創作小説屋

創作小説連載中。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶(27)

2007年06月29日 11時08分05秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
「3次会参加希望?」

飄々と彼が言う。
手に新しいタバコを持っているところをみると、
タバコを買うために外にでただけらしい。
また店に戻ろうとしている。

階段の手すりをみるフリをして、慌てて彼に背を向ける。

「一杯やってく? すぐ閉店だけど一杯くらい飲めるよ」
「やめとく」
「なんで?」

顔をのぞき込まれそうになって、急いでそっぽを向く。

「どした?」
「どうもしない」

あやしい。私、かなりあやしい・・・。
でも素顔を見せるわけにはいかないっっ!

「じゃ、ちょっと待ってて。会計すませてくるから」

なぜかクスクスと笑いながら彼が扉を明けた。

「待っててよ。帰らないでよ」

念を押されて、背を向けたまま肯いてみせる。

ううう。なんでスッピンできちゃったんだろう。

でも・・・会えて嬉しい。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(26)

2007年06月27日 10時06分52秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
店の前に着いたのは3時15分前だった。
8年前と変わらず、木の扉に大きな葉が飾られている。
もしかしたら色々変わっているのかもしれないけれど、
何しろ8年前の記憶だから、イメージだけで判断してしまう。
「何も変わっていない」と。

大きな取っ手を引っ張ろうとして・・・
我に返った。

いや、夫のことや家族のことが頭をよぎったのではない。

お化粧をしていないことに気が付いたのだ!

今さら馬鹿みたいな話だけど、彼と会うのならば、
なるべく綺麗な姿でいたかった。

「か、帰ろう・・・」

背を向け、階段を降りはじめて・・・
階段を上ってくる人影に足を止めた。

「あ・・・」

彼、だった。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(25)

2007年06月26日 10時40分40秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
風呂場での行為の利点は、汚れることを気にしないでいいことだ。

夫は避妊器具を嫌がって使ってくれないので、いつも最後は手で抜いてあげることにしている。
ベッドの場合、トイレットペーパーをスタンバイさせて、いく瞬間にサッと栓をする。
我ながら職人技だと自分で感心する早業だ。
でも、それでも、シーツに汚れがつくこともある。
洗ったばかりのシーツだったりすると、余計に気が滅入る。
風呂場の場合、そういうことを気にしないでいいのがいい。

とにかく、この時間から早く解放されたい。
その一心で、どんな要求にもこたえる。

夫は私を悦ばそうとしてくれるのだが、
正直言って、そんな無意味なことはやめて欲しい。
それならば、さっさといってくれたほうが、何百倍何千倍も嬉しい。

そんな虚しい時間を過ごした後、
夕飯の片づけをして、翌日の昼食と夕飯の下ごしらえをする。
明日は土曜日で休みなので、夫は昼過ぎまで寝ているだろう。
夫の朝食の準備をする手間がないだけ、少し楽だ。

すべての用意が終わったのは深夜2時過ぎだった。
夫はもうイビキをかいて寝ている。

私は7時には起きなくてはいけないのに。
あの時間さえなければ、もっと早く眠れたのに。
あの時間さえなければ、本だって読めたのに。

ドアの向こうから聞こえる夫のイビキを恨めしく思いながら、自分も子供達の寝ている部屋に行こうとしたが、
ふと思いついて、パソコンの電源をつけた。

予想通り、同級生掲示板に書き込みがしてあった。
いつも飲み会の後には、書き込みをするのが常となっているのだ。

始まりは22時半。

「今日はお疲れさま!楽しかったよ~。二次会はどうだった?」

一次会だけで帰った子からの書き込み。
その後にもいくつか書き込みがあった。

そして1時過ぎ。

「二次会のカラオケも盛り上がったよ~」

二次会に参加した子からの書き込み。
どうやら、終電ギリギリまで遊んでいたようだ。
そして解散したらしい。

以前だったら、徹夜で飲んだりカラオケしたり、ということは珍しくなかったのに、最近は、みんな徹夜をしなくなった。
それは家庭を持ったせいだったり、体力的にきつくなったせいだったり、
理由は色々だけれども、要するに「もう若くない」という一言につきるのかもしれない。


全部読み終えて、パソコンを消そうとしたのだが、
何となく気になって、再度掲示板をたちあげた。

「・・・・・・あ」

息をのんだ。
新たな書き込みがあった。

「現在、一人寂しく3次会してまーす」

彼、だった。
携帯から投稿したようだ。

たぶん、あそこだ。あの店だ。
彼のお気に入りの、カウンターで飲める店。
あそこは3時までやっている。

時計を見上げた。
今、2時20分。
タクシーを使えば、深夜だし20分くらいで着く。

深く考えもしなかった。
ただ、本能のおもむくまま。

そこにかけてあった洋服に着替えて、
財布と携帯だけ持って、
うちを出た。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(24)

2007年06月22日 11時36分47秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
「お風呂、一緒に入らない?」
夫が誘ってきた。

これからやること山ほどあるんだけど・・・
ため息をついてみせても、
お構いなしに、太股のあたりに手を伸ばしてくる。

私は素早く計算する。

ここで断ると機嫌が悪くなる。
前回したのは一週間前だから、そろそろしておかないといけない。
それだったら、お風呂でしたほうが早くすむ。
ベッドに行こうと言われる前に、お風呂で手を打ったほうがいい。

「じゃ、お風呂行こう」
言い置いて、さっさと脱衣場に向かった。



この日、子供達が寝静まった後に夫は帰ってきた。

夫が夕飯を食べ終わるのを、横でお茶を飲みながら待つ。
私自身は子供達と一緒に食べてしまっているのだが、
夫は一人で食事をするのが嫌なんだそうだ。

食事をしながら、夫は会社の愚痴をこぼしている。
夫も夫で大変なんだ、とは思う。

でも、私もね。
日中は子供達に付きっきりで何もできないの。
今、あなたがご飯を食べ終わったら、その食器の片づけをして、翌日の朝食と昼のお弁当と夕飯の下ごしらえもしなくちゃいけないの。
洗濯物だってたたまなくちゃいけないし、アイロンもかけなくちゃいけない。
だから自分の時間なんてほとんどないの。
土曜日も日曜日も関係ないの。毎日そうなの。

・・・って、言ったこともある。
すると夫は「大変だよね。偉いよね」と褒めてくれる。
でも褒めてくれるだけで、何かしてくれるわけでもない。
だから言うだけ無駄なので、言わないことにしている。


最近、自分が不感性になったのではないか、と疑いたくなるときがある。
お風呂での行為だと、特にそう思う。
どんなにがんばってくれても痛いだけ、ということが多い。
だから、適当にお付き合いをして、
あとは、夫の物を綺麗に洗ってから、口と手でして、事を終わらせてもらう。
なるべく、夫には気取られないように気をつけてはいる。
この一連のことが、私にとってどんなに苦痛であるか、ということは。

そんな時、いつも考えるのは、
「私は夫のどこを好きになって結婚したんだろう」ということだ。

年上の夫は、頼りがいがあって、いつでも私のことを愛してくれて、守ってくれる。
愛してくれていることは確かだと思うのだ。
それがやや自分勝手な愛情表現であっても、十分伝わってくる。
それを幸せなことだと思わなくてはならない。
ただ、私に対する愛情を少し切り取って、子供達にも向けてほしいと思ってしまう。

価値観が同じだったことも、結婚した理由だった。
でも、子供が産まれてからというもの、その価値観はどんどんずれていった。
夫の価値基準は、自分>夫婦>子供。
私は、子供>自分>夫婦。

・・・変わったのは、私の方なのかも知れない。


お風呂から上がり、寝室で寝そべっている夫に、今日、階下の奥さんから言われたことを報告した。
出来ることなら、一戸建てに引っ越したい、と思うことも正直に話した。
今より駅から少々遠くなれば、なんとか買い替えできるのではないか、と。

「無理に決まってるだろ。そんな金ないし、それに駅から遠くなるのは嫌だよ」

以上、終了。
検討する気もないらしい。

いつでも守ってくれるところに惹かれた、はずだった。
頼りがいのあるところが好きだった、はずだった。

やっぱり、変わったのは私だけではないみたいだ。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(23)

2007年06月21日 09時44分21秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
最低限の家事を終わらせ、早々に公園に出かける。
お弁当持参で、午前中から午後の三時ごろまで公園に居続ける。
まるで公園に住んでいるかのようだ。
三時を過ぎると小学生が遊びだして危ないので、おやつをエサに家に引き上げるのが常となっている。

長男はあいかわらずブランコをこいでいる。
長女は砂場で何かを作っては、私のところに見せに来てくれる。
本当は一緒に遊んで欲しいのだろうに、ブランコのそばから離れられない私に、そのような我が儘もいわず、せっせと運んでくる。
その姿がいじらしくてたまらない。
我が娘ながら、優しいいい子に育ってくれたと思う。

「こんにちは」
遠慮がちに声をかけられた。
振り返ると階下の奥さんが立っていた。

「こんにちは、その後、音、どうですか?」
恐る恐る聞いてみると、
「ええ、前よりは、まあ・・・」
と、言葉を濁された。

まだ、ウルサイということか。

「すみません・・・」
頭を下げた私に、
「あの、息子さんのこと聞きました」
意を決したように奥さんに切り出された。

暴れたりしてるから、うるさかったんですね?
そうなると集合住宅に住むのって限界あるんじゃないんですか?
実は、うちの息子、中学受験を控えているんです。
やはり大きな音がすると集中できないみたいで・・・。
やっぱりね、一生住むつもりで買ったマンションなんでね、気持ちよく住みたいんです。
正直いって、そちらの息子さんに障害があるとかないとかってうちには関係ないんですよ。
ただ、集合住宅に住む上でのルールを守っていただきたいんです。

「すみません・・・」
奥さんの言葉にただただ頭を下げるだけだった。
奥さんの言葉は正論だ。
弁解の余地もない。

「ママ!祐介行っちゃうよ!」
娘の声に我に返り、あわてて奥さんに頭を下げて、息子を追いかける。


追いかけながら、涙が出てきた。
私だって、障害のある子を産むって分かっていれば、マンションの一階か、がんばって一戸建てを買っていたに違いない。
だって、今まで平凡な人生を送ってきた私が、まさか『障害児の母』になるなんて、思いもしなかったもの。

まさか、私が、階下の人にそんな苦情を言われる日がくるなんて、思ってもいなかった。

そんな思いも知らず、長男はさっさとマンションに入っていく。
おやつの時間だからだろう。

手を洗わせておやつを出す。
子供達が静かにおやつを食べている間に、夕飯の準備をする。
下ごしらえは前日の晩にしているので、いつもはそんなに時間はかからないのだが、
今日は色々考えてしまって、手順が悪く、子供達がおやつを食べ終わっても、まだ準備が終わらなかった。

息子が自分で椅子から飛び降りて、クルクル回りはじめた。

「ゆ・・・」
「祐介!」

私が怒るよりも早く、娘が鋭く叫んだ。

「ここでクルクルしちゃダメでしょ!こっちにきなさい!」

弟を羽交い締めにして、マットレスのところに連れて行こうとする長女。
その顔は・・・いつものおっとりとした優しい顔からは遠くかけ離れ・・・まるで鬼のようだった。

「ダメっていってるでしょ!祐介!いい加減にしなさい!!」

目をつり上げて怒鳴る長女。
私、いつもこんな顔して怒ってるんだ・・・。

長女にこんな顔をさせたくなかった。

「アーアーアーアーアー!!!」

自由を奪われた息子がパニックを起こして絶叫する。

「祐介!静かにしなさい!・・・痛っ!」

長女が弟の口をふさごうとし、その手をかみつかれて悲鳴を上げた。

「祐介!」

反射的に・・・私は、長男の頬を叩いていた。

子供に手を挙げたのはこれが初めてだった。

長男はビックリしたのか、一瞬声を止めた。
でも、すぐに床に四つんばいになり、今度は自らの頭を床にガンガンと激しくぶつけはじめた。

「祐介、やめて、祐介!」

後のことはよく覚えていない。
長女のことを抱きしめながら、長男の頭の下に手を入れて、なんとか下に響かないように気をつけていた気がする。

こんな時でも、騒音対策の方を優先してしまう自分のことが、本当に嫌になった。
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