高校二年生、渋谷と同じクラスになれた。
始業式の日に掲示板発表をみて、渋谷は、
「賽銭に合計千円つぎ込んだかいがあったな!」
と、大はしゃぎしてくれたけれど、おれは心の中で「やっぱり」と思っていた。3月の時点で、おそらく同じクラスになるだろう、と予想がついていたからだ。
3月に入ってすぐ、バスケ部顧問の上野先生に体育教官室に呼ばれた。行ってみたら、クラス担任の小林というおばさん先生までいて……。
おれが部屋に入るなり、上野先生が唐突に言い出した。
「お前、今、誰と一番仲が良い? って、渋谷だよな? それとも上岡?」
「え………」
質問の意味を計りかねて黙ってしまうと、上野先生は畳みかけるように言葉を重ねた。
「どっちと同じクラスになりたい? 両方は無理だぞ。渋谷と上岡は犬猿だから一緒にするわけにはいかないからな」
「え………、あの」
同じクラスって……2年生のクラスってこと?
頭の中、?だらけの中で、
「桜井君」
小林先生が眉間にシワを寄せたまま、おれに言ってきた。
「あと数週間なんだし、もう少し今のクラスの友達とも仲良くしてみない? 休み時間もいつも図書室にいるんですってね?」
「……………」
この2人は、おれが中学時代、学校を休みがちで、保健室登校をしていたことを知っている。今もクラスに馴染めていないことを気にかけてくれているということか……。
でも、そう言われてもどうしたらいいのか……
「まあ、小林先生、とりあえず今年度は無理しなくていいんじゃないですか?」
上野先生があっさりと言って、おれに視線を向けた。
「お前、一年皆勤だもんな? それだけで十分すごい成長だぞ?」
「…………」
「バスケ部でも、なんだかんだ上手くやってんじゃねえか」
「…………」
上手く……やれてるんだろうか……。
「で?」
上野先生が再びおれに迫ってきた。
「渋谷と上岡、どっちがいい? それとも他にいるか? あ、でも、芸術科目、書道とってるやつだけな?」
「あ、はい。はい!」
そういうことなら!
「渋谷君とっ!渋谷君と同じクラスになりたいですっ」
「ああ、やっぱり」
上野先生はニヤリと笑うと、小林先生を振り返った。
「渋谷だったら、友達も多いし、うまいこと面倒みてくれると思います。なんで、その方向で話持っていってもらえますか?」
「渋谷君……あの小柄で綺麗な子……ですよね?」
「そうそう。あれで気強いし、言いたいことハッキリ言う奴なので、もし何かあっても守ってくれるでしょう」
「………」
守ってって……
「桜井、くれぐれもこの話、誰にも言うなよ。渋谷にもだ」
「は……はい」
いうわけがない。いったらおれの中学時代のことまで話さなくてはいけなくなる。そんなこと知られたくない。
「まあ、でも、100パーセントではないからな。期待しないで、4月の発表楽しみにしてろ」
再びニヤリとした上野先生。
そして始業式。
100パーセントではない、といいながら、ちゃんと同じクラスにしてもらえてた。感謝感謝だ。
しかも、出席番号も11、12と前後のため、席も前後ろ、色々な班も全部一緒になれた。
そして……
「体育委員やろうぜ。体育委員」
「体育委員?」
「球技大会仕切れるんだよ。絶対面白いって」
「う、うん……」
一年生の時は何も委員会をやらなかった。
でも今年は渋谷に言われて体育委員をやることになり、新学期始まって早々、2週間後の球技大会の準備に追われることになった。
運営のことやチーム分けのこととかで、嫌でもクラスメートと話をする回数が増えて、気がついたら、球技大会当日にはクラス全員の名前と顔を覚えていた。一年生の時は2学期くらいにようやく全員覚えたのに……
球技大会は大盛況のうちに無事終了した。
このクラスはお祭り好きが多いようで、どの競技も応援が異常に盛り上がっていた。委員の仕事があったおかげで、その中に入らずにすんで助かった……とホッとしたくらいだ。
競技は渋谷と一緒にバレーボールを選んだ。部活等経験者はその種目には出られない決まりなのでバスケは選べなかったのだ。
でも、渋谷は「お前、経験者だろ!」と相手チームから文句を言われるくらいバレーボールも上手だった。
(かっこいい………)
男のおれでも惚れ惚れしてしまうくらい、かっこいい! そのスーパープレーだけでなく、冷静で的確な指示でチームをまとめてくれたおかげで、このおれまでも得点に繋がるプレーができた。
