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(BL小説)風のゆくえには~自由への道6(慶視点)・完

2015年01月27日 14時11分45秒 | BL小説・風のゆくえには~ 自由への道
 おれと浩介が『別れた』ことになってから、2年3ヶ月が過ぎた。

 浩介は先週無事に大学を卒業し、来月から私立高校の教員になる。(おれは大学4年生になる)
 今日は朝から引っ越し作業に追われていて、ようやくめどがついたところだった。

「これ! 合鍵~~っ」

 語尾に思いっきりハートマークをつけて、浩介が言う。

「いつでも来てね。っていうか、毎日来てね。っていうか、大学ここから近いんだから、ここに住めばいいじゃん!」
「はいはい」

 朝からずっとテンション高すぎる浩介を適当にあしらうと、残りのダンボールをまとめて縛り上げた。結構なゴミの量になってしまった。

「ゴミは明日の朝、8時までにゴミ捨て場に出せってさ。ちょっと運ぶの一回じゃ無理そうだな。頑張って往復しろよ」
「え、手伝ってくれないの?」
「手伝うって、朝8時だぞ? 何時に来いってんだよ?」
「え!? 当然、今日は泊まってくでしょ?!」
「え?」

 それは思いつかなかった……。

「なんで!普通思いつくでしょ!っていうか、そうとしか思わないでしょ!当然そうだと思ったからわざわざ言わなかったのに!」
「あー………」
「とにかく泊まっていってね! 着替えも何でもどうにでもするから!」

 なんなんだろう。こいつのこのテンションの高さ……。浩介は興奮したように続ける。

「おれね、ほんとにほんとにほんとーに、この日がくるのをずっとずっとずーーーーーーーーーーーっと待ってたんだよ。誰にも邪魔されずに一緒にいられる時間。空間。おれたちの城! そのために、2年以上もあかねサンと恋人のフリをしたりして……ああ、苦痛の日々だった……」
「わーるーかったわねーっ」

 がこっと音がして、浩介が前につんのめった。あかねさんの長い足が浩介の背中にヒットしたのだ。

「苦痛の日々って失礼しちゃうー。慶君もなんとか言ってやってよ」

 あかねさんが仁王立ちしている。浩介が背中をさすりさすり、あかねさんを振り返る。

「……今、マジで痛かった……。ってか、なに? あかねサン、帰ったんじゃなかったの? もう慶と二人きりになりたいんだけど」
「ほんっと、失礼よね? 浩介センセー。人に引っ越しの手伝いさせておきながら……」

 怒った風を装いながら、あかねさんの目は笑っている。この2人はいつもそうだ。言葉遊びを楽しんでいる感じ。
 なんだか入れない空気があって、少し、というか、結構、というか、かなり……嫉妬してしまう。
 おれがいないところでは「あかね」「浩介」と呼び合っていることもおれは知っている。知っているけど知らないことにしている。たぶん二人ともおれに気を遣っておれの前では「あかねサン」「浩介先生」と呼び合うようにしているんだろうから、その気遣いをくみ取ることにしている。

 あかねさんは同性愛者だ。だから浩介が恋愛対象になることはない。と、分かっていてもモヤモヤしてしまうのが本音だ。これだけの美人だし。でも、その嫉妬心は表にださないよう心掛けている。
 なぜなら、あかねさんは浩介にとって初めて心を許すことのできた「友達」だからだ。浩介はつらい小中学校時代を過ごしてきて、友達らしい友達はいない。せっかくできた「友達」。おれが取り上げるようなことはしたくない。……「親友」の座を譲るつもりはないけどね。

「で、どうしたの? 忘れ物?」
「そうそう。引っ越し祝いを渡すの忘れてたのよ。はいこれ!」

 シンプルな包みの中に入っていたのは、写真立て。

「おお! 写真立て! 持ってない!」
「でしょ? 男子ってこういうの持ってないだろうな~と思ってね~。飾りたい写真あるでしょ?」
「あるある! わーありがとー。さすが、あかねサン!」

 あかねさんは満足したようににっこりと笑うと、颯爽と帰っていった。これからデートだそうだ。
 あかねさんは2年前に超本気だった年上の女性に振られて以来、とっかえひっかえ相手を変えているらしい。その女性とヨリを戻せればよかったのだけども、残念ながら彼女は別れてすぐに結婚してしまったそうで……。恋愛って難しい。
 おれ達も、気が付いたら、もう付き合いはじめて5年3ヶ月だ。高校入学後に出会ってからは7年。長いような短いような……一緒にいるのが当然、のような。

「これこれこの写真♪ お気に入りなんだ~」
 浩介が鼻歌まじりに飾っているのは、妹の南が卒業式の帰りに校門の前で撮ってくれた写真だ。

 この写真のこと……おれは立ち聞きしてしまった。

 あれはおれと浩介が『別れた』ことになった、数日後。
 おれが出かける用意をして下に降りようとしたところ、浩介が玄関先で南と話していることに気がついた。立ち聞きするつもりはなかったのだけれど、浩介が真剣な顔をして、南に頭を下げていたからつい下りそびれてしまったのだ。

「全然いいよー? あれでしょ? 校門の前で浩介さんがお兄ちゃんの肩抱いてる写真でしょ? あげるあげる。たぶんあまりあるから、今持ってくるよ」
「ありがとう。南ちゃん。ホント助かる」

 浩介が南を拝んでいる。校門の前って、あの写真のことか? 浩介、なくしたのか?

「そのかわりー」

 南がニヤーッと笑う。

「今持ってる方の写真、私にちょうだい! どうせお母さんに破かれたとかそういうことでしょ?!」

 ……破かれた? 

