲集」より「美しさゆえに愛するのなら」をアンコールに演奏し、再び大きな拍手に包まれました その後、主催者側の代表者が登場し、演奏した若者たちを国別に紹介していきました

最初に「香港14名」とアナウンスすると、14人がその場で立ち上がり、会場から大きな拍手とともにヤンヤヤンヤの大歓声が起こりました 次に「中国13名」とアナウンスがあり、再びヤンヤヤンヤの大歓声です そして「マカオ3名」「韓国8名」「マレーシア1名」「フィリピン6名」(ここでコンマスが立ち上がりました)、「シンガポール5名」「タイ3名」「ベトナム1名」「ウズベギスタン1名」「台湾33名」と続き、最後に「日本7名」とアナウンスされると、ひときわ大きな拍手と歓声が沸き起こりました この光景はコロナ前からの風物詩となっています

2日目の今日はアンコールにエルガーの「ニムロッド」が演奏されることでしょう これもAYOのフィナーレの風物詩です 残念ながら私は読響定期公演の予定があるので聴けませんが、素晴らしいコンサートになると思います

 

     

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クララ・シューマンを主人公とした音楽映画と伊藤恵のピアノ・リサイタル 「愛の調べ シネマ&リサイタル 伊藤恵 plays シューマン」を鑑賞する:浜離宮朝日ホール

2023年08月30日 00時01分26秒 | 日記

30日(水)。わが家に来てから今日で3151日目を迎え、ロシアのぺスコフ大統領報道官は29日、小型ジェット機の墜落で死亡したロシアの民間軍事会社「ワグネル」トップのプリゴジン氏の葬儀に、プーチン大統領は出席を予定していないと発表したというニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     汚れ仕事を押し付けて 最後には暗殺して葬儀にも出ない さすがは冷血漢プーチン!

 

         

 

昨日、夕食に「サーロインステーキ」を焼き、卵スープを作りました 野菜類はワンプレートに盛り付けて洗い物を少なくしました 上州牛はとても美味しかったです

 

     

 

         

 

昨日13時から浜離宮朝日ホールで「愛の調べ シネマ&リサイタル 伊藤恵 plays シューマン」を鑑賞しました 第1部=映画「愛の調べ」、第2部「伊藤恵 ピアノ・リサイタル」です

会場に着いて驚いたのは、女性客の比率が非常に高いことです 8対2くらいの割合で女性が多いように思いました

第1部の映画「愛の調べ」は作曲家ロベルト・シーマンの妻クララ・シューマンを主人公とした、クラレンス・ブラウン監督による1947年製作アメリカ映画(モノクロ・102分)です キャストは、クララ・シューマン=キャサリン・ヘプバーン、ロベルト・シューマン=ポール・ヘンリード、ブラームス=ロバート・ウォーカー、リスト=ヘンリー・ダニエルほかです

ストーリーは次の通りです

天才ピアニストとして名前を知られたクララ・ヴィーク(1819-1896)は、ピアノ教師の父フリードリヒ・ヴィークの反対を押し切って作曲家ロベルト・シューマン(1810-1856)と結婚する 8人もの子宝に恵まれたシューマン家だったが、彼の音楽はなかなか世に認められず、クララは生活費を得るためにコンサートを開き大成功する しかし、ロベルトの苦悩はさらに深まるばかりだった ロベルトの弟子として同居していたブラームス(1833-1897)は、一家の友人であったフランツ・リスト(1811-1886)の助力を頼み、ロベルトが心血を注いだ大作「ファウスト」の作曲者指揮による初演が実現する しかし、満員の聴衆の中、ロベルトには最後まで指揮を続ける力は残っていなかった クララは懸命に病の夫を支えるが、精神を病み死亡する その後、ブラームスはクララにプロポーズするが、彼女はロベルトの思い出と共に生きていくとして断る

 

     

 

冒頭はクララがリストの「ピアノ協奏曲第1番」を弾くシーンです この曲をはじめ本作で演奏されるピアノ曲はすべて巨匠アルトゥール・ルービンシュタインによる演奏吹替ですが、クララを演じるキャサリン・ヘプバーンの指使いを見ていると、本当に彼女が弾いているようにしか思えません キャサリン・ヘプバーンがピアノの心得があるのか、全くの演技なのか定かではありませんが、もし演技だとしたら「アカデミー賞のオスカーを4回受賞した唯一の俳優というのは伊達ではない」と言いたくなります これは劇中で弾かれるすべての曲について言えることです ところで、このシーンを見ていて「おやおや」と思ったシーンがあります。それは、クララがリストの協奏曲を弾いている間、譜めくりが座る位置に父親ヴィークが座っていて、演奏しているクララに「そこからクレッシェンド」とか指示を出していた場面です いくら何でも本番中、こんなことはあり得ないでしょう

映画の最後は、ロベルトの死後、彼の記念演奏会が開かれた際に、年老いたクララがロベルトの「ピアノ協奏曲 イ短調」を弾くシーンです 私はこの曲が大好きなので演奏を楽しみましたが、実際の演奏はウィリアム・スタインバーグ指揮MGMシンフォニー・オーケストラです 面白いと思ったのは、クララだけがステージ上でピアノを弾き、オケは手前のオーケストラ・ピットの中で演奏していたことです こういうスタイルは本当にあったのだろうか? ステージの狭さからするとあったかもしれないな、と思いました

以上のほか劇中で演奏されるのは、シューマンの「献呈」「謝肉祭」「トロイメライ」「森の情景」「アラベスク」「ピアノ五重奏曲 変ホ長調」、ブラームス「2つのラプソディト短調」「ハンガリアン舞曲」(ヴァイオリンで演奏)「子守歌」(同)「交響曲第1番」、「献呈」(リスト編曲)です このうち、シューマンの「献呈」は3回弾かれます 最初はロベルトがクララに弾いて聴かせる時、2回目はリストが華やかな技巧を凝らした編曲版を披露する時、そして、そのすぐ後でクララがリストの演奏について的確な批評を加えながら弾く時です 同じ曲を3人の奏者が演奏する”弾き分け”は、巨匠ルービンシュタインならではの妙技です

それにしても、ブラームスを演じた役者は若き日のブラームスの写真によく似ていました 密かにクララを愛し続けたブラームスは、クララの死の翌年(1897年)に彼女の後を追うように息を引き取りました

この映画はユーモラスな場面もあり予想以上に良く出来た作品で、十分に楽しめました

休憩時間には、予想通り女性用トイレに長蛇の列が出来ていました

 

     

 

第2部は「伊藤恵 ピアノ・リサイタル」です 演奏曲目は①シューマン「幻想小曲集 作品12」より「夕べに」「飛翔」「なぜに」「夜に」、②クララ・シューマン「4つの束の小品作品15」、③シューマン「ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 作品14」より第3楽章(クララ・ヴィークのアンダンティーノによる変奏曲)、③ブラームス「6つの小品作品 118」より第1曲「インテルメッツォ イ短調」、第2曲「インテルメッツォ イ長調」、④シューマン「幻想曲 ハ長調 作品17」より第1楽章、⑤シューマン/リスト編「献呈」です

伊藤恵はザルツブルク・モーツアルテウム音楽大学、ハノーファー音楽大学で名教師ライグラフ氏に師事。1983年に第32回ミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ部門で日本人として初めて優勝 その後、国内外のオーケストラと共演。2018年にはジュネーヴ国際音楽コンクールの審査員を務めた 現在、東京藝大教授、桐朋学園大特任教授を務めています

全曲を通して聴いた感想としては、ブラームスの2曲の「インテルメッツォ」が凄く良かったと思います この曲は最晩年のブラームスがクララに捧げた作品ですが、哀愁溢れるメロディーがブラームスの心境を表しているようで、心に沁みました その後に演奏された「幻想曲ハ長調」第1楽章も情熱的な曲想で、傑作だと思います 最後の「献呈」を聴きながら、映画の3つのシーンを思い起こしていました あらためて伊藤恵の弾くシューマンとブラームスはすごくいいと思いました

演奏後、伊藤さんはマイクなしで次のように語りかけました

「10年ほど前に、今回と同じような企画をやりましたが、10年はあっという間でした 今回も、クララの作品と、彼女に影響を与えたロベルトやブラームスやリストの作品をプログラミングしました そもそもシューマンの曲に最初に興味を持ったのは、クララ・シューマンの伝記を読んでからです ロベルトの妻として、作曲家・ピアニストとして立派に生きた彼女にすごく憧れを抱きました 彼女を通してロベルトの作品が好きになりました

そして、アンコールに「トロイメライ」を演奏し、大きな拍手の中、コンサートを閉じました 終演は16時7分でした

作曲家の伝記映画とライブ演奏をミックスした試みは、これから増えていくのではないか、と思います

 

     

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「METライブビューイング アンコール2023」でモーツアルト「皇帝ティートの慈悲」を観る ~ エリーナ・ガランチャにブラボー!

