創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~バレンタインデート♥

2018年02月27日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

今年(2018年)のバレンタインの夜のお話。
ラブラブ全開の二人です♥

----------


【浩介視点】


 今年のバレンタインは、慶が食事に連れてきてくれた。
 慶が勤める病院から歩いて15分くらいのところにある日本料理屋さんで、年末に院長の峰先生に連れてきてもらって知ったそうだ。

「絶対にお前も気に入る」

 との言葉通り、三十席程度の店内は木目を基調とした落ち着いた雰囲気で、料理も盛り付けが美しく味も上品で、どれも和食の粋を極めていて、すっかり気に入ってしまった。おれ達はカウンターの席に通されたのだけれども、そこからは板前さんが料理しているところが見られて、これもまた興味深かった。


「バレンタインに食事って久しぶりだねえ」
「そうだなあ……去年と一昨年はうちに溝部が来たよな」
「今年はさすがにないみたい」

 おれ達の高校の同級生の溝部は、昨年春に、長年拗らせた恋を実らせて、同じく同級生の鈴木さんと結婚したのだ。鈴木さんの息子の陽太君ともあいかわらず上手くやっているようで……

「さっき、ラインがきたんだよ。バレンタインのチョコの数、10対6で陽太君に勝ったってさ」
「なにを小学生と競ってるんだ、あいつは……」

 慶は呆れたように言ってから、見せてあげたその後の文章を読んでくすくす笑いだした。

『数では勝ったけど、陽太は本命2つだから、なんか負けた気がする』

「って、鈴木以外から本命もらっても困るだろ」
「だよね………って、あ!」

 そうだそうだ!

「慶は今年、大丈夫だった?」
「何が?」

 キョトンとした慶の腕を腕で軽く小突いてやる。

「何がって本命チョコだよ。まさかもらってないよね?」
「あー……」

 口ごもった慶。
 え?! なんで言い淀んでんの?!

「まさか慶……」
「あー、ちゃんと断ったから大丈夫」
「は?!」

 しれっと言った言葉にアワアワしてしまう。
 おれ達、結婚はできないけど、結婚指輪してるし、ちゃんと周りにも言ってるし。それでもチョコ渡してくるって、どんだけ図々しい女……、って、女とも限らないのか?! まさか男?!

「ちょっと、慶、それって……」

 詰め寄ったところで、慶がアッサリと言った。

「小学校2年生の女の子なんだけどな。本命チョコだって言うから、申し訳ないけど本命は受け取れないって断った」
「……………」

 …………。

 ああ……、そうですか。

 ホッと息をついだけれど、慶は真面目な顔をしたまま続けた。

「そしたらその子、泣いちゃってさ。お母さんには謝られるし、あとから峰先生には『もっと上手くやれ』って怒られるし、散々だった」
「そっか…………」
「でも、相手が子供でもなんでも、本気の思いは受け取れないから」

 慶は、淡々と、何でもないことのように、言葉をついだ。

「おれにはお前がいるからな」
「…………」

 うわ……

 うわ……

 どうしてこの人、こういう風にアッサリと凄い言葉を言ってくれるんだろう……

「慶………」

 抱きしめたい……けど、我慢我慢……。

 さっきから、おれ達とは反対側の、L字カウンターの端に座っているOL風の女性二人が慶のことをチラチラ見ている。ここで変なことはできない。

 慶はとにかく目立つので、こうして見られることには慣れっこだ。あの子たちにはおれ達はどう見えているんだろう? 仕事帰りのサラリーマンってところかな……二人ともスーツ着てるし。どう考えても、カップルだとは思ってもらえないだろうな。


「あとはデザートだな」
「デザート!」

 コース料理の最後のデザート!
 慶の声に我に返る。そうだ。せっかくのバレンタインデート。他人の目なんか気にしないで楽しまないと!

「慶、ありがとうね。素敵なお店に連れてきてくれて」
「おお。また来ような?」

 カウンターの下、コンッと膝をぶつけてくれた。ああ……幸せだ。



**



 店から出て、駅に向かっているところで、後ろから「すみません!」と声をかけられた。嫌な予感がしつつも振り返ると……

(………。やっぱり)

 予想通り、さっきの店でカウンターの端に座っていたOL風の女性二人が立っている。これ確実に、逆ナンパだ……

「はい?」
 逆ナンパされるっていうことは、まったく予想していないだろう慶が「何か?」と問いかけると、二人は顔を赤くしながら、代わる代わるに言った。

「あのっ、二軒目ご一緒しませんか?」
「この先に美味しいワインのお店があるんですっ」

 …………。

 …………。

 バレンタインなのに、男二人で寂しく食事してる、とでも思われたんだろうなあ……
 なかなか綺麗な女性達だ。こうして声かけてくるなんて、自分に自信もあるんだろう。普通の男性ならホイホイついていくんだろうけど……

「あー……」
 黙っている慶に代わって、何か適当なことを言って断ろうとしたところ……

(……え?)

 いきなり、慶に手を掴まれて、言葉をとめた。

(慶?)

