Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

市井豊『聴き屋の芸術学部祭』

2012-03-31 19:01:23 | ミステリ


私の大好物、大学生ミステリ。
舞台は、芸術学部。
演劇、美術、模型などを扱ったミステリ短編が四編収録。

主人公は「聴き屋」柏木。色々な人から話しかけられやすい体質で、いつしかそう呼ばれるようになったという。
学生が主体のミステリには「巻き込まれ型」が多いですが、その理由付けのようなもの?。
何故こう都合よく事件に巻き込まれるのか、という質問への一種の回答かな。
(この手のミステリの主人公は全員聴き屋みたいなものだと思いますが)

持ち去られた脚本の結末を推理する『からくりツィスカの余命』が特に面白かったです。
これはやられた。

キャラクターが立っていて、掛け合いも軽妙で面白い。
学生特有?の意味のない、くだらないやり取りが好きでした。
伏線の出し方がわざとらしいように感じるところもありましたが、良い大学生ミステリたちでした。
続篇も出るらしいので、出たら読むかな。

ところで・・・
紹介を読むと、『放課後探偵団』にも書いていたようで、確認したらたしかに名前が。
しかし、つくづくクオリティの高いアンソロジーです。こちらもオススメ。


柳広司『パラダイス・ロスト』

2012-03-25 11:03:16 | ミステリ


『ジョーカー・ゲーム』『ダブル・ジョーカー』に続く、「D機関」の超スパイ達の暗躍を描くスパイミステリ新作。
三作目のタイトルは『トリプル・ジョーカー』だと思ってたのに・・・
新作が出るという情報を全く知らなかったので、書店で見かけた時は凄く嬉しかった!
あえて新刊情報を耳に入れないようにすると、書店へ行く楽しみが増えて良いです。

第二次世界大戦目前の世界が舞台で、D機関対敵国スパイの頭脳戦がメインのシリーズ。
(スパイ活動中に出会う謎の話も多いですが)
スパイならではの特殊技巧や知識をフル活用した騙し合い、先の先を読む頭脳戦がたまらなく面白い。

また「殺すことは最悪、死ぬことも最悪」というD機関の理念のため、想定外の出来事へは想定外の回答がもたらされ、それが想定外の真相を明らかにします。
「殺せば終わり」は許されない、それ故頭を使った奇手を要求される・・・
きっとこうなんだろうという読み手の予想は、華麗に覆されてしまうのです。

更に、D機関のスパイ達は、ゲームで言えば裏ボスのような超スペック。
よって、相手が勝利を確信する切り札を叩きつけてきても、更にその上をいく札を涼しげに放り投げることができるという・・・
臨機応変に繰り出される作戦の応酬による頭脳戦と同時に
様々な作戦も、全て読み切っていたということを最後に分からせ、相手を完膚無きまでに叩きのめすカタルシスも味わえました。

とても満足!
本作で「魔王」結城は更にその大きさを増したようです。
これからも、その圧倒的な力を発揮して欲しい。

柳広司『キング&クイーン』

2012-03-21 22:32:11 | ミステリ


二度読み必至!の帯に釣られ購入。
・・・ええ、騙されましたとも。
この手のミステリで、毎回毎回騙される。
結構用心してても騙される。
「そうきたか!」と思ったけど、ちょっと都合が良過ぎるのではないですか(負け惜しみ)

物語のモチーフは「チェス」
トリックからかモチーフからか、どちらから物語が生まれたのか分かりませんが
非常に巧く「チェス」が用いられています。
色々な戦略や逸話が出てきますが、それだけでも面白いです。
チェスの世界こわい。

紹介文から「姿の見えない襲撃者との心理的な駆け引き」の要素を楽しみにしていたのですが
想像していたよりもそれが薄かった点が残念です。
もっと執拗でネチネチした攻守を読みたかったかな。
とはいえ、終盤になって張り巡らされた伏線のピースがカチッと組み合い
真相のパズルが瞬時に完成する様はとても気持ち良く、満足です。

