明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(648)逃げる手段ない・・・避難計画の現実

2013年03月26日 23時30分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130326 23:30)

原子力規制委員会による、原子力災害対策指針の確定を受けて、原発から30キロ圏内の自治体が、原発災害に対する避難計画の策定を義務付けられ、今、それぞれで策定中です。
正確には3月18日が、提出期限とされていたのですが、計画づくりを求められている21道府県と136市町村の合計157の自治体のうち、期限までにまとめられたのは、わずかに70自治体のみ。半数以上の87自治体が間に合いませんでした。
しかも計画をまとめられた自治体も多くがコンサルタント会社に丸投げするなどしており、ほとんどの自治体が、能動的な計画を策定できているとは言えません。

ちなみに、21の道府県のうち、3月18日までに計画づくりが終わったのは、北海道、青森、宮城、新潟、静岡、岐阜、滋賀、京都、鳥取、島根、愛媛、福岡、長崎の各道府県。これに対して3月中に仕上げるとしているのが、福島、茨城、石川、山口、佐賀、鹿児島の6県。
4月中としているのが、富山1県、5月以降または未定となっているのが福井1県です。原発銀座のある福井県が、計画が策定できないでいることは極めて象徴的です。
ただおさえて置かなくてはならないのは、この原発災害対策が必要だとする「30キロ圏」という想定は、福島原発事故を考えても、あまりに甘い想定でしかないということです。なぜなら原発から45キロ離れた飯舘村が全村避難になっているのであり、これ一つとってみても30キロという範囲設定はあまりに狭すぎるからです。
なおかつ福島原発事故においては、ある意味では不幸中の幸いとして、4号機燃料プールの破局的崩壊が止まったのであり、それから考えるならば、福島事故の現実から想定を行っても、45キロでも、あるいは60キロでも「甘い」想定でしかないからです。しかしその甘い想定においても、なかなか避難計画が作れないのが現実です。

その理由は大きくは、そもそも想定される事故があまりにも大きすぎて、とてもそれぞれの自治体での対応ではまかないきれないことにあります。ここには原発が根源的に抱える危機の大きさがあらわれています。
その上に、計画の策定期間があまりにも短すぎです。まるで、計画をたてることそのものの矛盾に気がつかないうちに、やっつけ仕事でいいから、計画を立てた建前にしろ・・・といわんばかりの短時間でしかありません。
このため、多くの自治体が、強いられた無理難題を前に、困窮しているのが実情です。

まともな避難計画を立てることができない。ここに原発建設のあまりの歪みと、私たちの直面している危機の大きさがあらわれています。この点からも最低限でも大飯原発を即刻停止し、他の原発の再稼働をけして許してはならないことは明白です。
しかし原発がすべて止まれば、避難計画は立てなくていいのかと言えば、残念ながらそうではありません。第一に、福島原発の今が相当に危険であり、ここでの事故の悪化を想定した避難計画を早急にたてて、避難訓練を実施する必要があります。
同時に、各原発にある燃料プールもまた、極めて脆弱であり、ここが大地震等々に襲われたり、何らかのトラブルで電源を喪失した場合に備えて、避難計画を立てておく必要があります。その意味で、再稼働を前提しなくても、避難の準備は絶対に必要なのです。

しかし実際に逃げる手段を考えると、先にも述べたように、相当に難しい。そのひとつとしてここで紹介したいのは、東京新聞が「逃げる手段がない」というタイトルのもとに紹介している京都府の例です。
京都府には原発はありません。しかし目と鼻の先の福井県にたくさんの原発がある。その中でも最も府に近い高浜原発の事故を想定すると、僕も原発災害対策でお話をしにいったことがある宮津市など、7市町が入ります。避難しなければならない人々の数は13万人です。
日本の多くの山里がそうですが、この地域には公共交通機関が少なく、逃げるとなると多くの人はマイカーに頼らざるを得ません。しかしそうなると幹線道路が渋滞してしまう可能性があります。実際に福島原発事故の場合にも、浜通りの人々が福島市方面に逃れようとして、国道113号線などで大渋滞がおきました。しかもそこはすでに放射能によって濃厚に汚染された地帯でした。