「え?! なんで分かったの?!」
 浩介が慌てたように言うと、南は、人差し指を左右にゆらし、

「浩介さん、私にウソは通用しないわよ。浩介さんが大事な写真をなくしたり傷つけたりするわけないじゃなーい。バレバレだわよ。それよりその写真、本当にちょうだいよ?」
「……なんで?」

 ほんと。なんでだ?
 南は、両手を前で組むと、「当たり前じゃないの~」と目をキラキラさせて叫んだ。

「だーって、嫉妬?憎しみ?から傷つけられてしまった写真の実物!なんて手に入れようとしても入らないでしょ~。見たーい。みんなにも見せたーい! めっちゃ参考になりまーす!」
「…………」

 南………我が妹ながら………意味がわからん。

「うん………今度持ってくるね………」
 浩介も戸惑ったようにうなずいている。

 南の趣味は本当に意味がわからないけれど、でも、この申し出は有り難い。その破られたんだか傷つけられたんだかした写真、手元に残っていたら、ずっと嫌な思いを引きずってしまう。そんな思いを浩介にさせるくらいなら、南の参考にでもなんでもしてほしいもんだ。


「この写真撮ってから……4年だね」
「ああ……色々あったなあ……」

 2年3ヶ月前のクリスマスイブに思いをはせる。
 あの日、バイトを上がったところで、あかねさんにお茶に誘われ、そこで提案されたのだ。

「浩介先生は慶君と別れて、私と付き合うってことにした……って台本はいかがかしら?」と。

 あの頃、浩介が追い詰められていることは分かっていた。なんとか打開策がないものか考えてもいた。
 でも、もう、限界だった。
 とうとう、浩介がおれとの別れを口にした。ありえない。本当にありえない。
 ここまできてしまったら、浩介の両親を騙すしか方法はない。
 おれ達はあかねさんの案にのることにした。

 後から、浩介がおれに聞こえないように、あかねさんに、
「おれ、『慶には体調不良って言って』っていったよね?」
と、ブツブツ言っているのを聞いてしまった。するとあかねさんは、
「私、『慶君にはうまいこと言っておくから任せて』っていったじゃな~い」
 だからうまいこといったでしょ?とにっこり笑っていた。この人にはかなわない。

 こんなことに協力してくれる理由は「花束のお礼」だそうだ。
 だからというわけではないが、次のあかねさんの公演の時には、2人でもっと大きな花束をプレゼントした。
 あかねさんは本物の女優さんだった。舞台でも、浩介の両親の前でも。

 あかねさんは、少しずつ浩介の親に存在をアピールしていき、疑われない流れを作ってくれた。

 浩介曰く、浩介の家にやってくるあかねさんは、いつもとは別人らしい(それはもう気持ち悪いくらい……と言って、あかねさんに後ろからはたかれていた)。
 清楚でおとなしくてでも芯が強くて……という、浩介の両親が好きそうな女性像を演じ続け、ご両親もすっかりあかねさんを気に入り、そして、春になって「あかねサンと付き合うことになった。渋谷君とはずっと前から友達の関係でしかない」と浩介が報告すると、お母さんは泣いて喜んだそうだ(それもそれでフクザツな気持ちもするけど、しょうがないか……)。

 浩介の両親にバレないように連絡を取らなくてはならなかったので、はじめは苦労したが、その年の夏に浩介がPHSを買ってからはそれも解消された。文明の発達にこれほど感謝したことはない。

 それでどうにか2年3ヶ月耐え切り、浩介の就職も無事に決まり、一人暮らしも許され、今日の引っ越しまでこぎつけたわけだ。

「お母さん……突然来たりするんじゃないか?」
「大丈夫。合鍵渡してないし、住所は一応教えたけど、ここすっごく分かりにくいところにあるし」

 このアパート、場所も入口も分かりにくい。そういうところをわざと選んだのだ。

「それになにより、父が母に『干渉するな』って言ってたし。落ちついたら招待する~って誤魔化してあるから大丈夫」
 浩介がにっこりとVサインを作る。

「だから安心して、あんなことやこんなことやこーーんなこと、しようねっ」
「なんだそりゃ」
「だから~~~~」
「まてまてまてっ」
 ベッドに押し倒されそうになるのを、両手で止める。

「お前、こんな昼間っから」
「もう夕方だよー」
「じゃあ、もう夕飯の用意しなくちゃだろっ。何食べる?」
「んー慶を食べたーい」
「あほかっ」
 げしげしと足で攻撃するが、めげる様子もない。

「それに、アパート壁薄そうだしっ」
「隣、まだ空き部屋って言ったでしょ~。だからちょっとくらい大きい声出しても大丈夫だからねっ」
「……っ」
 赤面したのが自分でも分かった。それを隠すために、がしっと浩介の両肩をつかむと、

「だーれーがー大きい声だすって?!」
「うわわっ」

 思いっきりベットに突き倒した。太腿の上にまたがって、両足で浩介の肩を押さえつける。

「ちょっ、こわいこわいっ。おやめくださいっ天使様っ」
「天使いうなっ」

 えいえいっと足で脇の下をくすぐってやる。すると、浩介は笑いながら、

「だって本当に天使みたいだよー。夕暮れのオレンジの光に照らされて……」
「……」
「本当に……綺麗」

 おれを見上げる浩介の目。愛おしくてたまらない、という目。
 愛されている、と実感できる。
 おれはこんなにも愛されている。必要とされている。

 そして、おれも、お前が愛おしくてたまらない。

「浩介……」
 足をおろして両手を伸ばすと、浩介が起き上がった。ぎゅっと抱き寄せる。その愛しい頭をゆっくりなでる。

 すると、浩介は妙に真剣な声でポツリと言った。

「おれ……死ぬのかな?」
「………………………………は?」

 浩介の突飛でもない発言に眉を寄せる。

「何言ってんの? お前」
「だって………」
「何だよ?」
「だって………」

 浩介はおれの首元に顔を埋めてしばらくじっとしていたが、再びポツリと言った。

「……幸せすぎて、もう死期が近いんじゃないかと思って」
「……なんだそりゃ」

 意味がわからん。

「おれが死んだら……キスしてね」
「はあ?」

 ますます意味がわからん。
 浩介は下を向いたままボソボソと言う。

「白雪姫だよ」
「白雪姫?」

 毒りんご食べて死んだお姫様か。確か王子のキスで目覚めるんだったな。

「あの王子、初めて会った死体にキスするなんて、かなりおかしな奴だよな」
「……それ、あかねサンも同じこと言ってた。変態王子だってさ」
「あはは。やっぱり? みんなそう思うよな」
「それで、慶はその変態王子だって」
「おれ?」

 なんでおれが?

