会津八一&団塊のつぶやき

会津八一の歌の解説と団塊のつぶやき!

会津八一 1374

2017-03-28 21:01:04 | Weblog
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「大和路」(堀辰雄)と會津八一5 2012・10・30(火)

 「大和路」の「夕方、西の京にて」は続く。
 「・・・裏手から唐招提寺の森のなかへはいっていった。
 金堂(こんどう)も、講堂も、その他の建物も、まわりの松林とともに、すっかりもう陰ってしまっていた。そうして急にひえびえとしだした夕暗のなかに、白壁だけをあかるく残して、軒も、柱も、扉も、一様に灰ばんだ色をして沈んでゆこうとしていた。
 僕はそれでもよかった。いま、自分たち人間のはかなさをこんなに心にしみて感じていられるだけでよかった。僕はひとりで金堂の石段にあがって、しばらくその吹(ふ)き放(はな)しの円柱のかげを歩きまわっていた。・・・
 僕はきょうはもうこの位にして、此処を立ち去ろうと思いながら、最後にちょっとだけ人間の気まぐれを許して貰うように、円柱の一つに近づいて手で撫でながら、その太い柱の真んなかのエンタシスの工合を自分の手のうちにしみじみと味わおうとした。僕はそのときふとその手を休めて、じっと一つところにそれを押しつけた。僕は異様に心が躍った。そうやってみていると、夕冷えのなかに、その柱だけがまだ温かい。ほんのりと温かい。その太い柱の深部に滲(し)み込(こ)んだ日の光の温かみがまだ消えやらずに残っているらしい。


 八一の代表作 「唐招提寺にて」    解説

  おほてら の まろき はしら の つきかげ を 
      つち に ふみ つつ もの を こそ おもへ
 
   (大寺のまろき柱の月影を土に踏みつつものをこそ思へ)