好きな作家のひとり、乾くるみさんのSFミステリ。
テレビ番組『科学のちから』の人気リポーター・羽鳥亜里沙は、中学卒業を間近にした二月
冷凍睡眠装置の研究をする〈未来科学研究所〉を取材するために、つくば市に向かうことになった。
撮影の休憩中に、ふと悪戯心から立ち入り禁止の地下五階に迷い込んだ亜里沙は、見てはいけないものを見てしまう。
そのことをきっかけに、亜里沙はある装置に入れられ、頭が真っ白になってしまう。
目が覚めると、そこは三十年後の世界だった・・・
内容はSFとしか思えないのです。
しかし、そこはさすがの著者である。
またまた面白いことをやってくれたのでした。
所謂「コールドスリープ」がテーマ。
漫画や映画、アニメ等ではよく使われるように思います。
例えば、宇宙旅行の際に、円筒形のカプセルに入り冬眠をする。
目的地の惑星に到着したら、自動的に目が覚める。
冷凍状態のため、普段夜寝て朝起きるかの如くして超長時間をやり過ごせるという・・・そんなアレです。
ところが実際は(少なくともこの小説が書かれた時点での科学力では)それほど上手くはいかないよう。
冬眠中には体内で細胞が死ぬといった変化が起こってしまうらしく、少しでもそうなってしまうとそれが覚醒時に大きな障害へ繋がるのだそうです。
どうなんでしょうか。いつか、コールドスリープなんて完成する日が来るのでしょうか。
作中でも触れられていましたが、科学技術は怖くもありますよね。
一見便利な科学技術でも、使い方によっては恐ろしいことになりかねない。
「神の領域」を犯す禁断の科学技術、そんなものもあるかもしれない。いや、これは現代もあるのでしょうね・・・
さて、それらが発展した30年後の世界での不思議な生活は、まさにSFでした。
はたまた、主人公の少女を目覚めさせたのが30年前の男友達という、時を超えたラブロマンスもあったりして。
で、終わりかと思ったら、著者お得意のミステリでまさかの結末・・・
一粒で三度美味しい、すこしふしぎな物語でした。