Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

友桐夏『星を撃ち落とす』

2012-08-26 18:18:19 | ミステリ


少し間が空きました。
短い夏休みはあっという間に終わり、先週から日常が戻ってまいりました。
少しずつ色々なことをするペースも戻りつつある今日この頃です。

今回はミステリ・フロンティアの新刊(といっても、もう一カ月近く前の出版になってしまった・・・)
主人公は四人の女子高生。
そのうちの一人が、落下事故で意識不明になってしまう。
それを目撃したのは、津上有騎。落下した長岡茉歩は、葉原美雲にロープでくくられていたように見えた。
水瀬鮎子は、葉原を糾弾するが、彼女は長岡をいじめていたという噂も聞こえ始める。
更には、長岡が津上を目撃したことがその事故を引き起こしたとも。
果たして、真実は何なのか?嘘をついているのは、誰か?

何が本当で、何が嘘なのか。
少女たちはお互いを疑いあい、切りつけ合い、傷つけあう。
しかし、津上が葉原主催の天体観測会に参加し始めたことで状況に変化が訪れる。

人が死んでトリックはなんだというミステリではないですが、それにしてもちょっと陰鬱なところがある。
大きな謎が解け、真実が判明しても、それが決してカタルシスに繋がるわけではない。
色々な間違いや、悲しいことが表に出てくることもある。
それに打ちのめされてしまうこともある。
しかし、間違いや悲しみを受け止め、反省して前向きに進んでいくこともできる。
そんな想いを感じました。

作中に出てきたある台詞ですが、これは良い台詞だと思いました。
この作品のひとつのコアと思ったので、その台詞で結びます。

「悩むエネルギーがあるなら飛び込むエネルギーに換えたほうが効率いいから」


門井慶喜『天才までの距離』

2012-08-14 20:02:26 | ミステリ


美術ミステリつながりということでチョイス。

「本物」の美術品を見ると、下に甘味を感じるという美術探偵・神永美有とその友人である准教授・佐々木昭友の物語。
ある美術品の真贋からその背景にある謎や物語までを解き明かしていく美術ミステリ。
『ギャラリーフェイク』という漫画がありますが、内容的にはそれに近い・・・かな。

美術ミステリも、実は結構好きなジャンル。
名画、彫刻、仏像・・・美術品にも様々な種類のものが存在します。
しかし、遥か長い年月を経て現代へ伝わっているという要素は、それらに多く共通するのではないでしょうか。
それだけの月日が流れると、作者の意図や意思は必ずしも正確には伝わらないようです。
そのため、現代において幾多の解釈が生まれる。
正しいものもあるでしょうし、間違ったものもあるはず。
また、そもそも作品が勘違いされていることもあるでしょう。
だからこそ、そこに様々なドラマが生まれるし、神秘性も生まれる。
そのために、そこに潜む謎や問題を解き明かした時には、歴史を変えたようなカタルシスを感じることができる。

本作(より正確には本シリーズ)も、そんな楽しみに満ちていました。
大分前に前作を読んだため、シリーズの概要を忘れかけていましたけど・・・特に問題なし。
どの作品でも、推理が転がり転がって目の前の美術品は予想だにしなかった違う姿を見せる・・・
その様が鮮やかで面白かったです。


波乃歌『ビューリフォー! 准教授久藤凪の芸術と事件』

2012-08-12 23:25:24 | ミステリ


ひっそりと良作を出しているメディアワークス文庫から、新たなミステリが登場。
絵画をテーマに、周囲の謎を解き明かしていくアート・ミステリ。

元はラノベ畑出身の作家さんのようです。
『ビブリア~』が当たりまくったので、第二のビブリアを出そうとしたのでしょうか。
毒舌で美形な准教授+貧乏女子大生という組み合わせも、良いところをついている。
ミステリ部分も合わせて考えてみると、まるで映像化を狙っているような・・・
「こういうのを書いてください」という出版社の依頼が見え隠れしている気もしますが・・・それは考え過ぎか?!

