Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

谷崎潤一郎『谷崎潤一郎フェティシズム小説集』

2012-12-24 16:24:00 | 純文学


谷崎作品の中でも特に「フェティシズム」要素が強い作品を集めた短編集。
このシリーズはまさに名作選といった具合で「犯罪小説集」も素晴らしいもの。
本短編集も非常に中身が濃い一品。

特に印象的だった作品は
『刺青』『悪魔』『富美子の足』

『刺青』刺青フェチの話
『悪魔』恋する女の鼻水を舐める話
『富美子の足』素晴らしい足に踏んづけてもらう話
とんでもない小説たちである。

特に『富美子の足』は凄い。
どれだけ素晴らしい足かということがこれでもかこれでもかと書き続けられていて、途中から茫然としてしまいました。
私は足フェチではないのでいまいち共感できませんでしたが・・・

びびったのは『悪魔』
ありがちといえばありがちな妖婦の話かと思いきや、クライマックスにあんなとんでもないシーンを持ってくるとは・・・
流石谷崎・・・

途轍もない変態性欲。
その多様な形とその力の強さ(執念・こだわり的な意味で)を見せつけられました。


西村賢太『二度はゆけぬ町の地図』

2011-03-07 22:25:02 | 純文学


目を背けたくなる、醜い真実をまざまざと見せつける一冊。

『苦役列車』で芥川賞を受賞した西村氏の著作。
私小説ということで、氏の体験談が元であろう四編を収録。

どれも酷い。とても酷い。
身もふたもない言い方をしてしまえば
こちらが苛々してしまうような、どうしようもないクズの生活を描いただけのもの、とも言える。
が、果たして苛々している自分は、このクズと何処か違うんだろうか?
そう考えてみると、果たして大して違いはないんではないだろうかと思ってしまう。

定職についているとか、学歴とか、そうしたものは言わば服でしかない。
飾った服の内側に何があるかと言えば、肉であり、それはつまり、欲。
どれだけ見た目が綺麗な人間でも、欲は存在している。
そうした意味で、この作品は確かに人間の本質を描いているのでしょう。
あまりに見事にド直球に描いているので、少々ショックでもある。

心躍る出来事も無ければ、気の利いたオシャレな台詞を言う人物もいない。
不可解な謎もないし、宇宙人だって出てこない。
どうしようもないクズが出てくるだけ。
でも、何故か胸にドッシリとナニかを置いていく。

良い読書経験。