Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

乾くるみ『六つの手掛り』

2012-04-30 20:32:25 | ミステリ


「トリックをロジックで暴く」という煽り文句に恥じない、論理重視のミステリ。
現場の様子、入手した手掛り、周囲への聞き込み等から「犯人」を推理するという、この上なくシンプルな構造。
「~は~だから~ではない。だから~。では~は~で・・・」といった風に、不可解な謎が少しずつ解きほぐされていく過程が非常に気持ち良い。

著者の作品は結構好きで、ほぼ全部読んでいます。
本作を読み、改めて、幅の広い作家さんだと思いました。
本作のような正統派のミステリは勿論、『リピート』のようなSFミステリ、更には『Jの神話』の様なアレまで・・・
他、『イニシエーション・ラブ』の超ヒットもあって、イロモノ作家というイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、それは間違いですよ。

ところで・・・
この表紙、なんとなく胡散臭いというか、軽いノリのミステリなのかなぁという印象を与える気がします。
しかしながら、探偵役の林(表紙中央の人物)は近年稀にみる常識人探偵でした(笑)

甚だ失礼ではありますが、この表紙からは想像できない位ロジックに拘った良いミステリで、楽しみました。


***
そういえば、この林は昔プロマジシャンを目指していたという設定でした。
手品やジャグリングの話がちょくちょく出てくる点も個人的にはプラスポイント。


相沢沙呼『ココロ・ファインダ』

2012-04-29 10:29:50 | ミステリ


高校の写真部を舞台とした、青春ミステリ連作短編集。
ミステリとして以上に、青春小説としてとても良かった。

「どうして写ってないの」と、怒ってしまった被写体の彼女。何が写っていなかったのか?どうしてそれ程怒るのか?
自分のSDカードにいつの間にか記憶されていた、多数の壁の写真。誰が、何のために?
学園祭で展示されていた写真が、いつの間にかすり替えられていた。何故?

・・・といったような所謂「日常の謎」を扱ったミステリ。
(しかし、「日常の謎」って殺人がなければ全部それなんだろうか。
自分はそのようなイメージでこの言葉を用いているけど、本当はもう少し範囲が狭いような気がします。)

これらの謎の背景には、様々な「想い」が存在。
謎が解けた時、ある人の「想い」も明らかになるのです。

物語中では、高校生である彼女たちの様々な「想い」が語られます。
それは、美しい愛情や楽しい友情ばかりではなく、ドロドロとした嫉妬や暗黒の絶望まで。
飾らない、あるがままの「想い」が。

高校時代を振り返ってみると、確かに楽しいことは数え切れない程ありました。
でも、そればかりではなかった。
進路、恋愛、趣味・・・人生のあらゆる物事に正面からぶつかる時期であるだけに、嫉妬すること、嫌になることだってたくさんあった。
それらの一見すると「負」の「想い」がしっかり書かれていて、ともすると痛々しい位。
しかし、それがあるからこそ人間であり、乗り越えることで成長できる。

写真にまつわる謎、そしてファインダーの向こう側には、そんな、繊細で敏感な高校生達がいたのでした。

満足!
ふわっとした暖かい余韻が心地良い一冊でした。




山本弘『名被害者・一条〈仮名〉の事件簿』

2012-04-27 23:19:05 | エンタメ


高校生が主役のミステリかと思って手に取ったら・・・全然違いました。
著者のコメントにも「ミステリファンの方、ごめんなさい」と書いてあったりして。
ミステリだと思ってたのでちょっとガッカリでしたが、これはこれでゆるく楽しめました。

ミステリというジャンルの性質を皮肉ったような作品。
ミステリの登場人物は、何故かよく犯罪に巻き込まれます。
(まぁそうしないと話が成り立たないので仕方ないですが)
そのミステリの不可解性を「名被害者」として捉えたコメディです。