「どういう…………」
「白雪姫は王子のキスで目を覚まし、母親の呪縛から逃れて、幸せに暮らしました」
「…………」

 わずかに震える浩介の声。

「慶は、おれを自由への道に連れ出してくれた」
「………浩介」

 浩介の両頬を囲み、正面から見つめる。涙目の浩介。

「浩介……」
 そっと、口づける。
 お前のことはおれが守る。

「何度でも、してやるよ?」
「慶………」

 何度でも。何度でも。お前を救い出す。

 ついばむようなキスを繰り返しながら、ゆっくりと押し倒す。

「大きい声、出していいからな?」
 にっと笑顔で、浩介のベルトを外しにかかる。

「わあ~~本気の天使~~色っぽ~~い」
「うるさい」

 ふざけ返してきた浩介の唇に本気のキスをする。
 天使だろうが王子だろうがなんでもかまわない。

「……浩介。一緒にいこう。自由への道を」
「……うん」

 おれ達は、自由への道を行く。ずっと一緒に。


<完>


--------------------------------------------




エピソード全部回収しようと思ったら、長くなっちゃった。
けど、一つ回収できませんでした。

3-1の、綾さんがあかねさんに言った「あかねは誰にも抱かれないわ」ってセリフの件です。
回収できてないこと分かってたんだけど、これについて書くと長く脱線しちゃうからやめたの。

で、綾さんとあかねさんのことをぼや~っと考えていたら、
突然、バタバタバタっと一気に頭の中でいろんな場面が再生されて……
うわーーーどうしようっ書きたい!!ってなってしまいました。

でも、いい加減もうこうやって毎日のようにパソコンに向かうのやめないと!なんです。

前々からこの「自由への道」が終わったら、しばらく書くのやめようと思っていたので、予定通りしばらくお休みします。たぶん。

ブログって手軽でいいんだけど、順番に読んでいくのに不便だね。
なんかもっと読みやすくなるサイトとかそういうの探して移ろうかなーと思ったり。
でもそれについて調べてる時間がもったいないので、とりあえずこのまま。


慶の通う学部は6年生まであります。忙しいです。
で、浩介のアパートは慶の大学に近いので、今後、半同棲状態になりますな。

慶は両親共働きで、食事を自分で用意することもあったため、少しは料理できます。
浩介はまったくできませんでした。が、真面目なので真面目に料理の勉強をし、メキメキと上手になっていきます。
性格的に浩介は料理をすることに向いていると思う。黙々と何かを切ったり炒めたりするの好きそう。

そのころのイチャイチャ話、頭の中でたくさん妄想してるので、そのうち我慢できなくなったら吐き出したいと思います。

もっと具体的にベッドシーン書いてもいいんだけど、なんか二人に申し訳ない気がして書けない^^;
そこまでさらさなくてもいいだろって文句いわれそうで、さっきもベルト外すだけで終わらせちゃった^^;

そんな感じで……。
また落ちついたら続き書きまーす。


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(BL小説)風のゆくえには~自由への道5-6

2015年01月26日 13時08分15秒 | BL小説・風のゆくえには~ 自由への道
 白い服に身を包んだ慶。こちらに向かってふんわりとほほ笑んでいる。まるで天使だ。
 そちらに行きたいのに、進むことができない。足が石のように重く動かない。

(慶……)

 声が出ない。必死に呼びかける。慶、慶、と。

 だって、ほら、そこに黒い魔女がいる。

(慶、逃げて……)

 魔女が慶に近づいていく……

(やめて、やめて、やめて……っ)

「お母さん!!!」


「!」
 自分の叫び声にびっくりして目を覚ます。
 昨晩はほとんど眠れなかった。頭が痛い……。

 今日はクリスマスイブ。ボランティア先でクリスマスパーティーがある。
 慶は喫茶「アマリリリス」で一日だけバイト復帰すると昨日言っていた。店長のお孫さんが風邪をひいて娘さんが出勤できなってしまったのだが、クリスマスイブということもあって交代できるバイトが捕まらず、やむなく慶に連絡があったらしい。
 だから、おれはクリスマスパーティー後に、久しぶりにアマリリリスに行くことにしていたのだが……。

「あら、浩介、おはよう」
「…………おはようございます」

 台所で朝食の用意をしている母に低く挨拶をする。
 なんだかんだ言っても、結局おれは母の世話になっている。食事も、洗濯も、すべてしてもらっている。その自覚はある。その感謝はしないといけないと思っている。だから、何があっても挨拶だけはきちんとしようと決めている。

「浩介、なんだか顔色悪いわね? 大丈夫? 今日の予定は?」
「ボランティアだったけど……休みます。今日はずっと家にいます」
「え、そうなの? そんなに悪いの?」

 心配そうな顔をした母に「電話使います」と断ってから電話の子機を取る。
 わざと母に聞こえるように、ダイニングテーブルの端に座って電話をする。

 まず、事務局の方へ。いつもの真面目さが幸いして、特に疑問を持たれることもなく、それどころかものすごく心配されながら、休みの許可がもらえた。

 そして、もう一本……

「あかね先生? 朝からすみません。桜井です」
『………………』

 たぶん寝ていたのだろう。ゴソゴソと動く音だけがする。

『…………あれ?もうこんな時間……。目覚まし止めた?綾さん』

 しまった。恋人と一緒だったらしい。何かボソボソと話す声がした後、

『失礼。どうかしました? 桜井先生』

 いきなり余所行きの声に変わった。

「おれ、体調不良で今日休ませてもらうんですけど、ちょっとお願いがありまして………」
『はい。なんでしょう?』
「まず、アニサのことなんですけど………」

 事務的な内容を色々話していたら、聞き耳を立てていた母がようやく満足したのか、換気扇をつけてジュージューと音を立てながら何かを炒めはじめた。
 よし。今がチャンスだ。

「あ~、その件、おれ資料持ってます」

 話を途中でぶっちぎって、勝手に話しはじめる。

「もしかしたらあかね先生も持ってるかもしれないんですけど……ちょっと待ってください……」

 適当なことを言いながら、リビングまで移動する。ここなら聞こえないはず。
 資料をローテーブルに並べながら、台所に背を向け、下に向かって話す。

「あかね。頼みがある」
『うん』

 口調を変えると、勘のいいあかねは何も聞かず、うなずいてくれた。

「今日、慶がアマリリリスに一日だけ復帰してる。おれ帰りに寄る約束してたんだけど、行けないから代わりにいって行けなくなったこと伝えてもらえないかな」
『分かった』
「くれぐれも慶には体調不良ってことで。良くなったら連絡するって言って」
『それで大丈夫?』
「分かんない。とにかく今は見張ってないと不安で」
『了解。慶君にはうまいこと言っておくから任せて』
「ありがとう」