2023年08月29日 00時05分48秒 | 日記

29日(火)。わが家に来てから今日で3150日目を迎え、2024年米大統領選で返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領の陣営が、被告人として撮影された前大統領の「マグショット」(逮捕時などの顔写真)をプリントしたTシャツなどのグッズ販売を始めた24日以降の数日で710万ドル(約10億4千万円)の資金を調達したことが分かった  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     被告人トランプに相応しい支持者が争うように買ったんだろう アメリカは狂ってる

     

         

 

昨日、夕食に「豚肉スタミナ焼き鳥風」「生野菜サラダ」「冷奴」「大根の味噌汁」を作りました 「豚肉~」は肉に塩コショウしてニンニクの刻みを乗せて紫蘇と一緒に巻いています

 

     

 

         

 

昨日、東銀座の東劇で「METライブビューイング アンコール2023」のうちモーツアルト「皇帝ティートの慈悲」を観ました    これは2012年12月1日に米ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されたオペラのライブ録画映像です  出演は ティート=ジュゼッペ・フィリアノーティ、セスト=エリーナ・ガランチャ、ヴィッテリア=バルバラ・フリットリ、アンニオ=ケイト・リンジー、セルヴィリア=ルーシー・クロウ、プブリオ=オレン・グラドゥス。管弦楽=メトロポリタン歌劇場管弦楽団、合唱=メトロポリタン歌劇場合唱団、指揮=ハリー・ビケット、演出=ジャン=ピエール・ポネルです

 

     

     

「皇帝ティートの慈悲」はウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)が最晩年の1791年に作曲、同年プラハ国民劇場で初演されたオペラ・セリア(正歌劇)です

当時、モーツアルトは「魔笛」「レクイエム」「皇帝ティートの慈悲」と、3つの大作を同時並行して請け負っていました モーツアルトの手紙などから、最晩年のこの年は生活に困窮していたことが分かっていますが、貧困から脱出すべく3つの大きな仕事を一辺に引き受けていたのでしょうか モーツアルトはこの年の12月5日に息を引き取りましたが、病気説や毒殺説などいろいろと推測されているなかで、この仕事量からいったら”労働基準法違反”の労働過剰による過労死ではないか、とさえ思ってしまいます

さて、本作は神聖ローマ皇帝レオポルト2世が、ボヘミア王としての戴冠式で上演するために発注されたもので、自身の暗殺を企てた者たちに恩赦を与える君主の慈悲深さを扱った物語は、内容として祝典に相応しいものでした

物語の舞台は紀元1世紀に実在した皇帝ティート治世下のローマ。先代皇帝の娘ヴィッテリアは、現皇帝の妃となることを望んでいた ティートが別の王女を妃に迎えることを知った彼女は、彼の忠臣で、自分に思いを寄せるセストに皇帝暗殺を命じる   しかしこの結婚は中止となり、次にティートはセストの妹セルヴィリアと結婚することを発表する    ところが彼女にはアンニオという許婚がいたため、皇帝はこの結婚も取りやめる   しかし、この経緯を知らないヴィッテリアは、再びセストに皇帝暗殺を命じる    その後、彼女は自身が妃に選ばれたことを知り、暗殺を撤回するが、時すでに遅く、宮殿にはセストにより火が放たれていた(以上第1幕)。

ティートが無事だったことを聞いたセストは、ローマを去ろうとする     しかし、彼は親衛隊長プブリオに逮捕されてしまう ティートは事情を聞き出そうとするが、セストはヴィッテリアを庇って罪を被る     アン二オとセルヴィリアは、セストの助命をティートに嘆願するようヴィッテリアに哀訴する。彼女は迷った挙句 良心の呵責から、自分こそ首謀者であると名乗り出る ティートは驚くが 慈悲深くすべてを赦し、一同は皇帝を讃美する(以上第2幕)

 

     

 

タイトルこそ「皇帝ティートの慈悲」で ティートが主人公ですが、物語の本筋を考えると本当の主役はセストです ズボン役(女性が男性を演じる)のセストを歌っているのはラトヴィアの首都リーガ生まれのメゾソプラノ、エリーナ・ガランチャです リーガの音楽院在学中からキャリアを開始し、METには2008年に「セヴィリアの理髪師」ロジーナ役を歌ってデビュー 翌2009年に「カルメン」のタイトルロールを歌って絶賛されました 本作では、愛するヴィッテリアに神殿への放火とティートの殺害を促され、勇気を奮い立たせてセストが歌う第1幕のアリア「私は行く、でも愛しいあなたよ」は、迫真の演技力とともに感動を呼び起こしました また、第2幕で ヴィッテリアを庇い、すべての罪を被ることを決意したセストが歌う「ああ、この時だけでも」には、セストの辛い心情が伝わり、思わず感情移入してしまいました   ガランチャは 何と表現力が豊かなのでしょうか ガランチャはスーザン・グラハムによる幕間のインタビューで「娘さんを出産なさったばかりだそうですね 大変だったでしょう」と言われ、「睡眠不足です」と語っていました。女性の歌手は大変だと思います 11年後の現在、その娘さんは今頃は小学生のはずです 将来どういう道を歩むのでしょうね

ヴィッテリアを歌ったバルバラ・フリットリはイタリアのミラノ生まれのソプラノです いつもはビゼー「カルメン」のミカエラとか、ラ・ボエームのミミとか、真面目な役柄が多い歌手です 本公演では人の愛情を利用して自分だけが良い思いをしようとする”悪役”を歌い演じましたが、少しコミカルな演技も含めて魅力的に歌い 演じました

ティートを歌ったジュゼッペ・フィリアノーティはイタリア生まれのテノールです アルフレード・クラウスに師事し、1998年のデビュー以降、欧州の歌劇場で活躍しています 皇帝に相応しい堂々たる歌唱で聴衆を魅了しました

アンニオを歌ったケイト・リンジーは米国リッチモンド出身のメゾソプラノです 個人的にはオッフェンバック「ホフマン物語」のニクラウス役が強く印象に残っています 本作では、ズボン役のアン二オ役を演じましたが、第2幕でセストの助命をティートに嘆願するようヴィッテリアに哀訴するアリアを、迫真の演技とともに歌い上げました

特筆すべきは、ピリオド奏法でメリハリの効いた演奏を繰り広げたハリー・ビケット指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団です

また、ジャン=ピエール・ポネルの演出は極めてオーソドックスなもので、余計な演出がなく好感が持てました

         

METライブ「皇帝ティートの慈愛」の上映時間は、歌手へのインタビューや休憩時間等を含めて約3時間10分です 今後の上映予定は、9月2日(土)15:00、同7日(木)14:40、同21日(木)10:30です アンコール上演なのでそれほど混んでいません

 

     

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故 飯守泰次郎氏に関する井上道義氏の追悼インタビュー ~ 朝日新聞より / 「METライブビューイングアンコール2023」でリヒャルト・シュトラウス「カプリッチョ」を観る

2023年08月28日 06時28分15秒 | 日記

28日(月)。昨日の朝日新聞朝刊に、8月15日に亡くなった指揮者・飯守泰次郎さん(享年82歳)についての井上道義氏(76歳)のインタビュー記事「テクニック拒み  心で迫る音楽」が掲載されました インタビュアーは同社編集委員・吉田純子さんです 内容を超略すると以下の通りです

