Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

有栖川有栖『赤い月、廃駅の上に』

2012-10-21 18:56:21 | ミステリ


この一週間も超ハードスケジュールでした。
(他人からしたらそれ程でもないのでしょうが、個人比では相当忙しかったことは間違いない)
気付けば今月殆ど本読んでないです・・・先程本棚を眺めていたら、いくらか買ったことを忘れていた本もあったりして。

久しぶりの有栖川ミステリ。
正確には、ミステリと言うよりは幻想怪奇小説。ホラー寄りのお話もあり。
全て「鉄道」が関係している点が新鮮で、面白い。

所謂「こわいはなし」には、鉄道が関係しているものが多いように感じます。
事故や、自殺という血腥い出来事による幽霊譚はしょっちゅう耳にします。
一方「駅」が関係しているお話では、幻想的なものの方が多いようにも思います。
「きさらぎ駅」とか・・・
私は駅絡みのお話の方が好き。

本作には、そういった鉄道や駅が関係する短編が十篇収録されています。
少し良いお話風のものがあったり、ぞっとするものがあったり、不可解なものがあったりと、バラエティは豊かで飽きません。

特に印象的だったものは
『密林の奥へ』『途中下車』の二篇。
前者は、密林を途轍もないローカル線でひたすら進む話。熱気で目の前が霞むような感覚が良い。
後者は、ある男が帰宅途中に途中下車する話。これだけだと全く面白くなさそうだ・・・
日常生活のさなか、何かの間違いで異界への扉が開いてしまって、それをうっかり見てしまった。そんなお話。
そういうの好きなんでしょうね、私は。

なかなか雰囲気があって面白かったです。
廃駅とか、行ってみたいなぁ。

岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を 』

2012-10-13 15:17:42 | ミステリ


久々の更新になってしまいました。
期末というものはやはり忙しく、帰宅しては寝る生活を繰り返した九月の末。
読書はリラックスできる、それはそうでしょう。しかしそうする気力も体力も無かったのでした。
それから十月を迎え、先週は旅行に出かけていました。
活動的になるかと思わせてくれる、秋の到来。大好きな季節です。
それから、漸くゆっくりできる休日となったので、読みかけの本作を一気読み。
書店になかったのでamazonを利用しましたが、少しずつ話題になってはいるようです。
続篇が出たらブレイクするかも。

『ビブリア~』の爆発的ヒット、『氷菓』シリーズのアニメ化があり、実は秘かに盛り上がっているのではないかと思われる『日常の謎』ミステリの新顔です。
なにかにつけて『ビブリア~』と比較するのも作者様としては不服に思われるでしょうが、本作も「ちょっと変わった職業+日常の謎」ミステリ。
(私が今名付けたジャンルです。恐らくこんなジャンル存在しません。)
『ビブリア~』の主役は古本屋の店主、本作は「バリスタ」です。

「バリスタ」とは、珈琲界の専門職人。乱暴に言えば珈琲版バーテンダー。
「バリスタ」切間美星が本作の主人公。
一方のワトソンくん、アオヤマは物語冒頭に彼女のホームズ的洞察力にやられてしまいます。
同時に、彼女の淹れる珈琲の味にも。
珈琲大好き人間であるアオヤマは「理想の一杯」を探していて、彼女の珈琲がまさしくそれだったのでした。
それから彼は彼女のお店「タレーラン」に通いつめ、そこで様々な「謎」に出会い・・・

とにかくキャラクターが魅力的。舞台が魅力的。
ジャケットの女性が美星なのですが、聡明さと無邪気さの共存する不思議な魅力を持っています。うん、かわいい。
(読了した今思い返してみれば、この魅力にも理由があったわけですが・・・)

舞台は京都。私の中にある京都像は、森見登美彦によって途轍もない混沌世界に改編されていましたが、恐らく本作で描写される京都が正しい京都なのでしょう。信じられませんが。
古色蒼然とした街並みに、生命力溢れる学生が跋扈する様はどこかミスマッチなようで、そうではない。
歴史のなかに今を感じ取ることができる、不思議な世界。良いですね。

勿論「タレーラン」も魅力的。
家屋と家屋が織りなすトンネルをくぐった先に突如現れる、古めかしいたてもの。
そこで、美味しい珈琲と、かわいいバリスタに迎えられる。
客は殆どおらず、店内にはジャズが漂う。静謐とした空間は、この世の隠れ家。
こういうお店、行きたいなぁ。

ミステリとしても面白い。特に『ビタースウィート・ブラック』が良かった。
物凄い技巧が仕掛けられているものではないけれど、どの作品も楽しめました。

読了後の味は、甘かったな・・・
見返してみると、なんともオシャレなタイトル!
こういう読了後のセカンドインパクトが大好きです。

続篇出るでしょうね、これも。
決め台詞はドラマ向けだし、売れ出せばそっちへも展開するのかな。
あと、珈琲に関する豆知識も面白く読みました。珈琲好きな人はもっと楽しめるかも。

また、良い世界を見つけました。存分に浸ったなぁ。満足!


***
「ちょっと変わった職業+日常の謎」ミステリ、思い返してみれば色々ありますね。
たしか落語家もいたはずだし・・・
まだ出ていない職業で、これから出そうなものはなんでしょうね。
ビルメンとか?
SE・・・は伊坂幸太郎の作品にいたかな。
トリマーとか、美容師とか、コック・・・は既にいそう。
何でも屋なんかしょっちゅうだし・・・
フィギュアの原型師なんかはいないはず!・・・ミステリにならないか・・・