 本当にありがとう。あかねのおかげでどれだけ助かるか。

『浩介』
 あかねが心配そうに言う。

『早まらないでよ』
「…………うん」

 考えなくてはならない。おれがどうしなければいけないのか。どうすれば慶を守れるのか。

「そういうことで、あかね先生。申し訳ないんですけどよろしくお願いします」
『承知しました。お大事になさってくださいね』

 白々しく他人行儀な会話をして電話を切る。

「あかね先生って女性?」
「うん………」

 ニコニコと母が朝食を運びながら聞いてくる。
 悔しいほど、悲しいほど、おいしそうな匂いがしてくる。オムレツだ。

「おいくつ?」
「同じ歳」
「そう。同じボランティアをしてるんだから気も合いそうね。そういう子もいいわね」
「………………」
「具合は大丈夫? ねえ、お母さん、ケーキ焼こうかしら。クリスマスだものね。浩介がクリスマスにうちにいるなんて久しぶりね」
「………………」

 はしゃぐ母を直視できず、オムレツに手を伸ばす。

「いただきます」

 出来立てのオムレツ。卵がフワフワで………

「………おいしい」
「あら、そう?」

 嬉しそうな母。オムレツがおいしすぎて………苦しい。

 おれは………どうすれば………。


***

 クリスマスイブ以降、おれはずっと母と一緒にいた。大掃除の手伝いをしたり、年末の買い物に付き合ったり、とにかく従順に過ごした。
 こんなに何日も慶に会わなかったのは、高校三年生の受験の時以来だ。

 
「お父さんが話してくださったおかげで、浩介も目が覚めたみたい……」

 母が父に報告しているのが聞こえた。父は興味なさそうに肯いただけだった。


 おれはずっと考えていた。慶を守る方法を。

 慶に会いたい。慶と一緒にいたい。おれは慶がいなくては生きていけない。
 でも、おれと一緒にいたら、慶を危険な目に合わせてしまう。

 毎晩、同じ夢を見た。
 真っ白い天使の慶に、魔女が大きな鎌を振りおろす。
 おれは止めることもできず、悲鳴を上げ続ける。
 現実に同じことが起こったら……。

 あの写真の傷を思い出す。あの傷を実物の慶につけられたら……。

 何度も何度も考えた。そしてたどり着いた結論は一つだった。
 おれが慶のためにできること、それは……

 それは、慶と別れること。

 慶と別れる……。

「………………」

 でも、あの慶が、本当のことをいって納得するわけがない。慶はきっと、そんなの大丈夫だから、というだろう。だからウソをつくしかない。

(おれ達、別れよう。おれ、もう慶のこと好きじゃなくなった)

 自分で言いながら、泣きそうになってくる。でも慶を本当に失うわけにはいかないんだ。

 慶。慶……。大好きな慶。


***


 12月29日。
 例年通り、母が父の事務所へ出かけた。最終日の納会の料理は毎年母が用意することになっているのだ。
 おれは仮病を使って、家で寝ているということにした。この日をおいてチャンスはない。

 慶の家に電話をすると、ちょうど慶が出てくれた。数日ぶりに聞く慶の声。とてつもなく愛おしい。
 ご両親は仕事でおらず、南ちゃんはなんかものすごいイベントがあるとかで早朝に出ていったらしい。

 自転車で大急ぎで慶の家に行く。
 インターホンを鳴らすと、慶がすぐに出てきた。

「よ」
 いつものように、なんでもないように、軽く手を上げる笑顔の慶。

「…………っ」
 今すぐ抱きしめたくなる衝動を、どうにか押し込める。

「上がってもいい?」
 なんとか冷静に言うと、「当たり前だろ?」と慶がちょっと笑いながら家にあげてくれた。

 そのまま部屋に通される。整理整頓された慶の部屋。居心地がいい。

 いつものようにベットに腰かける。
 このベットで、初めて、した。よみがえってくる色々な思い出を首を振って追い払う。

 慶が不思議そうな顔をして、おれの目の前に立った。

「どうした?」
 優しい慶の声。大好きな慶の声。
 くじけそうになる心をどうにか奮い起こし、意を決して顔をあげる。

「慶」
 そして、ここにくるまでに頭の中で何度も練習した言葉を口に出した。

「……おれ達、別れよう」
「………」

 いつもにもましてキレイな慶の瞳がジッとおれを見おろす。

「……理由は?」

 冷静な慶の声。
 震える手を押さえながら、用意してきた言葉を告げる。

「おれ、もう、慶のこと、好きじゃ……っ」

 続けられなかった。

「…………っ」

 柔らかい慶の唇にふさがれた。
 強く両頬を押さえられ、逃げることもできない。いや、押さえられていなくたって逃げることなんてできない。おれのウソを吸い込むように、慶の唇が包み込む。

 慶……

「………で?」
 長い長いキスの後、慶がおれを真正面から覗き込んだ。

「おれのことが、何だって?」
「……慶」

 崩れ落ちる。無理だ。
 好きじゃない、なんて大ウソ、ウソであっても口にできない。

「慶、おれは…」
「おれには別れるなんて選択肢、ひとかけらもないからな」
 きっぱりと、慶が言う。

「慶、でも」
「お前のことだから、おれに迷惑がかかるとかそういうアホらしいこと考えてるんだろうけど……」
「アホらしいって」

 ちょっとムッとする。

「おれが今までどれだけ悩んできたのか……おれの気持ちも少しはわかってよ」
「だったらお前も、今のおれの気持ちわかれ」
「痛っ」

 頭を小突かれた。

「好きじゃない、なんて言葉、本心じゃなくても聞きたくない」
「…………っ」

 慶の瞳。なんて強い光。

「……ごめん」
 傷つけるところだった。いや、傷つけてでも離れるべきだと思っていたけれど、そんなウソ、見透かされている。
 慶の温かい手がおれの頬を包んでくれる。

「おれはどんなことがあってもお前と別れる気はないからな。まわりにどれだけ迷惑かけようと、どんな汚い手を使ってでもお前を手放す気はない」
「慶……」

 慶は本当にキレイだ。顔の造形もだけれど、瞳の輝きも、魂の色も、おれにはまぶしすぎる。
 どうしてこんな人がおれなんかを求めてくれるんだろう。

「慶……いいの? おれなんかで……本当にいいの?」
「当たり前だろ」

 引き寄せられ、ぎゅっと頭を抱きしめられる。
 慶の匂い。愛おしい。

「お前以外、何もいらない」
「慶………」

 こんなに愛おしい。こんなに離れたくない。こんなに愛してる。
 涙があふれる。いつもいつもそうだ。慶の腕の中でだけ、おれは泣くことができる。
 たった一つのおれの居場所。

「浩介………」
 慶が頭を撫でてくれる。その唇で涙をぬぐってくれる。たくさんのキスをくれる。

「もう、大丈夫だな?」
「……うん」

 何も解決できていないから少しも大丈夫じゃない。でもとりあえずうなずく。
 すると、慶はにっこりと言い放った。

「じゃ、浩介」
「うん」

「おれ達、別れよう」
「……………………………はい?」

 今、なんていった?

