明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(264)必読!チェルノブイリ被害実態レポート(前書きがアップされました)

2011年09月18日 23時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110918 23:30)

友人が参加しているTranslators United for Pease(平和をめざす翻訳者たち)が
速報925号で、「チェルノブイリ被害実態レポート第1回「前書き」<チェルノブイ
リを忘れない>」をネット公開しました。非常に重要な内容です。ぜひご覧
下さることをお勧めします。長い内容になるので、転載はせずにアドレスのみ
記しておきます。
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=957

このレポートは、チェルノブイリ事故の犠牲者がいったいどのぐらいであるかに
ついて述べたもので、結論として、約100万人という数字が出されています。
これに対して、IAEAなどの国際機関が2006年に出した数字は4000人。0.4%にし
かなりません。レポートはこれがとんでもない虚偽の数であることを暴いたもの
です。

レポートの名は、『チェルノブイリ――大惨事が人びとと環境におよぼした影響
(Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the
Environment)』。2009年に出版されました。より正確には死者の見積もり数は
98万5千人とされています。まとめたのは、ロシアの科学者アレクセイ・ヤブロ
コフ博士を中心とする研究グループで、英語文献だけでなく、ロシア、ウクライナ、
ベラルーシなど、現地の膨大な記録や文献が精査されています。

現在、翻訳チームが岩波書店からの出版を目指して奮闘中ですが、現在の事態の
中で情報を早く伝える必要性にかんがみて、今回、前書き部分を出版に先んじて
ネットに公開してくれています。次にその前書きについてみていきますが、
前書きのクレジットは、ディミトロ・M・グロジンスキー教授(生物学博士)、
ウクライナ国立科学アカデミー一般生物学部長、ウクライナ国立放射線被曝防護
委員会委員長となっています。


前書きが訴えているのはチェルノブイリ事故後、原発の危険性を覆い隠したい
国際的な動きと、危険性を正しくレポートしようとする動きの中で評価の二極化
が生じたことです。それは前述のように100万人対4000人にまで開いているわけ
ですが、前書きが指摘するのは、本来行われるべきであった低線量被曝について
の系統的な研究が行われなかったこと、そのため住民の被曝を防止する対策が
きちんとなされなかったために、健康被害が増大してしまったこと、にもかかわ
らず、放射能を怖がりすぎたためにこれらの結果が出たという説明がされたこと
です。

さらにこれらの論拠を強化するために、それまでの放射線と細胞との相互関係
に関する基礎的な知見の変更すらが画策され始め、それまで原子力推進側がとって
きた放射線の効果に関しての「しきい値のない直線的効果モデル」までも否定
するキャンペーンがはじまりました。つまり放射線の人体への影響は、その量と
比例して大きくなる。このためほんの少しでも影響が認められ、これ以下は
安全という「しきい値」は考えられないという見解が否定されだしたのです。

本レポートはこうした論議に終止符を打つことを目的としています。そのために
ロシアとウクライナ政府が、1986年から10年間の事故に関する文章を機密解除し
たことなどもうけて、被害状況を精査していますが、そこにはかなりショッキン
グな内容が書かれています。例えばウクライナのキエフでは、事故前は90%の
子どもが健康とされていたものの、現在では20%しか健康な子どもがいないこと。
さらにウクライナ内のポレーショーでは、健康と言える子どもは存在せず、
すべての年齢層で、罹病率があがっていることなどです。

前書きは、こうした実態だけでなく、内部被曝の危険性もまた、隠されてきた
ことを指摘しています。またこうした内容を調査し、明らかにしようとして
きた機関が不当に解散されそうになったり、資金提供が止められたりしたことも
指摘している。そのように放射線被害から人を守ろうとするのではなく、放射線
被害を隠そうとし、まっとうな調査すらゆがめようとしてきた中で、被害者が
100万人にいたってしまったのです。


詳しくはぜひ前書き全文を読んでほしいですが、私たちが何よりも読みとらねば
ならないのは、これは今、福島後の私たちの国で起こっていることだということ
です。死者の推計が100万人にも及ぶような被害、それと同等か、それに近いだけ
の放射性物質が、福島原発から出てしまっています。

そして何よりも注意すべきことは、にもかかわらず、その実態を隠し、さらに
内部被曝の危険性を覆い隠して、避けられるべき被曝をも避けさせず、むしろ
被曝を拡大することで、被害を甚大化していくことが今、行われているという
ことです。まさにチェルノブイリ以降と同じ事が、進みつつあります。

