医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

コロナワクチンで帯状疱疹は増えない

2023年01月09日 | 感染症
私は外来診療で1,000人ぐらいの患者を診ていますが、1,000人診ているといろいろな患者に出会いますし、それだけでエビデンスを得るデータが収集できます。

先日、「コロナワクチンを接種したから帯状疱疹が出てしまいました。近くのクリニックに行ったら、抗原・抗体の反応が亢進して出やすくなったのでしょう」と言われましたと、言われました。

私は「そうかなぁ~そんなことはないですよ」と言いつつも、知識が曖昧だったので調べてみました。

Safety and Efficacy of a Third Dose of BNT162b2 Covid-19 Vaccine
N Engl J Med 2022;386:1910-1921.


これが3回目までワクチンを接種した場合の一番新しいエビデンスだと思います。無料でダウンロードできます。

上の図は、ワクチンを3回まで接種した5,055人と、接種していない5,020人の接種後の副作用を、平均2.5か月後まで比較した結果です。

帯状疱疹は感染症のカテゴリーに属するのだと思いますが、感染症であれ免疫異常であれ3回目のワクチン接種で増えていません。

別の図で示されていますが、筋肉痛や発熱などはもちろん増えますが、その他の副作用は増えていないことがわかります。

私たちはコロナワクチンを接種した後に起きたことを、ワクチン接種のせいにしがちです。ワクチン接種していなくても起きていることなのです。

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認知症研究で「不眠症」と「睡眠薬の内服」が多重共線性になる理由

2023年01月08日 | 神経
以前、睡眠薬の使用は認知症を誘発しないで、睡眠薬を内服しすぎると認知症になりやすくなるのかどうかは、多重共線性のために正しい結論が出せないということをお伝えしました。

糖尿病の人は認知症になりやすいということは病理学的な研究で示されていましたが、それでは糖尿病薬を内服していると認知症になりやすいのか?(そうではないと推測できますが)も同様に多重共線性のために正しい結論が出せません。

上の図はその理由をわかりやすく示したものです。
よく眠れなくて医療機関を受診し、「睡眠薬」は処方されずに「午前中に明るい光を浴びて下さい。夕方以降カフェインを含んだ飲物を飲まないで下さい。就寝の食前には熱い風呂には入らないで下さい」という助言だけで、「睡眠薬」を処方されない場合はどれくらいあるでしょうか。百歩譲って2割ぐらいはあるとしても、80%のケースは「不眠症の病名」=「睡眠薬の処方」ではないでしょうか。
また糖尿病と診断されて、運動・カロリー制限で投薬なしの場合も20%もないでしょう(糖尿病の場合はもう少しあるかもしれません)。

上の図ではそれを80対20で表しています。ここでお気づきと思いますが、不眠症でないのに睡眠薬を内服する場合や、糖尿病でないのに糖尿病薬を内服する場合がないのです。
そして、不眠症と診断されてずっと投薬なしで治療されている人が、統計解析するには少なすぎるのです。

不眠症でないのに睡眠薬を内服する人を調査に組み込むことなど、現実世界では不可能です。
これが睡眠薬を内服しすぎると認知症になりやすくなるのかどうかは、多重共線性のために正しい結論が出せない理由です。

米国ではラジオなどで「○○の被検者を募集中です。年間1,000ドルの研究協力金が5年間支払われます。希望者はマサチューセッツ総合病院、617-○○○-○○○○まで」という募集が行われることがあります。参加してくれる人は貧しい人が多く、ボランティア精神というよりお金がほしい人が多いのです。

比較対象者を組み込まないと、睡眠薬を内服しすぎると認知症になりやすくなるのかどうかは、多重共線性のために正しい結論が出せません。しかし、不眠症でないのに睡眠薬を内服してくれる人などいないでしょう。


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糖尿病薬はアルツハイマー型認知症を助長する?

2023年01月02日 | 神経
前回と前々回に、「睡眠薬の内服」は「アルツハイマー型認知症」を増やすかどうか、多くの交絡因子のために証明できないということをお伝えしました。

今回は、「睡眠薬の内服」は「アルツハイマー型認知症」を増やすなどと言っていたら、「糖尿病薬の内服」は「アルツハイマー型認知症」を増やすと言っているのも同然という話です。あらかじめお断りしておきますが、「糖尿病」は「アルツハイマー型認知症」を増やします。

おそらく論文を検索すると、単解析では「糖尿病薬」を内服している人は、内服していない人と比較して「アルツハイマー型認知症」の割合は多いと思います。それでは糖尿病薬を飲んでいると「アルツハイマー型認知症」になりやすいのでしょうか?そんなことはありませんね。私たちは無意識的に交絡因子だとわかっているからです。

「糖尿病」の人の例えば80%以上は「糖尿病薬」を内服していると思います。「糖尿病薬の内服」は「糖尿病」の交絡因子なのです。

話を戻します。上の図はその辺の事をわかりやすくしたものです。

「インスリン抵抗性」は「糖尿病」の原因の1つです。「インスリン抵抗性」は「高インスリン血症」をもたらし、「高インスリン血症」は「脳内 低インスリン」をもたらします。インスリンは「アルツハイマー型認知症」の原因であるアミロイドβ(Aβ)を抑制する作用がありますので、「脳内 低インスリン」は脳内のアミロイドβの抑制作用の低下をもたらすのです。

そのエビデンスは、生前に75g経口糖負荷試験を受けた後に亡くなり、剖検を受けた久山町住民135人について、生前のインスリン抵抗性の指標とAβの関連を病理学的に検討した久山町研究の以下の素晴らしい論文で証明されています。

Insulin resistance is associated with the pathology of Alzheimer disease: the Hisayama study
Neurology. 2010 Aug 31;75(9):764-70.



単解析では「糖尿病薬」を内服している人は、内服していない人と比較して「アルツハイマー型認知症」の割合は多い。でもそれは交絡因子のため。「睡眠薬」の件と同様に、「糖尿病薬」を飲んでいると「アルツハイマー型認知症」が増えるかどうか(増えないと思いますが)を証明するのは、「糖尿病薬の内服」は「糖尿病」の交絡因子なので大変難しいのです。


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