 呆然としたおれに、慶は悠然とほほ笑んだ。






-------------------------------------


浩介ターン終了!!!

この「~自由への道」を書くに当たって、我慢できなくて、上記の浩介が慶に別れようと言い出すシーンから最後までを先に書いて保存しておいたのでした。つなぎ目変じゃないかな。大丈夫かな。
しかし、ここまで行きつくのにこんなに時間がかかるとは思わなかったな~^^;

慶の「おれのことが、何だって?」と「おれ達、別れよう」というセリフは、20年前に構想を練った時点で出ていたセリフを思い出したの。
『受の方が性格男っぽい』というとこに萌えるタイプでした私。あ、今もか。

さ、明日は、容姿は中性的で性格は男っぽい受の(受言うな!と怒られそうだ^^;)慶君視点です。一回で終わる予定。

あ。ちなみに、南ちゃんは当然あそこに行ってます。12月29日ですもの!!
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(BL小説)風のゆくえには~自由への道5-5

2015年01月23日 11時30分02秒 | BL小説・風のゆくえには~ 自由への道
 観覧車が一番高い位置にきたときに、おれは身をかがめてそっと慶に口づけた。
 柔らかい唇の感触。絡めた手から伝わる体温。愛おしい人。

 一周15分かかるという大観覧車。地上から100メートル以上あるらしい。今日はよく晴れているので遠くの街の明かりまで良く見える。星空の中に浮かんでいるようだ。

「……慶」
 唇を離し、おでこをくっつける。慶の瞳がすぐ近くにある。なんて綺麗なんだろう。

「慶って、アマリリリスの天使って言われてたんだよ。知ってた?」
「あーなんか聞いたことある。天使ってガラじゃねえよなあ?」
「んー……黙ってると天使っぽいよ。ほら、今なんて、空に浮かんでる天使みたい……」

 もう一度……と唇を寄せようとしたら、

「時間切れ。もう他のゴンドラから見える」

 思いっきり押し返された……。

「えーーーー!!まだ大丈夫だよーーーー!!」
「大丈夫じゃねえよ」
「天使、冷たーい!ひどーい!」
「誰が天使だっ」

 本当に、天使みたいなんだけどな。
 切ないほど綺麗な、おれだけの天使……。

「手つなぐのはいいでしょ? 見えないでしょ?」
「…………ん」

 慶が手を繋いでくれる。それだけでも嬉しい。

「なんかさあ、のぼりよりくだりのほうが早い気がしない?」
「だな。どんどん地上が近づいてくる」

 現実に引き戻される……。

「あーーーついてほしくなーい。このままずっと慶と二人きりでいたーい。ね、もう一回乗る?」

 提案してみたが、慶にぶんぶん首を振られた。

「いやいや、またあの長蛇の列に並ぶのはキツイだろー。腹減ったし」
「んー……さらに列のびてるね……」

 近づいてくる地上の様子を見ていたのだが……

「!」
「どうした?」

 ビクッとなったのが、繋いでいた手で伝わってしまった。心配そうにのぞきこんでくる慶に、

「何でもないよー。ね、ご飯何食べるー?」
「んーーーお好み焼きは?」
「いいね~。前行ったあそこの店でしょ? 混んでないといいねえ」

 何でもないように装いながら、心臓の鼓動をどうにか鎮めようとする。
 慶には気づかれないように、恐る恐る、先ほど目に入ってしまったものの方向に視線を動かす。

(……お母さん)

 黒い毛皮の黒い魔女が、楽しそうな人たちの中に佇んでいた。まるで一点の黒いシミのように。


***


 いつ母が現れるのかと気が気でなかったが、結局最後まで母は現れなかった。後をつけていただけらしい。せっかくの記念日に集中できなくて腹が立つやら悲しいやら……。
 いっそのことラブホテルにしけこんでやろうかとも思ったけれど、こんな日はどこも満室だろうからやめておいた。

 食事のあと、気の向くままにあちらこちらを歩き回ってから、帰途についた。おれの家の最寄り駅で一緒に降りて、自転車をとりに家に寄ってから、慶の家まで二人乗りで送っていく。母がまだ尾行していたとしても、さすがに自転車のおれ達を追ってはこれないだろう。ようやく安心して慶との時間を満喫できた。

 一時間後、家に帰ると、母はちょうど風呂に入っているところだった。ホッとした。顔を合わせたら何を言われるか分からない。
 さっさと部屋に入り鍵を閉め、机に向かう。

 せっかくの記念日だったんだ。楽しいことだけ思い出そう。
 財布から観覧車のチケットを取り出し、眺める。慶の瞳を思い出す。唇を思い出す。

「綺麗だったな~~……」
 独り言ちながら、チケットをしまおうと引き出しを開け……

「………」
 頭の上の方がザワッとした。なんだろう? この違和感……。
 微妙に、何かが違う……。

 嫌な予感がする。上から確認していき、その違和感に気が付いた。

 この封筒、縦向きに入れていたはずだ。なぜ、横になっている……?

 震える手をどうにか動かしながら中を確認する。
 この封筒には、南ちゃんが卒業式の帰りに撮ってくれた写真が入っている。慶と二人で写っている写真だ。そっと取り出し………

「……っ」

 息を飲んだ。
 ああ…………慶。

「なんで………」

 慶、慶、慶…………。

 言葉にならない。頭が破裂しそうだ。

「なんで……」

 慶が……写真の中の慶が……傷つけられていた。
 爪のあとだろうか。慶の綺麗な顔が、歪められている。傷つけられている。

「慶………」

 なんで………もなにもない。
 答えは一つしかない。

 母だ。母の仕業だ。

「浩介ー? 帰ってるのー?」
「!!」

 階下からの母の声。

「お風呂、入っちゃいなさーい」

 明るい、まるでドラマの中の典型的な母親のような口調。

「………魔女」

 魔女だ。

「………いなくなれ」

 慶を守らなくては。慶が本当に傷つけられてしまう前に、この魔女をおれが……。

「浩介?」

 コンコン、とノックされる。

「お風呂入ってから寝なさいよ?」

 ドアの向こうからの声。台本のセリフを読んでいるような話し方。
 魔女だ。この女は魔女だ。

「……いなくなれ」

 頭の中が沸騰しているかのように熱い。

 いなくなれ、いなくなれ、いなくなれ……

 立ち上がり、ドアに向かって一歩踏み出した。………が、

「……………あ」

 ひらり、と落ちた、観覧車のチケット。
 星空に浮かぶ天使のような、優しく、強く、美しい人。

『誰が天使だっ』

 ムッとして言っていた慶。
 本当に、天使みたいだったよ? 慶……。

 慶の姿を、声を、感触を、ぬくもりを思い出し、ぐっと踏みとどまる。

『くれぐれも実行しないでよ? 慶君に迷惑かかるんだからね』

 あかねの声が脳内に響き渡る。

「慶……」

 おれは……おれはどうしたらいい?

