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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係2

2018年08月28日 12時00分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


『村上享吾』のことを知ったのは、中学2年生の3月の球技大会の時だった。



 オレの入ったバスケのチームは早々に負けたので、外のバレーボールの応援にいった。幼なじみで親友の松浦暁生がバレーボールに出ると言っていたからだ。

 案の定、背も高くて運動神経の良い暁生のいるチームは勝ち残っていて、オレが着いた時は、同じ二年生のチームと試合している最中だった。13対2で暁生のチームが勝っていたので、

(こりゃ、勝負ついたな)

 なんて余裕に思っていたのに、相手チームのやたらとサーブを打つのが上手い奴にサーブの順番が回ってきてから、形勢が逆転した。
 そいつの打つボールは、コートの線ギリギリに入ってくるし、打ち返しても、重いらしく弾かれたりするし……で、あっという間にそいつ一人で10点入れやがった。

「村上すげー!!」
「村上君かっこいー!!」

(……村上?)

 そいつのクラスの連中の歓声で、そいつがオレと同じ苗字だということを知った。同じ苗字なのに、オレとは真逆で、そいつは背も高いし、スポーツも得意のようだ。そういえば、バスケ部で見たことある気がする。同じ学年だったのか。でも、あんなやつこの学年にいたっけ?

「このまま勝ったら、村上、胴上げなー!」
「頑張れー!」

 更に歓声が大きくなった、その時だった。

(………え?)

 ふっと、村上の表情が曇った。そして……次に打った村上のサーブは、大きく左にズレて、アウトになってしまって……

「あ~~~」

 落胆の声が青空の下で響き渡った。
 サーブ権が暁生のチームに移り、結局、それからすぐに暁生のチームが勝った。

 負けたのに、無表情の村上………

(なんだ………あいつ)

 あれ、絶対にわざとだ。わざと外しやがった。意味分かんねえ。なんで外す必要がある? あのままあいつが打ち続けてれば勝てたかもしれないのに。勝ち進むのが面倒くさくなった、とか?

(……ムカつく)

 せっかく出来ることをやらないって、それは、オレの中で一番許されないことだ。


『いつでも明るく。なんでも一生懸命』

 それが、母の口癖だった。オレが小学5年生の時に亡くなった母。最後まで『一生懸命』病気と闘い続けた母。その言葉を守ることがオレの使命だ。


(村上……)

 同じ「村上」のくせに、あんな中途半端しやがって。同じ苗字なだけに余計ムカつく。


 それから、ちょっと情報を集めてみたところ、村上は『享吾』という名前で、2年生のはじめに転入してきた、ということが分かった。

「背も高くて、顔もわりと良いのに、とにかく影が薄い」

と、言っていたのは、村上享吾と同じクラスで同じバスケ部の荻野夏希だ。

「でも、社会科見学の壁新聞作りの時、村上君がまとめ役だったんだけど、すごい的確な指示だしてくれて、助かったんだよねえ」

 うーん、と唸った荻野。

「だから、実はやれば出来る人なんじゃないかなあ、とは思う。でも、普段はどこにいるのか分かんないくらい、影薄い」
「……ふーん」

 やっぱり、中途半端な野郎ってことだな……

 ああ、やっぱり、なんか、ムカつく。
 


 それから数日後。終業式後の学活で、三年生でのクラスの名簿が配られた。

(暁生は1組。オレ……いない)

 暁生とは結局三年間一度も同じクラスになれなかった。12クラスもあるからしょうがないけど……

 なんてガッカリしながら、名簿を辿っていったところ、

(あ)

 11組で見つけた『村上』 しかも、2つ並んでる! あの村上享吾と同じクラスだ!

(やった……!)

 村上享吾。みてろよ。あんな中途半端、オレの前では許さねえ。





---

お読みくださりありがとうございました!
なんかどうも「違う」感が拭えなく、久しぶりに全書きかえして、ようやく何とか納得……
私が高校時代にノートに書いた時は、享吾の一人称のみの物語だったので、哲成サイドをまだ掴めていなくて……
そういえば、「風のゆくえには」本編、慶と浩介の物語をこのブログで書きはじめた時も、高校時代にノートに書いていた時には慶の一人称のみだったので、浩介視点が書きにくくてしょうがなかったのでした。でも今はむしろ浩介視点のほうが書きやすいくらいなので、哲成視点もそのうちスラスラ書けるようになると信じて……

いつもながら、何の事件もおこらない普通のお話。
読んでくださった方、ランキングにクリックしてくださった方、本当に本当にありがとうございます!!
よろしければ、今後ともこの「友達の友達の友達の話」ノリにお付き合いくださいますよう、何卒何卒よろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係1

2018年08月24日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係


【享吾視点】


 出る杭は打たれる。だから出てはいけない。かといって、出来なさ過ぎて目立ってもいけない。中の中~中の上くらいがちょうどいい。
 委員会はやるとしたら、地味な委員会を選ぶ。間違っても、学級委員なんて華やかなものにはなってはいけない。いけない。いけない……のに。