四編の短編による短編集。
上述の通り、主人公は二人。
貧乏女子大生と、彼女をバイトとして雇っている、毒舌ながら超美形の准教授。
なんだか、読んだことあるような?
まぁ、探偵役が不細工だと絵にならないですしねぇ。

本作は謎の意外な真実といった要素より、人間ドラマに重きを置いているように感じました。
特に、最後の一編はなかなかグッとくる。ちょっと弱いジャンルだったもので。

あと、絵画や美術関係の薀蓄も面白かった。
この手の薀蓄がやたらくどくなりがちですが、サッパリしてて心地良かったです。
特に「聖母子像とヨセフ」に関する話は興味深く、普通に勉強になっちゃいました。

振り返ってみると、「愛」についての予想外に力強い数々のメッセージが込められていたかなと思います。
恋愛の愛、家族愛の愛、大切な友人への愛・・・
読後、自分や周囲の環境を思い出しながら、色々考えてみたりして。
軽いナリながら、味わい深い一冊。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』

2012-08-11 14:04:55 | SF


タイトルが素敵な名作SFを読もうキャンペーンの一環(今決めた)
ミステリ・SF・エンタメありとあらゆるジャンルの小説で引用される有名過ぎるタイトル。
いつか読んでみようと思っていましたが、ようやく実行しました。

三編の中編が収録された作品集。
『たったひとつの冴えたやりかた』
表題作。宇宙船を与えられた活発な少女が旅行に出かけ、そこであるエイリアンと出会う話。
まさかこんな結末になるとは・・・たしかに「たったひとつの冴えたやりかた」かもしれないけど。
予想とは大分違う物語でしたが、なかなか心うたれるものがある。

『グッドナイト、スイートハーツ』
宇宙で漂う人々を救出する仕事をしている主人公が、悪党と戦う物語。
めまぐるしい展開に、心理戦、緊迫感溢れるアクションに心地よいエンディング。
表題作よりこっちの方が好き。

『衝突』
人間と、人間を憎むエイリアンの物語。
エイリアンは、全ての人間が全て悪だと思い込んでいる。
誤解を解くことはできるのか。
信念や戦争についての強いメッセージを感じた一作。

SFも良いものです。
人間が定めた何かしらの小さな「枠」を超えた、宇宙的な感動が癖になる。

歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』

2012-08-07 22:52:49 | ミステリ


<頭狂人><044APD><aXe><ザンギャ君><伴道全教授>。
奇妙なハンドルネームを持つ5人は、ネット上で日夜推理クイズを出し合い楽しんでいた。
ただし、普通の推理クイズとは違う点はひとつ。
それは、出題者=殺人犯。
自らが問題を作り出し、実行し、出題する。狂った推理クイズの物語。

シリーズもので、前作に『密室殺人ゲーム王手飛車取り』という作品があります。凄いセンス・・・
前作から読んだ方がより楽しめるかも?読まなくても大丈夫ですが。

それぞれに美学を持った殺人者たちが、同好の士を打ち負かそうと真剣に問題を作り出す。
故にそれはひと捻りもふた捻りもされていて、とても難解。
雪密室のつくりかた、鉄壁のアリバイ崩し、驚愕の殺人方法・・・
その発想と奇抜過ぎるトリックの数々にはとても驚かされる。
著者自身が日々感じている(かどうか分かりませんが)「ミステリはこうあって欲しい、もっと物凄い謎を生み出したい」という想いがぶつけられているようにも感じました。

前作を読んだのが大分前なので記憶が定かではないですが、前作よりエキセントリックで手が込んでいる印象。
詳しくは言えないですが、「このシリーズならではのタブー」を侵したような問題がいくつかあり・・・それにやられました。
ううむ、さすが。

この後もう一作既にノベルスで発売されていますが、どう物語が展開しているのか気になるところ。
シリーズとしてはこの『2.0』で限界じゃないかと・・・

とにかく、面白いシリーズ。
出題者たちの狂っていて乱暴ながら、どこかアットホームなやり取りと空気が大好きでした。