メランコリア

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『それでもボクはやってない』(2007)

2009-09-23 16:15:57 | 映画
『それでもボクはやってない』(2007)
監督:周防正行
出演:加瀬亮、瀬戸朝香、役所広司、もたいまさこ ほか

映画のジャンルとして裁判ものは好きだ。
被害者や容疑者なりの主人公が追いつめられて瀬戸際に立たされた末に決定的な目撃者や証拠が現れたり、
弁護人らのスピーチに感動して、最後の最後には正しい判決が下され、正義は必ず勝つというラストシーンでスッキリ心が晴れるから。
最後に犯人が名指しされるミステリー&サスペンス、散々怖がらせた悪魔が滅びるホラーも同じく。
でも、今作ではラストでスッキリしない。
なぜなら、実際冤罪が認められて無罪となる確率がわずか3%のみという事実があるから。

「無実なら、法律、裁判官が正義を守ってくれると信じていた。
 でも裁判とは罪を犯したかどうかをとりあえず判断するところで、
 とりあえずぼくは有罪になった」

そもそも価値観がまったく違う人が人を正しく裁けるものなのか。
本当の真実を知っているのは天と自身の良心だけだ。

疑いだけでいきなり10日間の拘留が事務的に言い渡されることからおかしい。
空も見えず、風も当たらないような狭い壁の中に押し込められるくらいなら死んだほうがマシなくらいだ。
保釈までは約4ヶ月もかかっている。これは散々審議で闘った末に言い渡された実刑判決の期間と同じだけの時間。
しかも、保釈金が200万円。一般市民の払う金額としては負担が大きすぎる。
それを「もし無罪になれば、1日当たり1万円以上が返ってくるからバイトのつもりで」という。
その間に受けた心理的・身体的な苦痛には何も保障されない。

駅員も「容疑者を警察に渡すだけです。あとはわたしたちの役目ではないので」と詳しい事情も聞かず、
重要な目撃者も帰してしまう。
刑事は実際に痴漢を自白したサラリーマンの取調べでイライラしていて、最初から徹平を犯人扱いだ。
「ここで認めれば5万円の保釈金で帰されるんだから認めてしまえ!」の一辺倒。

1回目はタダという当番弁護人もまた「裁判になれば想像している以上に大変だ」と同意見をいう。
取調べの刑事からは理由もなく頭ごなしに怒られる。なぜこうも警察というだけで高圧的でエラそうなんだ?

親友のつてで会った会社の顧問弁護士は、「わたしらは民事専門で、刑事弁護人とは違う。
弁護士といっても刑事裁判をやったことがない人は多いんですよ」と突き放される。

やっと紹介された弁護人は新人の女性で痴漢に対して偏見を持っている。
ついに法廷は開かれ、何度も繰り返される審議。
被害者の女子高生は傍聴席との間にパーテーションが置かれてプライバシーを守られる。
一方、被告人に関しては、「傍聴人が多いほうが本気さが伝わる」と、知らない人や別れた彼女まで駆り出される。
性犯罪ばかりを選んで傍聴する野次馬的な人までいる

「有罪率99%」という実績に守られて、裁判官は有罪に判断が傾きがちで、
検察官や警察などの国家権力に対して無罪判決を下しづらく、
無罪ばかり下して左遷させられるより、有罪判決を下して出世を選ぶというのもショック。

途中で裁判官が代わって、裁判官によって進め方のみならず、判断基準すら変わってしまうというのも不安材料。
それまでの人間的な勘みたいなものは書面には表しにくく、それを読む次の裁判官に伝わらない部分も多いだろう。
また、具体的な証拠があっても検事は被害者に不利なものは見せなくてもよいシステムってゆうのも変。

今作を見たら満員電車に乗るのが怖くなるんじゃないかな。
女性は痴漢に対する恐怖、男性は冤罪に対する恐怖。
実際、あらぬ罪をかぶせて金で示談させ、利益にするなんて犯罪も増えてるらしいし

まだ陪審員制度は始まったばかり。自分や周囲の人のことだってよく分からないのに、
まったく見知らぬ人の罪、心を推し量って判断し、その後の人生にまで深く関わるなんてできるだろうか?
でも、昔から綿々と受け継がれてる官僚システム、権力絡みの不正がふつーに行われているのなら
それを問題視して、それぞれの価値観の違いを認めつつ、良心で判断することも必要なのかもしれない。

言葉の通じる母国でさえもこうなんだから、言葉も通じず、賄賂で正義もなんとでもなるような国で冤罪になったらと想像すると怖すぎる
そういう事実を映画化した作品もあったよね。

日本映画も一時期衰退してたけど、こうして社会問題を真摯に描きつつ、
ちゃんと作品としても成り立ついいものがあるなあ!
ネタが尽きて二番煎じ気味のハリウッド映画なんかよりずっと面白い。
緊迫感で終始変な脇汗をかきながら、真剣に見入ってしまった。


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