Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

奥泉光『黄色い水着の謎 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活 2』

2012-11-25 17:38:09 | ミステリ


所謂「Fランク大学」の教師である桑潟幸一、通称桑幸。
彼と、顧問をつとめる文芸部の奇天烈な女子大生達が繰り広げるドタバタミステリ。
人は死なないし、小難しいことも何もないので気楽に読めます。

小難しいどことか、読んだ後「しょうもないな」という渇いた笑い以外何も残らない作品(褒め言葉)
実は今日ハーフマラソンやってきたのですが、そんな肉体と精神状態でも読める位ライト。
ユーモア・ミステリの看板通りクスッとしてしまう部分が結構あり、何故か悔しい。

特に何処が面白いかといえば、桑幸の人間性。
とにかく器が小さく、矮小で、卑しい。加えて怠惰なうえかなり貧乏。
これだけ書くとただのクズ人間のように思われます。事実ただのクズ人間なんですが、何故か憎めない。
この人間性が引き起こす行動の数々はあまりにも憐れで、同情を買うからでしょうか。
あとそんな人間でありながら、他人に迷惑をかけたり嫌がらせをすることが無い点もポイントか。
それらが妄想でとどまってしまうところも小さくて良い。

そんなしょうもない主人公によるしょうもない話。
勿論しょうもないので探偵的活躍は全くない。ある意味新鮮。

貶してるような文章ですが、そのしょうもなさが面白いユーモア・ミステリでした。
これは二作目なので、そろそろ一作目が文庫化するかな?

深見真『ヤングガン カルナバル 10』

2012-11-18 20:11:18 | エンタメ


カルナバル編終了。
犯罪組織同士、共通の標的を暗殺する。変則的バトルロワイアル、カルナバル。
ただ戦闘・暗殺をするのではなく、そのために知略の限りを尽くして策謀を練る。
常に緊迫感に溢れ、過剰なまでの暴力が飛び交う途轍もない状況も、ついに終幕。

無敵だと思われていたあの人がああなったり、ああなったりする、思わぬ展開の連続。
しかしながら、恐らく最強のボスが・・・
まだまだ不安が残る。

相変わらずの疾走感で、今回も2時間足らずで読了。
今日は10キロマラソンをしてきて、全身心地良い疲労感に包まれていましたが
それでもサクサク読めるのが素晴らしい。
内容はかなり濃密ですが、物語自体はシンプルだからかな。

それにしても、そろそろクライマックスなのではというところです。
あと数巻で終わりか・・・?

米澤穂信『ふたりの距離の概算』

2012-11-11 22:53:17 | ミステリ


古典部シリーズ、今のところの最新作・・・?
新入生大日向は古典部入部の意思を示していたが、ある日、入部しないと言って部室を去ってしまった。
彼女を怒らせたような、追いだしたような、そんな覚えは誰にもない。
なのに、何故?

今作は「思い違い」や「思い込み」といった「心」に焦点を当てたミステリ。
今までの作品よりシリアス分大目。
マラソン大会の終了までに決着をつけなければいけないという時間的制限もあり、少々息が詰まるところも。
途中途中回想というかたちで出てくる「日常の謎」が少し息抜きさせてくれます。
まぁ、それらも全て物語にしっかり関係しているのですが。
相変わらず計算され尽くしていて、よくできている。

奉太郎の「省エネ主義」への考え方も、少し変化の兆しがみられるような?
早く続きが読みたいシリーズ。


***
シリーズといえば有栖川さんの『学生アリス』シリーズ新作が出てましたね!
思わず買っちゃいました。
自分が学生の頃『女王国の城』が出たので、もうあれから四年位は経つのでしょうか。
女王国も面白かったですが、いかんせんへヴィだったので今回の短編集は凄く楽しみ。
案外早く新作が出たシリーズですが、次はいつやら・・・