高濃度汚染地帯で渋滞が発生してしまったことには、スピーディーの情報が隠されたことも大きく寄与していますが、ともあれその教訓を考えると、マイカーによる避難を控え、大型バスによる避難ができるように計画を立てる必要があります。そこで府がバス会社にシミュレーションを頼んだところ、バス600台で10時間半で避難ができるという回答が返ってきたといいます。
ところがそのためには、避難を決める前にあらかじめ600台のバスが、集合場所の小学校などに到着していなければならないなど、避難可能なシミュレーションは、現実離れしたものでしかありませんでした。
またそもそも緊急時に600台のバスが確保すること事態もあまりに現実離れしたものでしかありません。修学旅行シーズンや、行楽シーズンでは、どのバス会社もバスが出払っている状態であり、緊急時にすぐに集められるバスの余裕などないからです。

こうした事態を前に、すでに宮津市などは、緊急の輸送手段からバスを降ろす検討を始めているといいます。緊急時には最も原発に近い自治体にバスが優先的に回されることが予想されるため、宮津市にまでバスがまわってこないだろうという現実的な判断のもとにです。
しかしそうなると渋滞回避が必須の課題になります。宮津市は自治会などに、緊急時の車の乗り合わせを申し入れているそうですが、自治会側は事前の調整は極めて困難と回答しているそうです。
さらにバス会社から重要な点が指摘されました。避難の必要な放射能漏れが起こっている状態で、運転士に高線量地帯に人々を迎えにいけなどと、会社としてはとても言えないという点です。運転士さんたちからも、懸念の声が高まっているそうです。これもまったく最もな話です。高線量地帯に人々を救いにいく600名のドライバーをいかに確保できるのでしょうか。

これらから導き出せる現実的な答えはなんなのか。僕は冷酷かもしれませんが、原発で深刻な事故が起こった場合は、被曝を避けるために真っ先に逃がすべき人と、これらの人が逃げてから次に逃がすべき人、さらに人を逃がすために被爆覚悟で働く人を、あらかじめ分けておかざるおえないと思います。それが災害対策の実情だということを見据える以外ないのです。
そして、自らは逃げることをせず、先に人々を逃がしたり、むしろ高線量地帯に人々を助けに赴いたりする人々のための現場での被曝対策と、その後の医療等々の補償の体制や社会的合意を、あらかじめ作り出しておく必要があるということです。
これは一見、冷酷なことですが、実は福島原発事故の現場でも実際に起こったことだったのです。しかもこの事故の場合は想定が何もなされていませんでしたから、これらの人々は、ほとんどまともな放射線防護体制もないままに、被曝労働をせざるを得ませんでした。相当に深刻な健康被害が生じていることは間違いありません。

その中でもとくに危険な状態にさらされ、被曝をしてしまったのが、警察官たちや消防署の隊員、自衛隊の隊員の方々でした。あの3月11日直後の日々、例えば現場にさっそうとあらわれた東京消防局のハイパーレスキュー隊による放水が、私たち全体を、絶望的な危機から救ってくれたわけですが、あの高度な放水のテクニックを見せてくれた隊員の方たちの多くが、被曝への備えもないままに現場に投入されました。
警察官たちもそうです。高線量地帯を封鎖するとき、その現場に立って、人々の立ち入りを静止しているのはおまわりさんたちでした。あるいは自衛隊は、放射能の降ったあやゆる地域を、津波犠牲者の捜索のために歩きまわりました。それら本当に様々な形で、多くの人々が、放射能の中で働かざるを得なかったのです。
しかしこれらの人々に、それまで放射線防護に関する教育が行われたことがあったでしょうか。全く否。これらの部隊のうち、放射線防護の装備を持っていたものがあったでしょうか。自衛隊のごく一部を除いて全く否。これらの人々はまったく無防備な状態で動員されてしまいました。

おそらく過酷な現場に足を踏み込んだ自衛隊、消防隊、警察官の多くの方が今、自らの健康に関する大きな不安を抱えていると思われます。しかしどれも軍隊的な要素をもつこれらの部隊の中で、このことを口にすること自身が困難なのではないでしょうか。
これに対して、アメリカ軍の兵士の中からは、日本政府と東京電力の事故隠しのせいで、自らが被曝してしまったことへの法的訴えが起こっていますが、自国民に80キロ圏内からの退避を勧告したアメリカの兵士たちですらそうなのですから、日本の諸部隊の人々の懸念はもっとずっと高いはずです。
もちろん、逃げられずに被曝してしまったのは、これらの部隊員だけではありません。津波被害と向き合った多くの自治体職員の方たちがそうでしょうし、中にはまだしも原発情報が届いていた自衛隊員や警察官よりも、本当になんの防備もない状態で、高線量地帯の中、住民を探して歩き回ってしまった自治体の職員の方たちもおられます。