「はーい! 村上やりまーす!」
「!?」

 中学3年生しょっぱなのホームルーム。先生の「学級委員やってくれる人!」の問いかけに、目立たないよう、机の端あたりをジーッとみていたオレの腕が、いきなり、オレの意志とは関係なく、上にあげられた。腕を掴んでいるのは、後ろの席の村上哲成。色白の眼鏡チビ。

「!」
 バッと腕を払ったけれど、村上はこちらを無視して、みんなの方に両手を振った。

「はーい! 村上享吾君が学級委員になることに賛成の人ー!」

 わっと歓声があがる。誰もやりたい奴がいなかったから、みんな大喜びだ。って、なんなんだこれは!

 戸惑っているオレに向かって、担任の国本という若いお姉ちゃん先生までニコニコと言ってきた。

「村上君、いいかな? いいよね? よろしくね? あー助かったわー」
「…………」

 ヒドイ、としか言いようがない。

 この中学に転入してきて丸1年。せっかく目立たないように、ひっそりと生きてきたのに、学級委員なんて目立つ仕事をやるなんてアリエナイ。眼鏡チビ、何しやがるんだ!

 ホームルーム終了後、速攻で真意を問いただそうと振り返った。

「村上、なんで……」
「なに? 村上君」

 ニヤニヤしている村上。ってオレも村上だ。紛らわしい!

「だから、村上……」
「テツ」
「は?」

 村上にピッとオデコを指で突き刺された。

「テツって呼んでって、自己紹介の時いっただろ? だからテツ。オレもお前のことは『キョーゴ』と呼ぶ」
「…………」

 メガネの奥の目がクルクルキラキラしてる。こういう奴、苦手だ。視線を外して問いかける。

「なんでオレを学級委員にした?」
「なんでって、できそうだから」
「は?」

 できそう?

「キョーゴ、できるだろ? なのにやらないのはズルだから」
「……………」

 ズル? 意味がわからない。
 ムッとしていると、村上はヘラヘラと言葉を継いだ。

「ま、女子の学級委員は、ベテラン西本だから楽できるし、いいじゃん」
「………」

 女子の学級委員に立候補した西本ななえは、毎年学級委員をしているらしい。成績も常に学年一位の才女だ。

「でも、村上……」
「だから『テツ』だって」

 また、額を指で突き刺された。痛いっての……

「…………。オレ、人前とか苦手だから、本当に困る。変なことしないでくれ」
「ふーん」

 ジッ覗きこんでくる瞳……。黒目が大きい。犬みたいだ。

「じゃ、得意になればいい」
「は?」
「大丈夫。すぐに慣れるから」
「はああ?」

 呆気に取られたオレをよそに、村上はニコニコニコニコとしている。

(……ああ、本当に嫌だ。こういう奴)
 
 心の底からため息が出てしまう。

 せめてこれ以上は目立たないように、前に出ることは西本に任せて、オレは裏方に徹しよう。と、密かに決意した。



 でも、翌日の第一回委員会にて。
 ここでももちろん目立たないようにヒッソリとしていたのだけれども、

「亨吾ー! 同じ委員会! よろしくな!」
「………渋谷」

 開始前、キラッキラのオーラを振り撒いている渋谷慶に、どーんと体当たりされ、大注目を集めてしまった……

 渋谷とは同じバスケ部というだけで、たいして話したことはない。でも、渋谷はやたらと人懐こいので、まるで昔からの仲良しのように話しかけてくるから、非常に困る。

「早く終わるといいなあ。部活遅れちまう」
「うん……そうだな」

 あらためて正面から見て、本当に綺麗な顔してるな……と感心してしまう。

 オレに学級委員を押し付けた村上哲成と同じく、小柄で色白だけれども、全然違う。渋谷は小ささを感じさせないほどスタイルが良く、見とれてしまうほど完璧な顔をしている。一方、村上は「ちんちくりん」という言葉の似合う眼鏡のチビだ。

 なんてことを思いながら、渋谷の言うことに適当に相槌をうっていたところ、ふいに後ろから声をかけられた。

「村上享吾ってお前?」
「え。………あ」

 振り返ると、やたらとデカくて坊主頭が似合う爽やかな男が立っていた。うちの野球部のエース・松浦暁生だ。こいつも、渋谷同様、目立つオーラを振り撒く奴だ。

「そうだけど……」
「あー、ごめんな。うちのテツが強引に委員押しつけたんだって?」

 うちのテツ? ああ……村上哲成のことか。そういえば村上も野球部だった。

「まあ……うん」
 軽く肯くと、渋谷が「あはは」と笑って腕を叩いてきた。

「享吾、お前、押しつけられたんだ? おれもだよ~ホント嫌になるよな。おれこれで3年連続だよっ」
「…………」

 渋谷は出来るから頼まれただけだろう。オレとは違う。

「1回やると目付けられるからな。俺も3年連続だよ」

 肩をすくめてみせた松浦。こいつも渋谷同様、出来るから頼まれただけだ。

「松浦、お前、委員長やれば?」
「やだよ。お前がやれよ、渋谷」

 キラキラオーラの二人が小突き合っている。色白小柄の完璧美形の渋谷と、浅黒い肌にガッチリした体型の爽やかハンサム松浦。見た目は対照的なのに、なんとなく似ているのは、人目を引くオーラという共通点があるからだろうか。

