明日に向けて

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明日に向けて(635)許せない!政府による被災地切り捨てと省庁による復興予算強奪!

2013年03月06日 23時30分00秒 | 明日に向けて(601)~(700)

守田です。(20130306 23:30)

政府による被災地切り捨て策が横行しています。その最たるものが復興予算の執行の有様です。被災地では滞っており、被災地に以外のところでどんどん進んでいます。
3月4日付の東京新聞1面記事によれば、2012年4月からの半年間の復興予算の執行率は、被災地では5割に満たず、被災地以外では「全国防災対策費」として96%が執行済みだというのです。しかも被災地が5割に満たないのは、「がれき処理の遅れ」の影響のためだと言います。そもそもこの「がれき広域処理」そのものがとても被災地のためなどとは言えないしろもの。無駄なお金をかけて遠い地域に「がれき」を運ぼうという経済効率性を無視したものでした。
しかも国際的常識として「その場に封じ込める」ことが必要な放射性物質を移動・拡散させようとする施策で、被災地のためにならないばかりか、全国に被曝を広げようとするとんでもないものです。これが被災地の「復興予算」の大きなウエイトを占めていたというのですから、ますます被災地にまともにお金が落ちていない現実が浮かび上がってきます。

そもそも被災地以外になぜ復興予算が使われているのでしょうか。実はこれは、東日本大震災復興基本法(平成23 年法律第76 号)第3条等に基づき、2011年7月29日に打ち出された「東日本大震災からの復興の基本方針」に書き込まれた文言を拡大解釈してなされているものです。
そこにはどんなことが書かれているのでしょうか。「3 実施する施策」の中に次のようなことが記されています。

***

国は、国家的な危機である東日本大震災を乗り越えて復興を実現し、現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会を構築するため、被災者及び被災した地方公共団体の意向等を踏まえつつ、各府省一体となって、以下の施策を実施する。
(イ)被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生のための施策
(ロ)被災者の避難先となっている地域や震災による著しい悪影響が社会経済に及んでいる地域など、被災地域と密接に関連する地域において、被災地域の復旧・復興のために一体不可分のものとして緊急に実施すべき施策
(ハ)上記と同様の施策のうち、東日本大震災を教訓として、全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災等のための施策

***

この国の「頭脳明晰」な官僚の方たちの書く文章は、一見するとどれも最もらしい響きを持ったものですが、その文言の中には、たびたび、解釈を広げれば、幾らでも施策の範囲を広げられるものが含まれています。
具体的には(イ)では復興予算の使途が「被災地域」に限定されているわけですが、(ロ)で「被災者の避難先となっている地域や震災による著しい悪影響が社会経済に及んでいる地域」が入り、対象が大幅に拡大されている。津波で住まいを奪われた人々や、原発災害で放射能から逃れなければならなくなった方たちが全国に散っているのですから、それらの全てが「復興の基本指針」に入ってくるわけです。
さらに(ハ)では「全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災等のための施策」となっており、日本中、どこにでも適用できるようにされてしまっている。「減災」と名がつきさえすれば、ここではもうどこでも何でもやれるようになってしまっているのです。

事実、このもとで各省庁から、とんでもない施策が「復興予算」の中に盛り込まれてきました。ようやく昨年秋に大きな社会問題化しましたが、そこで批判的に取り上げられたものには次のようなものがあります。

経産省 「国内立地推進事業費補助金」・・・全国の工場などの設備投資を支援 2950億円
文科省 「日本原子力研究開発機構運営費」・・・青森・茨城両県での国際熱核融合実験炉の研究 107億円
外務省 「アジア太平洋州地域、北米地域との青少年交流」・・・この地域の青少年との被災地での交流 72億円
内閣府 「沖縄の国道整備」・・・緊急輸送道路の整備 34億円
農水省 「鯨類捕獲調査安定化推進対策」・・・シー・シェパードなど反捕鯨団体の妨害対策 23億円
財務省 「国税庁施設費」・・・首都圏など12庁舎の耐震改修工事 12億円

出典 zakzak
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20121011/plt1210111544007-n1.htm

核融合の研究やシー・シェパードへの対策費まで「復興予算」と言ってはばからない文科省や農水省の考え方には本当に唖然とするばかりですが、問題はこの国の「中枢」を占めている人々が、等しく、こうしたことを何とも思わない感性を共有していることにあります。それでいて国民・住民には、強制化された「絆」を強調する。何かとても残念な気がしますが、それが私たちの国のエリートたち(少なくともその主流派)の持っている感性なのです。
ではこれらに象徴されるような各省庁の利権の分捕り合いとも言えるような予算申請は、批判の高まりの中で凍結されたのでしょうか。まったくそんなことはなし。総額19兆円のうち、見直されたのはわずか200億円にすぎません。しかも安倍政権になるや「復興予算の拡大」がうたわれ、さらに6兆円が積み増されてしまいました。
大事なことは、こうした事実はけしてすべてが隠されているわけではなく、国会などでも問題になってきたということです。もっと言えば民主党政権のときには自民党が与党への攻撃材料に使いました。ところが自民党が政権を執るやいなや、より分捕りの分け前を広げてしまいました。自分たちが批判したことなどどこ吹く風、現実的な見直しなどまったくせずに、より各省庁に予算が回るようにしてしまったのです。
こうした現実が被災地に伝わらないはずがありません。事実、被災地からはたびたび「復興どころか復旧のめども立っていない」という言葉が聞かれています。にもかかわらず、被災地以外に潤沢に資金がまわっている現実、しかも「減災」と名をつけて、どこまでも拡大解釈されているあり方に、被災地の人々は心身を踏みにじられたような痛みを感じているはずです。

