野地峰 のじみね
登山日 2012年9月12日
標高 1279.4m
登山口 四国中央市富郷町津根山折宇
駐車場 なし(林道路肩)
トイレ なし
水場 なし
メンバー 単独
里はこの時期になっても残暑がきつく、30度を超える真夏日が続いている。
しかし、ひとときのような体を投げ出してどうにでもしてくれっていうような日はなくなった。
こんなとき気をつけないといけないのが夏バテ、夏の疲れがじわりっと襲ってくる。
疲れてるからといって何もせず栄養剤ばっかり飲んでると、気持ちはこれで良しみたいになるが、やがて付けが回ってくる。
年とともに体力が落ち、あ~もう歳だ仕方ないか、負の階段に自ら踏み込むようなものだ。
最初はゆるやかな下り坂、楽だ。
そのうち、やや急坂になる。
なんだこんな坂って言ってるうちはまだいい。
気がついたら貧相な体力では踏ん張りきれないような急坂、こうなると為す術がない。
生きている間は須く楽をしようなどと思ってはいけない。
一に努力、二に努力、三に努力、四にも努力だ。
歯を食い縛って、ギリギリ言わしながら、生き抜こう。
な~んていい加減なことを言っているが、世知辛い現代、こんなことを思いながら生きている人は露ほどにもいない。
昼寝が一番、いまに始まったことではない。
昔から、やっとお昼ご飯が食べられるが~、食べ終わったらコテン牛になる。
時間があれば少しでも寝る。
夜に備えて。
ネオン瞬く頃、居酒屋に行って飲めや騒げや、ギリギリー、スイッチョンだ。
たちまち次の給料日まで財布のなかがスイッチョン、寂しい。
なんの話?
そんな話。
山だ~、山々、涼しい山へ出かけよう。
突然に愛媛と高知県境の山を思いだした。
山域は野地峰から東光森山にかけての稜線歩き。
ここを三分割して歩くんだと言いながら、1374.8m峰<別子山>~東光森山を昨年暮れに歩いてから遠ざかっている。
わたしの山歩き、飛び跳ね飛び跳ね、あちこち虫食い状態。
あっちへふら~、こっちへふら~。
人生そのものです。
というわけで、今回は坊主さん、つむじかぜさん、佐々連さんたちがすでに歩いた「野地峰~1400.1m峰」へ。
彼らと同じ歩きでは面白くもなんともない。
なので、取り付き地点を「折宇」からではなく戸女と落合集落の車道間に尾根があって、そこから尾根伝いにくねくねっと直く南にある野地峰まで描いている破線を追うことにした。
立秋も過ぎて、秋の日はつるべ落としというが、まだまだそんな時期でもない。
日の出は5時50分、日没18時20分、時間的には明るいうちに下山できるだろうと計算した。
法皇トンネルを抜けて、金砂湖へ降りると、すでに釣り人がボートを牽引車に乗せたまま畔で釣りを始めていた。
山並みはまだ白くガスっていたが、見上げる空はうっすらとガス間から青く透けて見えている。
このガスはすぐに退くだろう。
富郷ダムを過ぎて、二つ目の橋を戸女・折宇方面へと渡る。
橋を渡りきったところで黒っぽい動物が見えた。
おやっ、なんだろうと思ったら、その後ろから女性が歩いてくる。
犬連れの朝の散歩だった。
近くに民家があるようだ。
左折した。
ここから折宇に流れる川までが、予定している下山ポイントだ。
この上には1400.1m峰から北へ派生した尾根があり、さらに戸女を分けるように北東へと枝尾根があって、銅山川へと落ち込む先っちょに標高563mの小高い山がある。
橋から川までの車道間には高い擁壁があったが、降りられそうな地点がないか探してみた。
川近くに民家があって、地形的にはそこへ降りられそうだったが、山側には高いフエンスが張られたり、鉄線の頑丈な柵が設けられており、乗り越えることはできそうもない。
847m峰から戸女の上に走る林道へ降りることも考えてみたが、登山口までの車道歩きが長い。
往生際悪く、しばらく辺りをうろうろ歩いてなおも探ったが断念。
計画を変更して、仕方なく折宇から登ることにした。
つむじかぜさんと佐々連さんのレポートを読んでいたので、おおよそのルートは把握している。
引き返し、戸女から折宇への林道を走る。
ヘアピンカーブのところに最終民家があった。
降りて登山口を探した。
看板近くの杉の幹に太巻き黄テープが見つかった。
そこから谷へと薄い踏み跡が続いている。
ここだ。
ヘアピンカーブの手前の少し広い路肩に廃車の軽トラがあったので、その真後ろに着けた。
7:14、踏み跡を辿って沢へと降りる。
先々日から降った雨で沢は増水していた。
渡れそうなところがない。
靴を脱ぎ、ズボンをたくし上げて脛まで水に浸かりながら押っ取り刀というよりは、靴を手にぶら下げ腰を後ろに引いて、頬被りだとドジョウ掬いと間違われる。