(ああ、嫌だ嫌だ……)

 そーっと目立つ二人から離れて席につく。群衆の中に溶け込む。オレはヒッソリと生きていたい。あんな奴らと一緒にいたくない。とにかく目立ちたくない……のに。



 委員会終了後……
 
「あきおー!部活一緒にいこーぜ!」

 教室に入ってきた村上哲成。ニコニコで松浦暁生に飛びついている。それを横目に、さっさと教室から出ようとしたところ、

「キョーゴ!キョーゴ!お前も一緒に!」
「は?」

 呼び止められ、思いきり眉を寄せてしまった。絡んでくるなよ、眼鏡チビ。

「ほらほら!野球部とバスケ部、部室一緒だしさー」
「…………」

 確かに一緒だけれども、部室は中で仕切られているし、荷物置きにしか使用しないので、一緒感はない。

 ……なんて言って、断るのは得策ではない、と瞬時に判断する。委員長となった松浦と仲の良い村上。松浦に悪印象を持たれて目をつけられるのも厄介だ。大人しく立ち止まって待っていると、

「おれも一緒に行くー」
「!」

 ピタっと渋谷に横に引っ付かれてビビってしまった。そんな風にされるほど仲良くないのに、周りからみたらすごく仲良しみたいで嫌だ。

 そんなオレの内心を読んだわけではないだろうけど、渋谷は今度は村上にくっつくと、「テツは委員会何にしたんだ?」と聞いている。二人は友達らしい。

「合唱大会実行委員! 3年でやるって決めてたんだよ!」
「なんで?」
「歌いたい曲があるんだよー」

 小さい二人がつるんでいる姿は、なんか和む。それを保護者のような目をして見守っている松浦も、なんか良い。

(だから、お前らはお前らでくっついてろ。オレを巻き込むな)

 そう思って心持ち離れて歩いていたのに、

「キョーゴ!早く来いよ!」
「……………」

 眼鏡チビが振り向いて、でかい声で呼びやがった。

「………。おお」

 一応、返事はしたけど、あまり追いつかないようにする。

(お前ら派手な連中とはつるみたくないってのに……)

 ああ、この眼鏡チビ。本当に迷惑極まりない奴だ。



---

お読みくださりありがとうございました!
新キャラです。ドキドキです。
でも、私的には懐かしい子達(←高校生の時にノートに書いてた子達なので)。
あれから26年ほどの月日を経て、このように世に出せることが不思議で嬉しくて有り難くて。
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BL小説・風のゆくえには~あの頃の君に会えたら

2018年08月17日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

新作準備間に合わなかったので、慶&浩介の短い読切をお送りします💦




2018年8月14日(火)


【慶視点】


 夏休み中の浩介と一緒に実家に顔を出したところ、妹の南とその娘の西子ちゃんもいた。二人は昨日から泊っているらしい。それで、

「見て見て~! かわいいでしょ~?」
「浩兄、どうどう? これ!」

 二人してニヤニヤしながら見せてきたのは3冊のポケットアルバム……

「なんだこれ?」
「お兄ちゃんの中学のバスケ部時代の写真♥」
「は!?」

 なんでこんなにたくさん!?
 撮られていることに気がついていないのか、目線はまったくカメラを向いていない。どうやら試合の日の写真のようだけれども、試合中よりも、試合後、仲間に囲まれているものばかりだ。

「こんなの初めて見た……」
「そりゃそうよ。初めて見せたんだもん」
「は?」
「いや~昨日の夜、部屋の片付けしてたら出てきたんだよ。コッソリ撮りためてた作品の数々が!」
「はああ?」

 こんな写真いつ撮ったんだよ! って言うか、何のために撮ったんだよ! 我妹ながら、いつもながら意味がまったく分からない!

