メランコリア

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ボリス・ヴィアン全集11『死の色はみな同じ』(早川書房)

2005-12-12 23:55:55 | 
ボリス・ヴィアン全集11『死の色はみな同じ』(早川書房)
原題Les morts ont tous la meme peau by Boris Vian
ボリス・ヴィアン/著 長島良三/訳
初版1978年(1989年 2刷) 1100円

※2003.2~のノートよりメモを抜粋しました。
「作家別」カテゴリーに追加しました。

ヴァーノン・サリヴァン名義の4作のうちの1作。
ポール・ヴァーノン(tp.)とジョー・サリヴァン(p)というジャズマンへのリスペクトから
名をとったというのも彼らしい。

アメリカの推理小説やミステリーを翻訳していたヴィアン。
材料となるアイデアにはことかかなかったようだ。

初作?『墓に唾をかけろ』は、ヴィアン作ではからずも最もヒットした1冊で、
ダニエル・パーカーという男から“風俗に反する”としつこく訴えられたことに反発して
本作の主人公の名がダン・パーカーになってるっていうのが笑える

本作は、ヴァイオレンス、セックス、人種差別の要素がテンコ盛りで、
一気に読めてしまうシンプルさと、スピード感がサリヴァン風の良さでもあり、パロディたるゆえん。


あらすじ(ネタバレ注意

自分を黒人と思っている白人ダンは、クラブの用心棒で、毎晩、酔った客を殴って外へ放り出す仕事を5年も続けている
白人の妻シーラと息子もいるが、娼婦らと毎晩のように遊んでいる

ある夜、兄で黒人のリチャードが突然訪ねて金をゆすりに来てから人生が一変
翌日、彼に会いに安宿に行くがRの愛人でブラックのアンとサリーに欲情し
抱いて帰るとED(勃起障害・勃起不全)になっていた

翌日、調子を確かめるために娼婦シュリュエルを訪ねるが効果なし
「男は結婚してもはばかることなく女たちと寝る。
 が、女房が他の男と寝たと思うだけで、
 地球上の人間を皆殺しにしたいほどの怒りに駆られる」

Mを映画に連れ出し、アリバイを作り、PはRを殺しに行く
再びハレムに行き、黒人男女のセックスを見て治ったことを確認するが、やはりシーラとはうまくいかない

彼女は2日も放っておいたら別の男に乗り換えるような女と知り、2人を一緒にしているものが何なのか?
愛と錯覚していたものが単に性欲と所有欲、白人に対するコンプレックスへの復讐でしかなかったことに気づく

翌日、アンが通報したことで一気に捜査の手が広がり、DはMにかくまうよう頼むが断られ、金を請求
ちょっと黙らせるつもりで殴り、殺してしまう

安宿の主人を縛って、その妻(混血)をレイプし、ホテルに隠れているSの様子を探らせる
質屋で銃を手に入れ、老主人を殴って火をつけ、混乱の中、Sのいるホテルに忍び込む
警察は捜していた男が白人であることを戸籍からも確認し、Sにそれを告げ、
もしかしたら、死刑どころか軽犯罪程度で済むかもしれないと告げる

カーテンの陰でそれを聞いていたDは絶望する
これまでの復讐、ジレンマはすべてムダだったのだ

「あのデカは物事が簡単になるだろうと言った 物事を簡単にさせるもっと別の方法がある」

Dは窓から投身自殺する



犬たちと、欲望と、死
気の弱いタクシードライバーが出会ったシンガー、通称スラックスは気性が荒く、
タクシーを乗り回し、ある日、犬を轢いてから、その興奮を味わうために繰り返していたが
それに飽き足らず、幸せそうな若いカップルの女を轢き殺して逃走
パトカーに追われ、ムリな運転で木に激突して即死
男は死刑を迎えようとしている




相変わらずテーマは絶望的な暗い死。
『死の色はみな同じ』は、『墓に唾をかけろ』と同様、黒人差別を取り上げているが、
ヴィアンが「白人に近い黒人が増えて危険だ」というルポを読んだことがきっかけらしい。

いつまでも繰り返されてゆく憎しみの歴史の無意味さ、愚かさは、戦争と同様、
素直にヴィアンは嫌悪していたのだと思う。
白にも黒にもなりきれず、過去にも未来にも絶望している主人公の男があまりに哀しい。




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