「僕は16歳で尾高忠明君(75)と同時期に齋藤秀雄先生に弟子入りし、そのまま先生のいる桐朋に進んだ その時の一番弟子がすでに才能を花開かせていた小澤征爾さん(87)で、その5つ下にいたのが秋山和慶さん(82)と飯守さんだった。斎藤先生は世界の舞台に立つ指揮者を育てるという夢を抱き、征爾さんに続く存在を探していた そんな先生が『指揮者にならないか』と自ら声をかけたのが飯守さんだった ピアノがうまく、初見演奏の能力もすごかった 本人はピアニストになりたかったようだが、斎藤先生が放っておかなかった。指揮の授業では、秋山さんと飯守さんがピアノ2台でいろんな作曲家の交響曲を弾いてくれるのだが、これがうまくてうまくて 秋山さんと飯守さんは双子のように仲が良かったけど、指揮者としての個性は対照的だった 秋山さんのタクトは、斎藤指揮法の基本を誰よりも忠実に受け継いでいる でも飯守さんは、『でも、先生』とあからさまに先生に反抗していた 『君の棒が悪いからオケが合わない』と叱られると、『音楽の作り方は楽員たちが楽譜を見て自ら考えるもので、棒で示すものじゃない』と言い返す どちらが正しいとも違うとも、僕は言うつもりはない。ただ飯守さんは、斎藤先生の職人としての生き方に『音楽』を感じなかったんじゃないかな 音楽は理屈じゃない。心で伝えるものだと信じたかったのかもしれない いずれにせよ先生への反発が、音楽に対する、飯守さんの信仰のような帰依の礎になったのは確かだと思う 飯守さんの手の動きは決してわかりやすくなかったから、若い頃はあまり仕事がこなかったみたいだけど、代わりにワーグナーの殿堂、独バイロイト音楽祭の音楽助手として20年ものキャリアを積んだ ピアノを弾きながら歌手たちにドイツ語を教えたり、発声の指導をしたり、信じられないことだ とにかくワーグナーが好きでたまらないんですね。ワーグナーへの尊敬に打ち震えながら、一音一音にこめられた思いを妥協なく言葉で伝えようとする。結果としてリハーサルにすごく時間がかかるから、飯守さんの本領は、プロよりもアマチュアのオーケストラで発揮されることの方が多かったんじゃないかな 飯守さんは覚悟の上で、共通言語として与えられたテクニックを拒み、心ひとつで音楽に迫り続けようとしたのだと思う

初めて聞くことばかりで「そうだったのか」と新鮮に感じました とくに飯守氏は斎藤先生に反発し、それをエネルギーに変えて独自の指揮法を確立していったことに感銘を受けました 「飯守さんの手の動きは決してわかりやすくなかった」というのは、実際にコンサートで彼の指揮を見たことがある人は理解できるでしょう 私も東京シティ・フィルのコンサートで「楽員は、あれでよく棒に合わせられるなあ」と感心したことが少なくありませんでした また、「プロよりもアマチュアのオーケストラで発揮されることの方が多かったんじゃないか」というのは、「新交響楽団」のことを指していると思われます アマチュア・オケなので なおさら、「よくあのタクトについていけたものだな」とあらためて感心します

かつて、ベルリンフィルの常任指揮者を務めた巨匠フルトヴェングラーは、指揮が分かりずらく「振ると面くらう」と誰かが言ったとかいうエピソードを聞いたことがありますが、飯守氏の指揮も、振ると面くらったのではないかと想像します しかし、オケから出てくる音楽には、プロであれアマであれ いつも説得力がありました

ということで、わが家に来てから今日で3149日目を迎え、ロシアのプーチン大統領は27日までに、ウクライナでの特別軍事作戦に自発的に加わる義勇兵らに対し、国家に献身し司令官の命令に服するとの誓約を義務付ける大統領令に署名したが、民間軍事会社ワグネルの戦闘員を念頭に、国防省の統制を強化して事実上、軍に編入する狙いとみられる  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     死傷者が圧倒的に多いからね!ワグネル戦闘員はプリゴジンの仇を討たないのか?

 

         

 

昨日、東銀座の東劇で「METライブビューイングアンコール2023」のうちリヒャルト・シュトラウス「カプリッチョ」を観ました これは2011年4月23日に米ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されたオペラのライブ録画映像です 出演は マドレーヌ=ルネ・フレミング、フラマン=ジョセフ・カイザー、オリヴィエ=ラッセル・フローン、ラ・ローシュ=ピーター・ローズ、伯爵=モルテン・フランク・ラルセン、クレーロン=サラ・コノリー、イタリア人歌手=バリー・バンクス、オルガ・マカリナ。管弦楽=メトロポリタン歌劇場管弦楽団、指揮=アンドリュー・デイビス、演出=ジョン・コックスです

 

     

 

「カプリッチョ」はリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)が1940年から翌41年にかけて作曲、1942年にミュンヘンで初演された彼の最後のオペラです

詩人のオリヴィエと音楽家フラマンは、若くして夫を亡くした伯爵令嬢マドレーヌにそろって恋している オリヴィエとフラマンは、マドレーヌが2人のうちどちらを選ぶかを言い争ううちに、「言葉」と「音楽」はどちらが重要かの議論に発展する マドレーヌの気持ちが揺れ動く中、2人はそれぞれ愛を告白する 返事を迫るうちに女優クレーロンや劇場支配人ラ・ローシュも巻き込み、二重唱、四重唱、八重唱と様々なアンサンブルを展開していく マドレーヌは、みんなでオペラを作ることを提案し、彼女の兄である伯爵は「今までの『言葉と音楽』をめぐる騒動を題材にオペラを作ったらどうか」と提案する しかし、マドレーヌが二人のうちどちらかを選ばないとオペラは完結しない。さてマドレーヌはどんな結論を出すのか

 

     

 

リヒャルト・シュトラウスのオペラと言えば「ばらの騎士」です 作曲家としてのR.シュトラウスはあまり好きではないのですが、このオペラだけは大好きで、CD等は8セット揃えています しかし、他の彼のオペラにはそれほど心を動かされません この「カプリッチョ」も、観たり聴いたりしたことがあるのかさえあやふやです それでもルネ・フレミングがヒロインのマドレーヌを歌うというので観ることにしました

事前によく調べずに東劇に行って、タイムスケジュール表を見たら、全1幕・2時間36分で休憩なしとなっていました てっきり3時間以上かかり休憩時間があるものだと思い込んでいて、お茶とサンドイッチを買って行ってしまいました

「カプリッチョ」というのは、諧謔的で気まぐれな性格を持った小品に付けられた名称です リヒャルト・シュトラウスらしい諧謔的なタイトルです

開演前のジョイス・ディドナートによるインタビューで「R.シュトラウスのこのオペラをどう捉えていますか?」と問われ、フレミングは「彼は第二次世界大戦中に活躍した作曲家でした。ドイツ国内に留まって作曲したわけですが、本来ならドイツ礼賛オペラを書かなければならないのに、フランスを舞台にしたオペラを書きました それだって勇気のいることだったと思います。オペラは、戦時下では身の回りの日常を描くことくらいしかできなかったのです そういう意味では苦労したのではないかと思います」と答えていました。METの看板ソプラノ歌手ともなると、オペラの時代背景や作曲家の境遇にも思いを馳せて役を演じ歌っているのだということをあらためて認識しました

幕開けは弦楽六重奏によって美しいアンサンブルが奏でられますが、カメラ映像を見ると、オーケストラピット内のオケの配置は、左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという対抗配置をとっていることが分かります

正直言って、前半は退屈で眠気との闘いでした アリアらしいアリアがなく、レチタティーヴォ(叙唱)やアコンパニャート(伴奏付き叙唱)を中心に物語が進行していくので、飽きてしまうのです 中盤のバレエシーンあたりでやっと目が覚めてきました

「さすがはMET」と思わせる充実した歌手陣です しかし、このオペラは何といっても伯爵令嬢マドレーヌを歌ったルネ・フレミングです 終盤で鏡に向かって歌う 二人のうちどちらを取るか悩む長いアリアをはじめ、ビロードのような美しいソプラノで聴衆を魅了しました

さて、最終場面でマドレーヌは結論を出します。彼女は1枚の便箋にメモを走り書きします そこに結論が書かれているはずですが、観客にはその内容が分かりません まさに”カプリッチョ”に相応しい諧謔的なエンディングです

東劇での「カプリッチョ」の今後の上映は、8月31日(木)15:20、9月4日(月)19:10、同25日(月)19:00です

         

METライブビューイング2023-24シーズンのパンフレットが出来ました 新シーズンは12月8日から来年6月27日まで、全9演目が上映されます

 

     

     

     

     

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読響「三大交響曲」を聴く ~ シューベルト「未完成」、ベートーヴェン「運命」、ドヴォルザーク「新世界より」=指揮は坂入健司郎 / フライング拍手は止めよう!