 なんだ? と、思ったら……

「すみません」

 キッパリとした口調で、慶が言い切った。

「おれ達、今、デート中なんで」
「!」

 け、慶……っ

「え?」
「は?」

 呆気にとられたような顔をした女性達。そりゃそうだろう。っていうか、おれもビックリしすぎて息が止まった。

 そんなおれに気がついているのかいないのか、慶は何もなかったかのように振り返り、

「行くぞ?」

 ぐいっと引っ張ってくれた。いつでも力強く包み込んでくれる手……

「うん」

 その温かい手を握り返すと、愛しいその人はふわりと笑ってくれた。


***


「そういやさあ……」

 その日の夜、ベッドの中で慶がポツリと言った。

「お前はどうだったんだ?」
「何が?」
「本命チョコ。もらってないだろうな?」
「…………」

 慶、口が尖がってる。かわいい……

「何笑ってんだよ」
「痛い痛いっ」

 蹴られてさらに笑ってしまう。

「もらうわけないでしょ。おれには慶がいるんだから」

 今日言ってもらったセリフをそのまま返すと、

「そっか」

 チュッと軽いキスがおりてきた。

「じゃあ、いい」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

 手を握り合って、オデコをくっつける。いつものように、すぐに聞こえてきた寝息に幸せが広がる。

「またデートしようね?」

 額にキスをして、抱き寄せると、慶からもきゅっと抱きついてくれた。





---------

お読みくださりありがとうございました!
あ~幸せ~♥

次回からもお時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
どれだけ励まされたことか………。心から感謝申し上げます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~自慢の彼氏(後編)

2018年02月20日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【慶視点】



 うちの両親、気がついたら浩介のことを「コウちゃん」と呼ぶようになっていた。

 何で?と聞いたら、

「桜井さんのお宅は、カミングアウトっていうの? してないんでしょ? だから、慶の彼が『桜井さんのところの浩介くん』だって知られたらマズイかな、と思って」

と、言われた。

 浩介の実家とうちの実家は最寄り駅が隣だ。だから、母のフラダンス教室のメンバーや、父の絵画教室の仲間の中に、浩介のうちの最寄り駅の人もいるそうで、今のところ桜井家の知り合いの人はいないけれど、今後どう繋がるか分からないから用心のため、だそうだ。

「本当に知られないようにするなら、誰にも言わない、誰にも会わせないってすればいいんだけど、それも何か違うと思ってねえ」

 そういうわけで、ウッカリ「浩介君」と言わないために、普段から「コウちゃん」と呼ぶことにしたのだそうだ。


 浩介は「コウちゃん」と呼ばれることに対して、「なんだかくすぐったい」と言っていて、

「おれ、こういうあだ名みたいなので呼ばれるの、生まれて初めて」

と、嬉しそうだ。だから理由は言わないことにした。




 2月11日、日曜日。

 母の通っているフラダンス教室の発表会に、浩介と一緒に行った。こんな真冬にフラダンス?と思ったけれど、この日は良く晴れて日射しも暖かくて、母のお天気女っぷりは健在だと感心してしまった。

 正直、フラダンスなんてよくわからないし興味もない。けれども、母が元気で楽しそうだから、それだけで満足だ。
 乳癌の手術から3年……ひたすら前向きな母は、少しも後ろを見ようとしない。見ているのかもしれないけれど、おれ達にはそんな素振りを一切見せない。そんな母に、フラダンスの明るい光はとてもよく似合っている。


