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『保存食品開発物語』スー・シェパード(食品と科学の万華鏡)

2011-08-24 12:43:13 | 読書
週末にジャムを作って自ら楽しんだり、知り合いにお分けして来ました。この瓶詰めのジャムは誰がいつ頃開発したのか、以前から気になっていました。私が入手した専門書『ジャム』(小清水正美、農文協、2004年初版)にその答えが載っています。

今日、ジャムをガラスビンに入れ、殺菌することはあたりまえの技術になっていますが、これは1804年、フランス人ニコラ・アッペールによって発明、発見されたものです。発明から200年たった今では、ガラスビンとふた、加熱装置があれば困難なくできる保存技術となっています。(2ページ)

瓶詰めによって食品を保存する技術を開発したのはフランス人ニコラ・アペール(Nicolas Appert、1749年11月17日 - 1841年7月1日)であることが分かりました。さらに巨大事典の「瓶詰」には、参考文献『保存食品開発物語』が挙げられています。アマゾンで古書が買えることが分かったので、早速注文しました。文庫本で493ページ、少しずつ読んで、1週間は楽しめました。同書の原題は以下です。
Pickled, Potted, and Canned: How the Art and Science of Food Preserving Changed the World
「漬物、つぼ漬け、缶詰、食品の保存技術・科学は世界をどう変えたか」でしょうか?

著者のSue Shephardさんは英国のブリストル在住で、ガーデニングの本も書いています。本書を読み始めると、まず1800年のエジプトの発掘調査の話で驚かされます。考古学者が発見した蜂蜜の壷、中の蜂蜜は数千年を経過しても全く変質しておらず、指を入れると髪の毛が見えました。蜜を空けると中から完璧に保存された嬰児のミイラが入っていました。こんな衝撃的な話から始めるのは、長らくチャンネル4のプロデューサーをしていた彼女ならではの書き出しです。以下目次。

序 章 賞味期間
第1章 乾燥
第2章 塩
第3章 酢漬け
第4章 燻製
第5章 発酵
第6章 乳製品
第7章 砂糖
第8章 濃縮
第9章 パイ、ポット、ボトル
第10章 船上の食事
第11章 料理人から化学者へ
第12章 缶詰
第13章 大旅行時代
第14章 冷蔵と冷凍
第15章 脱水法と未来の食品保存法
第16章 飽食か飢餓か

17世紀から18世紀、ヨーロッパでは食品が腐敗する原因は空気との接触にあると考えられていました。気体の研究で有名なロバート・ボイルもそう考えて、容器の中の空気を抜く手段を考えて、フックらと共に真空ポンプを開発しました。当時の海軍の糧食は主に堅パンと塩漬け肉で、この偏った食事が壊血病を引き起こします。第10章の「船上の食事」を読むと水兵の食事がいかに悲惨であったかが分かります。海軍の糧食関係の責任者であったサミュエル・ピープス(後にニュートンの『プリンキピア』を発行する)の依頼を受けて、ボイルが食品保存法に取り組んだのはこのような現実的な課題があったのです。
この仲間にフランスから逃れたドニ・パパンが加わります。彼は蒸気機関の発明者として知られていますが、食品加工でもその才能を発揮します。骨をも煮溶かす圧力鍋の発明です。そしてニュートンの『プリンキピア』が発行された1687年には食品の保存技術はここまで進みます。

メンバーは、ときには腹をこわすのを覚悟のうえで試食に臨んだ。1687年のある会合の席上、パパンは真空状態で10ヶ月保存しておいた豆を出してきた。「バターと塩コショウで味付け」された豆は、「やや臭いが鼻についたものの、その他の点では良好な保存状態である」ことが確認された。1687年、王立協会は、パパンが「大量の果物を、砂糖を加えず、その他、短時間の加熱によって生じ得る以外の変化を与えずに」保存することに成功したと発表した。(318ページ)


食品を腐敗させる微生物の追及は、オランダのアントニ・ファン・レーウェンフックによる顕微鏡の改良と観察によって始まります。1765年、イタリアのラザロ・スパランツァーニはフラスコに入れたスープを加熱殺菌し、フラスコの口を溶かして密封する実験を行い、微生物も自然発生しないことを確かめました。彼の成果はアゴスティーノ・バッシーに引き継がれ、やがてルイ・パスツールの業績に反映されます。パスチャライゼーション(Pasteurization・低温殺菌法)です。

スパランツァーニらの成果を知ることの無かった料理人・菓子職人ニコラ・アペールもフランス革命後に保存食の開発に取り組みます。第12章にアペールの50歳頃の肖像画が掲載されています。

味と食感を損なうことなく食品を保存する方法の開発、これが彼の目標でした。最初は手近に大量にあったシャンペンの瓶を使い実験を繰り返しました。やがて特注の広口瓶を採用します。

彼の開発した瓶詰めは以下の工程にまとめられます。

1 保存する食品を瓶に封入する。
2 栓をする。これには最大限の注意が必要である。瓶詰めが成功するかどうかは、おもにこの工程にかかっている。
3 食品を封入した瓶を湯煎して加熱する。加熱方法、加熱時間は食品の種類と性質によって異なる。
4 適切な時点で瓶を湯煎鍋から引き上げる。(329ページ)


彼によって近代的な瓶詰め技術が完成しました。そしてこの技術は科学者ゲイ=リュサックが高く評価されました。この成果に対してフランス政府は12,000フランの賞金を与えました。しかし、瓶は重く・割れやすいので、ブリキの製造技術で先行していたイギリスで缶詰めが開発されます。この開発にもアペールは協力したらしい。
アペールはこの技術で特許を取得することも出来ましたが、賞金を得たこともあって製造技術を公開・出版しました。これは200年前の「オープン・ソース」かも知れません。

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2 コメント

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アペルティゼーション (ブルン)
2011-08-25 22:18:15
だから、缶詰法のことをアペルティゼーションっていうのですね。
返信する
殺菌法 (271828)
2011-08-29 05:52:41
ブルンさん おはよう

appertizationはAppertに由来しますね。そしてpasteurization(低温殺菌法)はパスツールです。
返信する

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