Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

乾くるみ『スリープ』

2012-05-30 23:16:21 | ミステリ


好きな作家のひとり、乾くるみさんのSFミステリ。

テレビ番組『科学のちから』の人気リポーター・羽鳥亜里沙は、中学卒業を間近にした二月
冷凍睡眠装置の研究をする〈未来科学研究所〉を取材するために、つくば市に向かうことになった。
撮影の休憩中に、ふと悪戯心から立ち入り禁止の地下五階に迷い込んだ亜里沙は、見てはいけないものを見てしまう。
そのことをきっかけに、亜里沙はある装置に入れられ、頭が真っ白になってしまう。
目が覚めると、そこは三十年後の世界だった・・・

内容はSFとしか思えないのです。
しかし、そこはさすがの著者である。
またまた面白いことをやってくれたのでした。

所謂「コールドスリープ」がテーマ。
漫画や映画、アニメ等ではよく使われるように思います。
例えば、宇宙旅行の際に、円筒形のカプセルに入り冬眠をする。
目的地の惑星に到着したら、自動的に目が覚める。
冷凍状態のため、普段夜寝て朝起きるかの如くして超長時間をやり過ごせるという・・・そんなアレです。

ところが実際は(少なくともこの小説が書かれた時点での科学力では)それほど上手くはいかないよう。
冬眠中には体内で細胞が死ぬといった変化が起こってしまうらしく、少しでもそうなってしまうとそれが覚醒時に大きな障害へ繋がるのだそうです。
どうなんでしょうか。いつか、コールドスリープなんて完成する日が来るのでしょうか。
作中でも触れられていましたが、科学技術は怖くもありますよね。
一見便利な科学技術でも、使い方によっては恐ろしいことになりかねない。
「神の領域」を犯す禁断の科学技術、そんなものもあるかもしれない。いや、これは現代もあるのでしょうね・・・

さて、それらが発展した30年後の世界での不思議な生活は、まさにSFでした。
はたまた、主人公の少女を目覚めさせたのが30年前の男友達という、時を超えたラブロマンスもあったりして。
で、終わりかと思ったら、著者お得意のミステリでまさかの結末・・・

一粒で三度美味しい、すこしふしぎな物語でした。



麻耶雄嵩『神様ゲーム』

2012-05-24 21:53:01 | ミステリ


猫殺しの犯人を追う少年探偵団は、彼らの秘密基地で死体と遭遇してしまう。
誰に殺されたのか。また、犯人は密室の様な場所からどのように消えたのか。
何でも知っているという「神様」鈴木君なら、犯人を知っているのだろうか。
神様の指し示す真相とは・・・

以前より「トンデモない」と聞いていた本作。新書落ちしていたので迷わずゲット。
著者の繰り出す驚愕の真相の虜なもので。

元々は低年齢層向けに書かれた作品であるそう。
たしかに主人公たちは(親しみやすいように?)小学生ですし、難解な言葉は使われていないように思います。
が、質や内容は一般向け?の作品と比較しても全く遜色なし。かつ、摩耶節炸裂。
つまり、ごく普通の小学生が読んでも真相を理解できず、よく分からないまま忘れられてしまう可能性も。
かくいう私が真相を理解できませんでしたからね。
「ええっ!?・・・え・・・?」な状態。

悔しながらネタバレを読んでしまいました。
それから読み返してみると、たしかにそれらしい記述がポロポロと・・・
読んでいる間は全く違和感を覚えなかったです。流石に巧い。凄い。
真相は、決して分かりやすくは明示されていない。それが面白く、いやらしい。

本作では、自らを「神様」と名乗る鈴木君という小学生が登場します。
この神様の存在を認めるか、認めないかが大きなポイントのひとつ。
作中で、鈴木君は猫殺し事件の犯人を主人公に教えたり、犯人に天誅を下したりと、絶対的な力を示します。
しかし、私のような凡庸なミステリ読みは「これは何かのトリックだ」という考えが頭から離れない。
果たして鈴木君は本当の神なのか、それとも単なるペテン師なのか?
この点を考えながら読むのも面白かったです。

不可解なことや怪奇な現象を論理で解決することをよしとするミステリ読みにとって
本作で迫られる選択は非常に気持ち悪いというか、モヤモヤするものではないでしょうか。
この意地悪さがまた摩耶作品らしくもあり、好きな点なんですよねぇ。

ううん、面白かった。

ブライアン・ラムレイ『タイタス・クロウの事件簿』

2012-05-20 10:49:52 | ミステリ


連作オカルト探偵小説という触れ込み。
表紙の渋いおっさんが色々な怪異と対決していく物語。
「不思議」や「怪異」が扱われているということで、広義のミステリ?
クトゥルフ神話を強く取り入れていることからも、どちらかと言えばホラーかな。