 発表会終了後、ロビーのあちらこちらで出演者と観客とで輪ができはじめた。おれ達も、父、姉夫婦、妹、妹の娘、と一緒に、母が来るのを待っていたのだけれども、

「あれ? お母さん、呼んでない?」

 浩介がロビーの端を指さした。赤とオレンジの花柄のドレスと赤い花の髪飾り、という衣装の一団の中にいる母が、おれ達に向かって手招きをしている。

「え、あそこに行けってのか?」
「あ~、みんなに紹介する的な?」
「げー」

 顔を見合わせたおれと妹の南に、椿姉が「行ってあげましょう?」と笑って言ったので、渋々、みんなでぞろぞろ移動する。と、

「慶君!慶君!久しぶり!」
「あ……どうも」

 一団の中から声をかけられた。近所に住んでる坂井さんだ。この人に誘われて、母はフラダンスをはじめたらしい。

「やだー、あいかわらずイケメンね~」
「わ!息子さんなの?! こちらは娘さん?」
「えーと……」

 7人ほどいる同じ衣装のオバサンたちに言われ、母がニコニコと指さし紹介をはじめる。

「主人、それから、長女の椿とその旦那さん。次女の南とその娘の西子。高校2年生」

 指さされた父、姉、近藤先生、南、西子ちゃんが、「どーも」とか「こんにちは」とか言いながら頭を下げている。そして、

「で、これが、長男の慶と……」

 言いかけて、母が、おれの後ろの方に向かって叫んだ。

「コウちゃん!何してんの!もっとこっち来て!」
「あれ?」

 いつのまに、輪から離れていた浩介。何やってんだ?あいつ。

「早く!」

 母に急かされ、慌てたようにやってきた浩介がおれの隣についたところで、

「この子が慶の彼氏のコウちゃん」

 母が、あっさりと紹介した。途端に、周りのオバサンたちがわあっと盛り上がった。

「噂のコウちゃん!」
「原稿ありがとうね~助かったわ~」
「次もよろしくね!」
「え……あ……」

 オバサン集団に囲まれて、呆然としている浩介。そりゃ呆然とするだろう。四方八方から勝手に話かけてくるオバサン達の迫力には誰も敵わない。

「浩兄、かわいそうに」
「餌食だ餌食」
「生贄?」

 くくく、と小さな声で、南と西子ちゃんが笑いあっている。
 おれもつられて笑いそうになったけれど、いかんいかん、と頬を叩く。助けてやらなくては。

「南、カメラ持ってきてるよな?」
「え」

 返事を聞く前に、「皆さーん!」と手を叩いて、注目をこちらに向けさせる。

「写真撮りましょう写真! 並んでくださーい!」

 途端に、きゃあっと華やぐオバサンたち。

「やだーお化粧直したーい」
「美人に撮ってね!」
「こう、ほら、下から光を当てないと」

 まるで女子高生のようにキャアキャア言い合っているオバサン集団の中から浩介を救出し、写真撮影は南に押しつけて、一歩二歩、と後ずさる。

 少し離れたところで、高みの見物をしていた父のそばにいくと、

「やあ、大変だったね」

 父がニコニコと浩介に言ってきた。

「でも、うちの母さん、コウちゃんのことみんなに紹介したくてしょうがなかったみたいだから、これで満足したんじゃないかな」
「え………」
「なにそれっ」

 きょとんとしている浩介に代わって、父に文句を言ってやる。

「お父さん、こうなること分かってたんなら止めてよっ」
「いやあ、母さんの気持ちも分からんでもないからさ」

 くくく、と父が笑っている。

「親っていうのは、子供を自慢したいもんだからなあ」
「は?」
「自慢の息子の自慢の彼氏も自慢したかったってわけだよ」

 なんだそりゃ。意味分かんねえ。

 でも……

「ああ、いい顔で笑ってるなあ……」

 しみじみ、と言った感じでつぶやいた父の視線の先……。みんなに囲まれて笑っている母は、とても、とても楽しそうで……

「この絵の題名は……」

 父が、母達を指で四角く囲いながらポツリと言った。

「『幸せな乙女たち』ってところかな」
「………。ふーん」

 否定は、しない。何十年前の乙女たちは、みんな幸せそうに微笑んでいた。




【浩介視点】


「親っていうのは、子供を自慢したいもんだからなあ」

 慶のお父さんが、いつもの飄々とした感じで言った。

「自慢の息子の自慢の彼氏も自慢したかったってわけだよ」

 ……………。

 自慢の息子の自慢の彼氏。


(自慢の………彼氏?)


 さっき、慶のお母さんが、家族を紹介する、という雰囲気になったので、おれは輪から離れて待っていたら、

「コウちゃん!何してんの!もっとこっち来て!」

 お母さんがおれのことを呼んでくれた。逆らえない強さで。こういうところ、慶と慶のお母さんは良く似ている。

 そして、「この子が慶の彼氏のコウちゃん」と、おれを紹介してくれた。


(おれで………いいのかな)


 ドキドキする。



 その後、みんなで実家に戻って夕飯を食べたのだけれども、お母さんはずっとテンション高めで上機嫌だった。

「あ!そういえば、山崎君のところ、お子さん生まれるんですってねえ」
「……なんで知ってんの?」

 慶が眉を寄せると、

「こないだそこの公園で、山崎さんたちに偶然会ったのよー」
「あ、そうなんだ……」

 山崎の実家は、慶の実家と最寄り駅が同じだ。おれ達の高校時代、何かの行事の帰り道で一緒になったとかで、お母さんは山崎の母親と知り合いになったらしい。
 実家は駅の反対側だけれども、山崎の弟の家が近所なので、おれと慶も何回か甥っ子を連れた山崎達と公園で会ったことがある。

「山崎さんの奥さんってすごい美人だったよね? 結婚式の写真みたけど」

 南ちゃんが興味津々といった感じにお母さんに聞いた。

「本物も美人だった?」
「うん。綺麗な子だったわよ。ねえ?お父さん」
「そうだな」

 お父さんもうんうん肯いている。

「あれだけの美人、自慢のお嫁さんだろうな」
「そうねー。……でも!」

 お母さんはパチン!と手を叩くと、ニコニコで言ってきた。

「うちのお嫁さんも自慢のお嫁さんだからね!」
「え」

 お母さんとバッチリ目があって、ちょっと笑ってしまう。

「背が高くてかっこよくて、優しくて、お料理も上手で、うちの息子にはもったいないくらい!」
「あはは」

 南ちゃんが軽く笑って、慶を叩くと、慶はいたって真面目な顔で言った。

「浩介は『嫁』じゃない」
「あ、それこだわる?」

 南ちゃんの揶揄うような言い方にも動じず、慶はムッとしたまま、

「なんかその『嫁』って言い方、違和感あって嫌いなんだよ」
「…………」

 慶はいつもそう言ってくれる。おれはいいっていってるのに………

 じっと慶を見つめていたら、慶は引き続き真面目な顔をして、宣言してくれた。

「こいつは、おれの自慢の彼氏だ」


**


(同じ『自慢』なのに……)

 慶や、慶のご両親に「自慢」と言われても少しも嫌な気持ちにならない。それどころか、すごく、嬉しい。
 それなのに、母に対してはどうしても拒否反応が出てしまう。

『親っていうのは、子供を自慢したいもんだからなあ』

 慶のお父さんの言葉によると、母が子供自慢をすることはおかしなことではない、のだ。
 でも、その「自慢」が、母の理想の子供に対するものだったから、苦しくなってしまっていた。

 慶や慶のご両親は、おれそのものを受け止めてくれて、そのおれを「自慢」してくれている。そこが母と違う。

(……違う?)

 はた、とそのことに疑問を覚える。

(違う、だろうか? 今も、違うだろうか?)

