Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

松岡圭祐『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅳ』

2011-02-20 20:57:21 | ミステリ


希少な映画グッズのコレクターの家が火事になり、プレミア品の数々が灰になった。
翌朝、やはりレア物のパンフレットやポスターを扱う店が不審火で全焼する。
連続放火魔の狙いは、かつて全国規模でヒットを飛ばしながら存在を封印された1本の邦画だった。
ミリオンセラー『催眠』の主人公、カウンセラー嵯峨敏也が登場、凛田莉子との初顔合わせを果たす。
頭脳明晰な異色コンビが挑む謎とは?

安定して無難に面白い。
が、特に書くことがない・・・w
サラッと読めて、サラッと面白い故に、インパクトが無い!
正直今回のトリックにはやられましたけど。
ネタバレになってしまうので書けないですが、暗号文に関する主人公の行動も面白かった。感心!
案外しっかりミステリしているシリーズだなと思いました。

重い本の合間に読むのにちょうど良いシリーズです。


貴志祐介『ダークゾーン』

2011-02-15 21:34:31 | エンタメ


滅茶苦茶面白い。凄惨で残酷ながら、このうえなく純粋なエンタメ小説。

ダークゾーンと呼ばれる虚無空間に存在する「軍艦島」。
現実世界に存在するそれとそっくりなその島で、人間を駒にした将棋のようなゲームが始まる。
何も分からないまま「王」にされた元棋士志望の主人公は、生き残るために凄絶な戦いを続ける。

どのジャンルに当てはめようか、悩みました。
大枠はエンタメで間違いないですが
何故こんなゲームに参加させられているのか?
ダークゾーンとは何なのか?
現実世界はどうなっているのか?
このような謎を解いていく要素もあるので、ミステリとも言えるでしょう。

一方で、ゲームのシーンはとても残酷。
血潮が溢れる殺戮を繰り返すゲームは、ホラーでもあります。

とにかく夢中で一気読みでした。
ダークゾーンにおけるゲームは、小さい戦争のようなもの。
テレビゲームをする方は、シミュレーションRPGやリアルタイムストラテジーを思い浮かべて下さい。
これが非常に熱い。
対戦相手の奥本は、基本的には主人公である塚田より賢く、強敵。
毎回繰り出される戦術をいかに破っていくかという戦略が面白い。
戦いも刺激的で、手に汗を握る展開ばかり。

本作は、ゲームパートの「局」と現実パートの「断章」で構成されており
「断章」では、現実世界での塚田らの生活が描かれます。
棋士を目指す大学生の青春物語ですが、精神的に窮屈な環境が、徐々に主人公の世界を歪めていきます。
現実世界とダークゾーンにはどのような関係があるのか?これがミステリとしての最大の謎でしょう。

貴志作品は『硝子のハンマー』と『狐火の家』以外読了済み。
貴志作品で表現すると
読んでいる間は『クリムゾンの迷宮』
読了後の味は『青の炎』といった感じ。

近作では『悪の教典』がありますが、それより間違いなく面白い。
勢いと迫力が段違い。傑作。

三津田信三『厭魅の如き憑くもの』

2011-02-13 12:24:43 | ミステリ


うーん、やられた。

ホラーとミステリのハイブリッドを発表し続ける三津田氏。
以前記事を投稿した『作者不詳』の作家シリーズでデビューされていますが
それとは違う大きなシリーズを持っています。
それが『~の如き』と名付けられた刀城シリーズ。
作家シリーズがメタフィクション色の強いテクニカルなものなのに対し
刀城シリーズは、横溝正史を彷彿とさせる、ある意味正統なミステリなのです。
が、そこは三津田氏。一癖も二癖もある良作です。

「カカシ様」という神を祀る山奥の村。
対立する二つの家柄。
厭魅(まじもの)と呼ばれる怪異の存在。
発生する連続殺人事件。
被害者たちの口には櫛や扇が詰め込まれていた。
一体誰がこんなことを?何の意味が?怪異は本当に存在するのか?

こんな感じの物語。上記のキーワードに敏感に反応した方は、是非読んでみて下さい。

土着の文化が根付いた村での殺人というと、横溝正史が頭に浮かびます。
私も大好きなんで、そうしたものを期待して読み始めました。
結果として大満足だったのですが・・・
読み始めるまでの敷居がとても高い!