2023年08月27日 00時30分39秒 | 日記

27日(日)わが家に来てから今日で3148日目を迎え、2024年米大統領選で返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領の陣営は24日、20年大統領選への介入事件で起訴され、同日被告人として撮影された前大統領の「マグショット」(逮捕時などの顔写真)をプリントしたTシャツなどのグッズを発売したが、専門家は写真を使用する権利は撮影した当局側にあり、被写体のトランプ氏にはないと指摘している  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     転んでもただでは起きない男 違法でも”やったもん勝ち”というトランプ商魂 健在!

 

         

 

昨日、東京芸術劇場コンサートホールで読響サマーフェスティバル2023「三大交響曲」を聴きました    プログラムは①シューベルト「交響曲第7番 ロ短調 D759 ”未完成”」、②ベートーヴェン「交響曲第5番 ハ短調 作品67 ”運命”」、③ドヴォルザーク「交響曲第9番 ホ短調 作品95 ”新世界から”」です 指揮は坂入健司郎です

”ベタな名曲路線”と言われようが、私が毎年この「三大交響曲」公演を聴くのは、①”名曲中の名曲”の3作品を登り坂にある若手の指揮者により1日で聴けること、②シューベルトの「未完成交響曲」を生で聴く滅多にないチャンスだからです

指揮をとる坂入健司郎は1988年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒。指揮法を井上道義、小林研一郎らに師事。2008年から東京ユヴェントス・フィルを主宰。22年1月にマーラー「交響曲第2番」を指揮し好評を博す。全国各地のオーケストに客演し指揮活動を行う。読響とは3日前の8月23日に「三大協奏曲」で共演した

 

     

 

自席は1階M列13番、センターブロック左通路側です。会場は文字通り満席です 読響の「三大交響曲」「三大協奏曲」という”大衆路線”は、親会社の一つ 読売新聞社のDNAを受け継いでいるかのように、毎年大当たりの様相を呈しています

オケは12型で、左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスという いつもの読響の並び コンマスは林悠介、隣は元・読響コンマスで現・新日本フィル特任コンマスの伝田正秀です

1曲目はシューベルト「交響曲第7番 ロ短調 D759 ”未完成”」です この曲はフランツ・シューベルト(1797-1828)が1822年に作曲、第3楽章は9小節まで完成、第4楽章はスコアなしということから「未完成交響曲」と呼ばれています 楽譜は作曲者の死後、1865年に発見され、初演されました 第1楽章「アレグロ・モデラート」、第2楽章「アンダンテ」の2楽章から成ります

坂入の指揮で第1楽章に入ります 低弦による重心の低い音楽に導かれ、金子亜未のオーボエと金子平のクラリネットがメランコリックなメロディーを奏でます この演奏が素晴らしい 松坂隼による豊かなホルンの響きが会場を満たします そして、弦楽器が繊細に、時に大胆に演奏されます 第2楽章では倉田優のフルート、金子亜未のオーボエによる息の長い旋律が心に沁みます そして、弦楽セクションの弱音によるアンサンブルが美しく響きます 2つの楽章を聴いて気が付いたのは、ティンパニの岡田全弘は第1楽章を固いマレットを使用し、メリハリのある演奏をしていたのに対し、第2楽章ではソフトなマレットを使用し、重みのある音を出していたことです 坂入の指揮はテンポ設定も適切で説得力を持ちました

2曲目はベートーヴェン「交響曲第5番 ハ短調 作品67 ”運命”」です この曲はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が1807年から翌08年にかけて作曲、1808年12月22日にアン・デア・ウィーン劇場で「交響曲第6番”田園”」他と共に初演されました 第1楽章「アレグロ・コン・ブリオ」、第2楽章「アンダンテ・コン・モート」、第3楽章「アレグロ」、第4楽章「アレグロ」の4楽章から成ります 

他の曲はともかく、私はこの曲に関しては、指揮者が舞台袖から現れ指揮台に上るまでにも注目しています この日、坂入は1曲目のシューベルトとは異なり、下向き加減で黙して指揮台に向かい、客席に浅く一礼して指揮台に上りました 合格です これが、客席の方を向いて笑顔を振りまきながら指揮台に向かったら失格です ベートーヴェンの「第5番」を指揮する心構えが出来ていないからです 私がこのように思うようになったのは、数年前にジョナサン・ノットが東京交響楽団を指揮して「第5交響曲」を指揮する姿を見てからです ノットは、まるで怒ったような顔つきで登場し、客席の方を見向きもせずに指揮台に上り、ものすごい勢いでタクトを振り降ろしました この時の演奏は、私が今まで聴いた「第5番」のベスト1です ノットには「命を懸けてこの曲に対峙する覚悟があった」とさえ思います

坂入の指揮で第1楽章に入ります 比較的速めの快速テンポで演奏が進行します この曲でもホルン、クラリネット、オーボエが素晴らしい 第2楽章で坂入は、意識してテンポを動かし 緩急を付けて演奏しました    改めて本楽章の指示を見ると「コン・モート」つまり「動きをつけて」となっており、坂入はベートーヴェンの指示通りに指揮していることが分かります 決して”受け狙い”で指揮をしているわけではないのです 第3楽章では、やはりホルンの健闘が目立ちます 第3楽章から切れ目なく第4楽章へ移るシーンでは弦楽器群の渾身の演奏が光りました そして咆哮する金管・木管楽器、炸裂するティンパニ、アグレッシブな演奏を展開する弦楽器により、苦悩を乗り越えた勝利の音楽が高らかに歌い上げられます フィナーレにおけるティンパニのトドメの一押しが強烈に響きました

 

     

 

プログラム後半はドヴォルザーク「交響曲第9番 ホ短調 作品95 ”新世界から”」です この曲はアントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)が米ニューヨークの私立ナショナル音楽院の院長に招かれ、アメリカ滞在中の1893年に作曲、同年ニューヨークで初演されました 第1楽章「アダージョ ~ アレグロ・モルト」、第2楽章「ラルゴ」、第3楽章「スケルツォ:モルト・ヴィヴァーチェ」、第4楽章「アレグロ・コン・フォーコ」の4楽章から成ります ある調査によると、現在、世界中のコンサートホールで演奏されている交響曲の中で最も多く演奏されているのはこの「新世界交響曲」だそうです

オケは14型に拡大し、坂入の指揮で第1楽章に入ります

静かな序奏部を経て 主部に移りますが、この曲でもフルート、オーボエといった木管楽器が素晴らしい    坂入は推進力に満ちた演奏を展開します    第2楽章は日本では「家路」という名前で知られているメロディーが北村貴子のイングリッシュホルンによってしみじみと奏でられ、郷愁を誘います この曲におけるイングリッシュホルンは天下無敵です 他の楽器がどんなに頑張って素晴らしい演奏をしても敵いません すべての栄光を一人でかっさらっていきます カーテンコールでは真っ先に立たされて聴衆の拍手を浴びます この楽章の終結部では、弦楽セクションの1列目の奏者による弱音のアンサンブルが美しく響きました 第3楽章は一転、弦楽器を中心にエネルギッシュな演奏が展開します そして、第4楽章冒頭では、まるで蒸気機関車が発進し徐々にスピードを上げていくかのようなエネルギッシュな音楽が展開します ドヴォルザークは鉄道オタクとして知られており、ニューヨークに赴任した際も、駅舎まで機関車を見に行ったということです その後、オーケストラ総力を挙げてのアグレッシブな演奏で壮大なクライマックスを築き上げますが、そのままイケイケドンドンで終わらないのがこの曲の良いところです 最後の一音が消え入るようにして曲を閉じますが、それは生まれ故郷チェコに対するノスタルジーの象徴かもしれません

文句なしの素晴らしい演奏でした

しかし、残念なことに指揮者のタクトが降り切らないうちに、フライング拍手が起こりました 正直言って早過ぎです 指揮者も納得していないでしょう フライングかそうでないかの判断は難しいと思いますが、一つの判断基準は「最終楽章がどのように終わるか」ということです ベートーヴェン「交響曲第5番」やチャイコフスキー「交響曲第4番」のように威勢よく終わる曲であれば、最後の音が鳴ったら、別に指揮者のタクトが降り切らないうちに拍手をしても不自然ではない、むしろ自然だと思います 一方、ドヴォルザークの「新世界交響曲」やチャイコフスキー「悲愴交響曲」のように静かに消え入るように終わる曲の場合は、指揮者のタクトが降りるまで余韻を楽しむのが常識というものです

ほとんどのコンサート会場で、今なお 演奏前に「指揮者のタクトが降ろされるまで、拍手やブラボーはお控えください」などという”大きなお世話”的なアナウンスが流されています はっきり言って、私はこの手のアナウンスにウンザリしています しかし、曲がどう終わるのかもわきまえずに「誰よりも早く」と争うように拍手をするせっかちな聴衆がいる限り、この手のアナウンスはこれからも続くのでしょう コンサートは一人で聴いているわけではありません お互いに最低限のルールは守って最後まで楽しみたいものです

 

     

 

     

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「新日本フィル室内楽シリーズ」2月公演のチケットを取る / 前田哲監督「ロストケア」を観る ~ 訪問介護センター職員による連続殺人事件:彼の行為は殺人か救済か?