その象徴として指摘したいのが、私たちの国の首相官邸ホームページに、この
レポートで全面否定されているIAEAの2006年の報告が掲載されていることです。
しかも日本政府の場合は、その一部しか掲載していない。なんと100万の0.4%
でしかない、死者推計4000人という数すら載せていないのです。書かれている
のは、原発内で被曝して3週間以内になくなった28名と、甲状腺癌で亡くなった
子ども15名という数字のみ。これだけを読むと、事故の影響による死者は43名
(0.004%)にしかみえないような書き方がされている。詐欺的トリックです。
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html

ここに象徴的にあらわされているのは、私たちの国が、チェルノブイリの経験を
生かすどころか、事故隠しの手法を生かそうとしていること、そのためあたら
避けられる被曝までもが拡大しつつあるという事実です。いやそれだけでなく
避難地区の設定基準や、飲食物の基準値など、多くのものが旧ソ連よりも非常に
甘く設定されてしまっています。旧ソ連では移住義務のある地域、あるいは
移住権利のある多くの地域が、日本ではそのままにされている。そのためこの
ままでは、チェルノブイリの経験よりも、より甚大な被害を私たちの国は出して
しまう可能性がある。

そんなことは絶対にあってはなりません。チェルノブイリのその後の経験、
かの地の人々の苦しみを無にしてはいけない。そこで得られた知見をこそ生かし、
より効果的な避難や放射線防護対策を行っていく必要があります。

本レポートはそのための有力な手がかりになります。それを逐次こうして発表
してくださるのはとてもありがたいことです。ぜひみなさん、本文を参照し、
これをプリントし、それぞれの地域の多くの方、行政や学校関係者等々に
配りましょう。それだけの価値がある文献です。

翻訳チームのみなさんに感謝しつつ、同レポートの紹介を終えます!





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1 コメント

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私も昨日、強く感じました。 (よもぎ)
2011-09-19 03:23:21
守田さま

昨日に引き続き、貴重な情報をありがとうございます。
矢ヶ崎克馬先生のお話のノートテイクもですが、
今日のお話は、昨日、菅前首相の談話が47ニュースで報じられたときに強い不安とともに感じたことに重なり、たいへん参考となりました。

IAEA、ICRP、ABCC……そして、アメリカのCDC、FDAの発表は、もとより信じておりませんが、
こうした数字のトリックが延々と人々を騙すために(殺すために)使われていくことを思うと、やはり恐怖を感じます。

>ここに象徴的にあらわされているのは、私たちの国が、チェルノブイリの経験を
生かすどころか、事故隠しの手法を生かそうとしていること、そのためあたら
避けられる被曝までもが拡大しつつあるという事実です。


>ここに象徴的にあらわされているのは、私たちの国が、チェルノブイリの経験を
生かすどころか、事故隠しの手法を生かそうとしていること、そのためあたら
避けられる被曝までもが拡大しつつあるという事実です。

47ニュースの記事では、すでに恰も事故が収束したかのような印象を与える意図が見えてしまいました。
おそらく、隠しきれなくなるまでは、チェルノブイリでもベラルーシでも、こうした手法が数年間は使われてきたのでしょう。

しかし、被害者の数など、今も尚、到底数えられるものではないと思います。
チェルノブイリでも、今なお放出はまったく収束していないことは、今回初めて知りました。
そこでは、無視された多くの犠牲が今も増え続けているというのに、
日本は、悪い手本だけを姑息に用い、これからも続き、さらに再発が繰り返されるであろう未来から、人々の目を逸らそうと躍起になっていると確信してしまいました。

廃炉を呼びかけるのは当然ですが、廃炉にするだけでも、多くの直接被曝の犠牲者を伴わざるを得ません。
まず、稼働を全面的に止めなければ、次の大地震があれば、
再び大爆発とともに多大な「公表されない急性障害を受ける犠牲者」を出してしまいます(廃炉にしておいても、やはり大惨事は免れません)

こうした、火を見るよりも明らかな近未来を無視して行われつつある再稼働や、
「減原発」などという悪魔の言葉が報道される現実……

どんなことがあっても、声を上げ続けなければなりませんし、
健康被害に苦しむことになる現在の子供達、未来の子供達が、
少しでも生きやすい社会構造を、新たに創造しておくことこそ「現代の大人の責任」と考えております。

せめても京都にさえ伺えない自分の身が歯がゆいばかりですが、
「私は私にできること」を、ハチドリのクリキンディのように続けていきますね。
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