メランコリア

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絵本『マボロシの鳥』(講談社)

2014-09-18 16:46:08 | 
絵本『マボロシの鳥』(講談社)
藤城清治/影絵 太田光/文・原作

「この世界は、きっとどこかとつながっている」


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「藤城清治さん自宅スタジオ展」の時に、『マボロシの鳥』原画コーナーも観たんだったな。

今回、図書館で借りれると分かって、借りてみたv

まずは、この2人の天才(奇才?)の出会いから奇跡的。
太田さんの、あのまんまな奔放な文章、それに律儀に応えつつも、
藤城さんも、独自のユーモアを織り交ぜて、物語りを見事に絵本に仕上げている。
2人とも心から楽しんで創作している姿が目に浮かぶようだ。

「マボロシの鳥」とは、手塚さんの「火の鳥」みたいなものなのか?
内容は、もう太田さんの哲学の世界。
そこに時々、芸人としての現実的な愚痴が入ってるから、時々笑っちゃう


【内容抜粋メモ】(ネタバレ注意
ありきたりで寂れた「オリオン劇場」「マボロシの鳥を出す魔人チカブー」がやって来ると知って、
ありったけの人々が押しかけて、強欲な支配人は「構わないから、どんどん入れろ!」と呼び込み男に言う。

立錐の余地もない=人がたくさん集まって、わずかのすきまもない。



あまりに会場に客を入れ過ぎたため、酸欠状態となり、漫談中の芸人も倒れて担がれて行くほど。
支配人はチカブーと

「演し物の最中は、劇場のすべてのドアと窓を閉め、鍵をかけ、密室状態にしておくこと」

という契約を交わしていたが、構わず、天井の窓を開けさせる。

そして、とうとうチカブーが登場。一見、お人好しのピエロのようで、人を寄せつけないような眼光。
その男の胸から光が漏れたかと思うと、これまで図鑑でも見たことがない鳥が現れた。



見た人それぞれが違う鳥を見ているはずなのに、見ていると、苦しいような、切ないような気持ちになり、
それでも見ずにはいられない、そんなフシギな鳥。
鳥は客席を見渡すと、なぜか皆、自分たちを親鳥のように感じた。

その飛ぶ姿は、希望のようで、夢のようで、海のようで、草原のようで、銀河のようで、自由のようで。。。

しかし、鳥は天井に開けた窓から外へと飛び出してしまう。

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チカブーのいる宇宙とは、違う次元に存在する国では、神々が住む荒野と山脈があり、
人々は、もう何万年も住み続けていたが、自然と向き合って生活していた。

文明を進めるだけ進めて、自分の首を絞めているような、現代の人たちには想像が難しいだろうが、
人類によって、まだなにも毒されていない世界。

逞しく、優しく、勇気がある青年タンガタは、人類で初めて、山頂まで登りつめた。
その目的は、幻の鳥をつかまえること。その鳥をつかまえた者は、永遠の幸福を手に入れることができるという。

静かに眠る鳥が目を開け、タンガタを見つめた時、青年は涙を流して、自分がなぜ泣くのか分からずにいた。
鳥は自分のほうからタンガタの胸に寄り添ってきた。



************************

オリオン劇場の悲劇から20年の歳月が流れ、チカブーは廃人と化し、二度と舞台に立たなかった。
あれ以来、彼は隅っこにしかいたくなかった。

場末のバーで酒を飲んでいると、あの奇跡を見たという中年男が話しかけてきた。
「1杯、オレのおごりで飲んでもらいたい」

彼は、いつも喋り始めて少しすると、自分が何を言いたかったんだか、分からなくなってしまう。

「今でもあの頃の連中に会えば、あの夜の話ばっかりだよ」

話がまた空中にかき消えてしまった・・・まるで鳥みたいに。オレの話はいつも、途中でどこかへ消えてしまう。



「ただ、オレは、あなたにもしまた会うことがあったら、これだけは言いたいって思ってた。
 もう一度、舞台に立つべきだって。あなたほどの素晴らしい才能があれば・・・」

この世でいちばん幸福なことは、だれかに必要とされることだ。
 芸人が、なぜ、自分の芸をお客に見せたいと思うか、分かるかい?
 お客を喜ばせたいとかいうのは、後からつけた理屈だよ。

