Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

宮内悠介『盤上の夜』

2014-07-30 21:33:05 | SF


囲碁、将棋、麻雀、チェッカー・・・
人間が考え出した数々の「盤上遊戯」をめぐる物語をまとめたSF短編集。
これは面白い。

ゲームとは何か。
ゲームは何故生まれたのか。
ゲームに終わりはあるのか。
ゲームを行う人智に限界はあるのか。

チェッカーにおける無敗の王とコンピューターの対決を描いた『人間の王』が特に好き。
麻雀のルールを詳しく知らないですが『清められた卓』も面白かった。
ある宗教組織の教祖的存在との麻雀対決。
牌が見えているとしか思えない勝ち方を続けるその秘密とは?
麻雀ができればもっと面白く読めたと思いました。残念。

ゲームを単なるゲームとしててでなく、それを自身が生きる世界として捉える。
それによって、世界を変えるものとして捉える。
盤上の極限を目指し到達する人たちには、一体何が見えているのでしょうか。

折口良乃『汐汲坂のカフェ・ルナール』

2014-07-25 22:02:39 | ミステリ


タレーランのフォロワーかな?と思いつつも
横浜が舞台とあらば読まねばと思い入手。
元町の坂の途中に店を構える喫茶店「カフェ・ルナール」と不思議な店主の物語。

その店内には無数の狐にまつわる品物があり
更にはそこにいる動物の話す内容が伝わってきたりと、どうにも非日常的な空間。
また、店主は客の悩みを聞きたちまち解決するという。

ミステリーはフレーバー。
ファンタジーのような雰囲気もあり、まったり楽しめる一冊。

それにしても、やはり横浜は良いですね。
赤レンガとか山下公園とかも出てきますが
あの開放的な空気を思い出しました。

深見真『ブラッドバス』

2014-07-20 15:18:59 | エンタメ


帯に「殺戮事典」と書かれていますが、言いえて妙であります。
『ヤングガン~』シリーズも容赦なかったけど、こちらも同じくらい容赦のない暴力の嵐。
いかに残酷に殺戮するか、楽しく考えながら書いたんじゃないかと思ってしまう。
それでも不快にならず、むしろ気持ちよくどんどん読んでしまうから不思議。

主人公と敵サイド両者ともひたすら残酷行為を繰り返しますが
そうするなりの理由があり、特に敵サイドは相当な下衆であるため
読み手も主人公たちを応援してしまうのではないでしょうか。

まさに、「読む」アクション映画。
映画ではとても表現できないような想像を絶する殺戮のオンパレードなので
むしろへたなアクション映画よりどれだけエキサイティングか。

ローラン・ビネ『HHhH』

2014-07-01 22:41:52 | 歴史・時代


物凄い評判が良く、面白そうだったので随分前に購入。
購入したは良いものの、世界史の知識を忘れ過ぎていてナチス・ドイツと世界の関連を中々把握できず・・・暫く序盤で放置してました。
が、勿体ないのでそろそろ気合い入れて読むかと思い集中して読み始めたら、これがとても面白い。
ノンフィクション・スパイ小説・歴史小説・・・あらゆるジャンルの面白さが詰まった一冊でした。

『HHhH』、なんとも風変わりな題名。
この四文字のアルファベットは「Himmlers Hirn hei't Heydrich」の略。
すなわち、「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」の意。
アドルフ・ヒトラーの側近であるハインリヒ・ヒムラー。
そのヒムラーにつぐ実力者が、本作の主役の一人であるラインハルト・ハイドリヒ。
本作は、残忍さから「金髪の野獣」と恐れられたハイドリヒの暗殺計画をテーマとした歴史小説なのです。

この野獣を暗殺するために選ばれた二人のパラシュート部隊の活動が、小説としての面白さの一側面。
残虐の限りを尽くす強大なナチス・ドイツの幹部をいかに暗殺するか、この過程はスリルに満ち溢れています。
それまで散々ナチスの悪行が描写されているので、二人の暗殺者にはとても感情移入してしまいます。
それ故に、ラストシーンは衝撃的。
またそれは「フィクション」や「ツクリモノ」であることを著者により極限まで削ぎ落とされた、紛れもない歴史の一瞬であるのです。
それがまた衝撃的。

著者であるローラン・ビネは、本作をフィクションの歴史小説として世に出すことを断じて許さない、ストイックな思想の持ち主。
いかに歴史上の出来事をそのまま再現するか。いかにリアルに近づけるか。
本筋だけでなく、著者の「歴史を書くこと」に対する思想や葛藤も結構な量出てきます。
それが本作を「歴史小説」と同時に「歴史小説を書くことを語るノンフィクション」としても成立させているのです。
その病的なまでの真摯さ、歴史上の偉人や出来事に対する尊敬の姿勢も非常に印象的。

まだまだたくさん書きたいことが出てきます。
とても味わい深い作品でした。
今までにない読書体験。