これら現実的に起こったことをリアルに見据えるならば、一度事故が起こってしまえば、すべての人を完璧に被曝させないなどということはまったく不可能であり、どうしたって犠牲覚悟、被曝覚悟のもとに、少しでも犠牲を減らしていくことを考えざるを得ないのです。
もちろんその場合でも、これらを職務命令として行ってはならないと強く思います。誰もが等しく、真っ先に逃げ出す権利があり、それを選択する権限が個人にあることを繰り返し明らかにした上で、例えば子どもたちや、妊婦さん、妊娠の可能性のある女性、身体の衰弱した人々、ハンディキャップがあって自らは動きににくい人々などを、優先的に逃がすことを決めておくしかないのだと思うのです。
その場合、誰がこうした真っ先に逃げる人々を先導していくのか。つまり逃げる係りに誰を置いておくのかも決めておく必要があります。

反対に、逃げずに残って行う仕事の中には、原発直近から命からがら逃れてきた人々を受け入れる仕事も含まれます。現状の30キロ圏内の想定では、30キロを越えた自治体は受け入れ側に回らざるを得ない。福島原発事故の経験では、逃げる範囲を狭く設定してしまったために、かえって避難が何度も繰り返されることになり、その過酷な移動中に何百人という方が命を落とされてもいます。
だからこそ僕はこの範囲をもっと大きく広げる必要があると思いますが、いずれにせよ、どこかの自治体が逃げてくる人々を受け止める必要があるわけです。しかしそこにも放射能の雲が迫ってくるかもしれない。このとき受け入れ担当の人々は、受け入れ業務に忙殺されていて、逃げ出せない可能性があります。
それやこれや、どうしたって被曝してしまう人々が出る可能性が濃厚にある。だからこそ全ての人々に、放射能の恐ろしさを徹底して教育し、防護対策を普及し、なおかつ被曝への心構えを作っていく必要があるのです。自らの被曝状況の記録化などもあらかじめ徹底して指導しておく必要があります。

非常に重要なポイントは、政府や原子力規制委員会は、ここでも、このように実際に起こることをリアルに想定すると、大変な困難が見える化してしまい、しかも誰かに被曝を事実上強制せざるを得ないという、非人道的な現実が見えてしまうために、このようなリアルな想定を避けようとしている点です。
まさにそれゆえにこそ、どう考えても現実的で有効な対策の検討などする余裕のない時間のうちに、計画の策定と提出を求めているのだと考えざるを得ません。しかしそれではまたしても、実際の事故を想定しない、再稼働のための「避難計画」、空洞化した建前としての「安全性」がうたわれるだけに終わってしまいます。それでは全くダメです。

ではどうしたらいいのでしょうか。可能な限り、それぞれの自治体の避難計画の策定に市民が参加していくことです。まずはこの計画に対して、情報公開を求め、説明をしてもらうことから始めましょう。そうして市民の側の意見を反映させましょう。さらに市民の側から主導的に、原発災害訓練の流れを作り出していきましょう。
ぜひこれを原発から30キロ以遠の自治体でも行ってください。福島原発の悪化を考えれば、日本中どこでも被災地域になりえます。また広域避難が発生したときには、放射能のとどかない地域は、ただちに避難の受け入れに動く必要があります。この点でも、全ての自治体が原発災害対策を進める必要性があるのです。

できるだけ多くの人々が関わる中で、僕が共有したいと思うのは、原発問題とは、エネルギー問題などではまったくなく、命の問題、安全の問題なのだという点です。原発がある限り、つまり完全廃炉が実現するまで、私たちは大変な危機と向かい合い続けるしかないのです。一度事故が起これば犠牲が避けられない危機とです。
そのことを見据えてこそ、万が一のときに、可能な限り犠牲を少なくすることが可能になります。原子力災害と現実的に向き合いましょう。そのことで私たちや未来世代の安全性を少しでも広げていきましょう。