渡ったところに小さな石垣があって、なにか分からないがコンクリートで作られた古い物が置かれていた。
落ち葉が被ってはいたが、明瞭な踏み跡が尾根へと続いている。
杉林の下には最終民家が見えていた。
杉植林のため陽は入ってこず、暗い。
古い黄テープがところどころに施されている。
自然林もあってほっとするところもあったり、やがて水の流れる小さな沢を渡って石楠花の痩せ尾根へ。
登山口から1時間で尾根に乗った。
尾根左方向を見ると、こちらにも明瞭な踏み跡が着いている。
断念したが当初計画していた尾根の破線道だ。
右折した。
ほどなく、道が掘り割りのようになっているところにでくわした。
こういう道は古くから相当な人によって歩かれた道にしか形成されない。
こんな山奥にと思うが、昔、野地峰の南、高知県側には銅が採掘された白滝鉱山があった。
一時は2000人を超す人々が鉱山の集落で生活し、映画館もあった。
たぶん、そこへ行き交う道だったのではないかと思われる。
折宇に流れる沢から尾根に出るまでは、あちこちで笹が茂ったり、ザレているところもあったりで、一部やや不明瞭なところもある。
しかし、概ね踏み跡は明瞭だ。
稜線を外れて1001.1mを右に巻いた。
ここには三角点があることを思い出した。
再び尾根に乗ったところで、折り返すようにして急斜面を登ると、ありました、三角点・境谷、崖っぽかったが木が繁り展望はない。
少し時間をロスしたが、三角点マニアではなくとも、寄ってみる価値はあると思った。
左に樹間越しにチラチラと東の尾根筋が見えだした。
特徴のある尖った三角頭、大登岐山の頂のようだ。
足元には瑞々しい苔と茸。
ところどころぬかるんだ道にはいくつかの動物たちの足跡も。
黒岩山のまあるい頂もわずかに見えた。
少し開けたところに出た。
西に尾根が見えている。
これが復路に使う1400.1m峰から北へ派生する尾根だろうか。
山腹にはブラッシーの頭のような縦に流れる傷跡が何本かついてる。
陽が差してきた。
道はますます明瞭になり、まるで整備された登山道のよう。
以前につむじかぜさんと落合から登って野地峰経由下川峠への道を歩いたがその合流地点をも確認することができた。
突然目の前をカミナリ族のように猛然とダッシュするシカが現れて、驚かされる。
シカのほとんどはカモシカと違って下へと逃げる。
あまりのスピードに老いた動体視力がついていけず、白いお尻だけが瞼に残った。
東に展望が開けた。
大登岐山から左へと流れるように、兵庫山、大森山から翠波峰辺りが見えているようだ。
ほどなく野地峰手前で稜線に乗った。
高知県側に白滝鉱山跡に建てられた自然王国・白滝の里が棚引く白い雲の下で目を引く。
赤い屋根の見えるところがかつて学校や病院、映画館、居酒屋があった場所のようです。
社員の浴場もあったそうだが、どの辺りかここからはよく分からない。
ズリ山とか選鉱場跡などもあるそうですが、真下に見える平らなところもその一つのようです。
9:20、首なし地蔵さんのある野地峰に到着。
このお地蔵さん、かつては往来のあったこの地で行き交う人々の安全を見まもったことでしょう。
北には富郷ダムと橋が見えています。
お地蔵さんの傍らでどっかり腰を落降ろして、抹茶とドーナッツでちょぴし一休み。
見上げる空にはアキアカネだろうか、トンボがたくさん飛んでいる。
このトンボは暑さに弱いそうで、真夏の間は高山に移動し、たくさんの虫を補食する。
そして涼しくなった頃に、体を紅く染めて里へ降り、子孫を残す。
花言葉「感謝」を表現するキンミズヒキ。
どっこいしょ、さて1400.1m峰を目指して歩くとしよう。
あの右奥の一番高い山がそうだろうか?
随分遠いな~。
ススキの穂が風に揺れていた。
シロモジの葉、もうすぐ鮮やかな黄色に染まる。
1400.1m峰がほんの少し近づいてきた。
1400.1m峰から右下がりに降りていく尾根筋の右奥に、東明石山から右へ権現越~二ツ岳。
やや稜線を外れて南側に下っていくと、古い滑車が崩れ落ちるように横たわっていた。
元鉱山の架空索道のようでした。
佐々連さんのブログレポでは鉱石がこの滑車を伝って、延々21km先の伊予三島市へと運ばれていたようです。
調べてみると架空索道の建設が1916年、白滝鉱山の閉山が1972年、いまから40年ほどかもしくはそれより少し前までこの索道はカラカラと動いていたのでしょうか。
展望の好い岩場で一休み。
生憎、曇ってきましたが、黒岩山からずいと下った尾根の南方向には特徴のある山、標高1209.8mの早天山が見えていました。
右下に972.4mの加茂次郎山、間に見えるのが方角的には岩躑躅山のはずですが標高は1102.8m、早天山より高く見えるが?