2023年08月26日 06時47分34秒 | 日記

26日(土)。来年2月29日(木)7時15分から すみだトリフォニーホール(小)で開かれる新日本フィル「第164回 室内楽シリーズ ~ 弘田徹プロデュース編」のチケットを取りました プログラムは①吉松隆「3つの白い風景」、②デイヴィット・マスランカ「Out of This World」、③ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」他です 出演はチェロ=弘田徹、コントラバス=武田勉、フルート=野口みお、サックス=林田和之、パーカッション=山内創一朗、ハープ=高野麗音、ピアノ=高橋ドレミ、宮本正太郎です 高野麗音さんが出演するので取りました

 

     

 

ということで、わが家に来てから今日で3147日目を迎え、ドナルド・トランプ前米大統領は24日夜、ジョージア州フルトン群の拘置所に出頭し 逮捕され、指紋を採取され、大統領経験者として初めて刑事被告人として顔写真を撮影され、20万ドル(約2900万円)の保釈金を払って釈放されたが、記者団に「私は何も悪いことはしていない」と主張した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     多くの訴訟を起こされて「悪いことはしていない」とは 自覚症状欠如か認知症か?

 

         

 

昨日、夕食に「お肉やわっやわ鶏のガリチー煮+スパゲティ」を作りました 前回作った時に麺がスープを吸ってしまい少なくなったので、今回はスープを多めに作りました とても美味しかったです

 

     

 

         

 

昨日、池袋の新文芸坐で前田哲監督による2023年製作映画「ロストケア」(114分)を観ました

ある早朝、民家で老人と訪問介護センター所長の死体が発見された 死んだ所長が務める介護センターの介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)が犯人として浮上するが、彼は介護家族からも慕われる心優しい青年だった 検事の大友秀美(長澤まさみ)は斯波が働く介護センターで老人の死亡率が異様に高いことを突き止める 取調室で斯波は多くの老人の命を奪ったことを認めるが、自分がした行為は「殺人」ではなく「救い」であると主張する 大友は事件の真相に迫る中で、心を大きく揺さぶられる

 

     

 

この映画は、葉真中顕の小説「ロスト・ケア」をもとに、前田哲が監督、龍居由佳里が前田監督と共同で脚本を手掛けた作品です

映画の冒頭、マタイ福音書7章12節の「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい」という言葉がクローズアップされます。これがこの映画のキーワードになります

尋問で、斯波は42人を殺したと自白しますが、実際に介護センターで亡くなったのは41人でした 大友が、斯波が介護士になる前の空白の3年4か月を調べると、脳梗塞の後遺症で独りでは生活できなくなった父親(柄本明)と同居して介護をしており、その後心不全で死亡していたことが判明します これについて尋問すると、「アルバイトをしながら介護していたが、父親が認知症になり、付ききりで世話をすることになったため生活保護の申請をした しかし、『あなたは働けるでしょう』として拒否された 本当に困窮しているのに生活保護さえ受けられない。この社会には穴がある。この穴に落ちたらなかなか抜けられず、頭がおかしくなってくる ある日、父親が自身の認知症を認め、自分も息子も苦しんでいる、頼むから殺してくれと言われた。数日後、入手した注射器とタバコのニコチンで父親に注射して死亡させた」と告白します つまり彼が殺したのは父親を含めて42人だったのです

「なぜ、父親の死後、他人の家族を殺すようになったのか」と尋ねる大友に、斯波は「ばれなかったからですよ」と答えます 介護士として働き始めた斯波は、かつての自分のように介護に疲弊している家族をたくさん目の当たりにしたことから、「自分が救ってほしかったように、彼らを救うべく」密かに殺人を続けてきたのです 自分の行為を正当化する斯波に対し、大友は「あなたに、他人の家族の絆の大切さが分かるわけがない 勝手に人の命を奪う権利などない」と糾弾します これに対し、斯波は「あなたは”安全地帯”にいるから、そんなことが言えるのだ」と反論します 大友は複雑な心境に陥ります。実は大友には、幼い頃に両親の離婚により生き別れた父親がいて、数週間前に電話があったのに忙しさにかまけて無視していたところ、後で孤独死していたという過去を抱えていました 大友は斯波を責めながらも、自分も同じようなものではないかと自覚するようになります 彼女の「世の中は見えるものと見えないものがあると言うけれど、見たいものと見たくないものがあるのかもしれない」という言葉が印象的です

斯波は裁判で、「家族の”絆”は”呪縛”でもある。自分のしたことは喪失の介護・ロストケアだ。殺したのではなく救ったのだ」と言い、自分の犯した罪は認め刑に服する覚悟はあるが、「自分のしたことは間違っていない」と主張します このシーンで、傍聴人も映画を観ている観客もおそらく「斯波の言うことも もっともだ」と同情することになりますが、傍聴席から、父親を殺された娘が「お父ちゃんを返せ!  人殺し」と叫び、退場させられます この時、斯波のお陰で苦しい介護から解放されて”救われた”と思う家族もいれば、殺されて”悲しく悔しい”思いをする家族もいるのだということを改めて認識することになります

この映画を観終わって頭に思い浮かべたのは2016年に発生した、神奈川県相模原市の知的障碍者施設で元職員が19人を刺殺した「やまゆり園」事件です しかし、この映画の原作の刊行は事件より以前の2013年です。この事件に触発されて書いたのではなく、頻発する介護施設でのトラブルや人手不足などの現状を踏まえて執筆したものと思われます

高齢化社会から、今や少子高齢社会に移りつつある日本の社会において、身近な問題として考えさせられるテーマを扱った作品です 主役の松山ケンイチと長澤まさみの迫真の演技が素晴らしかったです

 

     

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読響名曲シリーズ(8/31)指揮者変更 / 「最も心に残ったN響コンサート」中間発表 ~ 第4位までAプログラムが独占 / ジェイムズ・グレイ監督「アルマゲドン・タイム」を観る

2023年08月25日 06時57分41秒 | 日記

25日(金)。読響は公式サイトで、8月31日(木)19時からサントリーホールで開催予定の「第664回  名曲シリーズ」の指揮者変更を公表しました 「当初予定されていたローター・ツァグロゼクは、肺炎の診断を受け、医師からのしばらくの間の療養が必要とされたため、急きょ来日できなくなりました。代わりに、ドイツ在住の上岡敏之氏が緊急に一時帰国し、指揮します」としています 演奏曲目はブルックナー「交響曲第8番 ハ短調」で変わりありません 上岡氏は今年3月25日(土)に新日本フィルの特別演奏会で同曲を指揮しています 代役が上岡氏で文句は出ないでしょう と言うより、チケット完売でしょう

         

N響が2022/2023シーズン(2022年9月~2023年6月)の定期公演を対象に投票受付中の「最も心に残ったN響コンサート&ソリスト」のうち「最も心に残ったコンサート」の中間発表がN響サイトに掲載されました 第1位から第5位までの暫定順位は以下の通りです

第1位=10月 Aプログラム(22年10月15日、16日)①マーラー「交響曲第9番」=ヘルベルト・ブロムシュテット指揮

第2位=11月 Aプログラム(22年11月12日、13日)①伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」、②ショスタコーヴィチ「交響曲第10番」=井上道義指揮

