人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ヴィオッティ+ゲリンガスによる代演は成功したか?~東響オペラシティシリーズ第81回演奏会を聴く

2014年07月21日 08時14分26秒 | 日記

21日(月・祝)。昨夕は、プロ野球日本シリーズが終了したので、息子からテレビのチャンネル権を奪取、EテレでN響のコンサートを観ました 今年5月28日にサントリーホールで開かれた定期公演で、指揮は広上淳一です。シューベルトの交響曲第5番が終わり、マーラーの交響曲第4番が始まりました

広上はシューベルトの時と同様、演奏中終始リラックスした様子で指揮をしています 小さな身体を大きく見せるかのようにオーバー・アクションを採るので非常に分かり易く面白いのですが、もっと面白いと思ったのは彼を映すカメラ・アングルです マーラーの第1楽章が始まってしばらく経った時、第1ヴァイオリン席の譜面台から指揮者を見上げるようなアングルの映像が映し出されたのです 天井の照明を背景に広上が、カメラを驚かすように指揮棒をカメラ側に付き出してくるシーン、まさに第1ヴァイオリンに”ツッコミを入れてくる”ようなシーンが映し出され、「おお、迫力があるな」と感心しました。その後も、何度かこの角度で指揮者が映されましたが、広上がタコ躍りしながらツッコミを入れてくるシーン、もとい、まるでタコが踊っているかのように身体をリラックスさせて指揮棒をコンマス側に向けてくるユーモラスなシーン、が何度か見られました

画像を注意深く見ると、コンマス(篠崎マロさん)の譜面台の裏側辺りに小型カメラが付けられているのが認められました クラシック・コンサートの中継もこういう工夫が施されれば、ファンが増えるかも知れないと思いました

かつて、ヘルベルト・フォン・カラヤンが来日した時、N響のコンサートの中継録画を観て驚いたといいます フルートがメロディーを吹くときはフルート奏者が、チェロが弾くときにはチェロ奏者がアップで映し出されていたからです 何故それが可能だったのかといえば、楽譜が読めるディレクターの指示によって、楽譜が読めるカメラマンがカメラの位置を変えてスタンバイし、いつでも理想的なカメラ・アングルから演奏者を映し出すことが出来たからです カラヤンは驚くべき日本の技術思考をドイツに持ち帰り、新しい映像技術に生かしたと言われています もしカラヤンが現在も生きていたら、コンマス席の譜面台に小型カメラを付けて指揮者を映し出していたでしょう

 

  閑話休題  

 

昨日、東京オペラシティコンサートホールで、東京交響楽団オペラシティシリーズ第81回演奏会を聴きました プログラムは①スメタナ「我が祖国」より「モルダウ」、②ドヴォルザーク「チェロ協奏曲ロ短調」、③チャイコフスキー「交響曲第4番ヘ短調」で、指揮はウルバンスキの代役ロレンツォ・ヴィオッティ、②のチェロ独奏はヴァシリエヴァの代役ダ―ヴィド・ゲリンガスです それにしても指揮者もソリストも代役なんて前代未聞です。さて、どうなりますか

 

          

 

コンマス・水谷晃の合図でチューニングが始まります。終わったかと思ったら、第2ヴァイオリン奏者の楽器が不調らしく交換されました 指揮台に表れたヴィオッティは長身で痩せ形。スイス・ローザンヌ生まれの24歳です。1曲目のスメタナ「モルダウ」の演奏に入ります

ボヘミアの森に湧いた清水が、だんだん水嵩を増してプラハを経てエルベ河に合流するまでを音によって描いていきます ヴィオッティにとって、まずは名刺代わりの1曲です

曲が終わり、ステージ中央にチェロの台が設置されます。2曲目はドヴォルザークの名曲「チェロ協奏曲ロ短調」です ソリストのゲリンガスが指揮者とともに登場します。ゲリンガスは一見、大学教授のような厳格な雰囲気を醸し出しています

この曲はドヴォルザークがアメリカ音楽院の学長を務めていた時(実質2年半)に作曲されました。古今のチェロ協奏曲の王者と言っても過言ではないでしょう

ヴィオッティのタクトで第1楽章が開始され、オケに次いでゲリンガスの力強いチェロが入ってきます 指揮者もソリストもスケールが大きく、思わず引き込まれます しばらくすると、今度はヴィオラ奏者の楽器が不調らしく右端の奏者が楽器を抱えて舞台袖に引き上げました。こういうのって伝染するのでしょうか

第2楽章のアダージョはゲリンガスの聞かせどころです。郷愁を誘うメロディーを朗々と奏で、聴衆を無口にします。そして第3楽章は再び力強いアレグロで聴衆を魅了します あらためてプログラムのゲリンガスの略歴を見て納得 モスクワ音楽院でムスティスラフ・ロストロポーヴィチに師事し、1970年チャイコフスキー国際コンクールで第1位金賞を受賞しています

演奏が終わるとゲリンガスの方からヴィオッティを引き寄せてハグをし、お互いを讃え合います ヴィオッティは音楽と人生の大先輩ゲリンガスをリスペクトしていることが態度で分かります 満場の拍手とブラボーに気を良くしたゲリンガスはアンコールを演奏しました 最初はバッハのような曲ですが、後でロビーの掲示で確認したら、コリアーノの「ファンシー・オン・バッハ・アリア」という曲でした まだまだ止まない拍手に、今度は高音部を中心とする静かで繊細な曲を演奏しました カザルスの「鳥の歌」かなと思ったのですが違いました。途中で人間の歌声が聞こえてきたので、誰かが曲に合わせて歌っているのかと思ったのですが、ゲリンガス自身が歌っているようでした 実に声も良く歌も上手です。これには、またまた大拍手です

20分間の休憩時間にロビーに出ると、CD売り場はゲリンガスのCDを求める人々で黒山が出来ていました。分かります、その気持ち

休憩後はチャイコフスキーの「交響曲第4番ヘ短調」です。チャイコフスキーの交響曲を聴くのは本当に久しぶりです。彼の3大交響曲はどれも好きですが、ストレス解消にはこの4番が一番です 第1楽章冒頭の”運命の動機”の人生のどん底に突き落とされるような悲劇性、第2楽章の、悲劇から救い出そうとするかのような慈愛に満ちたメロディー、第3楽章の弦のピチカートの弾むようなリズム、第4楽章の”運命”を乗り越えた後の喜び。どの楽章も魅力に満ち溢れています

ヴィオッティは大柄な身体を生かしてダイナミックな指揮ぶりを見せ、歌わせるところはタップリと歌わせ、各楽章の魅力を十分に引き出していました 第1楽章の後、一旦間を置きましたが、第2楽章のアンダンティーノから第3楽章スケルツォを経て第4楽章のアレグロまでを一つの大きな流れとして捉え、楽章の間を空けずに続けて演奏しました。これは彼の演奏の特徴です

演奏が終わると、ヴィオッティは肩で大きく息をして、「これで、やっとウルバンスキの代役を務め終った。あ~良かった」という安堵の表情を見せていました。会場の聴衆は大きな代演を果たし終えた24歳の若き俊英に惜しみない拍手を送りました

ロレンツォ・ヴィオッティという名前は憶えておきましょう。いつかまた聴く機会があるでしょう

 

          

 

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