甚吉森 じんきちがもり(じんきちもり)
登山日 2012年11月3日
標高 1423.3m
登山口 那賀町木頭折宇南川林道沿い
駐車場 なし
トイレ なし
水場 なし
メンバー ピオーネ、むらくも
「じんきちもり」、それとも「じんきちがもり」どう読んでいいのかよく分からない。
ただ、歴史的に紐解いていくと「甚吉ガ森」と書かれた古い書物があることから後者が正しいのではないかと思われる。
発音がしにくいこともあっていつの頃からか略して「じんきちもり」と呼ぶようになった可能性が高いが、それも比較的最近のことのようだ。
この山は四国百山として、かつて高知新聞社から発行された山の本に掲載されているが、もともとは1985年から1986年(昭和60年~61年)にかけて、同新聞に毎週1回、連載された山の一つ。
その本には甚吉森と称された由来は壇ノ浦の合戦から逃れた平教経が甚吉森のこんもりと木が茂った丸い山を見つけ、「あの森は甚だ吉である。さらば丸山を住居の地と定めよう」と言ったということから名付けられたとか。
本には「甚吉森」と書いてわざわざ「じんきちがもり」とルビを打っている。
教経はその後、奥西川二の谷へ降り、そこにお屋敷を構えたそうだが、ついにこの地で果て手厚く葬られたとか。
屋敷跡が現在、魚梁瀬営林署の造林小屋があるところだといわれている。
その後落人の子孫は世の中が落ち着いた頃に生活に不便なこの地を離れ、下流の中屋敷、さらに下屋敷そして現在の魚梁瀬を永久の住居としたと伝えられている。
平家伝説が色濃く残る甚吉森は標高1400mを超えており、海部山系の盟主と謳われているが、この山に対するわたしの知識は乏しくて、すぐ隣にある千本山から縦走することが出来る山程度にしか思っていなかった。
あらためて標高を確かめると、千本山(1084.4m)より300m以上も高い。
坊主さんから分けて頂いた「徳島250山」の本にはカモシカの住む山として紹介されている。
生きたカモシカにはこれまで一度しかお目にかかったことがない。
このときはお互いにジッと突っ立ったまま、目を合わせてしばらく見つめ合っただけ、鳴き声は聞いていない。
声を聞いたのは先日に坊主さんとご一緒した「滝下の天狗塚」でのことだった。
姿は確認していないが、崖のほうから「ベ~」という鳴き声を三度耳にした。
この鳴き声をもう一度聞きたい、強く思った。
というわけで、徳島の奥深い山ではあったが、AM5:40、ゆっくり目に自宅を出発した。
高知回り、おおよそ2時間で高ノ瀬峡谷への入口を素通りし、さらに195号線を東に走った木頭折宇の那賀川に架かる橋を美那川キャンプ場方向に右折。
キャンプ場を過ぎてしばらくのところでダート道に突入。
なおも南川を遡るようにして走り、トンネルの手前で三叉路に…左へは湯桶・平井林道(湯桶丸登山口)、右のトンネルを抜けてさらに南川林道を遡る。
朝の山肌からは、湯気のように朝霧が立ちのぼっている。
トンネルからおおよそ4km地点で甚吉森登山口の看板があるので、その先20mほどの林道広い路肩に向きを変えて駐車。
時刻は8時40分、自宅から丁度3時間で到着した。
今日はちょっとばかし肌寒い。
ニッカボッカみたいな姿で歩き出す。
すかさず、妻がなにその足元は?
実はズボン下にパッチを履いて、ズボンをたくし上げているだけのことだ。
9:00、駐車地点から少し引き返し、南川へ下り、吊り橋を渡る。
「徳島250山」には定員1名の朽ちた吊り橋と書かれていたが、橋の入口には字の消えかかった木の看板があり、キケンという文字だけが読めた。その横にはなんと書いているんだろうか、気にはなったが読めない。
妻が「あんた、わたしが先に渡るけど、絶対に一緒に乗ったらいかんよ」「ゼッタイにゼッタイやでっ!」
橋はワイヤーでつり下げられたもので、足元の錆び付いたグレーチングからは谷底が見え、真ん中あたりでは烈しくたわんで揺れた。
揺れるには揺れたが妻の吊り上がった目は、橋よりも怖かった。
その妻は、渡り終えて「あ~、怖かった、まんで、かずら橋みたいやったわ」というが、橋の途中でカメラを構えてパチパチ撮ってたので、いつものように口先だけのことなんだろう。
小さなキッコウハグマが登山道脇に数株咲いていた。
4輪ほど咲いていた株を撮ったが、生憎のオオボケ。
小さい花はコンデジではなかなか撮れないし、撮れてもほとんどがピンボケ。
妻の一眼レフは故障中で修理にも出していない。
買って年数がそれほどには経っていないが、最近のカメラはよく壊れるようだ、これで二度同じ個所をやられてる(たぶん基盤だろう)。
修理代、ん万円要るらしい。
後方対面に頂が見えたが、池野高山なのか、それとも猪ノ山谷を挟んだ東の頂なのか?