 確かに昔は理想像を押しつけてきたけれど……今の母はどうだろう。この一年くらいは、そういうこともあまり無かったように思う。

(……おれが過剰反応しすぎてるんだろうな)

 自嘲してしまう。でも、どうしても、昔のことを思い出してしまって、心が追いつかない。

(でも……)

 このままじゃダメだ。少しでもいいから、前に進まないと……

(『おれの自慢の彼氏』)

 慶の自慢の彼氏でいるために、おれは前に進む。


**

 翌日の振替休日。
 慶は朝から研修会にでかけていったので、久しぶりに一人で、実家を訪れた。

「バレンタインのプレゼント取りに来て」

と、少し前から言われていたのだ。


 でも、家に着くなり、「ブラウニーとティラミスどっちがいい?」と、聞かれた。作ってくれるらしい。母は昔から料理上手なのだ。

 ブラウニーとティラミス……どちらも捨てがたい。慶はどちらも好きだ。

「両方って言ってもいいですか? 僕も手伝います」

 そう申し出ると、

「あらそう?」

 母はパアッと表情を明るくして手を叩いて……

「ああ、息子とお菓子作りするなんてねえ。本当は孫と一緒に作りたかったわあ」

「…………」

 …………。

 …………。

 …………。

 回れ右して帰りたくなったのを、なんとか踏みとどまる。

 自慢の彼氏。自慢の彼氏……。

 おれは慶の自慢の彼氏になるんだ。


「じゃあ、チョコ砕いてくれる?」
「………はい」

 チョコの甘い匂いに包まれながら、おれは呪文のように唱えていた。

 自慢の彼氏。自慢の彼氏、と。





----------

お読みくださりありがとうございました!
どうしても浩介視点だと暗くなりがちです……
次回からもお時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!
何度言っても全然足りないっ本当に本当にありがとうございました!!!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~自慢の彼氏(前編)

2018年02月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

長編『あいじょうのかたち』の最終回(2015年11月)から約2年………
現在(慶&浩介43歳)のお話です。



-----------

【浩介視点】



 母に頼まれて、華道展の出品の手伝いをした。使用したい花器が大きくて重くて、電車で運ぶのが難しいため、車を出してほしいと言われたのだ。

 荷物運びだけのつもりだったのに、花を生ける手伝いもすることになって……

「桜井さん、素敵な息子さんね~羨ましいわあ」
「あら~そんなこと……」

 ………………。

 同じ教室の女性に言われ、はしゃいだように答えた母を見て、ふっと意識が遠のきそうになった。

(ああ、この人あいかわらずだな……)

 この手伝いは『母親の趣味の手伝いをしてくれる優しい息子』を周りに自慢するためだったのか。

 だからおれは自慢できる息子にならなくてはならない。母のために礼儀正しい息子に。母のために良い学校に。母のために良い成績を……

(………………)

 昔を思い出して、息が苦しくなってくる。

(……………慶)

 大丈夫大丈夫大丈夫………
 息を吸って、吐く………吸って、吐く………

「浩介? ここ押さえてくれる?」
「………はい」

 なんとか正常心をかき集めて、その場は乗り切ったけれど……


「……慶」
 マンションに帰って、慶の顔を見た途端、張り詰めていた糸が切れて、玄関先で慶に縋り付いてしまった。
 何も言わず抱きしめてくれた慶に「もう、手伝いには行きたくない」とだけ言うと、

「じゃ、片付けはおれがいくから」
 慶は、あっさりと、何でもないことのように言ってくれた。

 結局、おれはその優しさに甘えっぱなしだ。でも、これ以上耐えられる自信もないし、せっかく上手くいきはじめていた母との関係が崩れるのも嫌だった。

(ああ、また慶に迷惑をかける……)

 慶は大丈夫だと言ってくれるし、メンタルクリニックの戸田先生に言わせると、「渋谷さんは桜井さんに頼られることに喜びを感じてるので、たくさん頼ってあげてください」と、いうことなんだけど……。でも、申し訳なくて……落ち込んでくる。

「………迷惑かけてごめんね」
「別に迷惑じゃねえよ」

 ピシッとオデコを弾かれた。

「んなこと言ったら、お前だって、こないだおれの母親に頼まれて、フラダンスサークルのチラシに載せる原稿書かされてたじゃねーかよ」
「そんなのは別に……」
「だからお互い様ってやつだろ」
「…………」

 お互い様……というのは違う気がする……

「いいか? 何度も言ってるけど」

 慶は真剣な調子で言葉を続けた。

「お前はおれのもの。おれはお前のもの」
「……?」

 それはそうだけど………

「だから、お前のものはおれのもの。おれのものはお前のもの」
「うん……」

 話の着地点が見えないけど、とりあえず肯く、と。

「だからな」

 慶が優しい手で頬を包んでくれて、ふわり、と微笑んでくれた。

「おれは、お前の親を自分の親と同じように大切に思ってる」
「……………」
「だから、迷惑とか思うな」
「慶………」

 でも……でも。

 言いかけたけれど、両頬を引っ張られて、言葉を止めた。

「お前が行けないならおれが行けばいいだけの話だろ」
「…………」
「おれは原稿なんて書けないから、そっちはよろしく」
「………。うん」

 おれに気を遣わせないためにそんなこと言ってくれてるってことは分かるけど、今はその優しさに乗らせてもらおう。
 おれは慶に甘えてばかりだ……

 

***



 華道展の一件があってから、怖くて一人では実家に帰れなくなってしまった。せっかく時々は一人でも帰れるようになっていたのに、こんなほんのちょっとしたことで、後退してしまうなんて、自分の精神の弱さにほとほと嫌気がさす。

 一月の末、戸田先生に正直に打ち明けたところ、

「無理して一人で帰ることないです。二人でいらっしゃればいいんです。大丈夫ですよ。渋谷さんはそれが嬉しいんですから」

 そう、いつものように断言され、少し笑ってしまった。
 5月出産予定の戸田先生、顔は全然変わらないけれど、お腹だけがふっくら前にでている。産休を取るのではなく、退職するそうなので、診ていただくのはこれが最後となる。