「わ~、慶、可愛い………」
「何だと!」

 ポヤンと言う浩介の脇腹をガシガシ小突いてやる。

「どうせチビだよ!どーせ!チビだよ!バスケ部の中だと余計に断トツ小さいからスゲー嫌なのに!」
「痛い痛い痛い」

 あはは、と笑いながら、浩介がアルバムをめくっていき、ふ、と手を止めた。

「あ、でも、この子、慶と同じくらいじゃない?」
「これは上岡武史だ!」

 浩介も知っている、おれ達と同じ高校だった武史。

「こいつ中2から急にでかくなるんだよっ」
「あ、確かに面影ある……。へえ、本当に小さかったんだね。今、180以上あるよ?」
「うっせーよ!」

 あー、嫌だ嫌だ。客観的に見ると、本当にチビだおれ……

「南!だから何なんだよ?この写真はっ!」
「私達的に美味しい写真。ね~?」
「ね~?」

 母子でうなずきあっている南と西子ちゃん。意味が分からない……。

 でも、浩介はウンウンと深くうなずくと、

「確かにね……。おれ的には面白くないなあ、正直……」
「あら、浩介さん、嫉妬? 中学生に?」
「そりゃあね……」

 浩介はジーっと写真を見ている。試合に勝ったあとらしく、仲間達に揉みくちゃにされて笑っているおれが写っている写真……

「この写真……おれも一緒に写ってればいいのにって思うよ」
「…………浩介」

 浩介は辛い中学時代を送っていたらしいので、思い出させたくない……

 さりげなく座り直して、浩介の膝に膝をくっつけると、気がついた浩介が、何かホッしたような顔になっておれに笑いかけてきた。

「でもおれ、中3の時の慶、見たことあるんだよ。ねー?」
「ああ……そうだな」

 おれもホッとして、3冊目のアルバムに手を伸ばした。

「これ、順番通りに入ってんのか?」
「あ、うん」

 南はうなずいてから、ポン、と手を打った。

「そっか。浩介さん、中学生の時、試合中のお兄ちゃん見てファンになったとか言ってたもんね」
「え、それ、どの試合?」

 西子ちゃんも一緒になってアルバムをのぞきこんできた。

「おれが怪我した日の試合だから、一番最後なはず。おれそのまま引退したから」
「じゃあ……ここからかな?」

 ペラペラとめくられていく。懐かしい光景。正直、記憶は断片的過ぎて、チームメイトの名前も正確には思い出せない……

「この年の3年生、みんな背高いんだよね。お兄ちゃん以外」
「悪かったな!」

 ああ、ホント、チビ過ぎて嫌になる……
 あらためて、ドップリ落ち込んでいたところ、浩介がホウッとため息をついた。

「慶……キラキラしてるね」
「なんだそりゃ」

 前にも言われたな。キラキラしてたって……

「おれねえ、本当に感動したんだよ。こんなに眩しい光、見たことないって」
「………………」

 なんて返事をしたらいいのか分からない……。

 南と西子ちゃんはなぜかニヤニヤと肘でつつきあっている。何なんだよこいつら。

「あー……………」

 何だかいたたたまれなくて、わざと写真を丁寧に見ていて……見ていて……見て……………………………、

「あああああああ!!!」

 思わず、大声で叫んで、アルバムを持って立ち上がってしまった。

 だって………だって、この写真!!

「な、何、慶……」
「どうしたのお兄ちゃん」
「慶兄?」

 ハテナの顔をした3人の目の前のテーブルに、バンっとアルバムを叩きつけてやる。

「これ、見ろ!」

 指でさしてやる。試合終了の挨拶をした直後らしいその写真の一番端。体育館のドア横の人だかりの中に………

「浩介! お前、写ってる!」





【浩介視点】


「浩介! お前、写ってる!」

 そう、慶に叫ばれ、あらためて写真を見て……

「うそ…………」

 ビックリしすぎて、息をするのも忘れてしまった。思い出す。あの時……確かに、おれが立っていたのはこのドアの横だ。この角度から慶を見ていた。おれだ……本当に、おれだ。真面目な顔をして、慶のことを見ている………