「浩介ー? 寝ちゃったのー?」
「…………」

 母親の声をドア越しに聞きながら、おれはその場に座り込んだ。

 慶を守るために、おれはどうしたら……。



-----------------------------------------------

 

本当は、昨日ここまで書こうと思っていたのでした。

浩介さん、神経質でキッチリカッチリしてるので、
封筒の入れ方が変わっていることにすぐに気がついたわけですね。

浩介はAB型で……
と書きかけて、今ふいに、二人を血液型とか星座とかで占ってみたんだけど、
めっちゃ相性良くて、しかも言ってることが当たっててビビった。

浩介:1974年9月10日生まれ・おとめ座・AB型
 慶:1974年4月28日生まれ・おうし座・A型

です。

1994年12月のお話なので、横浜の観覧車は今の場所に移動する前ですね。
そして、自転車の規制も今ほど厳しくなかったため、二人乗りも普通にしておりました。


浩介ママみたいな人ってわりといると思う。
豹変女ってやつね。スイッチ入ってしまうととことんみたいな。
本人は、自分はすごく良い母親だと思ってるんだろうな。
働くとか自分の趣味を持つとか、子供に執着するのはほどほどにしないと、子供が窒息してしまいますよ?


本当は今週中に浩介視点を終わらせようと思ってたけどあきらめました。
来週、浩介視点最後の回です。


2015.1.25。すみません、訂正。
今日、用事があって横浜の観覧車近くにいったので、じーっと観察していたら、とんでもないことに気が付いた。
横浜の観覧車、大きいから、上のほうって、直線っぽいのね。
一番上にきても、ほかのゴンドラから見えるんじゃね?
むしろ、時計でいうところの、3時と9時のあたりのほうが中見えないんじゃないの?

うーん。私、この観覧車2回乗ったことあるのですが、
1回目は出来立ての横浜博のころで、2回目はそれこそ94年とかなので、記憶が……^^;

いや~わりとしょっちゅうみなとみらいには行くのですが、
観覧車は乗る機会ないもので……。だって高いんだもんー。
まあ細かいことはいっか~~。雰囲気雰囲気~~。



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(BL小説)風のゆくえには~自由への道5-4

2015年01月22日 12時37分17秒 | BL小説・風のゆくえには~ 自由への道
 父が言う。

 お前のその感情は、錯覚だ。
 お前はずっと友人がいなかったから、初めてできた仲の良い友人に対しての感情を、恋愛感情と間違えて認識してしまっているだけだ。

 何も渋谷君といっさい付き合うなと言っているわけではない。友人関係を続けるのはかまわない。
 ただ、普通に女性と交際をして、結婚しろと言っている。家庭を持つことが社会的信用につながる。


 父の横で母はハンカチを握りしめ、涙ぐみながら肯いている。

 父の瞳は無表情で何を考えているのか分からない。何かが気に入らなくて激昂する時も、何の予兆もないから余計に恐ろしい。

 父は言うだけ言うと、今日は帰らない、といって出ていった。これもいつものことだ。

 残された母とおれ。父を見送った後の玄関は、耳が痛くなるほどシーンとしている。

「夕飯何にしようかしら……」
「僕はいりません」

 台所に戻りかけた母の背中に、なるべく感情をこめないで伝える。

「今日は遅くなります。待たないで先にお休みください」
「遅くって、何時ごろ?」
「わかりません」
「どこにいくの?」
「わかりません」
「誰と会うの?」
「…………」

 答えずコートを取り、靴を履いていると、母が苛立ったように、

「浩介、お父さんのお話し聞いてたわよね? あなたは……」
「お母さん、お父さんからの話、分かってくださいましたよね?」

 振り返り、言葉をかぶせる。

「分かってって……」
「渋谷君の家族に迷惑をかけるようなことは、金輪際してはいけない、って話です」

 母の今回の行動のすべてを、父に報告した。
 母に話しても理解するどころか、途中で怒りだして話にならないので、父を頼ることにしたのだ。

 こんなに長時間、父と話をしたのは、生涯で三回目のことだ。一回目は中学3年生。県立高校に行きたいと話したとき。二回目は高校三年生。学校の先生になりたいと話したときだ。結論、経過、意見、を無駄なく話さなければ途中で話を打ち切られてしまう。今回は無事にすべて言い切ることができた。

 父は聞きおわると、母を呼びつけ、「二度とそんなみっともない真似をするな」と冷たく言い放った。母は震えあがった。父は王様だ。父のいうことは絶対だ。

 内心快哉を叫んだのも束の間、父が「お前のその感情は、錯覚だ」とおれに話を向けてきて、今度は母が嬉しそうな顔をした。

 おれと母は父の駒だ。父の思い通りに動かなくてはこの家では生きていけない。

 母が、掴みかかからんばかりの勢いで怒鳴ってくる。

「あなたのためにしたことよ!それなのにお父さんに言いつけるなんて……」
「お父さんからの命令です。『二度とそんなみっともない真似をするな』」

 無表情に言うと、母はおびえたように口を結んだ。
 そんな母を一瞥し、おれは勢いよくドアを開けた。

「行ってきます」

 早く家をでたい。このうちにもう二度と「ただいま」と帰ってきたくない。


***


 今日は12月23日。
 おれと慶が付き合いはじめて3回目の記念日だ。
 それなのに……

「お前、なんかあった?」
「え?!な、ないよっ」

 慶に言われ、思わず勢いよく否定する。こんな勢いでは、何かあったと白状しているようなものだ。失敗した。

「な、なんで?」
「いや……」

 慶は小首をかしげると、

「いつものお前だったら、記念日だからここ行きたいだのあそこ行きたいだの大騒ぎするじゃねえか」
「大騒ぎって」
「でも、今回、どこでもいいって」
「…………」

 そうなのだ。本当は色々考えたかったのだけれど、他に考えることが多すぎて……。
 行先が決まらなくて、電車を見送ってしまったため、ホームの端には今はおれ達しかいない。

 慶がポンと手を打つ。 

「あれか? 三年目の倦怠期?」
「えええっ」

 け、倦怠期?!