主人公の一条(仮名)がそれで、毎回しょうもない理由で殺されかけ、しょうもない理由でなんとか切り抜けていくというお話。

アニメやゲームやライトノベルのパロディネタが満載で分かる人はにやにやできるかな。
ある意味ではとても山本弘らしい一冊。

フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』

2012-04-22 20:30:24 | ミステリ


とても心に残る一冊。
大好きな超絶トリックも、どんでん返しも、驚愕の真相も存在しない。
それでも、それらが詰まったミステリよりも心に沈み込む一冊。

著者は現役の刑事事件弁護士。
本作には十一の短編がおさめられていますが、それらの題材は、現実の事件にあるそう。

『紛れもない犯罪者。-ただの人、だったのに』
このキャッチコピーが非常に秀逸。まさにこの『犯罪』を体現した一言。
どの事件の犯人も、悪人どころかどちらかと言えば善良であるのです。
それでも、奇怪な事件を起こしてしまう・・・
「あんなに良い人が、何故こんな事件を起こしてしまったのか?」
本作は、その動機や背景にスポットライトを当てています。
それは、純粋な愛故であり、些細な偶然故であり、または善良であるが故であり。

特にグッときた作品が『エチオピアの男』
銀行強盗をし、手に入れた札束を握ったまま銀行前のベンチで座り続けていた男。
一体何故、そのようなことをしたのか?

ミステリ要素が強くニヤリとした作品が『ハリネズミ』
前者は、犯罪を犯した兄を救うべく、弟が奸智を働かせるもの。

ゾッとした作品が『棘』『愛情』。特に前者はお気に入り。
博物館の警備員が、続くあまりに単調な日々から、少しずつおかしくなっていく話。
静かに狂いの進む様が、とても不気味。
後者は、愛する彼女をナイフで傷つけてしまったという青年の話。
「愛するあまり食べたくなった」とはどういうことなのか?
少し分かってしまって、とても印象に残った短編。

人間は、何故犯罪を犯すのか?
その様は、時に興味深く、時に恐ろしく、時に切なく愛おしい。
派手な作品ではないです。
でも、ここ最近読んだ本で一番良かった。


田南透『翼をください』

2012-04-21 11:18:11 | ミステリ


クローズドサークルかつ学生モノと見て飛びついたものの、予想以上にへヴィで中々ページが進みませんでした。
凄くズッシリくる・・・

-あらすじ-
石元陽菜は愛らしい笑顔で人気の女子大生。
彼女に好意を寄せる男たちは、気を惹くために重大な『秘密』をつい打ち明けてしまうが、
陽菜の本性は、男をいいように操って己の利益をはかろうとする、極めて自己中心的なものだった。
ここ最近執拗にかかってくる無言電話に、陽菜は苛立ち怯えていた。
堪えかねた陽菜は相手を口汚く罵り、挙句に男たちから聞いた『秘密』をぶちまけて憂さを晴らすようになる。
一方、電話の向こうの『ストーカー』は衝撃を受けていた。信頼して話した俺の『秘密』を、誰ともわからぬ相手に暴露するなんて…。
裏切られた怒りはやがて殺意となり、『ストーカー』はゼミ旅行の目的地である絶海の孤島で陽菜を殺害することを決意する。

中盤までは、中々読み進める速度が上がりませんでした。
どうもやたら重く、気が滅入るというか・・・あくまで私の感覚ですが。
しかし、中盤に入り物語が動き始めてからは、結末が気になり一気読み。
最後まで読んで、最初から読み返して、ビッシリ張られた伏線に気付く。
全然気にしていなかった自分の負けです。

さて
色々感想を書こうと思ったのですが、うまくまとまらないので放棄します(笑)
トリックについてはネタバレになってしまうので書けないですしねぇ。

とにかく、とても読み応えのあるミステリでした。
でも、後味はかなりアレ。
何だか疲れてしまったので、もう暫くこういうのは読みたくないな・・・