P・D・ジェイムズ『女には向かない職業』

2012-11-04 22:26:47 | ミステリ


探偵事務所で働く世間知らずの22歳、コーデリア・グレイ。
ある日、事務所の共同経営者が突然自殺してしまう。
ひとりになり、とても探偵事務所を維持することは不可能・・・かと思われたが。
彼女の決意は固かった。「女には向かない職業だ」と謗られながらも、彼女は新米探偵としてのスタートを切ることとなる。
「大学を中退し、自ら命をたった青年の自殺の理由を調べてくれ」
これが、コーデリア・グレイ最初の事件・・・

新米女探偵コーデリア・グレイの物語。
不慣れながらも、今は亡き共同経営者とその師匠の教えを思い出しながら、彼女は一生懸命事件に挑む。
そんなコーデリアに萌えるミステリ。
・・・こんな読み方じゃ、色々な人に怒られそうですけど。

それなりに昔の作品ということもあり、トリックが物凄いとか斬新とか、そういったものではありませんが
女性探偵の物語はいまだに新鮮だと思いました。
探偵役が女性というミステリはいくらでもあるでしょうが
女性探偵のミステリって、現在でも案外少ないのでは?

ちなみに、コーデリア・グレイは『名探偵コナン』の青山剛昌が探偵紹介のコーナーで描いています。
そのためか、脳内映像は完全にそれで固定。
(参考までに↓がそう。かわいい。愛車がMINIなのもかわいい。)


惜しむらくは、彼女の登場する作品が非常に少ないということ。
もっと彼女の活躍を、その成長の様子を読んでみたいものです。

平山夢明『ダイナー』

2012-11-03 09:35:46 | エンタメ


プロの殺し屋ばかりが集うダイナーで巻き起こる、血と硝煙のドタバタ劇。

超高額アルバイトに釣られた主人公、オオバカナコ。
ひょんなことから裏世界の揉め事に巻き込まれ、殺される寸前までいってしまう。
しかし、生への執着と咄嗟の発想でなんとか生き延び、ダイナーのマスター、ボンベロに「買われる」
そこは、プロの殺し屋ばかりが集う裏のレストラン。
「三日以内に誰かに殺される」
マスターからそう宣言されながら、彼女はウェイトレスとして働き始める・・・

面白かった!
著者の作品は概ね読了済みですが、その中でも最高傑作じゃないでしょうか。
あとがきで著者は「殺しにかかってくる作品が好き」と書いていますが、まさにそれ。
グロテスクだし、恐ろしいし、気持ち悪いしで、凶悪で過激な作品なのです。が、読後感が本当に気持ち良い。
ボコボコに殴られて、吹っ飛ばされて、そのままソファにダイブして、圧倒的な力を感じたままぐったりする感覚。
マラソンした後のような、全身に心地よい疲労が貯まってるような、そんな感覚。
映画だと、『ダークナイト』を見た後に同様の思いを抱きました。

作中に登場する沢山の殺し屋も個性的で面白い。
解説で山風の「忍法帖シリーズ」のようだという文もありましたが、そのような感じ。
色々な武器を使ったり、体を改造していたり・・・わくわくするね。

そのようなプロの殺し屋たちが、ただの素人である主人公に翻弄される様がまた良い。
主人公がどのように生き延びていくのか、展開は常にスリリング。
文字通りの修羅場を潜り抜け続ける主人公に、少しずつ気持ちを変えていくマスター。
裏表のない性格もまた、騙し合いと殺し合いの世界で生きてきたマスターには新鮮で、眩しかったのか。

場面がずっとダイナーで固定される劇的手法だからこそ、殺し屋たちの存在感も増す。
途轍もない殺し屋たちに、溢れる想像力と暴力に、しっかり殺され切りました。
万人にはお勧めしづらいですが、それ位尖っていた方が魅力的ということを再認識した一品でした。


***
ダイナーが舞台というだけあり、食べ物の描写が非常に多いです。
それがまた素晴らしく美味しそうで・・・夜中読むべきではないです!