渋谷の活躍のおかげで、おれ達のチームはベスト4にまで入れて、クラスの中で一番順位の高いチームになれた。クラスメートから惜しみない拍手を送られ、何だか自分が自分じゃないみたいで、変な感じがする。
でも…………
「楽しそうで良かったわ、桜井君」
「…………」
小林先生に声をかけられ、我に返った。そうだ。このおれがクラスメートに囲まれて楽しそうにやってるなんて………そんなのありえない。
ダメだ。早く目立たないところに隠れないと。また、小学生の時みたいに、調子にのってるとか言われてみんなから無視される。中学生の時みたいに生意気だと言われて………
「…………っ」
ふっと、ブラウン管の中に放りこまれた。世界が色褪せていき、音も遠くなって…………
まただ。おれは何も変わらない。
(………渋谷)
おれにはやっぱり、あなたの光は眩しすぎる。
一緒にいたいけれど……でも、一緒にいたらおれまで光に晒される。おれはそれに耐えられるんだろうか……
『もし何かあっても守ってくれる』
ふいに思い出す上野先生の言葉。
でも。守ってくれるっていっても……
「こーすけ!」
「わっ」
いきなり後ろから飛び乗られた。背中に渋谷がしがみついている。これはオンブ??
「体育委員の反省会、先生がジュース出してくれるって!」
「え、あ、そうなんだ」
まわりの音が戻ってくる。渋谷がいるといつもそうだ。渋谷がそばにいるだけで、世界が明るくなる。
「会議室。会議室!」
「え、このまま行くの?」
「おれ足クタクタ。歩けな~い!」
そりゃそうだな。あれだけ活躍したんだもんな。
「オンブ!オンブ!」と請われ、オンブのまま会議室に向かう。大丈夫かな?と心配だったけれど、渋谷は小柄だからかおれでもオンブできた。
大会が終わったばかりでまだ興奮状態にあるようで、渋谷はやたらとはしゃいでいる。
「反省会おわったら、2年の委員でカラオケ行こうってさ~」
「あ、そうなの?」
「駅前の……なんだ?よくわかんねっ」
酔っ払ってる?ってくらい渋谷は変だ。ぎゅーっとしがみつかれた腕に力が入っている。
「あー楽しかったなー!」
「………うん。楽しかったね」
「やっぱいいよなあ!同じチームって!」
「え?」
同じチームって………
「やっぱりバスケ部入れば良かったなーとか今さら思ったー。あ、でもお前とレギュラー争いするのもなんだからやっぱバスケ部は嫌だな。こういう球技大会くらいがちょうどいいや」
「…………」
それは……
「一緒の委員にもなれたし、やっぱ同じクラスになれて良かったよな~。あ、体育の班も一緒だから、また何かの試合で一緒にできるな。2年ってソフトボールやるらしいぞソフトボール。楽しみだな~~」
「………慶」
「何だ?」
会議室に繋がる廊下にさしかかったところで、とんっと身軽におれの背中から飛び降りた渋谷が、満面の笑顔でおれを見上げてくる。
ま、まぶしい……っ
「あの……」
「何だよ?」
その眩しい笑顔に、切実に思う。
やっぱり、あなたと一緒にいたい。
でも……それと同時に心が暗いところにストーンと落ちていく……
なんでおれなんかと同じチームで良かったって思ってくれてるの? おれなんか運動苦手でみんなの足引っ張ってばかりだったのに。
なんで一緒の委員で良かったなんて思ってくれてるの? みんなを仕切れる渋谷と違っておれは言われたことをこなすことしかできないのに。
なんで同じクラスになれて良かったなんて思ってくれてるの? おれなんか一緒にいても全然面白くもなんともないのに。
でも、それでも……
「あの……」
心の中の声は口にすることはできない。
でも、それでも、それでも……
「おれ……渋谷と一緒にいたい」
「え」
あ………、思わず声に出てしまった。
あ、しかも、渋谷って言っちゃった。
「………あ、えと、慶」
誤魔化そうとする前に、
「何いってんだよ?」
渋谷がびっくりしたような顔をして………それから、
「ずっと一緒にいるぞ? お前がヤダっていってもなっ」
「!」
にーっこりと笑ってくれた。
渋谷………おれの親友。おれの光……
「………ヤダなんて言うわけないじゃん」
「そっか」
また渋谷はニッと笑って「いくぞ!」と言うと、おれの腕をつかんで引っ張りながら歩きだした。
その後ろ姿を見ながら、切実に願う。
一緒にいたい。
こんなおれだけど。
あなたの光は眩しすぎるけれど。
それでも、一緒にいたい。
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お読みくださりありがとうございました!