「おれだ……これ」
「だよな?だよな!」
「うわ。うそ、すごい!」
「わ~~私、天才!」

 慶、西子ちゃん、南ちゃんがそれぞれわあわあ言う中、おれはひたすら、呆然としてしまって……………


「浩介? どうした?」

 トントン、と肩を叩かれて、ハッとした。いつの間に南ちゃんと西子ちゃんはいなくなっている。

「二人とも飯の準備に呼ばれてあっちいったけど、お前どうする?」
「………………」

 慶………、慶が、いる。

「慶……………」
「どうし………、わ、お前、なに……っ」

 我慢できなくて、慶の温かい手をぎゅっと握りしめる。

「慶………」
「何だよ?」
「………慶」

 おれ………本当に、慶と同じ時間を過ごしていたんだね。この写真が、その証拠。

 笑顔の慶を、ただ見ていただけだったおれが、今はこうして、その手を握っている。

「慶……おれ、この頃の慶に会えたら……」
「……………」
「こうして触れたいな」

 ぎゅっぎゅっとすると、慶は、ふっと笑って、

「そうだな。おれもこの頃のお前に出会えたら……」

 ぎゅっと握り返してくれた温かい手。

「すぐに友達になって、親友になる」
「慶………」

 慶……。キラキラしてるところ、変わらないね。

「うん。それから……恋人になろうね?」
「………だな」

 くすくすと笑いあう。

「嬉しい。こんな風に一緒の写真に写ってるなんて奇跡」
「だな」
「しかも!」

 あらためてその写真を見て思う。

「ちょうど、慶が誰にも触られてない写真だから、余計に嬉しい!」
「なんだそりゃ」

 触られるのはチームメイト同士のコミュニケーションであって、そういうことじゃねーだろ。

と、ちょっと呆れたように言った慶。分かってないなあ。

「いやいや。設定的に美味しすぎだよ。小柄美少年総受けとか」
「は?」

 ピクリと頬をあげた慶。

「なんか意味わかんねえけど、『小柄』だけは分かったぞ? 悪かったな!小柄で!」
「わー、ごめんごめんっ」

 蹴ってくる足を何とか止める。本気で気を悪くしている慶が可愛い。


 あの日、おれの人生は変わった。変えてくれた慶と共に、今を生きている。

 写真の中のおれに伝えてやりたい。お前の人生はこれからだと。だから、大丈夫だと。

「慶、大好きー」
「あほか!」

 我慢できずにキスをすると、慶が更に真っ赤になって怒って……それから笑いだした。おれも一緒に笑ってしまう。


 その光と共に生きる人生がやってくる。
 だから、君は大丈夫。

 
 

---


お読みくださりありがとうございました!
本当は新作の人物紹介を、と思っていたのですが、間に合わず、浩介と慶の小話をお送りいたしました。

新作は、上記話の写真が撮られた頃……慶が中3の時からはじまります。この写真にも一緒に写っている村上君という男の子が主人公です。

お時間ありましたら、お付き合いいただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。


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BL小説・風のゆくえには~時効の話・後編

2018年08月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
 

*『閉じた翼』『翼を広げて』のネタバレになってます。だから今さらその話ってことで『時効の話』、です。

***



「昔、今の山崎と同じようなこと、渋谷も言ってたなーと思ってさ」

 苦笑いを浮かべながら言った委員長の言葉に、ポカンとしてしまう。

 今の山崎と同じようなことって……

『オレはただ、一緒にいられるだけでよかったのに………』

 なに、それ。知らない……

「それ、いつの話……?」
「えーと……『全員30歳になった記念同窓会』の時だから……何年前だ?」
「…………」

 30歳……おれが慶を置いてアフリカに行っていた時期だ。

「渋谷がそんな話? 全然覚えてない」

 溝部がキョトンとして委員長を見返すと、委員長は軽く首を振った。

「オレしか聞いてない。というか、渋谷も酔っぱらってたから覚えてない」
「え」

 酔っぱらってた?

「渋谷さ、今の山崎みたいに、こう突っ伏して……、独り言みたいに言ってたんだよ。すごく……つらそうに」

 慶……

 膝枕の慶の頬にそっと触れると、慶は条件反射的におれの手を掴んで口元に抱え込み、満足したように微笑んだ。その幸せそうなこと……!

「良かったな。渋谷」

 優しく、委員長が言ってくれた。
 ああ、でも、あの頃の慶は……

「え、意味わかんねえ。お前ら高校の時から一回も別れたことないって言ってなかったっけ?」

 溝部に眉を寄せられ、おれも首を振る。

「別れてはないけど………離れてた時期があるんだよ。おれはアフリカにいて、連絡も全然取らなくて……3年間で一回しか会わなかった」
「は?」

 ますます溝部の眉が寄った。

「何だそれ。アフリカったって連絡くらいできんだろ」
「そうなんだけど……」

 あの頃のおれは、慶に連絡することはできなくて……

「それ……桜井が離れようと思って離れたってこと?」

 山崎がのっそりと頭を上げて聞いてきた。

「何で? ……って、聞いてもいい?」
「それは………」

 それは………

 言い淀んだところで、委員長がまたアッサリと言った。

「自分の可能性を試したい、だよな?」
「え」
「渋谷がそう言ってた」
「………あ」

 うん。うんうん。と、勢いよく肯く。

 そう。表向きの理由はそうだった。そんなカッコイイことを言って出て行ったんだった。
 でも、本当は、慶に対する異常な執着と、親の過干渉と、仕事の行き詰まりから逃げ出すためだった。

 でも、それも、もう、大丈夫。おれには慶がいる。慶がいてくれるから、大丈夫。

 空いている方の手で、慶の頭をそっと撫でる。愛しい、愛しい慶……


「で? 3年試して帰ってきたってことか?」

 まだ眉を寄せたままの溝部に、軽く首を振ってみせる。

「帰ってきたっていうか、今度は一緒にいってもらうことにしたの」
「あ、それが東南アジアに8年だか9年だか二人で住んでたって話に繋がるのか」
「うん」

 そう。おれはケニアで慶と一緒にいられる自信をもらって、今度は一緒に旅立ったんだ。もう、絶対に離れないって誓って。

「お前、何かすげえな。音信不通の中、ずっと待ってた渋谷も偉いと思うけど」
「あ……うん」

 胸がぎゅっと苦しくなる。
 あの時のおれは自分のことしか考えられなかった。慶には仕事もあるし、友達もいっぱいいるから、おれなんかいなくなっても大丈夫、としか思わなかった。でもその間、慶は……