第3位=9月 Aプログラム(22年9月10日、11日)①ヴェルディ「レクイエム」=ファビオ・ルイージ指揮

第4位=4月 Aプログラム(23年4月15日、16日)①リヒャルト・シュトラウス「ヨセフの伝説」から交響的断章、「アルプス交響曲」=パーヴォ・ヤルヴィ指揮

第5位=6月 Cプログラム(23年6月16日、17日)①ショスタコーヴィチ「交響曲第8番」=ジャナンドレア・ノセダ指揮

以上の通りベスト5のうち4位までがAプロで、5位にCプロが入りました いずれも会場はNHKホールですが、Bプロ(会場:サントリーホール)は番外でした これは会場の問題というよりもプログラミングの問題かもしれません Bプロはすべての公演に「協奏曲」がプログラミングされているので、好意的に解釈すれば「最も心に残ったソリスト」のベスト5に入ってくる可能性があります

私はAプロとBプロの会員ですが、Aプロでは11月の井上道義指揮による伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」が、Bプロでは4月のパーヴォ・ヤルヴィ指揮、マリー・アンジュ・グッチのピアノによるラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」が最も印象に残っています

投票の締め切りは9月29日ですが、私はこの手の人気投票にはあまり興味がないので多分、投票しません

ということで、わが家に来てから今日で3146日目を迎え、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏が所有するビジネスジェットが23日、モスクワ北西部で墜落し、プリゴジン氏の死亡は確定的とみられる というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     プーチンは 裏切り者は絶対許さない 彼に逆らう者はどうなるか 国民に知らしめた

 

         

 

昨日、夕食に「焼きナス・ピーマンの煮びたし」「生野菜とツナのサラダ」「冷奴」「ジャガイモの味噌汁」を作りました 煮びたしは麺つゆを使ったので簡単に美味しくできました

 

     

 

         

 

本日から9月28日(木)まで東銀座の東劇で上映される「METライブビューイングアンコール2023」の特別鑑賞コンビニ券4枚セットを取りました 通常価格は@3,200円ですが、4枚で10,800円(@2,700円)と1枚当たり500円引きとなります 当面、リヒャルト・シュトラウス「カプリッチョ」(ルネ・フレミング他)とモーツアルト「皇帝ティートの慈愛」(エリーナ・ガランチャ他)を観る予定です

 

     

 

         

 

早稲田松竹でジェイムズ・グレイ監督による2022年製作アメリカ映画「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」(115分)を観ました

物語の舞台は1980年のニューヨーク。白人の中流家庭に生まれ 公立学校に通う12歳の少年ポール(バンクス・レペタ)は、PTA会長を務める教育熱心な母エスター(アン・ハサウェイ)、働き者の配管工でユーモアあふれる父アーヴィング(ジェレミー・ストロング)、私立学校に通う優秀な兄テッドとともに何不自由なく暮らしていた しかし、近頃は家族に対して苛立ちと居心地悪さを感じており、良き理解者である祖父アーロン(アンソニー・ホプキンス)だけが心を許せる存在となっている 想像力豊かで芸術に関心を持つポールは学校での集団生活に上手くなじめず、クラスの問題児である黒人生徒ジョニー(ジャイリン・ウェッブ)だけが唯一の心を許せる友人だった ところがある日、ポールとジョニーの些細な悪事がきっかけで、2人のその後は大きく分かれることになる

 

     

 

この映画は、ジェームズ・グレイが自身の少年時代の実体験をもとに監督・脚本を手掛けて撮り上げたヒューマンドラマです

ユダヤ系のポールは黒人のジョニーに誘われてトイレの個室で麻薬とは知らずに”薬”を吸っているところを教師に見つかってしまい、それがきっかけでポールは私立校に転校を余儀なくされ、ジョニーは学校を止めてしまいます ポールは学校の窮屈な生活に馴染めず脱出したいと思っています 一方、ジョニーも今の生活を脱し いずれNASAで働きたいという夢を持っています 今の生活から脱出するため、ポールは学校のパソコンを盗んで売却し脱出資金を作ることを思いつき、夜2人で学校に行き盗み出します ジョニーの馴染みの店に行き、主人と交渉するうちに警察に密告され2人は逮捕されてしまいます 警察官の尋問に対し、ポールは「自分が盗みを提案して2人で盗んだ」と自白しますが、ジョニーは「ポールは関係ない。自分が独りでやった」と言いポールを庇います ポールは父親がたまたま尋問した警察官と知り合いだったこともあり、無罪放免となりますが、ジョニーは収監されてしまいます このことについて、父親アーヴィングはポールに「世の中は不公平に出来ている しかし、今回は運よく放免されたのだから、そのチャンスを生かして生き延びるべきだ」と説得します これはユダヤ系の配管工として世間から冷たい目で見られてきたひとりの人間の経験から出た言葉です しかし、ジョニーは黒人であるがゆえに「自分独りで盗んだ」と言えば、何の疑いもなく「そうだろう」と信じられてしまう そこには救いの手は差し伸べられていません

「友人と組んで高価な物品を盗む」ということで思い出すのは、フランソワ・トリュフォー監督「大人は判ってくれない」(1959年)です こちらの方は、主人公の少年アントワーヌの父親の会社からタイプライターを盗むというストーリーです

この映画では何曲かクラシック音楽が使用されています 冒頭とエンドロールで流れていたのはモーツアルトの歌劇「フィガロの結婚」第4幕冒頭のバルバリーナのアリア「なくしてしまった」のメロディーでした 学校の教室でポールとジョニーが話している時、遠くの方からかすかにベートーヴェンの「運命交響曲」の有名なテーマが流れてきますが、2人はベートーヴェンを知らないようです 学校のパーティ・シーンではチャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」の「ワルツ」が華やかに流れました また、ポールが私立の学校に転向した初日に流れていたのはJ.S.バッハ「ブランデンブルク協奏曲 第6番」第1楽章の軽快な音楽でした

私は映画を観ると、どうしても音楽が気になってしまいます 長い間かけて身についた習性だと思います

 

     

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読響「三大協奏曲」公演を聴く ~ 前田妃奈(Vn)のメンデルスゾーン、亀井聖矢(P)のチャイコフスキー、鳥羽咲音(Vc)のドヴォルザーク、指揮は坂入健司郎

2023年08月24日 00時22分21秒 | 日記

24日(木)。わが家に来てから今日で3145日目を迎え、ロシアのプーチン大統領は22日、同国からの資本流出を規制し、金融市場のボラティリティーを軽減させる措置を講じるよう求め、通貨ルーブルの下落に伴う物価上昇の脅威を警告した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     資本流出の阻止はいいけれど 優秀な科学者などの頭脳流出の方が深刻なんじゃね?

 

         

 

昨日、夕食に「ビーフシチュー」と「生野菜とアボカドのサラダ」を作りました   ビーフシチューは久しぶりですが、今回はブロック肉を使いました 赤ワインを少々入れて煮込みましたが、とても美味しく出来ました

 

     

 

         

 

昨日18時半から、東京芸術劇場コンサートホールで読響サマーフェスティバル「三大協奏曲」公演を聴きました プログラムと出演者は①メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64」(Vn=前田妃奈)、②ドヴォルザーク「チェロ協奏曲 ロ短調 作品191」(Vc=鳥羽咲音)、③チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23」(P=亀井聖矢)。管弦楽=読売日本交響楽団、指揮=坂入健司郎です

久しぶりに、またやっちまいました 地下鉄の駅を降りてチケットを確かめると1階L列24番となっています 「ちょっと待てよ、サントリーホールにL列はないぞ・・・いけね、またやっちまった」と気が付いた時は開演40分前の17時50分 本来、池袋の芸劇に行くべきところを溜池のサントリーホールに行ってしまったのです 在京オケの定期演奏会ではこういうことはないのですが、今回のような特別演奏会の時は要注意です 私の頭の中は「読響三大協奏曲=サントリーホール」という図式が出来ていて、事前にチケットを確認しなかったのです 後の祭りです。急いでヤフーの「路線情報(乗り換え案内)」で検索して地下鉄南北線に乗って飯田橋経由で有楽町線・池袋駅まで行きました 駅に着いたのが開演10分前の18時20分で、芸劇の長いエスカレーターを上って芸劇ホールに着いたのが18時25分でした 急いでトイレを済ませて自席に着いたらちょうど18時半でした もうイヤ、こんな生活。通販生活・・・なんてギャグが昔ありましたね つくづくヤフーの路線情報の有難さと、日本のパンクチュアルな交通機関の素晴らしさを再認識しました

 

     

 

会場はほぼ満席です プログラムが三大協奏曲で、演奏者が若手の有望株3人で、バックが読響となれば当然でしょう

オケは12型で、左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスという いつもの読響の並び    コンマスは林悠介です