怪異を倒すための手段や弱点を探す段階は探偵小説的ながら、推理の要素は殆ど無い。
なんだか能力バトル漫画のようでもある。
その一方で、呪いの人形の話とか意味不明な構造の柱時計とか悪魔の骨の話といったゾクッとする怪談?も収録されていたりする。
全体の印象としてなかなか混沌とした短編集。クトゥルフが関わるといつもこうだ。

「古い時代の魔」やら「伝説の呪い」やらがたくさん出てくるので、その手の話が好きならとても楽しめるかと。
私は面白く読みました。ロマンあり過ぎ。むしろロマンしかない。

ほか、「ネクロノミコン」とか「水神クタアト」といった単語に反応してしまう人にもおすすめ。

乾くるみ『セカンド・ラブ』

2012-05-17 22:20:13 | ミステリ


1983年元旦、僕は、会社の先輩から誘われたスキー旅行で、春香と出会った。
やがて付き合い始めた僕たちはとても幸せだった。
春香とそっくりな女、美奈子が現れるまでは…。

帯曰く【『イニシエーション・ラブ』ショック、再び。】
「うわぁ!そうだったのか!?」の衝撃を味わえます。

これから読む方々に、ひとつだけお伝えしたいことが。
「思うがまま読み、物語を楽しむべし」
これです。

衝撃!どんでん返し!などと紹介されると、どうしてもあらゆることを疑いながら読んでしまいがちです。
でも、とても勿体無いと思います。その読み方って。個人的には、ですが。
お化け屋敷にLEDの懐中電灯を大量に持ち込むような・・・そんな行為に感じてしまいます。

勿論、それなりの楽しみもあるでしょう。
お化けのつくりが細かいとか、仕掛けが凄いとか。作者の思想を分析するとか・・・
更に、そうして準備した上で驚かされれば、普段以上に驚いてしまうもあるかもしれません。
その一方で、飛び出してきた大半のお化けに対しては「やっぱり」と思ってしまう可能性が高いのではないでしょうか。
これは非常に残念で、勿体無いことだと思います。

そうした読み方を否定することはないし、事実自分もそのような読み方をすることがままあるわけです。
それが、まずかった。折角の衝撃が、相当に和らいでしまった・・・猛省。

そんなこんなと色々考えましたが、作品自体は面白かった!
読了後、どこがどうなっていたのか確認したくて、二度読みしちゃいましたしね。
「うわぁ!そうだったのか!?」なオチの衝撃は『イニシエーション・ラブ』でも感じましたし、それは強烈でした。
本作は、それと比較すると「まさか・・・」が出てきやすい印象。
しかし、胸を貫く衝撃は『イニシエーション・ラブ』以上かも。
そこに主人公の「想い」や「人間性」を感じるとることができたからでしょう。

普段ミステリを読まない人の感想を聞きたい作品。

山白朝子『エムブリヲ奇譚』

2012-05-13 13:13:23 | ホラー


久々の更新。
GW明けはやたら忙しく、時間ができても読書する体力と気力がない始末。
漸くゆっくりできたので、少し前に購入して積んでいた本作を読み終えました。

舞台は現代ではない、昔。具体的な時代は不明・・・
主人公は和泉蝋庵という名の、旅人。
彼は、現代で言うところの「旅行ガイドブック」の著者。
秘湯を求め旅をし、それの在処や効能を記すことで生計をたてている、長髪の麗人。
そんな彼には、非常に厄介な癖がある。
それが、「迷い癖」。
人智を超えた迷い方をする彼は、奇妙な場所や奇怪な出来事に頻繁に遭遇してしまう。
本作は、そんな彼と付き人の奇妙な体験談をまとめた連作怪奇短編集なのです。

きっかけは装丁の美しさ。グロテスクでありながら、美しくもある装画にやられました。
時代小説をイメージしていましたが、昔の文化や概念は殆ど出てこないので、非常に読みやすいです。
昔の怪談やフォークロアを読んでいるような感触。非常に読みやすい。

しかしながら、内容はとても良質な怪談集。
いつまでも成長しない胎児のはなし
生まれ変わりを繰り返させる力を持つ瑠璃のはなし
夜にはいってはいけないという温泉のはなし
など、不可思議な物語が多数収録。
他、少し感動するものもあったり。

個人的に好きだったものが『地獄』
山賊につかまり、深い穴におとされた付き人と、若い夫婦の話。
凄絶。人間が一番怖いパターンの怪談ですが、これは良作だと思います。

ところで、この山白朝子って、乙一の別名義だそうで。
つまり、大層久しぶりに乙一の小説を読んだことになるのですが、やはり面白い。
面目躍如といった作品で、大満足。

怖い話好きにはおすすめ。


***
あと、本のつくりが凝っている点も良いですね。
栞が三色のとても細い紐で、なんとなく古い本のようであったり。
表紙を外すと昔の自体で色々書いてあったり。
拘りが感じられて素敵!