Marice in Wonderland

日々読んだ本の感想を綴る
基本的には休日更新。

初野晴『空想オルガン』

2012-07-29 21:52:03 | ミステリ


ご無沙汰です。
夏と冬は、季節のイベントがとにかく盛り沢山ですね。
さすがの私も引きこもって本ばかり読んでいられるか!ということでお外で遊んでいました。
今しか楽しめないことはしっかり楽しんでおかなければ!

最近立て続けに読んでいるこのシリーズ、なんともタイミング良く第三弾が今月文庫化されました。
勿論即購入、流れに乗ってサクッと読了してしまいました。

三巻では、南高吹奏楽部に大きな変化が。
素晴らしい指導者のもと仲間を集め、厳しい練習に耐えた結果、弱小ながらもついに地区大会への出場を果たしたのでした。
その後の展開は読んでからのお楽しみですが、シリーズが大きな一歩を踏み出した瞬間でしょう。

勿論ミステリとしてもとても面白い。
迷子になった高級犬の飼い主を主張する二人、嘘をついているのはどちらか?
父から残された、幽霊が出ると噂のアパート。果たして本当に幽霊の仕業なのか?父の遺志とは?
その他二篇収録。
どの作品にも推理の面白さがあり、意外な真相があり、そして背景としての熱い人間ドラマがある。

表紙の絵通り爽やかで、気軽に楽しめ、それでもグッと心に訴えるものがある良作。
素晴らしいシリーズ。

紀田順一郎『古書収集十番勝負』

2012-07-14 23:22:51 | ミステリ


本ブログを始めてから読んだミステリ百冊目。気付けば早いものですね。

古書店の跡継ぎを決めるため、病床に臥す店主は二人の候補にある課題を出す。
それは、「リストにある古書十冊を半年以内にできる限り安く仕入れろ」というものだった・・・

二十年程前の作品のようです。
何故今頃?と思っていましたが、『ビブリア~』の著者が影響を受けたという帯の煽りを見て納得。
出版社も色々考えるんですねぇ。

作品はとても面白く、それ以上に怖い!
古書を手に入れるためならばなんでもするという「本狂い」が数多く登場。
彼らの血走り具合が本当に怖い。
自分も古書には魅力を感じる方ですが、ここまでいってしまったら終わりですね・・・
言ってしまえばただの紙束なのに、何が彼らをそうまで狂わせるのか。

ある意味最大のミステリ。


***
あと表紙が素敵!
加藤木麻莉さん大好きです。
最近本の表紙を飾ることが多い気がします。ジャケ買いしてしまうから危険!

初野晴『初恋ソムリエ』

2012-07-13 07:38:50 | ミステリ


『退出ゲーム』の続編。『ハルチカシリーズ』というらしい。
穂村チカ、上条ハルタ、この二人が主人公。
弱小吹奏楽部ながら、吹奏楽の甲子園「普門館」を目指す青春物語・・・と同時に、様々な謎と出会うミステリでもある。

弱小ながら夢に向かって頑張る吹奏楽部は、やはり応援したくなってしまう。
謎を解くことによって素晴らしい演奏者が加わるという流れは、何だかRPGのよう。
少しずつ強くなっていく吹奏楽部。今後が楽しみです。

本作には全四編が収録。どれもラストに一捻りあり、意外な真相が待ち受けておりました。
「一カ月で三回も席替えを行ったのは何故か」という『アスモデウスの視線』
「あの初恋は、果たして本当に初恋だったのか」という『初恋ソムリエ』
が特に好み。
どの作品も、爽やかな読後感で素敵。

このシリーズには変な高校生がたくさん出てきますが、どいつここいつも良いキャラしてるんですよね。
本作では、資産家令嬢のツンデレクラリネット奏者や、興信所の三代目で初恋ソムリエ等々濃い奴らが新たに参戦。
彼らのいかにも学生的で軽い掛け合いふざけ合いも面白いし、懐かしい。

なんとなく手に取ったシリーズだけど、大好きなタイプ。
最近の収穫。

アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』

2012-07-07 16:54:14 | SF


タイトルのインパクトが凄い。

「ジョウント」と呼ばれる瞬間移動が可能となった世界が舞台。
主人公のガリヴァー・フォイルは、宇宙空間で襲撃を受け、一人宇宙船の残骸とともに漂流をする。
長い時間が経過したある時、ついに別の宇宙船が彼を発見した。
救助信号を受信し、それが接近してくる・・・が、彼を救助することなく、それはまた移動してしまう。
彼は、彼を助けなかった宇宙船の名前を心に刻みつける。
そして、一生をかけてその船に復讐することを誓う・・・

逆恨みじゃないかとも思いますけど(笑)
主人公の凄絶な復讐を描いたSF。
強大な敵に、一人戦いを挑むというシチュエーションは燃えますね。
特に後半、改造手術を受け強化人間のようになった主人公のやりたい放題っぷりは中々気持ち良い。

最初に書いた通り、復讐の動機はちょっと逆恨み的であり、敵に迫る過程では様々な人やモノが犠牲となっていきます。
復讐とはそういうものなのかもしれませんけど、何も生み出すことがない。
まさに虎の如く復讐をする主人公にも、何処か空虚さを感じる。
そのような復讐の旅の終わりに、主人公は何かを悟ったようで。
「目覚めろ」というメッセージを感じました。
そう、俺達は眠れる獅子なのだ!!
(SFって結構強烈なメッセージやエネルギーが込められているように思います)

訳も読みやすく、物語の勢いにまかせて一気に読めました。面白かった。
ひたすら突っ走る虎のような、力に溢れたSF。

初野晴『退出ゲーム』

2012-07-05 19:57:27 | ミステリ


今までなんとなくスルーしていた作品。
しかし、とても好きなタイプのミステリでした。

廃部寸前の弱小吹奏楽部。
初心者の穂村チカ、ホルン奏者の上条ハルタ、この二人が主人公。
チカは吹奏楽部顧問の草壁先生に片思い中。
ハルタはいわゆるイケメン。それなのに草壁先生に同じく片思い中で・・・?
という設定。ちょっとどういうことなんですかと思う部分もあるものの、気にしない気にしない。

部員を募りつつ、平穏な学生生活を送る彼女らには、何故か色々な謎が寄ってくるのでした。
化学部から盗まれた劇薬の謎、全面真っ白のルービックキューブの謎などなど・・・

青春ミステリで、「日常の謎」を扱う、大好きなタイプのミステリ。
良いですよねぇ、青春ミステリ。
不可解な謎を解き明かす過程は勿論面白く、明かされる意外な真実には驚かされてしまう。
そんな謎に取り組む中で緩やかに変化していく、青春真っ盛りの男女の関係。
それは少しむずがゆく、とても微笑ましく、なんともあたたかい。
年頃の彼らには、辛いこともある、でも楽しいことはもっとたくさんある。
青春ミステリには、そんな生活がぎゅっとつまっているのです。
それはとても眩しく、輝かしく、爽やかで、気持ちの良いものなのです。
こんなのならもっと早く読んでいれば良かった!

特に面白かった作品は、表題作の『退出ゲーム』
ある設定のもと、相手を舞台から「退出」させれば勝利という数人対数人で行う即興劇。
心理戦や駆け引きがなんとも面白い。実際にやってみたいと思いました。
(『SKET DANCE』にこういう話ありそう)

予想以上に満足。
独特のすこしゆるい雰囲気も好き。
シリーズ化しているようなので続きも読もう。

角川文庫夏の百冊キャンペーン対象作品だったので、ストラップも貰えてラッキーでした(笑)