景色を眺めながらボーッとしていると、なにかが岩場の蔭で動いた。
頭から腰・尻尾にかけて焦げ茶色の動物、たぶんニホンイタチ。
イタチが目の前を横切ると近々に不吉な事が起きると言うが、どうなんだろう。
変なことが起きて、そのときに最後っ屁だけはしたくないな~。
あっ!くっさくっさ~って、人生の終焉だ。
しかし、可愛い、カメラを急いで取り出そうとしたが、あっという間にいなくなった。
何度か岩を乗り越えて、大きなブナ。
北にハネズル山とその右に聳える赤星山。
稜線の樹木の匂い、動物たちの匂い、山だなって感じる。
赤星山から豊受山、鋸山、翠波高原へ至る嫋やかな稜線。
手前渓には法皇湖。
なんだか雲行きが妖しい、ひょっとして今日も午後から雷雨が来るのか?
しかし、ここまで来たら、もう引き返すよりはとっとと周回を果たしたほうが早い。
またもや展望の好い岩場に…ピンク色のシコクママコナがたくさん群生していた。
あれ?
青空が見えてきましたよ。
11:23、1400.1m三角点・大野に到着。
お昼ご飯にはちょっぴし早いし、途中でなんだかんだと食べたし、早いとこ下山しよう。
さて、どこから降りるのかな?
どこを見ても深い笹藪、え~っ!
こんなとこ下るのかな、感じ悪いな~。
どうなるか分からんが、突っ込むしかないな。
しばらく笹と格闘しながら尾根筋を外さないよう下っていると、徐々に笹藪が疎になり、やや歩きよくなった。
ほっとするが、それでもシャクナゲなど灌木の茂る尾根が続き、行く手を遮る。
またもやシカがドドドーっと目の前を走り下る。
40分弱で陽が差し込む平らな肩に着いた。
お昼だ。
やっちまえ。
あれには目刺しが一番。
ヤブ山歩きの長年のお伴、25Lのマイ・ザック、洗濯機で洗ってももう汚れは落ちなくなっている。
小さな穴もあちこち空いた。
30Lの新しいのを買ったが、愛着があって捨てられないでいる。
ほんのピクニック気分で始めた山歩き、買ったときはこんな色じゃなかったんだが、滑ったり転んだりしていると、いつのまにか土けた地味色になってしまった。
お昼を済ませて、千鳥足で下る。
こんころもちいいよ。
山間にゲップが木霊した。
みよ、動物たちは何物かと思って、恐れおののいている。
色違いの変な茸。
酔ってるみたい。
ウグイスの地鳴きが聞こえてきた。
ジッジッ、いつの頃からか、ホーホケキョという鳴き声はしなくなった。
その境はいつなんだろう、立秋辺りだったろうか?
突然、目の前に大岩が立ちふさがった。
ありゃりゃ、後ろを振り返ると、今降りてきた尾根の真ん中に細い鉄の杭、テープが括り付けられている。
気がつかなかった。
右、左、尾根を挟んでうっすらと踏み跡が続いていた。
峠のようだ。
腕に着けている高度計を見ると、おおよそ標高1040m付近。
994.5m三角点は未だ先で、目の前の大岩を巻かないと進めない。
ひょっとしてこの峠道、折宇のどこかに下りる道かな?
そう思って、コースを変え東に辿ることにした。
しばらく歩いたが、南南東へといつまでも続く。
このままでは登山口から大きく外れてしまう。
そう判断して、途中で道から外れ、方向を登山口に合わせて適当に下った。
幸い、植林地帯で歩きよい。
先ほどの道は折宇集落の先にある林道の終点辺りへ続いているのだろうか。
林道を横切り、なおも下ると、やがて足元に沢から引く水道のホースが見えた。
辿る。
小屋が見える。
民家に降りてきた。
ヒーホーホー、クロツグミがどこかで鳴いているが、この鳥、いまだに姿を見たことがない。
廃屋を横目に道を辿ると今度はお堂に。
車道に出た。
登山口よりやや下に降り立ったようだ。
駐車地点へと車道歩き。
13:30、お疲れさんでした、一人言を呟く。
帰路、法皇湖に架かる松野大橋から、野地峰の稜線を仰いだ。
野地峰はここから見ると三角頭に見える。
手前に今日歩いた野地峰に至る尾根と、右奥に1400.1m峰、そして下った尾根が…。
これで三分割のうち二分割を歩いたが、真ん中の1400.1m~1374.8m峰間が残った。
どう歩くのか、難儀なことになったなと感じている。
いっそ、野地峰から東光森山まで縦走したほうがあっさりしていいかなとも思ってしまう。
登山口7:14-1001.1m峰三角点・境谷8:29-9:20野地峰9:44-10:32岩の展望所10:48-1400.1m峰三角点・大野11:23-11:57<1270m肩>12:23-峠12:38-13:30駐車地点
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