1曲目はメンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64」です    この曲はフェリックス・メンデルスゾーン(1809-1847)が1838年から1844にかけて作曲、翌1845年3月13日にライプツィヒでゲヴァントハウス管弦楽団のコンマス、フェルディナント・ダーヴィトの独奏により初演されました  第1楽章「アレグロ・モルト・アパッショナート」、第2楽章「アンダンテ」、第3楽章「アレグレット・ノン・トロッポ ~ アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ」の3楽章から成りますが、続けて演奏されます

ヴァイオリン独奏の前田妃奈(まえだ ひな)は2022年のヴィエニャフスキ国際コンクールで優勝    現在、東京音楽大学に特別特待奨学生として在学中です

坂入の指揮で第1楽章が開始され、冒頭から前田の独奏ヴァイオリンが入ってきます    徐々に調子を上げていき、カデンツァでは美しいヴィブラートが印象的でした    第2楽章では若干多めのヴィブラートで叙情的な音楽を奏で聴衆を魅了しました    第3楽章ではソリスト自身が演奏することの楽しさを満喫している姿が見えて好感が持てました    坂入 ✕ 読響は良い流れを作って、ソリストを盛り立てていました

カーテンコールが繰り返され、満場の拍手が前田を包み込みました

2曲目はドヴォルザーク「チェロ協奏曲 ロ短調 作品191」です    この曲はアントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)が1894年から95年にかけて同郷のチェロ奏者ヴィーハンの依頼により作曲、1896年3月19日にロンドンで初演されました    第1楽章「アレグロ」、第2楽章「アダージョ・マ・ノン・トロッポ」、第3楽章「フィナーレ:アレグロ・モデラート」の3楽章から成ります

チェロ独奏の鳥羽咲音(とば さくら)はウィーン生まれの18歳。6歳から毛利伯郎に師事。国内外のコンクールで優勝・入賞し注目を浴びる 22年からベルリン芸術大学でイェンス=ペーター・マインツに師事しています

オケが14型に拡大し、坂入の指揮で第1楽章に入ります 松坂隼のホルン、フリスト・ドブリノヴのフルートが素晴らしい オーケストラに導かれて鳥羽の独奏チェロが入ってきた時、並々ならぬ強い意志のようなものを感じました 彼女の良いところはドヴォルザークの故郷への郷愁を朗々と奏でるところだと思います 第2楽章ではフルート、クラリネットが冴えており、独奏チェロが良く歌います 第3楽章が力強く開始され、民俗色溢れる演奏が展開します 全体を通して感じたのは、鳥羽のチェロは弱音部での郷愁を誘う演奏がとても美しく、自然なヴィブラートが印象的であるということです 坂入 ✕ 読響はドラマティックに演奏を組み立て、ソリストを引き立てました

会場いっぱいの拍手が鳥羽に押し寄せ、カーテンコールが繰り返されました

休憩時間には女性用トイレに長蛇の列ができました 言うまでもなく、亀井聖矢”推し”の人たちです

 

     

 

休憩後はチャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23」です この曲はピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)が1874年から75年にかけて作曲、1875年にボストンで初演されました 当初ニコライ・ルビンシテインに献呈するつもりでしたが、彼がこの曲を「無価値で演奏不能」と不満を示したため、ドイツの巨匠ハンス・フォン・ビューローに献呈しました 第1楽章「アレグロ・ノン・トロッポ・エ・モルト・マエストーソ ~ アレグロ・コン・スピーリト」、第2楽章「アンダンティーノ・センプリーチェ」、第3楽章「アレグロ・コン・フォーコ」の3楽章から成ります

ピアノ独奏の亀井聖矢(かめい まさや)は2001年生まれの22歳。2022年のロン=ティボー国際コンクールで優勝している実力者です

坂入の指揮で第1楽章が力強く開始されます    亀井は時に腰を浮かせてピアノを弾きますが、力みは見えず、演奏自体は丁寧そのものです 彼なりのリズムの取り方があるのでしょう ホルンとフルートが素晴らしい カデンツァでは特に高音部での演奏が美しく会場に響きました 第2楽章ではフルート、荒木奏美のオーボエがソリストの演奏に華を添え、富岡廉太郎の独奏チェロも美しく響きました 第3楽章は、冒頭からエネルギッシュな演奏が繰り広げられ、亀井のピアノがアグレッシブに駆け巡ります 終盤におけるティンパニの一打は目が覚めるようでした それ以降、独奏ピアノとオケとの丁々発止のやり取りが繰り広げられ、雄大なクライマックスが築き上げられました

最後の一音が鳴り終わるや否や、会場割れんばかりの拍手とブラボーがソリストを包み込み、1階前方の女性客を中心にスタンディング・オベーションが見られました 亀井聖矢、すごい人気です この光景は、さながら若手男性ピアニストをアイドルと見る「推し、燃ゆ」です

最後に3人のソリストが揃って登場し、カーテンコールが繰り返されました 将来有望な3人には今後の飛躍を期待したいと思い、大きな拍手を送りました

 

     

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ダニエル・シュミット監督「トスカの接吻」を観る ~ ヴェルディが建てた「音楽家のための憩いの家(ヴェルディの家)」をめぐるドキュメンタリー映画

2023年08月23日 00時05分48秒 | 日記

23日(水)。わが家に来てから今日で3144日目を迎え、北朝鮮の朝鮮中央テレビは22日、北朝鮮北部の干拓地で工事の不備により堤防が壊れ、水田など約560ヘクタールが海水に浸かる被害が発生したが、金正恩総書記が現地を視察し「人災だ」として首相らを厳しく批判したと報じた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     金ちゃんは気楽でいいね 責任を部下に押し付けて 批判だけしてればいいんだから

 

         

 

昨日、夕食に大学時代の友人S君が送ってくれた「鯵を塩焼き」にして、「生野菜とアボカドのサラダ」「モヤシのナムル」「冷奴」「豚汁」を作りました 鯵は大振りで美味しかったです

 

     

 

         

 

昨日20時10分から池袋の新文芸坐でダニエル・シュミット監督による1984年製作スイス映画「トスカの接吻」(カラー・モノラル/93分)を観ました これはミラノに実在する音楽家のための養老院「音楽家のための憩いの家(ヴェルディの家)」を舞台に、そこに住むオペラスターたちが全盛期を思い出して語り歌う姿を捉えたドキュメンタリーです

 

     

 

タイトルの「トスカの接吻」とは、プッチーニのオペラ「トスカ」第2幕で、トスカが恋人カヴァラドッシの命を救うためにスカルピア男爵に抱かれようとする時、傍らにあったナイフでスカルピアの胸を刺す、そのひと突きのことを言います

1902年の開館から今日まで1000人を超える音楽家がここを訪れたと言われています この「音楽家のための憩いの家」は、ジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)がオペラ人のために建てたもので、彼は2番目の妻と共に地下に埋葬されています 映画には1920年代のミラノ・スカラ座の花形オペラ歌手サラ・スクデーリを中心に、作曲家のジョヴァンニ・プリゲドャ、テノール歌手のレオニーザ・ベロン、「リゴレット」を得意としたジュゼッペ・マナキー二などが登場し、往年の自信満々の表情でそれぞれの得意とするアリアを披露しています ヴェルディ、プッチーニ、ドニゼッティなどのオペラのアリアや合唱曲が歌われますが、この映画のタイトルが「トスカ」に因んで付けられているように、サラ・スクデーリによるプッチーニの歌劇「トスカ」のアリア「歌に生き、恋に生き」が何度か歌われ、あたかもこの映画の主役はプッチーニであるかのようにも思えてきます

ところで、この映画の中心人物、サラ・スクデーリは1906年生まれといいますから、この映画の撮影時は78歳です 普段は杖をついて歩くなど おぼつかない足取りですが、いざ歌を歌うとなるとシャキッとします    往年の歌唱力はないものの、信じられないほど高音が伸びて声が美しいことに驚きます これは普段からある程度、声に出して歌っていないと維持できないのではないか、と思います それを裏付けるかのように、カメラに映し出されるサラ・スクデーリはいつも何かを口ずさんでいます

面白かったのは、廊下のようなところで、サラの「トスカ」とレオニーザ・ベロンの「スカルピア」の二重唱が歌われ、ベロンがサラに刺されて倒れ込み、サラが「これがトスカの接吻よ」と言ったあと、しばらくしてベロンが「もう起きてもいいかい」と言うと、サラが「まだよ」と否定するところ。館内は大爆笑です これには続きがあって、床に寝ていたベロンが勝手に起き上がって、突然ヴェルディの歌劇「リゴレット」のアリアを歌い出したものだから、サラが「あなたは今、死んだはずよ」と言い、これにも館内は大爆笑です