「だよな。渋谷、偉いよな」

 委員長が引き続き苦笑して、言った。

「あの時の渋谷は本当に、なんていうか……切なかった」
「………」

「いつまで待ってるんだ?って聞いたら、『ずっと待ってる』ってさ」
「………」

「『応援してる』って。でも、最後には本音言ってたけどな。『一緒にいられるだけでよかったのに』って」
「………」


 慶……

 胸が……痛い……


 シン……とした空気の中、


「かといって、山崎。お前は、渋谷みたいに3年待ってる場合じゃないからな?」

 ピシッとした委員長の言葉に場の雰囲気が変わった。

「3年も待ってたら、シュウ君、3歳になるぞ? この時期の子供の成長は早いからな。一緒に暮らせる環境にあるのに離れて暮らすなんて、勿体ないだろ」
「………うん」

 今や小学生の子供2人の父親である委員長の言葉には説得力がある。

「あー、じゃあさ!桜井!」

 ポンと手を打った溝部。

「お前、渋谷に何ていわれたら、行くのやめてた?」
「え」

 何ていわれたら……

「ええと……」

 あの時、慶は引き止めてくれたけど、おれは行くことをやめられなかった。だって、慶にはおれ以外に大切なものが色々あって……。あ、だから……そうか。

「全部捨てるって言ってくれたら……かな」

 そうしたら、連れて行ってたかな……。本当のところは分からないけど……でも。

「だから、おれ、3年後に迎えに来た時には、『全部捨てて』って言ったんだ」
「………え」
「それで慶は病院辞めて、おれについてきてくれたんだよ」

「…………」
「…………」
「…………」

 あ……。なんか、シーンとしちゃった……


「桜井と渋谷ってさ……」

 マジマジと溝部がおれ達を見ながら言った。

「桜井がすげー尽くしてるって印象しかなかったけど、実は渋谷の方が尽くし体質?」
「そういえば、渋谷が1年以上片想いしてたって言ってたもんな」
「全部捨てる……かあ」

 うーん、と3人3様に言ってから、はっとしたように、溝部が叫んだ。

「いやいやいや、山崎! お前は捨てるな! 公務員辞めたらもったいないぞ!」
「あ、でも」

 対照的に淡々と委員長が言った。

「育休取れないのか? オレの知り合いの役所勤めの奴、育休取ったって言ってたぞ?」
「あ、なるほど」

 そうか。最近では男性の育休も認められはじめてる。良いアイデア!

 ……と、思いきや、山崎はショボンとして、

「それ、菜美子さんに提案したんだけど、余計に嫌って言われちゃって」
「……そっか」

 うーん……、と今度は4人で唸ってしまう。
 結局、結論のでないまま、お開きとなった。

 慶は最後までおれの膝枕で、くーくー寝ていた。


 と、思いきや。


 皆をマンションの出入口まで見送って戻ってきたら、慶がダイニングの椅子に座って携帯をいじっているから驚いて叫んでしまった。

「ごめん!出ていく時うるさかったから起きちゃった?」
「いや、そのちょっと前から起きてた」
「………………………。え?」

 ちょっと前? って、いつ!?