「3のつく時は危ないらしいな。3日、3か月、3年……。3年目の何とかって歌もあったよなあ」

 何とかって……、う、浮気?!

「ちょ、ちょっと慶っ」
「冗談だよ」

 ふっと笑って慶が言う。

「今日で丸三年、明日から四年目突入、だもんな。もう3年目の危機は乗り越えたってことじゃねえの?」
「……………」

 3年目の危機……今がまさしく危機、なんじゃないだろうか。

「そういや、南がさ」
「え?!」

 南、という言葉に過剰に反応してしまう。おれが内緒で会ったことバレたのか?!
 焦ったおれに気が付いた様子もなく、慶が言葉を続ける。

「『お兄ちゃん達、今日が付き合いはじめ記念日だから』って椿姉に話してたんだよ。おれ言った覚えないんだけど、お前話した?」
「あーーーー……」

 話したどころか、3年前の今日、南ちゃんにけしかけられて慶に告白したんです。なんて、言えない絶対。

「話したかも……」
「そっか。お前と南ってなにげに仲良いよな?」
「え、そう?」

 まずかったかな……。
 動揺したおれの顔を、慶がじっと見上げてくる。目をそらしたくなるのを耐えていると、

「お前、もしかして、南から聞いた?」
「な、何を?」
「お母さんの話」
「………………」

 うっと詰まっていると、いきなり手を捕まれた。ドキッとする。慶は人目があるところでは触れたりするのを嫌がるのに。
 顔が赤くなっていくのをどうにも隠せないでいると、慶がボソッと言った。

「……指相撲しようぜ」
「……え、うん」

 何となく、勝負しているようなしていないような指相撲をはじめる。
 温かい体温が伝わってくる。愛おしい。

「うちの家族は全然大丈夫だからな」

 指を見つめながら慶が言う。

「気にすんなよ?」
「でも……」
「お前のご両親にも認めてもらえるようにならないとな」
「…………」

 あの人達が認めてくれる日なんか来るとは思えない。
 父にも今日あらためて全否定された。
 いつまた母が暴走するかもしれない。
 そうしたら今度は……。

「……なな、はち、きゅう、じゅうっ。おれの勝ちっ」
「あ」

 にっこりと慶が笑う。

「勝者特権でおれが行先決めるぞ? んーと、観覧車。観覧車乗りに行こうぜ?」
「うん……」

 ちょうど電車がくるとのアナウンスも入り、ちらほらと人も増えてきた。

「お前、暗い。せっかくの記念日だろー?」
「くすぐったいくすぐったいってば」

 脇腹をぐりぐりとおされて笑ってしまう。
 先のことを考えていても仕方がない。
 せめて今日、今、この時は慶のことだけを思って過ごしたい。

「ありがとうっ慶っ大好きっ」
「人前で抱きつくなっ」

 愛しさが募って後ろから抱きしめたら、普通に怒られた。
 いつものおれ達だ。


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だめだ。時間切れ。終わらなかった。
続きは明日。

あと2回、浩介視点続きます。
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(BL小説)風のゆくえには~自由への道5-3

2015年01月21日 11時50分35秒 | BL小説・風のゆくえには~ 自由への道
「やっぱり恋に障害があるとさらに燃え上がるわよね~もうワクワクしちゃう」

 慶の妹、南ちゃんが嬉しそうに言った。
 有り難いというか何というか……。

 おれはあかねと別れてすぐに南ちゃんのバイト先に行った。
 南ちゃんは本屋でバイトをしている。それも普通の本屋ではない。慶曰く「あやしげな本屋」だ。
 おれも初めて行ったけれど、確かにあやしかった。かなりマニアックな品揃えで、商業紙でない本も取り扱っている様子。フィギアやグッツも多い。
 狭い店内を恐る恐る進んでいくと、ちょうどエプロン姿の南ちゃんが本のチェックをしているところに出くわした。

 おれを見ると南ちゃんは「そろそろ来る頃だと思った~」とニヤーッと笑った。
 南ちゃんはかなり美人なのに、どうもその自覚がない。表情や行動がいつもあやしい。そこがあかねと違うところだ。あかねは自分が美人だと自覚して、それを最大限に発揮するようにしているけれど、南ちゃんにはまったくそれがない。だから「よく見れば美人だけど……」となる。南ちゃんが外見磨きに精をだしたらあかねとは違うタイプの美人として張れることは間違いなしだが、そうしないところが南ちゃんらしくていいといえばいい。

 南ちゃんは開いていたファイルをぱたんと閉じると、奥に向かって突然叫んだ。

「店長ー! 休憩入っていいっすかー? ついでに事務所借りていいっすかー? お兄ちゃんの彼氏きてるんでー」
「みっ」

 南ちゃんっ、な、何を大きな声で!

 すると、レジの奥から丸い眼鏡をした大柄な女性がのっそりと出てきた。キュッと頭の上で一つに縛った髪の毛が爆発していてもう一つ頭があるようだ。

「南、おいしい紅茶がある。飲め。お兄さんの彼氏さん、ごゆるりと」
「…………」

 重低音のものすごく良い声。
 ぽかんとしているおれを南ちゃんがぐいぐいと押していく。
 ……不思議な店だ。店長さんも合わせてなんだか映画のセットのようだ……。

 
**

 おいしい紅茶、をいただきながら、南ちゃんにズバリと質問する。

「おれの母親、きた?」
「うん」

 南ちゃんはニッコニコだ。

「やっぱり恋に障害があるとさらに燃え上がるわよね~もうワクワクしちゃう」
「…………」

 有り難いというかなんというか………。

「それで、なんて……?」
「お兄ちゃんと別れさせるのに協力してくれって。あなたもお兄さんが男の人と付き合ってるなんて恥ずかしいでしょう?って」

 南ちゃんは、うふふふふと怪しげな笑いをしながら、

「もー、お母さん素敵すぎ! 恋の障害として完璧なキャラです!」
「…………………」

 ここまで割り切れればおれも楽になるんだろうな……。

 南ちゃんは引き続き、うふふふと笑いながら、

「でね、うちの店長が、戦国時代の色子の話からはじまり2時間くらい熱弁ふるってねー。お母さん、辟易した感じでお帰りになりました。チーン」
「………………」

 店長さん……あの母を黙らせたのか。すごいな……。

「あ、それでね」

 ふ、と南ちゃんは表情をあらためた。

「お兄ちゃんには口止めされてるけど、うちの両親のところにも……」
「……やっぱり」
「うん」

 南ちゃんは紅茶を一口飲むと、静かにカップを戻した。

「お父さんの会社は結構ちゃんとしたとこだからさ。ちょっと騒ぎになったんだけど警備員さんに事情を話して、それからは出入り禁止にしてもらったから、全然大丈夫だって。しかも上司の人、アメリカ人女性なんだけど、そういう偏見とか大嫌いな人らしくてね。そのあとに電話がかかってきたときに、英語でわーーーっとまくしたてたらしくて、それ以来、電話もかかってきてないって」
「…………」

