創作小説屋

創作小説連載中。BL・R18あるのでご注意を。

ベベアンの扉(15/22)

2006年10月17日 22時10分29秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
「私、思ったんですけど、誰かが下から見ている必要があるのかもしれません。私が昔見た高校生も、私と目があったときに柿を投げてきたんです。和也君もおばさんに見られてからボールを投げてる。たぶん緑澤君も和也君に外からみられたんでしょう」
「あ、ええ、和也もそういっていたわ」
 鼻をすすりながらおばさんがいう。
「じゃあ、私、一回外にでるから、あなたボールを投げてくれる?」
 おばさんが急いで外に向かう。その様子に自分の母親の姿と重なる。
 果たして私がこういう目にあったときに、母は涙を流してくれるのだろうか。助け出そうとしてくれるのだろうか。・・・きっと、幼い息子(私の父親違いの弟だ)を気遣って、自分の命までは投げ出せないだろうな。父も同じだ。萌を残すことを考えたらできないだろう。そう思うと気分が落ち込んでくる。
『七重、きてくれたのね』
「!」
 ギョッとした。あの声がどこかから聞こえてきた。
『赤い物を投げて』
 窓の外を見てみる。うつろな目をした緑澤君のお母さんが立っている。それを見てはっとした。昔見た高校生もこんなうつろな目をしていた。そして、当時の私も・・・。
 今の私もこんな目をしているのだろうか? 緑澤君も和也も? 同じ目をしたものと見つめあったときに扉が開くのか?
『赤い物を投げて』
 言われるまま、赤いボールをおばさんの足元に向かって投げつける。
 すると・・・
「夢と一緒だ・・・」
 大きな扉が窓の外に忽然と現れた。あたりはまぶしいほどに光っていて、扉を直視することができない。
「まあ・・・っ」
 部屋に戻ってきたおばさんが、感嘆ともいえる悲鳴をあげた。
「本当だったのね。本当に扉が現れたわ!」
「これ、外からは?」
「見えなかったわよ。何も」
 では、この部屋からだけ見える扉なのか?
『呪文を唱えて、呪文を唱えて』
 またあの声が聞こえてきた。扉の方から聞こえてくるようだ。
 私はおばさんにうなずきかけ、思い切ってその言葉を言い放った。
「ベベアン、ベベアン!」


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ここまでお読みくださった方々、本当にありがとうございます。
ワードに書いてそれをブログにアップするという形をとっているのですが、
ついにブログに追いつかれてしまいました
今、ちょっと抱えている仕事がありまして・・・。
それが落ち着いたら続きをアップさせていただきます。
できれば来月には再開したいと思っています。
それまでどうかお見捨てなきよう、よろしくお願いいたします。

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ベベアンの扉(14/22)

2006年10月16日 15時29分06秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 それから、達之の部屋から赤い物を何度も投げてみたが、扉は現れなかった。何かが違うのかもしれない。
「本当に達之と和也はその何とかっていう扉の向こうに行ってしまったのかしら?」
「たぶん・・・。もう一度和也君が消えたときの状況を話していただけますか?」
 おばさんは爪を噛みながら、話し出した。
「ゴミ捨てをして、戻ってきて、家の門を開けようとしたときに、窓の外をみている和也の姿がみえてね。『達之なにしてるの?』って声をかけたのよ。そうしたら、突然赤いボールを投げてきて・・・」
「え? ちょっと待ってください」
 スラスラ言うから聞き流すところだった。
「和也君をみて『達之』って声をかけたっておっしゃいました? おばさん、和也君のことをわざと達之って呼んでるんですか?」
 するとおばさんは気まずそうに俯いた。
「だって・・・和也のせいで達之はいなくなったのよ。あの子がいつも達之のことを馬鹿にしていたから・・・。和也が達之になればいいのにっていつも思ってたわ。そう思ってたら、自然と和也のことを達之って呼ぶようになっていたの」
「そんな・・・」
 そんな馬鹿な理由があるか!? 二人とも自分の子供なのに・・・。
「でもね、消える寸前の和也・・・、いつものように『達之』って呼んだだけなのに、あの子、みたこともないような寂しそうな顔をしたのよ。今までは何て呼ばれようと飄々としていて・・・、ああ、この子は私になんの感心もないんだなって思ってたのに・・・」
 いきなり、おばさんはわあっと泣き出した。
「ごめんね、和也。あなたのせいじゃないのにね。ごめんね、達之。私があなたを追いつめたのよね。悪いお母さんよね。全部私が悪いのよね。ごめんね。ごめんね・・・」
「・・・・・・」
 泣き崩れるおばさんを励ます言葉は見つからなかった。だって、緑澤君と和也のほうがもっともっと辛かったって思えるから。
「おばさん・・・それは二人が無事帰ってきたら直接言ってあげてください」
 そう。私たちは二人を連れ戻すんだから。泣いている場合ではないんだ。

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ベベアンの扉(13/22)

2006年10月15日 15時18分59秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 朝早く、私は緑澤邸に向かった。和也に会って、緑澤君がいなくなった時のことをもっと詳しく聞こうと思ったのだ。
 家の近くにきて、異変に気がついた。開け放たれている窓の中から、女性の悲鳴混じりの声が聞こえてきている。
 インターホンをならすと、緑澤君の母親が慌てた様子で出てきた。
「ああ、あなた。ちょっと中に入って!」
 強引に中に引きずり込まれた。整理整頓されていたはずの家の中は、泥棒でも入ったかのように物であふれかえっている。
「和也が突然消えてしまったのよ!」
「・・・和也君が?」
 達之、ではなく、和也、が?
「私がゴミ捨てから帰ってきて門を開けようとしたらね、突然、部屋の窓からボールを投げてきて、それで何か変な言葉を叫んで、そうしたら……」
「消えてしまったんですね?」
 私がみた高校生と同じだ。みんな『ベベアン』に行ってしまったんだ。
「おばさん、たぶん、緑澤君も和也君も行ってしまったんです。扉の向こうに」
「何を言って……」
 言いかけて、おばさんは言葉を飲んだ。目の前で消えたのを見ているだけに、突飛なことも笑い飛ばせないに違いない。
「私、扉をあけます。おばさん、一緒に二人を連れ帰りましょう」
「何を言って……」
 再び言いかけて、おばさんはまた口をつぐんだ。そして、こっくりとうなずいてくれた。
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ベベアンの扉(12/22)

2006年10月14日 20時42分53秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 明け方、また夢を見た。
 夢の中の私は、和也と一緒に緑澤君の部屋の窓から外をみている。
『はやくおいで』
 またあの声が聞こえてきた。
『ここにくれば幸せになれるよ。みーんな幸せになれるよ』
『赤い物を投げて、呪文を唱えて』
『そうすれば扉が開くよ』
 和也が無言で赤い小さなボールを窓の外に向かって放り投げた。
 すると、まぶしい光があたりを包み込み・・・窓の外に大きな扉が現れた。ヨーロッパのお城にでもついているような扉だ。
「呪文・・・」
 和也がぼんやりとつぶやいた。
「呪文って、あれかなあ・・・。お兄ちゃんが言ってた。ベベ・・」
「ダメ!」
 ダメだ。言ってはダメだ。扉が開いてしまう。扉の向こうに連れて行かれる!
「ダメだよ! 和也君!」
「七重さんも僕も、家に居場所がないじゃない。だから一緒に行こうよ。幸せになれるって言ってるよ」
「でも・・・」
「お兄ちゃんもあっちにいるよ。一緒に行こうよ。この世界に居場所はないんだから」
 グッと和也に腕を引っ張られる。
「じゃあ、呪文を言うよ。ベベ・・・」
 ピピピピピピピピピッ!
 突然、大きな音がした。まわり中に響き渡る、携帯電話の呼び出し音。
「メールだ・・・」
 携帯メールの着信音だ。きっと友達からだ。今日の集合時間の件に違いない。
 そう。そうだ。友達・・・。
「七重さん? 行くよ」
「ダメ!」
 やっぱりダメだ!
 和也の腕を振り払って叫んだ。
「居場所は自分で作るものだよ! 家にないのなら、外に作ればいい! こんな扉の中に入ったら一生出てこられなくなるよ!」
「じゃ、いいや。僕一人でいくよ」
 和也がふいっと私から離れた。ダメだ!
「ダメ!」
 ダメダメダメダメダメーーーーー!
「!」
 自分の声で目を覚ました。
 リアルな夢だった。ものすごい冷や汗をかいている。
「あ、メール・・・」
 手元に置いておいた携帯が、着信を知らせるランプを灯している。夢の中で聞こえた音は本物の着信音だったんだ。
『上京組の会合は、6時半、渋谷ハチ公前で変更なしだよ! こられるよね? PS.噂の彼とは会えたの~?!』
 高校の友人からだった。
『まだ会えてないんだよ。弟とは会えたんだけどね。待ち合わせ時間、了解です』
 返信するとすぐに返事がもどってきた。
『今日中に会いなさい!! それで連れてきてよ~。期待して待ってるぞ』
「期待されてもねえ」
 おもわず笑ってしまった。卒業しても変わらないノリが何だか嬉しい。笑っていたら、涙が出てきてしまった。
 長野の高校で出会った友人達は、無口な私を自然と受け入れてくれた。私は初めて居心地の良い場所を得ることができた。彼女たちのおかげで、家に居場所がない寂しさからも解放されていた。
 そう。私には居場所がある。
『がんばって探してみるよ。じゃ、後で!』
 返信して、決意を新たにした。
 緑澤君に会わなくては。
 彼のおかげで私は変われたのだ。彼の花火のおかげで、両親と向き合い、長野行きを決意できた。長野の中学では、緑澤君が思っていた私になりきって、毅然とした態度を貫いたおかげでイジメになんかあわなかった。そして高校で最高の仲間と出会えた。
 今、緑澤君が困っているのなら、今度は私が彼を助けてあげたい。

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ベベアンの扉(11/22)

2006年10月13日 14時37分27秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
「達之~? 誰か来ているの~?」
 ノックもせずにドアが開き、緑澤君のお母さんが入ってきた。そして私の顔を見るなり、眉を寄せた。
「あなた昨日も外にいたわよね? 最近、どうもおかしいと思ったら・・・、達之にはまだ男女交際は早すぎるわよ」
「そんなんじゃないよ、母さん」
 達之、と、兄の名前で呼ばれた和也は苦笑して首をふった。
「彼女は忘れ物を届けにきてくれたんだよ」
「あら? そうなの? それはどうも」
 そういいつつも目は不信気だ。
「用事が済んだのならお帰りくださる? 達之はこれから勉強しなくちゃいけないのよ」
「・・・はい」
 ごめんね、と目配せした和也に小さく手を振って緑澤邸をでた。
 白い門が、ギギギギギと不気味な音を鳴らしながら閉じる。閉じた瞬間、
『ベベアンの扉はここだよ』
『早く七重もこっちにおいで』
「!」
 あの声が聞こえてきた。でも、そんな扉はどこにも見あたらない。

 その夜、優紀子さんに緑澤君のことを聞いてみた。彼女は地域のボランティア活動に積極的に参加しているため、町内のことに詳しいのだ。
 話しによると、緑澤君が行方不明になったのは最近のことらしい。
 何でも緑澤君は、中学も高校も受験に失敗して希望の学校に入れなかったのに、大学受験にも失敗して浪人生になってしまったそうだ。弟の和也は、今春、緑澤君の落ちた中学よりもランクの高い私立中学に楽々合格したらしく、それで余計に家に居づらくなったのではないか、と近所ではもっぱらのウワサだそうだ。
 母親が和也のことを「達之」と呼んでいることもウワサになっていて、ついに先日から、彼女は夫につきそわれて精神科に通院しはじめたらしい。
「かわいそうに・・・」
 期待に押しつぶされた達之も可哀想だが、存在を消されてしまった和也も気の毒だ。
 まあ、私も両親に存在を認められていないようなものなので、似ているかもしれない。
「ママーお風呂上がったよ~」
 萌が頬を蒸気させて部屋に戻ってきた。父がお風呂に入れてあげたのだ。休日はいつもそうだというので驚いた。私は一度も父に入れてもらったことがないのに、ずいぶんと変わったものだ。
「幸せそうだな・・・」
 父と優紀子さんと萌を見ていると、本当にそう思う。母と吉川さんと弟の拓実を見ていてもいつもそう思うのだけど。
「じゃ、私って何で産まれてきたんだろう?」
 父と優紀子さん、母と吉川さんが正しい組み合わせだったとしたら、父と母の間に産まれた私っていったい何なのだろう?
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