メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

井上荒野と松太郎@ネコメンタリー 猫も、杓子も。

2020-07-27 11:44:50 | テレビ・動画配信
井上荒野 代表作:
『潤一』
『切羽へ』直木賞受賞
『あちらにいる鬼』


人気番組だろうに急に最終回なのが残念


【内容抜粋メモ】

でっかいイビキをかいて寝てる!






急に起きた

夫:何もしてないのにガバって起きたよw
妻:よくわかるよね 気配を感じるのかな


作家とその夫が撮ったネコメンタリー
こっち向いてすごいよく写ってる!
とってもカメラ映えする猫さんだね






猫を愛する作家が綴る猫をめぐる物語

長野!
また良い所に住んでるなぁ






松太郎さん20歳に見えない!!
動きも機敏だし、すごいゴロゴロ言ってる






一番の早起きは松太郎
奥さんの横に寝て、耳を掻いてて可愛い





しかし、二度寝するw
またすごいいびき! 本気で寝てるんだ


小説家 井上荒野さん








執筆の際、最も心を砕くのは言葉の力
心の奥底から無意識に湧き出る言葉を大切にしたい
その驚きがストーリーに影響を与えることがあると言います

井上:
ものすごくストーリー重視と言われる方もいるけれども、私はやっぱり言葉派
言葉を選びますね、ものすごく


父は小説家の井上光晴






井上:
本当に言葉に厳しい家だったので
例えば「夢みたいに嬉しい」という言葉を覚えて使ったりするじゃないですか、親の前で

そうすると絶対父が
「どういう意味だよ」
「その言葉の意味を分かって言ってるのか?」

というふうに、いつもいつも聞かれるような家だったので
そこらへんに私の土台のようなものがあるような気がしています


テーマは不倫
果てしない男女の愛憎劇を書くことを通して
人間の心の襞に迫ろうと言葉を紡ぐ日々

井上:
私にとって小説を書く一番大きいモチベーションは謎ということなので
人間は複雑だから絶対に分からない

絶対に分からないんだけど
書くことでその一部、ほんのひとかけらなりとも
分かりたいって思うのが動機かもしれないです

家族であっても相手の心の中なんて
100%は分からないっていうふうにいつも思っていて
それでも一緒にいる関係性みたいな
なんか家族ってものすごく奇妙だと思っていますね


「夫婦という謎」

井上:
松は人間じゃないですからね
ものすごく私が大事なもの
この大事さっていうのが、異様に大事なんですよね
ちょっと今まで松と会うまでは使わなかった
心の部分っていうのを使ってると思うんですよ

一つには自分の心の中には
まだまだ未知のものがあるということがわかった


「自分という謎」


一緒に暮らすのは松太郎
二十歳の雄猫です

(すごい食い散らかしてるw






井上:
すごく美しいですよね
野生動物がすごくいて
あとたまにここを鹿が通るんですよね

今の鹿の声じゃない?





(とってもいい顔してる
 猫も20年も生きると人間と同じだね


井上:
すごく臆病ですね
見ないふりするw
鹿がいなかったような態度になる

本当にちっちゃいときから私たちが育てているので
外の世界に対する耐性がないんです
内弁慶なんですよ


出ないの? いいの?











「名前」(朗読:井川遥
鳥のヒナみたいな声がしない?
私はそう言っただけだった
確かめてきてとさえ頼まなかった

でも入浴して出てくると、夫がそれを連れてきていた
それはヒナではなかった
可愛い子猫!!

