医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

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心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その8)

2016年07月06日 | 循環器
それでは本題に戻します。
以前、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)

の記事で、エリキュースのこの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできないことを知っていて、自社の薬の成績を良く見せるために意図的に医療後進国臨床試験に組み込んだということをお伝えしました。

そして以前、エリキュースの臨床試験の論文と、医療後進国の、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどが参加していない日本国内だけの研究結果を比較ました。以前は年齢別になっていない全体の比較だったのですが、心房細動で脳梗塞、薬を飲んで脳出血なんていう話はほとんど高齢者での話ですので、日本国内だけの研究では70歳未満と70歳以上のデータに分けても分析されていて素晴らしいです。

今回はその結果についてです、比較対象のエリキュースの臨床試験は年齢の中央値が70歳ですから、つまり70歳未満が半数、70歳以上が半数の分析ということになります。70歳未満の若い人は脳梗塞にも脳出血にもなりにくいので、70歳以上を解析した日本の研究と、若い人も入れて解析してあるエリキュースの研究では、日本の研究の方が不利になる条件での比較です。

上の図の上は、エリキュースの臨床試験の論文に載っている結果です。
Apixaban versus Warfarin in Patients with Atrial Fibrillation
N Engl J Med 2011;365:981-992.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

赤色で私が囲ったところが脳出血です。アピキサバンすなわちエリキュース群では年間0.24%、ワーファリン群では0.47%です。

一方上の図の下は、日本国内だけの研究J-RHYTHM研究の結果です。
Target International Normalized Ratio Values for Preventing Thromboembolic and Hemorrhagic Events in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation
–Results of the J-RHYTHM Registry–
Circ J 2013;77:2264-2270.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

無料でダウンロードできますので、原文も見てください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/77/9/77_CJ-13-0290/_article


これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の脳出血の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間0.11%、ワーファリンを内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが低いと年間0.22%、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると年間0.25%です。

エリキュースの臨床試験のワーファリン群での0.47%は発症率が日本の研究の結果より1.5倍高いことがわかります。基準値内とはいえ、2.0~2.59ではさすがに日本でも発症率は年間0.70%になります。

さて、脳梗塞についてですが、
青色で私が囲ったところが脳梗塞です。アピキサバンすなわちエリキュース群では二項目合わせて年間0.97%、ワーファリン群では1.05%です。

ところが、日本国内だけの研究J-RHYTHM研究の結果を見ると、
これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間1.96%ですが、ワーファリンを少しでも内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが1.6に達していなくても発症は年間1.13%に有意に抑制させることができているのがわかります(これは私が自分でカイ2乗検定をして確かめていますし、この解析でも明らかになっています)。そして、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると脳梗塞の発症率は年間0.77%です。これはエリキュースの臨床試験のエリキュース群0.97%、ワーファリン群1.05%より良好な数字です。

これらの結果から、本当はPT-INRが1.6~1.99が一番良い(つまり脳梗塞も抑制できているが2.0以上にすると脳出血が少し増えてくるから)し、1.6に達していなくても1.4や1.5でもワーファリンの効果は十分あるということがわかります。ガイドラインでは「1.6~1.99が一番良い」とすると、PT-INRの範囲が狭いためコントロールしにくいと苦情が出ることを予想して、少し広めの範囲で1.6~2.6と決定されたと推測できます。

私はこの研究の結果を知っているので、70歳以上の患者の場合1.5~2.0でコントロールしています。例えば1.5であってもワーファリンを増量しません。それでも私のTTRは約85%です。

70歳以上であってもPT-INRが1.6~2.0にコントロールされていれば、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできない国のデータではなく、「上手に処方できる日本のお医者さんによる」ワーファリンの処方であれば、値段が10倍する新薬エリキュースよりもワーファリンの方が脳出血も脳梗塞も少ないことが一目瞭然です。

プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナを販売している、日本ベーリンガーインゲルハイム、バイエル、ファイザー、第一三共が、これらの新薬はワーファリンより脳出血が少ないと宣伝しているのにはトリックがいっぱいなのです。これは、公共性、公益性、真実性に誓って言えることです。


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コメント (2)
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