イベントの直後ってテンション高くなりますよね~~。
このあとの反省会でのエピまで入れたかったのですが、長くなるので次回に持ち越しで。
また明後日よろしくお願いいたします!
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2人が同じになれたのにはそんな事があったからなんですね。
先生に感謝ですね。
いいですね~球技大会!懐かしい!
今、頭の中に高校の球技大会の時、うちもバレーをやったんですけど、先生チームがあって、そこで数学の気難しい、でも見た目はひょっとこみたいな感じのおじいちゃん先生がいて。
その先生のバレーの時のフォームが可笑しくて可笑しくて!
あぁ、でもあんなに気難しい先生があんな姿で真面目にバレーやってるってちょっと感動もしたのを思い出しました。
そんなことはいいんですけど。
浩介さんの心の動きが自分とよく似ていて、浩介さんの目線で書いてるお話の時はいつも凄く心に響くんです。
私もそうだったなぁというか、今でもそうだけど。
こんな目立つ明るい場所にいちゃダメだとか。
なんで自分なんかに声をかけてくれるんだろうとか。
自分なんか人を不快にさせるだけで生きてちゃダメな人間なのに。
とかってドンドン自分を追い詰めていく気持ち。
こうして仲良くしてくれてるのも少しの間で、また自分より面白いと思う子がいたら、きっと私から去っていくんだろうな、とか。
嬉しくて、幸せでどうしようもない瞬間なのに、同じ瞬間にマイナスの事を考えてしまう癖。
喜べばいいのに、手放しで喜べない自分。
どうせこんないい事ばかり起こらない、すぐに悪い事が待ってるに決まってるって。
尚様が浩介さんがグズグズ悩んで、もうって言ってらしたけど読者に飽きられるんじゃって言ってらしたけど、私は凄くその気持ちがわかるので共感が持てて飽きるどころか、そこにいいタイミングで来てくれる慶さんの言葉や仕草に自分も癒されてるみたいで凄く読んでて本当に癒されるんですよ!
私には残念ながら慶さんみたいな友人はいなくてずっと一人でしたけどね。
だからその頃、というか今でもですけど自分の心も癒してもらえるこのお話が大好きです。
これからもずっと読みに来ますね。
またまた長くなってしまいごめんなさい。
それではお忙しいと思うのでお体に気をつけて^_^
お返事遅くなって申し訳ありません!
ひょっとこみたいな感じのおじいちゃん先生(笑)(笑)
なんか、ものすっごい想像しやすい!
読んでいてニヤニヤしてしまいました。
その気難しい先生が真面目にやってるって姿……
なんかね、このおじいちゃん先生にも若い頃があったんだよな。。とか思うとキュンとしちゃいます。
なんか最近そういうのすごく思うんですよねー
子供のころは、大人はみんな突然大人になったみたいに思っちゃってたんですけど、この大人たち一人一人にも青春時代はあって。。。みたいな。
今、お年寄りと接する機会が多いので余計にそう思うのかもしれませんが……
浩介目線の話、心に響く、なんていっていただき……あり難いやら申し訳ないやら……
浩介の心情、まさにその通りでして……
よく、すごく幸せなことがあったときに「おれもう死ぬのかな?」みたいなことをよく言ってました。
それで、浩介はその反動で大学生になってからボランティア活動にのめりこんだりして……
その後、昨年連載した「あいじょうのかたち」で、浩介、41歳になってようやくグズグズから脱却できた?たぶん?というわけでした……
癒してもらえる、大好き、なんて言っていただき、本当にありがとうございます!!
すっごくすっごくすっごく嬉しいです!!
これからまたBLらしくない話が続いたりしそうな気もするんですが、どうぞどうぞよろしくお願いいたします!
コメントお返事遅くなって本当に申し訳ありません。
またよろしければ、よろしくお願いいたします!