彼の手のひらにすっぽり入って
まだ十分余裕があるほど小さい黒白の毛並みの子猫だった





向かいの家の門の下に落ちてた 夫は言った
どうするの? 私は言った

子猫は相変わらずヒナみたいな声で鳴きながら
夫の手のひらの中にいた

私はまだ手を触れていなかった
触れないほうがいいような気がしていた

子猫はあまりにも小さくて
オスかメスかすらまだわからなかった

どうするって拾っちゃったんだから飼うしかないだろう
拾っちゃったって…





夫にはそういうところがある
なんでもほとんど考えないで決断してしまう

彼と暮らし始めて10ヶ月目の初夏だった
遅い結婚だった

お互いに色々あって難しいだろうと思っていたが
今こうして一緒に暮らしている

夫がそうすることを選んでくれたのが嬉しかったが
ちゃんと考えてのことだったんだろうか
とさえ最近は思うようになっている


まだ目が開いたばかりみたいじゃない
育つのかしら…?
育てなきゃ

夫はキッチンをゴソゴソ探し回って
家にある中で一番小さなザルにハンドタオルを敷き
そこに子猫をそっと置いた

それからパソコンでしばらくカチャカチャやっていたかと思うと
ちょっと買い物してくると言ってアパートを出て行った

私は髪にドライヤーをかけ
明日ポークビーンズを作るために豆を洗って水につけた

それで今しなければならないことはなくなってしまったので
仕方なく子猫のそばに行った

子猫が入ったザルは
ダイニングテーブルの真ん中に置かれていた

端におくと危ないと思って真ん中に置いたのだろうが
ザルから転がり出てはい出せば
テーブルの上から落ちてしまうだろう

そう考えたらゾッとして
私はザルをそっと持ち上げ
寝室にしている四畳半の座敷に運んだ

畳の上にザルを置くと
しばらくおとなしかった子猫はまた鳴き始めた
仰向けになって手足をバタバタさせている

小さな黒い目
ピンク色の鼻
鳴くために必死に動かしている口

人差し指を近づけると前足で掴んだ
ゴマ粒みたいな肉球はひやりと湿っていたが
ぷっくり膨らんだ腹には確かな体温がある








猫が嫌いなわけではなかった
実家には子供の時からいつも猫がいた

(そういう人をちゃんと選んで来てるみたいだね








野良の子猫がいつのまにか家の中に入ってくるようになり
そのまま名前をつけて、うちの猫になったということも何度かあった

猫にも、猫を飼うことにも慣れている
猫が嫌いな理由などない
大好きだ

それなのに、今どうしてこんなにビクビクしていて
夫が一言の相談もなく
この子猫を連れてきたことに腹を立てているのだろう


一緒に住み始めたのが38の時で20年

夫は古書店主(素敵な職業!








井上:
やっぱり私にとっては、自分の人生が本当に自分のものだって
やっと実感し始めた時期なんですよね

ものすごく大変な思いをして書くのに
なんか自分の思ったように書けないみたいな時期がずっとあって
夫と知り合って、すごく精神的に安定したんですよね

(木がたくさん!

夫:君ここ好きだよね
井上:そうだねw






松太郎と出会ったのもちょうど20年前
人間なら約90歳


井上:
今まだ歩いてるし、さっきも上に乗ったりしてちょっと痛かったみたいなので
それがどんどんあまりひどくなると
トイレとかも出来なくなっちゃうって書いてあったからさ
ひどくならなければ注射で治るって書いてあった

夫:痛くはないの、注射?
井上:注射は痛いでしょうw

覗いてるww





性格は甘えん坊
でも時々 ワイルド
(砂の上にしないで、そのすぐ横にうんちしてるw


仕事は寝ること
趣味はひなたぼっこ





夫が帰ってきて、猫用ミルクやスポイトや綿棒を袋から取り出した
そんなもの飲ませて大丈夫なの?
私はハラハラし通しだった

子猫はスポイトにかじりついて旺盛に飲んだ
母猫が舐めるように綿棒で刺激するとちゃんと排泄もした
それでも翌朝になるまで不安で仕方がなかった

夜の間に死んでしまうのではないかと思って
でも子猫は夜通し鳴いてミルクを要求した


次の日に2人で動物病院に連れて行き
当分は昼夜問わず2時間おきにミルクを与えるようにと教わった

いくつかの検査をし、予防接種もしてもらい、哺乳瓶を購入した
子猫はオスだということも分かった


名前をつけないとな
帰り道で夫が言った
カルテに書く名前がまだなかったのだ

そうね と私は生返事した

子猫は私の夏用のかごバッグの中に入って
私はバッグをワイングラスを乗せたトレーみたいに両手で慎重に抱えていた

君が考えてくれよ


結局その夜2人で考えた
二転三転することもなく、すんなり松太郎という名前に決まった

子猫がふいに私達の家にやってきたみたいに
その名前もふわりと子猫の上に降ってきた

この子はオスですね
獣医師が言った時から
その名前は私たちの頭の中にあったみたいだった

いや オスだと分かる前から
私は心の中でその名前で呼んでいたような気さえした


カメラを向けられるとカメラ目線!





手袋をはめて毛を取ってる
あれって通販で言うほど取れないんだよね
すごい手袋に反応してる
なぜか持っちゃうw






この猫は私たちの猫だ

私は突然そう思った
それは不安と夫への怒りの正体だったことに気がついた






実家で飼っていた猫達は私の猫じゃなく、うちの猫だった
でも、松太郎は私の猫だし、私と夫の猫だ

そのことに、それが自分にとって歴然とした事実であることに私は動揺し
その事の重大さに夫は気づいていないように思えて腹が立っていたのだった

分かったからといって不安が消えるわけではなかった
私は心配し続けた

病気、脱走、誘拐
心配の種はいくらでもあった

実際に松太郎は何度か病気になったし、脱走もした
幸いなことに松太郎は戻ってきた
病院からも 小1時間の冒険からも

あの小さなザルに入っていたのにねえ
今では8 kg の巨体になった松太郎を見ながら私と夫は笑う


井上:松くんどうしたの? 来たの? おいで

(背中を向けてしまう






彼は今年で二十歳になる
年齢と多分体重のせいで時々足を引きずるようになったが
まだまだ食欲旺盛で毛並みもツヤツヤしている

それでも永遠に一緒にいられないことはわかっている
私の目下の心配事はそれだ

その日が来ることが恐ろしくてたまらない
でも私たちはその日を乗り越えるのだろうとも思っている

乗り越えるしかない
生きていく以上は

不安だったのはそのことだったのかもしれないとも思う

私たちは生きていく

小さなザルは金網の一部はほつれているが
まだ我が家のキッチンにある

私と夫も一緒に暮らして20年になる

また松くんの盛大なイビキで終わる
いつまでも元気でいてね







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