「是非、うちにも遊びにいらしてくださいね?」

 帰り際、にっこりとそう言ってくれた。戸田先生のご主人はおれ達の高校の同級生の山崎なのだ。

「是非!」

 思わず、大きな声で返事をしてしまった。
 正直、主治医が変わることには不安しかない。でも、山崎と戸田先生の未来を思うと、ワクワクするような高揚感がわいてくるのだ。

 これから生まれてくる命……

 それは奇跡の結晶だ。


 


-----------

お読みくださりありがとうございました!
自慢にされることが嬉しい子もいれば負担になる子もいる。難しい……
そんな真面目な話お読みくださり本当にありがとうございましたっ。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!
画面に向かって拝んでおります。心より感謝申し上げますっ。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~告白はゲレンデで(後編)

2018年02月13日 13時23分34秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【慶視点】


 高校を卒業して4日目。元2年10組でスキー旅行に来た。

 浪人のくせにスキーなんて行っていいのかな……と思ったけれど、幹事の長谷川委員長含め、浪人生も何人かいるっていうから、安心して?キャンセルはせず、参加することにした。浪人生活がはじまる前に最後のお楽しみだっ。


 一日目は、途中、少しだけ上級コースにも行ったけれど、基本、中級以下のコースを浩介と何人かの滑れる奴らと一緒にのんびりと滑った。
 みんなでトレインで滑ったり、二人乗りのリフトで浩介とコッソリ手を繋いだり……楽しすぎて頬が緩みっぱなしだった。

 毎年行く親戚とのスキーだと、年上のいとこ達と競争したり、おじさんからフォームの指導をされたり……と、とにかく休む間もなくガンガン滑るので、こんなにのんびり滑ったのは初めてのことだ。スキーって、こういう楽しみ方もあるんだなあ……

 夜はみんなで大広間でご飯を食べて、温泉にゆーっくり浸かって……本当に充実した楽しい一日だった。これで浩介と同じ部屋だったら文句はなかったのに、委員長め……。


 そして二日目。
 朝から浩介の様子がおかしい。なんかソワソワしている感じ。
 浩介と同室だった斉藤も、鈴木・小松の女子コンビとコソコソ話したりしていて、なんかあやしい……。

「何かあったのか?」

 リフトで二人きりになれた時に浩介に聞いてみたところ、浩介はビクーッと跳ね上がって、

「な、なにもないよ!!」

と、何でもあるって白状してるように答えた。ので、

「………ふーん」
 ガンガンっとリフトを揺らしてやる。と、

「わっ怖い怖い怖い!やめて!」

 浩介が、あわあわとおれに掴まってきた。その手を上からつかんで、顔をのぞきこんでやる。

「で? 何かあったのか?」
「……………。もー………」

 浩介が、ナイショだよ……と話したことによると………

 昨晩、浩介は同室の斉藤と長谷川委員長の会話を聞いてしまったそうなのだ。「長谷川委員長の好きな人は川本沙織」だ、と………。

「ふーん……なるほど……」

 委員長は告白しない、と言っていたそうだ。でも、斉藤がコソコソ動いてるのは、何かしてやろうとしているってことか………

と、いう予想は的中して、昼御飯のために寄ったレストハウスで、斉藤からコッソリと協力してほしい、と頼まれた。

「作戦決行は明日。自然な形で二人きりにさせるから!」

 自信たっぷりに言い切った斉藤。

 ……こいつ絶対、楽しんでる……。




 3日目………
 昼過ぎのバスで帰るため、早々にチェックアウトして荷物は大広間の片隅で預かってもらえることになった。

 みんなが集まったところで、斉藤が「提案!」と声をあげた。

「せっかく男女混合で来てるんだから、最後は男女で組になって、上から下まで滑って来るっていうのやろうよ!」

 予想通り、「賛成賛成!」と、溝部が盛り上がってくれて、代田たち派手め女子も「いいよー」と言ってくれたので、すんなりと話はまとまった。

 斉藤はニッと笑うと、紙袋を二つ取り出し、

「そう言ってもらえると思って、くじ作ってきましたー。女子の分は………あ、鈴木、よろしく」

 初めから決めていたくせに、「近くにいたからたまたま頼んだ」風に鈴木に紙袋を渡した斉藤。案外演技派だな……。

「12番まで番号あるから! あ、桜井は女子の方のくじ引き引いて」

 男子13人、女子11人なので、男子が一人、女子の方にいかないといけないのだ。

「桜井、渋谷と組になりたいだろー? 頑張って渋谷当てろよ」
「えええ!?」

 浩介がのけぞっている。

「そんなこと言うなら、初めからおれと慶だけ抜かしてよー」
「そんなズルはしませーん。くじ引きは公明正大に!」

 これから委員長と川本をペアにするために、ズルをしようとしてるくせに、斉藤、シャアシャアとよく言う………

 まあ、いい。作戦決行だ。さりげなく委員長の横に行き、話しかける。

「そういえば行きのバスでもくじ引きしたよな。あれ委員長、家で作ってきたのか?」
「いや、こっち着いてから、溝部とかと話してて作ることになって……」
「あ、そうだったんだ?」

 作戦その1。委員長の足止め。部屋の隅では、同じく作戦通り、小松が川本を引き留めている。

 そんなことを知らないみんなは、くじを引いては盛り上がっている。

「オレ、9番! 女子の9番、誰!? もう出た!?」
「3番! 男子の3番、誰ー?」

 あちらこちらで組ができはじめている。そろそろかな……?