合唱団員だった女性へのインタビューでは、「ソリストもオーケストラも大切ですが、合唱があってオペラは成り立っているんです 昔は合唱団員になるのは厳しくて、実力のない者はすぐにクビになったものです」と、高いプロ意識を表明しています

施設の管理者へのインタビューもあります 男性の担当者は「入居者たちがテレビでオペラ番組を観ているところは面白いですよ テノールでもソプラノでも、今の若い歌手たちの歌を聴いて こき下ろしています    自分だったらああは歌わない、とか言って 過去の栄光だけに生きています」と語ります。一方、女性の担当者は「私は彼らから昔の話を聞くのは大好きです 時には一緒にアリアを歌ったりして楽しく過ごしています」と語ります。受け止め方はそれぞれですが、「老人が過去の栄光にすがりつく」というのはどこの国でも共通しているようです

 

     

 

音楽・舞踏ナビゲーター石川了氏の「作曲家ヴェルディの最高傑作とは ~ 『トスカの接吻』によせて」によると、「音楽家のための憩いの家」の建設の経緯と運営資金の調達方法は概要以下の通りです

「ヴェルディは、著名な音楽家でも引退後は生活に困窮する人が多い実情に心を痛め、私財を投じて、音楽家の老後の安心のために『音楽家のための憩いの家』を建設した 設計は建築家のカミッロ・ボーイト(1836-1914)で、ヴェルディのオペラ『オテロ』『ファルスタッフ』の台本作家として知られるアッリーゴ・ボーイトの兄である 彼は当初、施設の名前を『音楽家の養老院』としていたが、ヴェルディが『ここは収容所ではない。入居する人たちは みな私の客人だ』という意思を受けて『音楽家のための憩いの家』と命名されたという 建物は1899年12月に完成したが、ヴェルディの遺言どおり、入居は生前には行われず、彼が亡くなった翌年の1902年10月10日(ヴェルディの誕生日)に最初の入居が行われた 人々から感謝されることが苦手なヴェルディらしいエピソードだ

「ヴェルディは実務にも長けた人物で、例えば、現代では当然である音楽著作権ビジネスを実践した それまでの一作あたりの作曲料収入ではなく、新作オペラの上演から10年間にわたり楽譜レンタル料(上演料)の30%と楽譜売り上げの40%を支払ってもらう契約を、音楽出版社のリコルディ社と交わした その後、ヴェルディの死後50年間の著作権料は『音楽家のための憩いの家』の運営資金となった。なお、著作権が切れた以降の運営資金は、施設の理念に共鳴する多くの篤志家からの寄付で賄われている

また、ヴェルディの人間性について、イタリアのヴェルディ・バリトンとして世界的に活躍したレオ・ヌッチの言葉を紹介しています

「ヴェルディと同時代に活躍したワーグナー(1813-1883)の音楽は、その管弦楽法など比較する相手がいないほど壮大なものですが、特にモダンというわけではない ヴェルディがモダンなのは、その人間性です 彼は自分のための劇場など建設させたりしなかった(ワーグナーは自分の作品を上演するバイロイト祝祭劇場をルートヴィヒ2世に建ててもらった)。自分の名前が付いた劇場(ブッセートにある「ヴェルディ劇場」)には建設資金は提供したが、生涯一度も足を踏み入れることがなかった その代わり、ヴェルディは病院を建て、『音楽家のための憩いの家』を建てた 彼は常に私たち民衆のことを思っていたのです これこそヴェルディなのです

同じ1813年生まれのヴェルディとワーグナーは、音楽の内容が全く異なれば、人間性も正反対であったことが分かります

映画「トスカの接吻」はこのあと、池袋の新文芸坐で8月31日(木)12時35分から14時まで上映されますが、これが最終回です 特にオペラ好きの方々にお薦めします

 

     

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スティーブン・スピルバーグ監督「フェイブルマンズ」を観る ~ スピルバーグ監督の自伝的作品:ベートーヴェンもモーツアルトもヘンデルも流れる

2023年08月22日 07時02分09秒 | 日記

22日(火)。わが家に来てから今日で3143日目を迎え、北朝鮮の朝鮮中央通信は21日、金正恩総書記が日本海側に配備された海軍の艦隊による戦略巡航ミサイルの発射訓練を視察したと報じた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     真上に打ち上げて 真下に落下するミサイル実験をやってくれたら 国連で表彰する

 

         

 

料理上手な息子が帰省を終えて日曜に赴任先の福島県白石市に戻ったので、再び料理を作ることになりました 昨日、夕食に「ナスの豚巻きレンジ蒸し」「生野菜サラダ」「モヤシの味噌汁」を作り、「イワシの刺身」と一緒に食べました 「ナスの~」は新聞の「料理メモ」に載っていたレシピで初めて作りましたが、レンジ利用なので簡単に出来て、とても美味しかったです

 

     

 

         

 

昨日、早稲田松竹でスティーブン・スピルバーグ監督による2022年製作アメリカ映画「フェイブルマンズ」(151分)を観ました

1952年に両親と初めて映画館を訪れ「地上最大のシヨウ」を観たサミー・フェイブルマン少年(ガブリエル・ラベル)は映画に夢中になる それ以来、自らも8ミリカメラを手に、家庭の休暇や旅行の記録係となり、妹や友人たちが出演する作品を制作するのだった そんなサミーを才能豊かなピアニストの母ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)は応援するが、有能な科学者の父バート(ポール・ダノ)は単なる遊びの趣味だと考えていた ある時、一家は父の仕事の関係でアリゾナからカリフォルニアへと引っ越す。新しい土地での心を揺さぶる体験が、サミーの未来を変えていく

 

     

 

この映画は、「ジョーズ」「E.T.」「ジュラシック・パーク」など、世界中で愛される映画の数々を世に送り出してきた巨匠スティーブン・スピルバーグが、映画監督になるという夢を叶えた自身の原体験を映画にした自伝的作品です スピルバーグ(1946年~)がウクライナ系ユダヤ人であることから少年時に虐めに遭ったことや、両親が離婚したことも事実として映画に反映しています

初めて映画を観たサミーは列車と自動車が衝突するシーンに衝撃を受け、父親からプレゼントされた鉄道模型ジオラマで列車と車を衝突させて壊してしまいます 母親は、衝突シーンを映像に残せば、列車や車を壊さなくても済むと説得します このエピソードで思い出したのは、スピルバーグ監督によるテレビ映画「激突」(1971年・アメリカ)です 「激突」は少年の時に観た映画のワンシーンが原点だったのだろうと思いました

映画のラストで、サミーが「駅馬車」「怒りの葡萄」「荒野の決闘」でお馴染みのジョン・フォード監督のオフィスを訪ねるシーンがありますが、フォード監督を演じていたのは「エレファント・マン」「ツイン・ピークス」でお馴染みのデヴィッド・リンチ監督です フォード監督は「映画監督に成りたい」とやってきたサミーに、壁に飾られた絵を見せて「何が描かれている?」と訊きます。サミーは「人が3人いて・・・」と見た通りの説明をしますが、フォード監督は「そうじゃない。地平線はどこにある?」と訊きます サミーは絵によって「上です」「下です」と答えますが、フォード監督は「そうだ よく覚えておけ。地平線が上にあるのと下にあるのは良い絵で、真ん中にあるのはつまらない絵だ 分かったらとっとと失せろ」と言います 映画を撮る上での構図を示した言葉ですが、このひと言でサミーは映画を撮るコツを獲得します

この映画では、母親ミッツィがピアニストであることからクラシック音楽が弾かれます ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第1番 ヘ短調 作品2-1」、モーツアルトのピアノ・ソナタ(番号不明)、そして極めつけは何度か弾かれるヘンデル「メヌエット」です 物悲しく切ない音楽は、夫バートとその友人ベニー(セス・ローゲン)の間で心が揺れるミッツィの複雑な心情を見事に表しています この曲はアンヌ・ケフェレックが しばしばアンコールピースとして弾いています

 

     

 

本当に好きなことは諦めずに最後までやり通せば、いつかは夢が実現する・・・それがこの映画におけるスピルバーグ監督からのメッセージです

 

     

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