 いちばんの理由は、この客には、いま、自分が必要なんだって、確認したいからだ。
 自分の芸を見て、1人でもお客が笑ったら、その客に自分は必要とされているって信じられるんだよ。

 芸人は、いつもその確認をするために舞台に上がるんだ。
 客を幸福にするためじゃない。自分が幸福になるために舞台に上がるんだ」

「もう一度、舞台に立つべきだ」
男が“いちばん言いたかったこと”は、チカブーが“いちばん言われたかったこと”だった。

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タンガタは、この世界の王として君臨し、社会をつくり、文明ができた。
タンガタは、鳥を失うことが恐ろしかったため、大きな鳥かごに閉じ込めた。



しかし、自分が手に入れたものを見つめて「自分は持ちすぎた」と感じた。
実は、これを感じるかどうかが、ヒトが暴君になるかどうかの大きな分かれ目だった。

せっかく手に入れたものを手放そうと思えること。
指導者がこう思えるかどうかが、その文明の行く末を決める。

タンガタは、鳥を捕まえた時からずっと感じていた。
「どこかの誰かが、この鳥を必要としている」

鳥を籠から出した時、タンガタは早くも後悔したが、きっとまた、あの鳥に会えるとも思った。

タンガタに、鳥を手放そうと思わせた“なにか”、我々がふだん“世界の秘密”と呼んでいる“なにか”とは、

「自分は誰かとつながっている。そして、この世界は、別のどこかとつながっている」

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チカブーは、もう何十年もオリオン劇場を避けてきたが、ふとその場所に呆然と立って、泣いていた。




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【太田光あとがき抜粋メモ~この世界には闇などない】
光るということは、光がその場所から離れて飛んでいくということ。星のように。
私はチカブーが鳥を放つということも、これと同じつもりで書きました。
そして、藤城さんの描いた絵を見た時、再び物語りが私の元に帰ってきた気持ちになりました。

藤城さんの絵は、必ず、光っています。それも、たくさんの色彩を持って
『マボロシの鳥』は光と彩の物語りです。藤城さんはそれを目に見えるものにしてくれました。

藤城さんは、ずっと昔から私たちに、実はこの世界には闇などないと教えてくれています。
闇のように思えても、それは本当は影なのだと教えてくれています。

闇と影は違います。
闇とは光のない世界のことです。影とは光のある世界にしか出来ません。
生きていると、光の時と、影の時が交互に訪れるような気になる時があります。
でもそれは本当は同時にそこにあります。


【藤城さんあとがき抜粋メモ~世界はきっとどこかでつながっている】


ぼくは武道館でケロヨンショーをやり、数万人の観客が取り巻くという大混乱を起こして、世の大批判を受けた。
ちょうど、魔人チカブーと強欲支配人の一人二役を同時に演じたとも言えるボクだから、
この話を読むと、想い出が夢のように浮かんで見につまされる。
そう思うと、この『マボロシの鳥』を絵にするのにボクほど適した人はいないだろうと思った。

5つの章に分かれているこの話を、40枚の絵に構成した。
オリオン劇場をミニチュアを作って考えたり、人物像は粘土像を作ったり、何度もデッサンした。

ボクの影絵は60cm~1mくらい、絵本の原画としては大きい。
大きくなければ切った線に力が出ないからだ。切るのはかみそりの片刃。

40枚の絵を約3ヶ月で作った。
下絵に1ヶ月、切り出して2ヶ月、切り出してからは1日半で1枚の絵を完成させていった。
こんなに波に乗って制作出来たことは、若い頃でもなかったような気がする。



[おことわり]
本書は、短編小説集の表題作を原作として、絵本用に文章を短くするなど手を加えて刊行するものです。

『マボロシの鳥』



先日、リブロに寄った際、こんなコーナーがあって、チラシをもらってきた。

藤城清治 豪華本[愛」 記念出版プレミアム 限定200部
額装 藤城清治の銅版画 シリアルNo.付き 自筆サイン入り 美術出版社
定価は、なんと、550,000円 藤城さんのすべてつぎこんである感じ。個人で買う人はいるのかな


「ルードヴィヒ二世とノイシュヴァンシュタイン城」(2008年作)


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