「あと引いてない奴、誰ー?」

 斉藤の言葉に、おー、と返事して、委員長を促してくじを引きにいく。

「お先ー」
「おお」

 なんの疑いもなく、おれに先に引かせてくれた委員長。袋の中身は、計画通り残り2つ。1つだけ取り出して、作戦その2決行。

「斉藤は?」
「まだ! 委員長、オレ先に引かせて。渋谷持っててー」

 袋をおれに渡し、斉藤はさりげなく一度ポケットに手を入れてから、あらためて袋に手を伸ばした。

(…………うまくいったか?)

 今、斉藤は、ポケットの中に隠していた「12」のくじを袋に入れ、自分は残っていた方のくじを取り出した、はずだ。

「はい、委員長」

 袋を差し出すと、委員長は黙って袋に手を入れた。



***



 頂上まではみんなで行って、そこで集合写真を撮ってから、各々決められたペアで、好きなコースでおりていくことになった。

「集合は、11時15分に真ん中のレストハウス。それまでは必ず二人一緒にいること!」

 一分ずつ間をあけて滑っていったので、みんながどこのコースに行ったかは分からない。おれと浩介は、林道コースでおりていくことにした。

「委員長、川本さんに告白するかなあ?」
「うーん……あいつ、おれ達が裏で手回したこと、気がついたみたいだから、逆にやりにくくなったかもな」
「え、気がついてた?」
「たぶん」

 おそらく委員長は、川本が自分同様、一番最後にクジを引くように仕向けられていることに気が付いたようで、おれがクジの入った袋を差し出した時、なんだか複雑ーな顔をしていた。

「えーせっかく頑張ったのになあ」

 浩介は呑気な感じに文句を言ってから、

「ま、おれはこうして慶と二人きりで滑れて嬉しいからいいけどさ」

と、後ろから頬を寄せてきた。浩介はおれの腰につかまって、ぴったりくっついて滑っているのだ。

 林道コースは、その名の通り、木に囲まれたコースとなっている。初心者向けのなだらかなコースなのだけれども、片側が谷だし、割合と狭いので、初心者には怖いかもしれない。その上、中級以上には物足りない傾斜なため、人気がないのか、あまり人がいない。時折、リフトの真下を通るので、そこからの視線だけ注意すれば、すっかり二人きりの世界だ。


「鈴木のおかげだな」

 クジ引きの結果、本当は、おれと鈴木、浩介と溝部、の組だったのだ。でも、鈴木が、

「桜井君、泣かないで! 代わってあげるから!」

と、バカでかい声で言って、代わってくれたのだ。高2の時に鈴木のことが好きだった溝部にとってもラッキーなトレードだったと言える。

 でも、浩介はちょっと笑うと、

「それね……、あと、代田さんたちのおかげ、でもあるんだよ」
「代田たち? なんで?」

 浩介の言葉に首をかしげる。代田というのは、派手めグループのリーダー格の女子だ。

「代田さんとか新井さんとか、慶とペアになりたがってた女子、何人もいたからさ」
「は?」
「元々鈴木さん、『みんなの視線がコワイから代わって』ってこっそり言ってきたんだよ? おれが泣いてるって話は、それの誤魔化し」
「……………」

 なんだそりゃ。

「あ、泣きそうだったのは、本当だけどね? 慶と別行動なんて耐えられないもん」
「……………」

 なんか、意味分かんねえけど……

「だから一緒に滑れて幸せ」
「………だな」

 こうして二人きり、ぴったりくっついてお互いの体温を感じたまま、木々の間を滑っていけるっていうのは、最高だ。聞こえてくるのはお互いの息遣いとザーッというスキーの滑る音だけで……この世に二人だけみたいで……

 でも、そんな幸せな時間ももうすぐ終わり。合流地点が見えてきた。さすがにここからはくっついては滑れないので、横に並んでゆっくりゆっくり進んでいると、

「慶はモテるから……心配」
「は?」

 ボソボソと浩介が言ってきた。

「これから別々の学校になって、そっちでおれの知らない友達とかできたりして」
「…………」
「それで、おれのこと忘れちゃったらどうしようって」
「…………アホか」

 一瞬加速して、浩介の前に回り込み、バックボーゲンに切り替える。

「そんなの、おれの方が心配だろ。お前の方が交友関係広がる率高いんだからさ。大学の授業受ける仲間だけじゃなくて、サークルの仲間とかバイトの仲間とか、たくさんできるだろ?」
「…………」
「おれなんか、予備校通うだけだから……、どうした?」

 手を伸ばしてきたので掴んでやると、浩介はふにゃっと泣きそうな顔で笑った。

「慶……」
「なんだ?」
「……………。大好き」
「…………」

 なんかよく分かんねえけど……

 ブレーキをかけてコースの端で止まる。もう中級コースとの合流地点だ。

「浩介」

 掴んだ手を引っ張って、傾いできた浩介の唇に一瞬だけキスをする。

「慶……」

 ますますふにゃっとした浩介のオデコにオデコをぶつける。

「だからできるだけ毎日会おうな?」
「うん」

 前から約束している話に念を押してやる。

「朝、一緒の電車、乗ろうな?」
「うん」
「絶対だからな?」
「うん」

 そして、もう一度……と思ったけれど……

「あ」
「え?」

 おれ達が滑ってきた林道コースに人影が見えて、浩介に「後ろ」と教えてやる。

「あ……」
「うまくいったってこと……かな」

 さっきのおれ達みたいに、ぴったりとくっついて滑ってくる二つの影。委員長と川本だ。

「………行くか」
「うん」

 邪魔しないでやるために、この場を離れてやる。あいつらも浪人生と短大生になる。おれ達と同じだ。付き合っていくには、色々と乗り越えなくてはならないこともでてくるだろう。でも……