 すみません。おじさん……。飄々とした雰囲気の慶のお父さんを思い浮かべて頭を下げる。

「お母さんはねえ……」

 なぜか、ここで南ちゃんはうふっと笑って、

「お兄ちゃんにとっては、いい方向に向かったかも。今までお母さん、正直なとこ二人が付き合ってることにあまりいい顔してなかったんだけど、今回浩介さんのお母さんから色々言われたら、逆方向に吹っ切れたみたいでねー。もうすっかり応援姿勢よ?」
「え……」

 シャキシャキとした慶のお母さんを思い浮かべる。

「なんで認めてあげないんですか!とか言っちゃってさー。ケンカっぽくなってその日は終わり」
「その日は?」
「次の日はお母さんのパート先にきたんだって。でも、お母さん、朝のうちに同僚や上司にも話してあったから、みんなが対応してくれたって」
「…………」

 慶のお母さんがみんなから信頼されている証拠だろう。
 おれもそうであれば……。

「浩介さん、家庭教師のアルバイト首になっちゃったんだって?」
「え」

 なんで知ってんの?

「浩介さんのお母さんが言ってたよ。今回、お母さんがこういう行動おこしたのはそのせいみたいよ?」
「でも……」

 おれはバイトを首になったなんて一言も言っていない。バイト先が変わったということは保証人欄に記入する関係で話したけれど……。

「なんかねー、お母さん、浩介さんの新しいバイト先の塾に挨拶にいったんだって」
「え?!」
「そこで、前のバイトをやめた理由を塾の人から聞いたらしいよ」
「…………」

 今のバイト先は、前のバイト先の所長から紹介してもらった。この塾は色々な個性のある子供たちを受け入れているという特徴もあり、他の先生方も理解があるから安心して働きなさい、と……。

「まあさーお母さんも、自分の息子が男と付き合っているがためにバイト首になったなんて知って、将来が心配になっちゃったんじゃないの?」
「………………」

 おれの将来、ではなく、自分の将来が、だ。そして世間体……

「でも!」
「うわっ」

 暗い考えに沈みそうになったところを、南ちゃんがテーブルをたたいた音で引き戻される。

「そこを乗り越えて貫く愛が美しいんじゃないの!浩介さん!! いい?! 負けちゃだめだからね!! 渋谷家は一丸となって二人を応援しています!」
「南ちゃん……」

 慶の家族は仲がいい。南ちゃんが小さかった頃は大変だったらしいけれど、それもお姉さんを含め家族みんなで協力して乗り切ったらしい。

 先日、家庭教師の生徒だった希衣子ちゃんが夜におれを訪ねてきたとき、慶は希衣子ちゃんを見るなり「おうちに連絡しなさい」と言った。
 衝撃だった。今日、あかねも言っていたが、おれとあかねにはその発想がまったくなかった。ひとかけらも思いつきもしなかった。まともな家族の中で育った人には、家族を思いやる気持ちが自然にあるのだろう。それが正しい。

 おれは…………

 おれには、慶と一緒にいる資格があるのだろうか。

 この素敵な慶の家族に迷惑をかけてまで、一緒にいていいのだろうか……。


---------------------------------------------------------------


さすが南ちゃん。南ちゃんが絡んだなり、筆の進みが早くなった。
南ちゃん突き抜けてて楽しい。書きやすい。

あと2回で浩介ターン終わらせる。
でも慶と浩介が全然絡んでなーい。絡ませたーい。


ちょっと浩介のお母さんのフォロー(?)をしますとね。

浩介ママ、浩介の新しいバイト先に、
「息子には内緒でご挨拶に参りました~うちの子どうぞよろしくお願いいたします~」
的な挨拶をしにいったら、思わぬことを聞いてしまって。

これはまずい!やっぱり別れさせないとダメなのよ!と思っちゃったわけね。
で、調査会社に依頼。慶と慶の父母妹の勤務先を調べる。

で、まず慶父のところに。
でも「もう成人したんだし、子供のことは子供に任せてます」的なことを言われ、かっとなってワーワー騒いでたら警備員につまみ出され、電話したら英語でまくしたてられ……。

次に慶母のところに。はじめは自宅にいきました。
最初は、慶母も別れさせた方がいいって感じだったのに、話しているうちに、慶母が「子供は親のアクセサリーじゃない!」とブチ切れ、交渉決裂。
翌日、パート先に出向いたところ、他の従業員たちに追い返される。

極めつけは南ちゃんのバイト先。
強烈キャラの店長さんに、同性愛というのは昔からあることで決しておかしなことではない、という話を延々と2時間も聞かされ、退散……。

で、行きついた先は、アマリリリスでした。
毎日のように通ったけれど、ある時「慶君にはやめてもらいました」と言われ……。

本当かしら、と再び様子を見にいったところ、お客さんが「慶君が辞めた」と話しているのを聞き……

あ、本当にやめたのね。そうよね、そういう子は辞めさせられるわよね?やっぱりね?
世間的にはそうよね?私がおかしいんじゃないわよね?
渋谷さんのところの関係者みんなに、私の方がおかしい、みたいに言われて、ちょっと不安になってしまったけど、やっぱり私が正しいのよね?

と思って、安心して笑ったんです。

別に、慶を辞めさせたかったわけじゃないんだよ。浩介は勘違いしてるけど。
まあでも結果的に浩介ママのせいで辞めたんだから同じか。

なんかちょっと浩介ママの気持ちも分からんでもないんですよ。
自分の子供には良いところ良いところにいってもらいたいものね。
でも、やりすぎ。行き過ぎ。独善的すぎ。

……私も気をつけよう。

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