家系図
村の地図
本の厚み(約600ページ)
角ばった独特な文体(読んでいてどうもつっかかってしまう)

中々それらしい事件も起こらないので、序盤は結構苦痛でした。
が、冗長に思われた序盤も、怪異の渦巻く村の雰囲気を読者の頭に熟成させるためには必要なんでしょう。
ちょこちょこ混ざる怪異との遭遇譚はとても怖い!
恐怖をあからさまに描写しない、音と雰囲気で怖がらせる日本的な恐怖の表現が見事。

中盤からは一気読みでした。
どう畳むのかと思ったらまさか・・・やられました。

骨太で、気軽に読むのは難しいですが、大満足な作品でした。

坂木司『短劇』

2011-02-11 11:37:41 | エンタメ


暇潰しに購入。が、意外と楽しめました。

この人の作品はどれも未読。
普段は長編のミステリ書きらしいので、どちらかと言えばこの作品が異色のよう。

『短劇』は10ページ程度の作品が26編収録されているショートストーリー集なのです。
このジャンルだと
ショート・ショートの神である星新一と、比較しながら読んでしまいます。

星新一作品と比べると、切れ味が薄かったり、オチが弱い印象。
しかし、そもそも両氏による「人間」の書き方が違うのかなと感じもしたので
比較は無意味でしょうけど。

星新一はSFやファンタジーを材料に人間の本質を書いていたと思います。
一方、坂木氏はストレートに作者の思うことや見てきた人間を書いているように思いました。
よって、「あー、あるある」とか「これは・・・」と共感する話も多かったです。
(星氏の作品は「なるほど」「そうきたか!」と感心する作品が多い)

収録順も凝っているようです。
アタマは単なる良い話で「あれ、外れ引いたかな」と思いました。
が、読み進めていくうちに徐々に「あれ?」と・・・
ホラーとまでいきませんが、なんじゃこりゃと思う作品がボコボコ出てきて少々驚き。
ノリは平山夢明を彷彿とさせます(あっちの方があらゆるクオリティが上ですが)
解説でもそう書いてあって、あ、やっぱりと思ったり。

サクサク読めて、バラエティ豊か。
駄菓子の詰め合わせみたいな感じの作品でした。

森見登美彦『四畳半王国見聞録』

2011-02-07 22:01:20 | エンタメ


原点回帰的作品!

モリミーの作品は『ペンギン・ハイウェイ』以外は読了済み。
この作品は凄い。
何がって、モリミーの作品の中でも、一二を争う程読んで得るものが無い。
だが、それが良い。

四畳半という単語はついていますが『四畳半神話体系』の正統な続編ではありません。
こちらを先に読んでも大丈夫です。ただ、『四畳半神話体系』も傑作なので、是非読んでみて下さい。
『四畳半神話体系』とは世界観や舞台を共通にしている別の作品です。
それが嬉しくもあり、残念でもあり。

今回も、ファンタジーがかった男くさい阿呆な大学生の青春が描かれています。
その意味で『太陽の塔』あたりまで戻った感じを受けました。
金太郎飴と言われればそれまでですが・・・
途中幻想小説らしき方向へ進みかけたけど、あれはちょいと微妙でしたねぇ。

『四畳半神話体系』には大きな流れや筋がありましたが
それと比較すると本作の各編はそれぞれ独立の傾向にあります。
まぁどれも詭弁に塗れた阿呆な物語なんですけど。

言い回しや言葉使いのセンスがかなり独特で
波長が合うと読んでるだけで気持ち良いですし、笑えます。
結構な箇所でクスッとしちゃいました。
ところどころ「おっ?」と思ってしまう文章もあったり。
例:『彼女のプレゼントのマフラーというものはいいものだ。
でも荒縄で首を縛られている人みたいに見えるね』

ただ、合わない人はとことん合わないと思います。
どこか漢文的な、相当に独特な文体なので、正直読み難いです。
本屋で試し読み推奨。その場合は二話から!(一話は演説の台本みたいで格別読み難い)

とは言え、頭を真っ白にして読めるので
下らない本で気分転換したい時や
大学時代の青春(ただし、暗い青春に限る)を思い出したい時に読むのをおすすめいたします。

あ、あと表紙について。
今回は古屋兎丸氏によるもの。
これはこれで凄く良いです。
でも、やっぱり中村祐介氏が良かった・・・文庫版は表紙変わるんですかね。
そうしたらまた買ってしまいそう。