「これからも、ずっと一緒にいような」
「うん。一緒にいてね」

 手を繋いで、確認し合う。

 これから別々の道を進むことに不安はあるけれど……、不安になったら、こうやって触れ合って、見つめ合って、確認しよう。ずっと一緒にいるって、何度でも確認しよう。

「大好きだよ、慶」
「……ん」

 ゲレンデでの告白に、愛しい気持ちでいっぱいになる。
 こうしておれ達、ずっとずっと一緒に進んでいこう。



 なんて、甘ったるい気持ちで一緒に滑っていたんだけど……

 聞き覚えのありすぎる二つの声に振り返ってしまった。溝部と鈴木だ……

「あのコブのコースが終わるところまでって言っただろ!」
「はあ?!下までって言ったじゃん!だから私の勝ち!おごり決定ね!」
「なんだとー?!」

 いつものようにわあわあ言い合っている二人のせいで、すっかり現実に引き戻されてしまった……



***


 その後、集合場所のレストハウスでの昼食中、交際宣言をした委員長と川本沙織。
 みんなの拍手と冷やかしの声の中、

「委員長……。もしかして、このスキー旅行、川本に告白するために企画したのか……?」

 溝部が委員長にコッソリ聞いたけれど、委員長は肩をすくめただけで肯定も否定もしなかったので、真相は闇に包まれたままだ。
 



------------

お読みくださりありがとうございました!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!
毎度のことながら自分の能力のなさに凹んでいるところを、励ましていただいています。
本当に本当にありがとうございますっ。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~告白はゲレンデで(前編)

2018年02月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【浩介視点】


 高校を卒業して4日目。
 元2年10組のスキーツアーに参加した。参加人数は、男子13人・女子11人。

 夜中に出発したバスは、明け方に目的地に着き、ひとまずは旅館の大広間に通された。ここで仮眠を取ってもいい、とのことだけれども、他のツアー客含め誰も寝る様子はないので、おれ達も集まって今後の確認をすることになった。

「部屋割り、適当に分けたから、鍵の責任者決めて」
「スクール申し込む奴、申込書書いて」
「レンタルの奴も、先にこれ書いて」

 あいかわらずの迷いなさで、皆を仕切っている長谷川委員長。いつでも冷静で淡々としていてかっこいい。


「桜井、同じ部屋、よろしくー」
「あ。よろしくね」

 斉藤に肩を叩かれホッとする。
 本当は慶と同じ部屋になりたかったけど、それは委員長に却下されてしまい(おれ達二人と同じ部屋になった奴がかわいそうだから、と言われた……)、あまり話したことのない人と同室は嫌だなあと思っていたら、そこは委員長も考慮してくれたのか、2年の時同じグループで、バスケ部でも一緒だった斉藤と同室にしてくれていた。3人部屋で、もう一人は委員長だ。委員長とは本の趣味が合うこともあって、わりと話をするので有り難い。

 斉藤がいつもの能天気な感じで言ってきた。

「オレ、スキーやるの初めてなんだよー。桜井は?」
「んと……4回目、かな」
「おお。じゃ、結構滑れる?」
「ううん。ボーゲンでしか滑れないし、最後に行ったの中2の時だから、あんま自信ない……」

 そんな話をしているところに、溝部も加わってきた。

「滑れない奴、わりといるんだな。半分以上、初日のスクール入るって。初心者コースと初級コースに分かれるみたいだけど」
「あ、そうなんだ」

 確かにプロに教えてもらった方が、習得が早そうだ。

「溝部は?」
「オレは滑れる。20回以上は行ってるからな」
「おー。スゲー。どこのスキー場行った?」
「んー……、苗場、蔵王、万座……」

 指折り数えていた溝部が、ふいっとおれを見上げた。

「桜井は? どこ行ったことある?」
「あ……ええと、ダヴォスの……」

 言いかけると、溝部がポンと手を打った。

「ダボスって、菅平だっけ?」
「え? ううん。スイスの……」
「は?」
「え?」

 きょとんとした感じに、おれを見返した溝部と斉藤。

 ……え、何? おれ、何か変なこと言った?

「スイスって……外国のスイス?」
「あ、うん。父の友人が別荘を貸してくれるから、それで3回……」
「へええええ……」
「へええええ……」

 うわ~と口に手を当てている二人。

「やっぱすげえな、桜井のうちって」
「かーねもちー」
「そんなことは……」

 ………………。

 もしかして、これって普通じゃないのか……?

(………しまった)

 おれはこういうところが本当にダメだ。人と感覚がズレているらしく、自分では気がつかないうちに、呆れさせてしまったり、不快な思いをさせてしまったりする。最近はだいぶマシになったと思ったのに……

「スイスでスキーって、そんな話聞いたことねえ」
「しかもそれ3回って」
「…………」

 溝部と斉藤が話している声が遠くなっていく。ブラウン管の中に閉じ込められたようになる。

(…………慶)

 心臓のあたりを押さえて、息を吸い込もうとするけれど、空気が入ってこない。

 苦しい……どうしよう……

 大きく息を吸って、吸って、吸って……、と、その時。

「浩介?」
「………っ」

 ふっと急に空気が入ってきた。いつの間に、慶がおれの隣に寄り添うように座ってくれている。

「………慶」

 途端に呼吸が楽になる。ふううっと大きく息を吐く。

「どうした?」
「ううん。何でもない……」

 座り直して更に慶にくっつくようにすると、慶が眉を寄せた。

「何だ? 溝部に変なことでも言われたのか?」
「何だよそれっ」

 即座に溝部が反応して、抗議の声を上げた。

「どのくらい滑れるかって話してただけだよっ。な?」
「う……うん」
「で、桜井がスイスで滑ったことあるっていうから、羨ましいって話!」
「え?! そうなのか?! 前にスキー行ったことあるって、スイスだったのか! すげ~~」
「ホントすげーよなー」

 慶も溝部もニコニコしてる。

(…………いいのかな)

 これは大丈夫ってことかな……?

