物凄い評判が良く、面白そうだったので随分前に購入。
購入したは良いものの、世界史の知識を忘れ過ぎていてナチス・ドイツと世界の関連を中々把握できず・・・暫く序盤で放置してました。
が、勿体ないのでそろそろ気合い入れて読むかと思い集中して読み始めたら、これがとても面白い。
ノンフィクション・スパイ小説・歴史小説・・・あらゆるジャンルの面白さが詰まった一冊でした。
『HHhH』、なんとも風変わりな題名。
この四文字のアルファベットは「Himmlers Hirn hei't Heydrich」の略。
すなわち、「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」の意。
アドルフ・ヒトラーの側近であるハインリヒ・ヒムラー。
そのヒムラーにつぐ実力者が、本作の主役の一人であるラインハルト・ハイドリヒ。
本作は、残忍さから「金髪の野獣」と恐れられたハイドリヒの暗殺計画をテーマとした歴史小説なのです。
この野獣を暗殺するために選ばれた二人のパラシュート部隊の活動が、小説としての面白さの一側面。
残虐の限りを尽くす強大なナチス・ドイツの幹部をいかに暗殺するか、この過程はスリルに満ち溢れています。
それまで散々ナチスの悪行が描写されているので、二人の暗殺者にはとても感情移入してしまいます。
それ故に、ラストシーンは衝撃的。
またそれは「フィクション」や「ツクリモノ」であることを著者により極限まで削ぎ落とされた、紛れもない歴史の一瞬であるのです。
それがまた衝撃的。
著者であるローラン・ビネは、本作をフィクションの歴史小説として世に出すことを断じて許さない、ストイックな思想の持ち主。
いかに歴史上の出来事をそのまま再現するか。いかにリアルに近づけるか。
本筋だけでなく、著者の「歴史を書くこと」に対する思想や葛藤も結構な量出てきます。
それが本作を「歴史小説」と同時に「歴史小説を書くことを語るノンフィクション」としても成立させているのです。
その病的なまでの真摯さ、歴史上の偉人や出来事に対する尊敬の姿勢も非常に印象的。
まだまだたくさん書きたいことが出てきます。
とても味わい深い作品でした。
今までにない読書体験。