***
チェスを遊んだ経験はありません。
が、本作を読んでいてとても面白そうだと思ったのでルールを覚え始めました。
新たな趣味にできるかな?

相沢沙呼『マツリカ・マジョルカ』

2012-03-11 10:52:07 | ミステリ


一言で言うならふとももミステリ。

主人公は柴山祐希、高校1年生。
クラスに馴染めず、いつも一人。クラスメイトをどこか見下し、世界に無関心。
空気のように生きるシスコン高校生。つまりかなりダメダメ。
ある日の下校時、彼は学校近くの廃ビルから飛び降りようとしている女性を見かける。
急いで廃ビルに入っていくが、その女性は自殺しようとしていたのではなく、双眼鏡を覗いていただけだった。
「マツリカ」と名乗った彼女は、主人公に意味不明な無理難題やパシリを言いつけ始め・・・

主人公の周りで起こった不思議な出来事を、マツリカさんが解決していく連作短編ミステリ。
学校の怪談「走る原始人」、肝試しで出た幽霊の謎、学園祭のなか密室から消えたアリスの衣装・・・
そうした不思議を、廃ビルにいながらあっという間に解決する、新たな安楽椅子探偵の登場。
「普通に考えたらこうだ」と、問題や要素を自然に受け止め、論理的に真実を導いていく様が気持ち良かったです。

分類するなら「青春ミステリ」なんでしょうが、一般的に想像される青春ミステリとは一味違う。
今まで読んできたそれらは、主人公がなんだかんだリア充であるパターンが多かったですが、本作の主人公は完全に非リア・・・(笑)
読んでいてちょっと辛くなる位。
(でも女性とコミュニケーションとれてるじゃん!という非リア原理主義的な考えは一旦よけておく)

そんな彼が、マツリカさんに一目惚れし「彼女のために」動き始める。
その過程で、今まで自分が拒否してきた世界と交流を持ち始める。
結果、彼に、本当に少しずつではあるが変化が訪れる。
彼の青春は、これから始まっていくのでしょうね。

「希望を持たせながらも、全ては描かない」タイプのエンディングはその余韻が好き。
でも、高校卒業位までは続篇できそうですよね・・・?
『サンドリヨン』同様、シリーズ化したら追いかけます。


***
冒頭でふとももミステリと書きましたが、この作品何だかやたらエロいのです。
と言っても、直接的なエロさではなく、もやもやとした思春期的なエロさ。
何故って、マツリカさんのふとももやら胸への視線移動と妄想が忠実に書かれているから(笑)
ある意味物凄~くリアルな非リア男子高校生が、本作にはいます。
こんな主人公そうそういないし、いてほしくないけど。
ふとももとチラリズムフェチは外せない。
溢れるフェティシズムも楽しい一冊。
(こんなこと書いていいのだろうか)

藤ダリオ『山手線デス・サーキット』

2012-03-06 22:06:34 | ホラー


目が覚めたら、山手線の車内に。
隣には、手錠で繋がれた見知らぬ女性。
首には爆弾が巻きつけられていて、死にたくなければクイズに参加しろと命令される・・・
ありがちといえばありがちな、デスゲーム的なサスペンス・ホラー。

荒唐無稽と言えばそれで終わりですが、結構こういうの好きなんですよね。
大体の作品は「何故そんなことをさせたか」「誰がさせたか」「どう実行したか」が曖昧なまま終了するため、そこが不満でした。
(勿論、あえて全てを明かさないことで不気味さを出すという意図もあるのでしょうけど・・・)
本作では、そのあたりの理由付けがされていた点が良かったです。

展開や演出も緊迫感があり、楽しめました。
少々ゴリ押しのような部分もあったように感じますが、すっぱり割り切るのがこの手のホラーの美味しい味わい方ですよね!