「なあ、渋谷はどうせ滑れるんだろ? どっちが早いか競争しようぜ?」
「おーのぞむところだ!」

 二人はそのまま楽しそうに話しはじめた。

「桜井、もしかして寒い? もうちょいストーブの近くいく?」
「え……あ」

 斉藤が、慶にくっついてるおれに聞いてくれた。いつもと同じ優しくて明るい斉藤。

「うん……大丈夫。ありがとう」

 慶から体温が流れてくる。斉藤が、溝部が、こんなおれのことを受け入れてくれていることが嬉しい。

 大学生になったら、また新たな人間関係を作らなくてはならないということは、恐怖でしかないのだけれども……、こうして温かい人達といると、もしかしたら、おれでも上手くやっていけるかもしれない、と勘違いしそうになる。………勘違いが本当になればいい。


***


 その日は、スクールに入った人たちとは一日中別行動で、おれは慶と溝部とその他数人と行動を共にしたんだけど………

「あーもう、渋谷君カッコよすぎる!!」
「ホントに何でもできちゃうんだね!!」

 女子がキャアキャア騒いでいてうるさい。

 でも、しょうがない。慶は本当にかっこいいから。
 慶と溝部でコブの斜面を滑る競争をした際も、力ずくでガッガッガッと下りてくる溝部に対して、慶は滑らかで軽やかで涼し気で……

「渋谷のせいでオレのカッコよさ半減してねえ?」
「う……」

 溝部に聞かれ、うん、と肯きそうになり、何とか飲みこんだ。
 確かに、慶がいなければ、溝部が一番滑れるから一番かっこよかったかもしれないのに……。溝部残念。


 その後も、上級コースと中級コースで時々別々になったりしつつも、ほぼ慶と一緒に滑ることができた。二人乗りのリフトではコッソリ手を繋いだりして……
 旅館に帰ってからは、大広間でみんなで盛り上がりながら夕食をとって、その後は温泉に、のぼせてしまうほど、のんびり入って……

 ああ……。幸せな一日だった。



 その夜のこと……

「………?」

 ふっと人の話し声で目が覚めた。 
 布団に入りながら、同じ部屋の斉藤と長谷川委員長と話していたのだけれども、いつの間におれだけ眠ってしまっていたらしい。

「………いや、桜井も結構滑れるって溝部が言ってたよ」
「そうか。それなら大丈夫だな」

 ………。

 どうやら、おれは眠っていると思われているようだ。まあ、あえて起きたって言うこともないか、と思って再び目を閉じたのだけれども……

「で、委員長って、川本と付き合ってんの?」
「は?!」
「!!」

 斉藤のビックリ発言と委員長の叫び声に、思わずバチッと目を開けてしまった。

「な、な、何言って……っ」
「………」

 いつも淡々としている委員長が、めちゃくちゃ動揺してる………

「いやあ、委員長さ、ちょっと滑れるくせに、初級じゃなくて、初心者向けのスクールに入ったじゃん? 何でなんだろうなあ?と思って、今日一日観察してたんだよね」
「え」
「そしたら、川本を助けまくってたから、もしかして付き合ってんのかな?と思って」
「………あー……いや」

 ボソボソ、と委員長が言う。

「川本がオレなんかと付き合うわけないだろ……」
「え、違うんだ? って、あれ? そういう言い方するってことは、好きは好きってこと?」
「…………」

 委員長、無言……

 わ………。好き………なんだ………
 知らなかった………

(オレなんかとって………)

 いつも自信たっぷりな委員長がそんなこと言うなんて意外……。

 川本さんは、クラスの派手グループの一員だ。グループの中では一番控えめの、大人っぽい美人。委員長は、クラス委員長としては目立っているけれど、男子の中で一番真面目で地味なグループに属している。確かに二人のタイプは全然違うけど……。

「今日の川本の様子見る限り、脈ある感じだったよ? 告白してみればいいじゃん」
「簡単に言うな」
「簡単だよ。もし、うまくいかなくても、もう会わなくなるんだから、ダメ元で言ってみればいいだけの話」

 あっけらかんと斉藤が言う。

「それに、これから川本は短大生になって、委員長は浪人生になるわけじゃん? ここで言っておかないと、すぐ他の男に持って行かれちゃうよ?」
「それは………」
「まあ、いいならいいんだけど」

 後悔しても知らないよ~~

 斉藤はそう言うと、「おやすみ~~」と布団をかぶってしまったようだった。

「……………」

 委員長、どうするんだろう……。


 他人事なのにドキドキしてしまって、それからはなかなか寝付けなかった。



 

------------

お読みくださりありがとうございました!
長くなってしまったため、前後編にすることにしました。

補足その1
高2の時は、慶・浩介・溝部・斉藤・山崎、の5人で仲良しグループでした。でも残念ながら、山崎はスキー参加していません。

補足その2
浩介は小学校中学校時代、学校生活うまくいっていませんでした。なので、同年代の人と話した経験が少なく、それに、家でテレビ見せてもらえないこともあって、少々世間ズレしており、この時期、それがコンプレックスだったりしてます。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
どれだけ次を書く励みとなったことか……心から感謝申し上げますっ。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。 してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする