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BL小説・風のゆくえには~片恋1-2(慶視点)

2016年01月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

 初めて足を踏み入れた中央棟2階。各部活の物置となっている階だ。写真部はその物置部屋を活動場所にしているらしい。部屋の手前半分は華道部の物置にもなっているため、かなり狭いそうだ。

 中央棟2階の廊下は薄暗くてシーンとしていて、ちょっと怖い……

「なんか怖いね」
「……っ」

 浩介に肩に手を置かれ、こそっと耳元でささやかれて、心臓が跳ね上がる。

 くそー、不意討ちでドキドキさせるなよ………

 浩介は年明けくらいから急にスキンシップの回数が増えてきた。それまではおれからの方が多かったのに、いまや浩介からの方が断然多い。肩やら腕やら腰やら頭やら、やたらと触わってこられて、そのたびにおれはときめいたり、幸せや安らぎを感じたり、抱きしめたくなるのを我慢したり、内心が大忙しになる。………まあ嬉しいからいいんだけど。


「お兄ちゃん、見学の方お連れしたよ?」

 一番端の部屋のドアを軽くノックして、真理子ちゃんが扉を開けた。 

 入り口側は、華道部の大きな棚が左右に2つずつそびえたっていて、間が通路みたいになっている。その狭い通路を抜けた先に、長テーブルと椅子が6脚。

 窓際の一番端の席でカメラのレンズを並べていた三年生がふいっとおれ達に目を向け、ぶっきらぼうに言い放った。

「勝手に見てくれ」
「お兄ちゃん! せっかく来てくださった方にそんな言い方!」

 真理子ちゃんが慌てたように、手をバタバタさせたけれども、言った本人は、神経質そうに黒縁の眼鏡を押し上げ、知らんぷり。再びカメラをいじりはじめた。

 なんか………変な人だ。

 真理子ちゃんが橘先輩に文句を言っているのをBGMに、部室の中を浩介と二人でキョロキョロしてみる。あちこちに写真が飾ってあり、そのいくつかに『○○年入選作』と書かれている。以前は活発な部活だったのかもしれない。

「……白黒?」
「だね」

 写真はすべてモノクロだった。なんで?と思っていたら、

「カラーフィルムは高いからな」

 ボソッと橘先輩が答えてくれた。値段の問題なのかっ。

「あ、この写真、すごい。すごい躍動感」
「あ、おれもそれ思った」

 バレー部だろうか? まさに今、アタックを打つところ。写真の中から音が聞こえてきそうだ。

「あ、それ、お兄ちゃんの作品です。去年、コンテストで入選して新聞にも載ったんですよ」
「え、すごい」

 真理子ちゃんの説明に橘先輩を振り返ったけれど、先輩は興味ない、というような顔をしている。フィルム代のことには答えてくれたのに、自分の写真にはノーコメント。やっぱり変だなこの人。

 そんな兄にため息をつきつつ、真理子ちゃんが切々とおれ達に訴えかけてきた。

「廃部になってしまうと、ここの暗室(といって奥のドアを指さした。準備室的な小さな部屋があるようだ)も使えなくなるし、他にもコンクールのこととか、色々困るんです。入部、考えていただけませんか?」
「えーと……」
「でも、カメラ持ってないよ?」
「あるぞ」

 浩介の言葉に、橘先輩が突然すっくと立ち上がった。思ったよりも背が高い。浩介と同じくらいあるんじゃないか? 顔が小さいから座っているときにはこんなに大きいとは思えなかった。
 妹は背が低いのに、兄貴はずいぶん高いんだな。でも顔は二人よく似ている。

「貸し出し用が2台ある」
「わ」

 横の棚から出してきてくれたのはやたらと立派なカメラ……
 そして橘先輩は、ふいっと南に目をやった。

「君は買うんだよな?」
「はい♪ 日曜日、よろしくお願いします♪」
「え」

 まじか。
 語尾に音符マークのついている南を振り返ると、南はにーっとした。

「入学祝い。本当は私立に行くはずだったのを公立にしたから、浮いた分、ちょっと値が張るもの買ってもいいってお父さんが」
「……ずるい」

 父さんは南に甘い。末っ子の特権だ。おれ、入学祝い何ももらってないぞ。


「真理子には俺のお下がりをやるから」
「え?! ホントに?! やったあっ」

 橘先輩の言葉に、真理子ちゃんが嬉しそうな声をあげている。南と違って素直で可愛い子だ。

 一方、浩介は……

「わーすごいなー」
「……浩介」

 橘先輩が出してくれたごついカメラを手に取って、興奮したように「すごいすごい」を連発している。まるでおもちゃを与えられた小さな子供のようだ。

「お前、興味ある?」
「うん。これ、かっこいい」
「………」

 目がキラキラしてる。ふーん。そうか……

 真理子ちゃんがその様子に気が付いて、こちらに食いついてきた。

「どうでしょう? 桜井先輩、渋谷先輩っ」
「あー……」

 懐かしい「先輩」という呼ばれ方に、若干ときめきを感じながら、浩介を見上げると、

「どうする? 慶?」

 やさしく微笑まれた。つられて笑顔になってしまう。
 別におれはお前と少しでも一緒にいられるなら、なんでもいいんだけど……


「じゃあ、決まりでいいな?」

 橘先輩がふいに口を開き、断言した。

「君の方は(といっておれを指した)どっちでもよさそうだし、君の方は(浩介のことだ)は興味があるようだから、文句はないだろう?」
「はあ……」
「連休前までに、入部届を顧問の中森に出しておいてくれ」
「……げ」

 思わず浩介と顔を見合わせ、苦笑してしまう。よりによって、おれ達が苦手にしている中森が顧問だとは。
 真理子ちゃんが心配そうにおれ達に言ってくる。

「中森先生は名ばかり顧問なので、部活にはまったく顔を出さないから大丈夫ですよ?」
「え、中森先生って嫌な先生なの?」

 中森を知らない南がきょとんとする。すると浩介が眉を寄せた。

「嫌っていうか、マイペースなんだよ。授業もすっごく早くて……」
「国語の先生だよね?」
「うん。古典」

 浩介と南と真理子ちゃんが喋っているのをぼんやりと眺めていたら、なんだか沸々と、高揚感が湧き上がってきた。

(浩介と同じ部活……)

 同じ部活……同じ部活! 
 すごい。いいじゃないか。

 正直言って、写真にはこれっぽっちも興味はないけれど、浩介と『同じ部活』に入るということに、嬉しさを抑えきれなくなってきた。これでおれも浩介の『部活の仲間』だ!

 …………と?

「え?」

 突然のシャッター音。見ると橘先輩がカメラを構えていた。

 もしかして、今、おれを撮った?

「お兄ちゃん! 勝手に……っ」
「いや………」

 真理子ちゃんの咎める声に、橘先輩は肩をすくめた。

「あまりにも絵になるそいつが悪い。誰だって撮りたくなるだろ。そんな顔してたら」
「はああ!? そんな顔って……っ」

 どんな顔だっ。女みたいな顔だってバカにする気なら………っ
 いいかけたけれど、橘先輩がツカツカと目の前までやってきたので黙ってしまう。なんだよ……っ。

 橘先輩は、まじまじとおれの顔を見ると、

「今の写真に名前をつけるなら……」

 ふむ、とうなずいた。

「『内に秘めた情熱』ってところだな」
「!!」

 なに………っ

「カメラには造作だけでなく、その人の内面も写し出される。確かに君は綺麗な顔をしているが、俺はそんなことに興味はない」
「……………」
「その内面の情熱が絵になると言ったんだ」
「……………」

 内面の情熱って………それは。
 それは、おれのこの想いのこと………?

「もう! お兄ちゃん! 絵になろうがなるまいが、勝手に撮ったらダメなんだからね!」

 真理子ちゃんの明るい声に我に返る。

「ごめんなさい、渋谷先輩。お兄ちゃん、こうやって勝手に写真撮って、今までも何回もトラブルになってるんです。ほんとどうしようもない………」
「芸術を解さない奴が悪いんだ。俺は悪くない」
「もう………」

 ふんとそっぽを向いた橘先輩はまるで子供だ。真理子ちゃんとどちらが年上だか分からない。

「慶?」
「………」

 浩介がこちらにカメラを向けている。

 カメラには内面も写しだされる……
 それが本当なら、今、お前の目におれはどう映ってる……?

 切ない気持ちになりながら、カメラを構えた浩介を見つめ返した。………が。

「んー……ぼやけてる。全然ピントが合わない」
「………」

 ………あっそ。


 それからおれ達は、橘先輩にカメラの扱いを少しだけ教えてもらってから学校を後にした。来週から本格的に始動することになるらしい。

 今日は雨のため、バスで帰宅。
 変な時間だからか空いていて、2人ならんで座ることができた。

「慶、あまり乗り気じゃなかったみたいだけどいいの?」

 心配そうに言ってくる浩介に肩をすくめてみせる。

「おれ、部活入ってないし、いい機会かなとか思ってさ」
「そう?」
「顧問が中森ってとこだけが問題だけどな。せっかく二年は古典中森じゃないから顔合わせなくてすむと思ったのに」
「それは言えてる」

 くすくす笑う浩介。

(浩介……)

 愛おしさが募ってどうしようもなくて、濡れた傘を避けるフリをして、腕と膝がくっつくまで近くに座り直す。本当はもっともっと近くに寄りたい。ぎゅーっとくっつきたい。

 部活なんか、何部でもいい。お前と一緒にいられるなら……

「あ、そいえばさ」

 浩介がふいに思いついたように言った。

「慶の『内に秘めた情熱』って何?」
「…………」 

 何って……お前にだけは言えない。

「何?」

 無邪気に聞いてくる浩介。
 そうこうしているうちに、おれの降りる停留所がきてしまった。高校前から10分しかかからないのだ。浩介の降りる停留所はここから5分先になる。

「……知らねえよ」
「あ、慶」
「じゃあな」

 顔を見ることができず、何か言いかけた浩介を置いて、うつむいたままバスを降りる。

「『何』って……」

 お前が聞くな。
 お前はおれがこんなこと思ってるなんて思いもしないだろう。
 こんな気持ち知られたら、もう友達でいられない。
 だから、だから……

「慶、傘ささないと濡れちゃうよ?」
「!」

 心臓が跳ね上がる。
 振り返ると、浩介がこちらに傘をさしかけてくれながら、キョトンとした顔をして立っていた。

「な、なんで……っ」

 なんでお前ここで降りてんだよ?!
 思わず怒鳴ると、

「あ、うん……」
 浩介は大きく瞬きをしてから、えへ、と笑った。

「まだ、一緒にいたくて。……だめ?」
「…………」

 浩介。浩介………

 もう、耐えられない。

「……慶?」
「…………」

 コツン、と浩介の肩口に額を当てる。
 ぎゅうっと抱きつきたいところだけれど、それはさすがに我慢して。
 額を押しつけ、雨の匂いに交った浩介の匂いを吸い込む。愛おしすぎて苦しい……

「………ちょっと、バスに酔った」
「え、大丈夫?」
「………もう少し、このままで……」

 浩介の手が優しく優しくおれの背をさすってくれる。

 愛おしくて切なくて、幸せで、どうにかなってしまいそうだ。
 こんな時間がずっとずっと続けばいい。
 この時間を守るためなら、おれは何だってする。



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お読みくださりありがとうございました!

まだ、デジカメではなくフィルムカメラの時代です。
慶はこの調子でずっと片思いしてたんだから、ホント偉いよなあ。

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2 コメント

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切ないです。 (ユウ)
2016-01-10 15:20:57
前作と今回のまとめて読ませて頂きました。あぁやっと読めた。
何かこの2日か?もう何日経ってるんだか日にちの感覚も曖昧になって来ました。
尚様の作品に触れられなくて悶々としていました。
何ですかね、このお正月休み明けのアホみたいな忙しさは!やめて欲しいものです。

そんな訳で、あぁだけど本当に慶さんの気持ちがキュンキュンするほど伝わってきて大変です。
多分私が慶さんなら、差しかけた傘を浩介さんの手から放り投げて抱きしめてます。
浩介さんの事。だって抑えられないもん。
本当に偉いです。慶さん。こんな状態で片思いのままいられるなんて。
いや、いるしかないんですよね。今は。

前作の慶さんの想い。浩介さんを女にしたいわけじゃなく、自分が女になりたいわけじゃなく、ただ触れていたい。
すっごくわかります。これって何なんでしょうね。
もちろん自分は女だから本当の男の子の気持ちってわからないに決まってるけど。
好きになったのが、ただ男だったというか。
いわゆる女なのに身体は男に生まれてきてる人たちの想いともまた違うんですよね。
人の気持ちって本当に複雑ですよね。こうって名前を付けて線引きできない。
慶さんは恋って名前をつけたけど。
でも何でもいいけど好きなんですよね~、大好きなんですよね~浩介さんの事。

いいなぁこういう相手が現れた慶さんは幸せです。
それが同性だとしても。
一生会えない人も居るんだから(それは私!)。
またまた、長々と書いてしまいごめんなさい。
それでは次回も楽しみにしています^_^
返信する
ユウさま ()
2016-01-11 03:15:24
お仕事お疲れ様でございます。
お忙しい中コメントくださり本当にありがとうございます!!

そうそう………バレてはいけないので、抱きつけないのです。抱きついたりして、今の関係を壊したくない、という葛藤が………

そうそう……名前はどうでもいいんですよね。ただそばにいたい、という………

そういう相手と出会えて、それで両思いになれたら、それは本当に奇跡的なことですよね~~!
でもきっと、みんなどこかしらにそんな相手がいるはず…………U+2665

お返事遅くなって申し訳ありません。
まだ、パソコンが使用できず、今、、やむなく携帯からお返事しておりますが、携帯からだと、コメントを見ながら返事をするということができないため、、、なんだかいつもにもまして変なコメント返しで失礼いたしますm(_ _)m
やっぱり携帯からだとダメですね……目がチカチカするし、なに書いてるかわからないし(^-^;

いつもメール、本当にありがとうございます!
またよろしければお願いいたします!!
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