「変な話してたから、なんか起きたって言い出せなくてさ」
「変な話……」

 って、ど、どこから聞かれてたんだろう………
 気になるけど、藪蛇になりそうだから、怖くて聞けない。怒ってる様子はないから、前半は聞かれてないのかな……

「何してるの? メール?」

 話をそらすために尋ねると、慶は軽くうなずいた。

「余計なお世話だけど、戸田先生に連絡してみようと思って」
「え」 

 珍しい。こういうことには絶対に口出ししない人なのに。

「珍しい………」

 思わず呟くと、慶は画面からは目を離さず、ボソッと言った。

「おれ、今の山崎の気持ち、分かるからさ」

 小さく小さく言った慶。

「だから、何とかしてやりたくて」
「………………」
「第三者が客観的に、今の状況を言ったら、ちょっとは山崎の気持ちも伝わるんじゃないかと思って」
「慶…………」

 無表情を装ってメールを打っている横顔。たまらなくなって、後ろから抱きしめた。

『一緒にいられるだけでよかったのに』

 そう、言っていたという慶………

 おれが慶を置いていったという事実はどうやっても消えない。
 でも……、でも、慶。おれはあの時、ああするしかなくて………

「…………慶」
「なんだ」

 メールを打ち終わったらしく、慶はテーブルに携帯を置くと、おれの腕を掴んで顎をグリグリと押し付けてきた。愛しさと申し訳なさが込み上げてくる。

「慶……ごめんね」
「何が」
「慶を置いてケニアにいったこと」
「…………っ」

 ビクッとなった慶を、更に強く抱きしめる。

「慶……、前に、あの頃のこと思い出すと、穴に落ちていくみたいな感覚に陥るって言ってたけど……」
「……………」
「まだ、そうなる?」
「……………」

 しばらくの沈黙の後、慶はふうっと大きく息をついた。

「ならない、といえば嘘になる。でも、だいぶマシにはなってきた」
「……………ごめんね」
「いや………」

 くるりと体を反転させてこちらを見上げた慶。

「おれこそ、ごめん。あの頃のおれは自分のことに手一杯で、お前に甘えっぱなしだった。………まあ、今も甘えてるけど」
「……もっと甘えてよ」

 慶の脇の下に手を入れて、えいっと持ち上げると、慶も腕をおれの首に絡ませて、足を腰に回して、しがみついてくれた。そのままゆっくりベッドに移動する。

「おれはさ……」
 ぎゅうっと腕に力を入れながら、慶が言う。

「おれは今、こうして一緒にいられるのは、あの3年があったおかげだって、思ってる」
「慶………」

「でも……もう2度とあんな思いはしたくないし、正直、思い出したくない、とも思ってる」
「うん……」

 耳元で聞こえる慶の声は真剣そのものだ。

「だからこの件は、もう、時効ってことでいいか?」
「……え」

 時効って……さっきの委員長のセリフだ。ってことは……

「慶、そんな前から起きてたの?」
「は?」

 訝しげな声。

「何の話だ?」
「だから、時効って、さっき委員長が……」
「委員長?」

 首をかしげられ、はっとして口を閉じた。しまった。単なる偶然らしい。これつっこまれたら、藪蛇になる。慶は人にプライベートを知られることを嫌がるので、あんな話をしたってバレたら………

「だから何だよ?」
「何でもない何でもない!」

 若干乱暴気味に、慶ごとベッドに身を投げる。

「時効。時効。そうそう、時効。だから、もうこの話はおしまい!」
「何………」

 何か言いかけた慶の唇にチュッと唇を重ねる。

「おれはもう2度と、慶から離れるなんて選択しないから」
「当たり前だ」

 ムッとしたように慶は言うと、力任せに体勢を逆転してきた。

「お前、今度そんなことしたら……」
「追いかけて、捕まえてくれるんだよね?」
「………。分かってんじゃねえか」

 今度は慶の方から唇を重ねてくれる。

「ずっと、捕まえててやる」
「うん」

 もう一度、今度は深く……

 おれはずっと、慶に捕まったままだ。これからも、ずっと。



 それから3日後。
 山崎から、戸田先生と息子のシュウ君が、うちに戻ってきてくれた、と報告があった。

「迎えに行って、泣き落としをかけた」

と、いうことだけど、きっと、慶から戸田先生へのメールの効果もあったんだろう。でも、それは内緒にしておく。何年かたって、時効が来たら、教えてもいいのかもしれない。




---


お読みくださりありがとうございました!
こんなまったりしたお話にお付き合いくださり、本当にありがとうございます!

実はこの話、前からずっと書きたかったのですが、山崎君のとこの秀一(シュウイチ)君が、生後3ヶ月になるまで我慢我慢……と我慢してて、今になりました。
浩介と慶。今だから話せるあの頃の話、でした。


さて、次回からなのですが……
先日、自分の古いネタ帳を見ていて、これ書こうかな……と思った話がありまして。
準備に時間がかかりそうなので、次回金曜日はとりあえずその話の登場人物紹介だけでも載せられれば……と思っています。
慶と浩介はあまりでてきません。

慶と浩介の出会いの話『遭逢』の2、で、高校のバスケ部に関して、

<『渋谷慶』と同じ中学出身のチームメイトは2人いた>

と、浩介が言っています。
そのうちの1人は、上岡武史という慶のライバルで。
金曜日からはじまるお話は、武史じゃない方の、もう1人の子の話です。
この子の話を書く日が来ようとは……って、すっごい自己満足ー^^;
お時間ありましたら、お付き合いいただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。


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BL小説・風のゆくえには~時効の話・前編

2018年08月10日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切


2018年8月9日(木)


【浩介視点】


 慶は酔うと寝てしまう。
 本人も分かっていて、外での飲み会の時はかなり飲む量をセーブしているらしい。だから、家飲みだと気にせず飲めていい、と言って、気にせず飲んで、すぐ寝る……。年々、その時間が早まっているのは、さすがの慶も歳を取ったということなんだろう。

 でも……

「こいつ、ホント変わんねえよな。一人だけ時間進むの遅くね?」

 高校の同級生、溝部がローテーブルに突っ伏して寝ている慶の横顔を見ながら羨ましそうに言った。

「風呂上がりに特別なケアとか……、しないか」
「うん。してない」

 面倒くさがって髪の毛も乾かそうとしない慶が、そんなことをするわけがない。体を鍛えることには、時間を惜しまないのに、外見には本当に無頓着なのだ。こんな完璧な美形のくせに……

「慶のうちって、お母さんもお姉さんも妹さんも見た目若いんだよ。遺伝子的に若いのかも」
「あー、そういう家系ってあるよな」

 長谷川委員長が納得したように肯いた。

「お父さんはわりと普通だよね」
「あ、うん。そうだね」

 弟さんの家が慶の実家と近い関係で、慶の家族を知っている山崎の言葉に同意する。慶のお父さんは年相応な気がする。

「ん……」
「あ、慶」

 みんなに注目されたせいか、慶が小さく唸りながら身じろぎをしたので、トントン、と肩を叩いてやる。

「慶、腕痺れちゃうよ? 寝るならベッドに行ったら?」

 誰もいなければ横抱きにして連れて行くところだけど、みんなの前では慶が嫌がるかな……と思って、声をかけたところ、

「あー、うん……」
「え」

 身を起こした慶の頭が、そのままストンと隣に座っているおれの腿の上に落ちてきた。膝枕、だ。

「………あ」

 まずい。溝部に「人前でイチャイチャするな!」とツッコマレル、と思って身構えた。………けど、

「本寝だな、こりゃ」
「渋谷ってすぐ寝るよね」
「それが若さの秘訣か?」

 みんな膝枕に関しては何も言わないでくれたので、このままで大丈夫みたいだ。溝部も結婚して1年以上たつし、12月には子供も生まれるっていうし、人のこととやかく思うことがなくなったのかな……

 慶はいつもみたいに丸くなって、安心したようにくーくー寝ている。ああ、可愛い。可愛すぎる………


「幸せそうな顔してるな……」

 山崎がボソッと言った。山崎は今日はずっと元気がない。さっき理由を聞いたときは誤魔化していたけれど……

「だから、山崎。今日のお前のそのテンションの低さは何なんだよ? いい加減、話せ」
「…………あ、うん……」

 溝部に詰め寄られ、ようやく、ポツリポツリと話し出した山崎。アルコールも回ってきて、話す気になれたのかもしれない。

 なんでも、奥さん(慶の元同僚で、おれの主治医だった戸田菜美子先生だ)が、5月に生まれた赤ちゃんを連れて、また里帰りしてしまったそうなのだ。

「自分達がいると、オレに迷惑がかかるからって……」

 仕事から帰ってきた山崎が、赤ちゃんの世話や家事を熱心に手伝ったことで、逆に戸田先生に申し訳ないと思われてしまったそうで……

「なんだそれっ!」
 溝部が驚いたように叫んだ。

「んじゃ、手伝わないほうが良かったのか? 先輩、どうなんだそれ?」

 溝部に振られた委員長は、うーん、とうなると、

「もしかして………、山崎、子供の世話、奥さんより上手い?」
「それはまあ……甥っ子をよく預かってたから慣れてるというか……」

と、口ごもった山崎に、委員長がうなずいた。

「そういうのもあるかもな。奥さんは初めての育児で思うように出来ないのに、仕事から帰ってきた旦那にサクサクこなされて、余計に落ち込んだ、とか……」
「………」
「奥さん、完璧主義っぽいもんな?」
「………」

 言い返せない山崎。おれもなんとも言えないけれど……。

 シン、としてしまった中、いつものように、溝部が「そういえばさ!」と雰囲気を変えるように明るく言った。

「今思い出したんだけど、うちの鈴木も、結婚した当初は、自分が出張の時、おれが陽太と留守番するの、申し訳ないってすげー謝ってたぞ」

 今じゃそんな低姿勢な言葉、考えられないけどな! と笑った溝部。溝部は高校の同級生の鈴木さんと結婚して、鈴木さんの息子の陽太君の父親になった。家族3人とても仲が良い。だから……、

「今じゃ考えられないって、それは『申し訳ない』から『ありがとう』に変わったんじゃない?」

 言うと、溝部はキョトンとしてから、いきなりバシバシおれのことを叩いてきた。

「いいこと言うね~桜井先生! そうだな! ありがとうに変わった!」

 楽しそうに笑った溝部。と、同時に、山崎がローテーブルに突っ伏した。

「オレは……ありがとうもいらない」
「……………山崎」

 再びシンとした中に、山崎の辛そうな声が響き渡った。

「オレはただ、一緒にいられるだけでよかったのに………」
「……………」
「……………」
「……………」

 山崎…………

 さすがの溝部も何も言えず黙ってしまったところ………

「あ」

 いきなり、長谷川委員長が「あ」と言った。

 何だ?と、視線を向けたけれど、委員長は口に手を当てて、天井を見ている。なんだなんだ?

「何?」
「何だよ?」

 おれと溝部が同時に言うと、委員長はなぜかおれの膝の上の慶に視線を向けて………それから、「まあ、いいか」とつぶやいた。

「ま……、時効だよな」
「え?」

 時効?

 委員長は苦笑いを浮かべると、意外なことを言った。

「昔、今の山崎と同じようなこと、渋谷も言ってたなーと思ってさ」




---

お読みくださりありがとうございました!
前後編に分けることにしました。
こんなマッタリ話、誰得? いいの。私が読みたいからいいの。と、いつもの自問自答をしつつ……

そういえば本日はブログ開設12周年記念日でした。お付き合いくださり誠にありがとうございます。

後編は火曜日の予定です。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

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