ミソサザイの地鳴が頭上から聞こえてくる
綴れ折れをジグザグと登るが登山口から30分ほどの左への折れ曲がりのところに、直進方向に沢を跨ぐようにしてロープが施されていた。
しかし、道は明らかに左へ折れ曲がるようにして着いている。
少し躊躇したが左折した。
山道は何カ所もザレていて、やや歩きにくいが、危険というほどのことはなかった。
1時間ほどで道標のあるところに辿り着く。
(右折)
秋の花粉症、クシャミが山にこだまする。
一旦、枝尾根に乗ったかに見えたが、しばらくで尾根を外れ、緩やかな傾斜地を登っていくようになる。
真っ赤なツルリンドウの実。
杉の植林が登山口からズンヤリ続く。
橡の木の大きな葉っぱが、カラカラと音を立てて落ちてくる。
林床にはシロモジの木が目立つ
鳥の鳴き声もなく、生きものの気配はない、シーンと静まりかえり、歩く自分たちの靴音がグツグツと呟く。
道が直角に右折する場所やってきた。
木の枝にはテープが施され、直進方向にも薄い踏み跡が見受けられたが、木の枝でこっちは違うよとでも言いたそうにして塞いでいる。
再び尾根に乗ったようだが、踏み跡は薄く、ところどころに小さなケルンがある。
「ケルンは蹴るんよ」
先日の権田山での駄洒落が頭の中で甦る。
妻が、仙ちゃんはあのとき駄洒落を言いながら本当に足で蹴ったんで~、と繰り返しわたしに話しかける。
杉林の尾根は嫌いではないが、やはり退屈で、二人とも他に適当な話題もなく、楽しかった日々を思い出しながら黙々と歩く。
登山口から2時間、やっと杉の植林帯が途切れて、紅葉した自然林の尾根に出た。
明るい陽差しが林床に差し込み、落ち葉の絨毯で柔らかく足元を包んでくれる。
しかし、稜線にはまだだったようでそれから20分余り歩いて、それまでの南への向きを変え、ようやく西方向へと歩くようになる。
妻が明るい景色に見とれながら、あと3分ほどで山頂よ、と呟いた。
稜線の紅葉はまだ残っているものもあるがほぼ終盤、もう1週間も経たずに落葉してしまう。
ウチワカエデだろうか、傍らにはコウチワカエデもあって、煌めきが眩しい。
山頂に着いた。
そこだけが樹木がない。
三角点があった。
二等三角点、点名・甚吉森、柱石キ損となっている。
甚吉ガ森が甚吉森となったのは、ひょっとしてこの国土地理院の三角点点名の所為かもしれないとこのときふと思った。
点名は地元の方の呼称とはまったく異なった名をつけることがあり、後々にその点名が山頂名に変化したりすることもある。
それにしても見晴らしがいい。
こちらは石立山、後方は天狗塚~三嶺方向。
剣山~天神丸方向。
ジロウギュウをここから眺める形はちょっと変、嫋やかすぎる。
360度の風景を撮ってみた。
こちらは北の剣山系180度一直線の景色。
こちらは南東方向180度、湯桶丸、貧田丸、空気がすっきりしていれば太平洋も見えるようだが、生憎霞んでいる。
渓には高知県側の馬路村魚梁瀬から続く中川林道が山の中腹を這うようにして湯桶丸方向に延びている。
シートを広げてひっくり返った。
青い空には飛行機雲が白い雲に溶け込んでいる。
しばらく眺めていると、何機もの飛行機が時間を置いてはまったく同じ航路を飛んでくる。
大豊へ向かう訓練中の米軍機だろうか?
時刻は12時前、この山以外に他に行く計画もないので、のんびり昼寝でも楽しむつもりだ。
ほんの少しのアルコールでほんわかした気持ちになる。
ちょと散歩に出かけよう。
チチチー、秋だのにツバメが飛んでいる。
南へ渡る途中のツバメたちのようだ。
お~っ!
千本山とその尾根だ。
その奥の山は右に宝蔵山、真ん中奥に稗巳屋山?
こちらは湯桶丸とうお山やお化け杉のある稜線。
その他、高ノ河山・西又山への稜線も…。
歩く歩かないは別として、歩きたくなる稜線がここ甚吉森からは三本も続いている。
奥深い山なので、常に静かだ。
ウロー
キョロー
あまりにも綺麗なので、山頂でズン胴ミナミマグロのような姿で寝ている妻を起こして、西方面の尾根筋をしばらく散歩。
山頂に戻ってコーヒーを一杯。
さーて、帰ることにしよう。
あっ!カモシカの糞かな?
二人で「べ~~、べ~~~」とカモシカの鳴き声を真似しながら降りたが、返事はなかった。
どこかの岩場で昼寝してるんだわ。
綺麗に枝打ちされた杉林。
テープのある曲がり角、そして道標のある曲がり角をそれぞれに左折して…。
何カ所もあるザレ場も通り過ぎ…。
揺れる吊り橋へ。
清流の南川を渡り。
駐車地点へ。
帰りに別府峡温泉でまったり。
さて、夕ご飯をここで済ませて、その前にビールをグビッとと思って食堂へ行ったら、なんと4時過ぎだというのにオーダー・ストップ。
ありゃー、どうして?
どうやら大阪からこられた大型バスでの団体さん(石立山登山)のために、食堂はてんてこ舞いしているらしい。
あれま、せっかく、シカ刺しとシカバーグを食べようかなと思ってたのに、あかんやんか。
大阪の方はシカ刺しを食べたことがあるらしい。
とても美味しいとのこと、特に秋のシカはさっぱりこってりとチョーウメーんだわや。
シシ肉(イノシシ)もうまいんだわや、この時期。
このごろ、シカもシシも増えてね~、ときおり、やつら崖から落ちたりして、捕まえるのにいい塩梅よ。
冬場なんかは、あんた、落ちて、雪に突き刺さって、凍死してまんのやわ。
賑やかなこと。
仕方ない、早く帰って、回転寿司でも食べにいこ~っと。
登山口9:02-1046mピーク手前<道標あり>10:06-破線合流地点11:11-稜線11:29-11:34甚吉森13:05-破線分岐地点13:17-道標13:50-14:33登山口
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