以下、東京新聞の記事を紹介します。

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逃げる手段ない 避難計画 バス600台手配 現実離れ
東京新聞 2013年3月22日 07時09分
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013032290070957.html
 
東京電力福島第一原発で、同時多発的な停電による使用済み核燃料プールの冷却停止事故が起きた。苦い記憶を忘れ、再び原発依存に迷い込むことへの警告のようだ。私たちは原発に頼ってしまっていいのだろうか。第十部では、重大事故から二年を経た原発の周辺事情を探る。
十八日夜、テレビで福島第一の停電事故を知った京都府防災・原子力安全課長の前川二郎(52)は「事故収束を急ぐ現場で、いまだにこんなことが起きるのか。とんでもないな」と声を上げた。
そして、二月の府の防災会議で自らが報告したシミュレーション結果を読み返し、「こう、うまくはいかないな」とつぶやいた。

国の新指針で原発事故に備えた防災対策を進める区域がぐんと広がった。府内に原発はないが、関西電力高浜原発(福井県高浜町)の三十キロ圏に宮津市など七市町が入る。避難対象の住民は、従来の一万二千人から十倍以上の十三万人にまで急増した。
どうすれば、これだけの人数を早く逃がすことができるのか。前川は頭が痛い。
公共交通機関が少ない地域。住民の足は主に自家用車だが、各自が車で逃げれば大渋滞となるのは、福島事故で証明されている。

そこで、前川は府内外からバスをかき集めて避難に使おうと考え、業者にシミュレーションしてもらった。
バス六百台を集め、ピストン輸送すれば、十時間半で十三万人全員の避難が完了する-と答えが出た。
ただし、バスは避難を決める前に集合場所の小学校に到着しているなど現実離れした条件だった。「そもそもバスを本当に確保できるのか?」。前川は、昨夏に部下二人から報告を受けた、バス会社幹部との協議内容を思い出した。

ヤサカ観光バスは、京都指折りのバス会社で、府と災害時の協力協定も結んでいる。府側から原発事故時のバス活用を打診され、専務の中野茂(69)は「協力させていただく」と快く応じた。
ただ、一つ条件を付けられた。「出せる台数は、府の防災計画に入れてほしくない」
修学旅行シーズンの四~六月は、保有するバス七十四台のうち七十台までが出払っている。協力したくても、実際には何台出せるか分からないとのことだった。
別のバス会社では、「協力したいが、運転手に『放射線量の高い所に行け』とは言えない」とも言われた。会社と組合の協議でも、誰が放射線量を測って健康管理をするのか。被害があった場合の補償はどうなるのか。運転手側からさまざまな疑問をぶつけられたという。結局、この会社では「個人の意見を尊重する」ことを申し合わせた。

こうした事情を見通すかのように、市町の中には、避難手段の主役からバスを降ろす動きも出てきた。
宮津市は「バスは原発に近いほかの自治体に、まず投入されるだろう」と判断。自家用車による避難を基本にした。舞鶴市もバスは無理との意見が市民から多く寄せられ、自家用車も入れた。
ただし、渋滞回避が大問題。宮津市企画総務室長の森和宏(59)は「隣近所で乗り合わせる調整をしてほしい」と自治会に求めたが、自治会代表の細見節夫(70)は「事前の調整は不可能。空きがあれば乗せるという、住民の助け合いの意識を高めるしかない」と難しさを口にした。

舞鶴市は、地区ごとに時間差で避難を始める方式を模索するが、綿密すぎると、いざという時、もろさが出る欠点もはらむ。
京都の防災計画づくりは、他の自治体より進んではいるが、実際に機能するかどうかは未知数の段階だ。(敬称略)

<地域防災計画> 原発事故に備え、原発から30キロ圏内の自治体が、住民の避難先や避難手段の確保を検討してまとめる。福島事故の反省を受け、国の指針が改定され、防災対策を重点的に進める区域(UPZ)が原発8~10キロ圏から30キロ圏に拡大。計画をつくる自治体は15道府県45市町村から、3倍の21道府県136市町村に増えた。原子力規制委員会事務局のまとめでは、計画づくりを終えた自治体は半分以下の70にとどまっている。

 

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