さらに上述の「復興の基本方針」を読んでいくと、より何とも腹立たしく感じる記述に出会います。以下、引用します。

***

(1)国の総力を挙げた取組み
国は、被災した地方公共団体が行う復興の取組みを、あらゆる施策を用いて支援する。
既存の制度を見直し、行政手続に係る負担の軽減を図るほか、財政支援、ノウハウや人材の面からの協力など、各府省の総力を挙げて、復興を幅広く、かつ、深く支援する。特に、市町村の行政手続の負担の軽減、財政支援は極めて重要な課題であることから、以下の仕組みを新設する。

②使い勝手のよい交付金等
()地方公共団体が、自ら策定する復興プランの下、復興に必要な各種施策が展開できる、使い勝手のよい自由度の高い交付金を創設する。
具体的には、復興に必要となる補助事業(市街地・農漁村整備、道路、学校等)を幅広く一括化するとともに、地方公共団体の負担の軽減を図りつつ、対象の自由度の向上や執行の弾力化、手続きの簡素化等を可能な限り進め、復興プランの評価・公表等を通じて効率性や透明性を確保しつつ、地方公共団体主体の復興を支援する。

***

国の施策のすべてを点検できたわけではないことを付記した上でですが、例えば僕が岩手県大槌町を取材して、町づくりNPOの方から聞いた苦渋の声は、まさしくこうした「対象の自由度の向上や執行の弾力化、手続きの簡素化」がまったく進んでいない現実でした。津波で町の姿が一変し、前提条件が変わってしまったのに、旧来の法律の適用が迫られる。そのためにあらゆることが進まないという嘆きが、町の中に渦巻いていました。
そうした矛盾の高まりの中で、大槌町では、兵庫県宝塚市から派遣され、町の区画整理事業に携わっていた職員が、「大槌町頑張れ」と書き残して自ら命を絶ってしまうという悲劇まで起こってしまいました。ご本人、ご家族とともに、多くの大槌町の人々を悲しみのどん底に突き落とす事態が、国の無策の中で起こってしまったのです。
どうして、ここに書いたことだけでも、きちんと実行してくれなかったのでしょうか。それをすれば少なくとも大槌町での悲劇は食い止められたのではないか。いや、今よりもっとたくさんの被災地の方が、明るい思いで過ごせているのではないでしょうか。

政府による被災地の切り捨てを、もうこれ以上、許してはなりません。復興予算の強奪も許してはなりません。
全国のみなさん。ぜひそれぞれのルートで、被災地の方との結びつきを強めてください。政府を媒介せずに、被災地の状況を直接つかみましょう。
被災地のみなさん、ぜひあきらめることなく、それぞれに被災地の今を発信してください。日本の国民・住民の大半はけして冷たい人々ではありません。あまりにも被災地の現実が伝わっていないのです。
本当に心ある民衆同士の助け合いの気持ち、共生の心を強めていきましょう。そして下からこの国を変えていきましょう。そのことの中でこそ、被災地に、いや私たちの国総体に、未来の展望が切り開かれます。苦難を一緒に超えていきましょう!

以下、資料として「東日本大震災からの復興の基本方針」と、東京新聞の記事を貼り付けておきます。


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東日本大震災からの復興の基本方針
平成23年7月29日 東日本大震災復興対策本部
http://www.reconstruction.go.jp/topics/doc/20110729houshin.pdf#search='%E5%BE%A9%E8%88%88%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E6%96%B9%E9%87%9D'

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復興予算執行 被災地滞る
東京新聞 2013年3月4日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/tohokujisin/list/CK2013030402100003.html
 
政府が二〇一二年度に確保した東日本大震災の復興予算について、昨年四月から半年間の被災地での執行率が五割に満たないことが分かった。がれきの処理や放射性物質の除染が遅れていることなどが原因だが、その一方で被災地以外の地域の公共事業費などを盛り込んだ「全国防災対策費」は96%を執行済みであることも判明。予算を投入すべき主役が脇に追いやられ、本来の趣旨に沿っているか疑わしい事業が優先的に行われている実態が浮き彫りになった。 (中根政人)

復興庁のまとめによると、一一年度からの繰り越し分を合わせた復興予算は約八兆円が確保されたが九月までに執行されたのは全体の51・5%にあたる約四兆一千億円。岩手、宮城、福島の三県など被災地向け予算の執行は全体の数字を下回る45・6%の約三兆二千億円にとどまった。

被災地の再建に直結する予算のうち、災害復旧の公共事業などには約四兆七千億円が確保されたが、がれき処理の遅れが影響、49・4%の約二兆三千億円しか執行されなかった。

被災者支援に関する事業費も、津波で被災した集落の移転が遅れ、住宅再建に関する補助金が被災者に行き渡らなかったことなどを理由に、33・3%の千三百二十億円しか執行できていない。
東京電力福島第一原発事故で放出された放射性物質の除染も、汚染された土壌を保管する中間貯蔵施設や仮置き場の設置の取り組みが難航しているため、関連予算の執行が18・4%の千百九十億円にとどまっている。

ところが、被災地以外の学校の耐震化や道路整備などの公共事業を行うための全国防災対策費には約九千三百億円が計上され、九月末までに96%の約八千九百億円が執行された。被災地以外の事業のみ着々と進んでいる。全国防災対策費には沖縄県内の国道整備や関西地区の税務署耐震化など、復興とは無関係な事業が盛り込まれている。
復興庁は「被災地で予算の執行が進んでいない事業分野があるのは問題だ」と説明。一方、全国防災対策費の消化が進んだ理由については「中身を分析していないので分からない」と答えるにとどまっている。

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