医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

救急車有料化に関する自己負担額の調査

2008年06月23日 | 総合
「足代わり119番、救急車「予約」…非常識な要請広がる」
救急車を病院までのタクシー代わりに利用しようとする119番が、全国各地で相次いでいることが、主要51都市の消防本部を対象にした読売新聞の調査で明らかになった。

急病でないにもかかわらず、「病院での診察の順番を早めたい」という理由で、救急車を呼ぶケースも目立つ。昨年1年間の救急出動件数の5割は軽症者の搬送で、110番に続き119番でも、非常識な要請が広がっている傾向が裏付けられた形だ。

都道府県庁所在地と政令市にある計51の消防本部(東京は東京消防庁)を対象に、最近の119番の内容を尋ねたところ、37消防本部がタクシー代わりの利用など、明らかに緊急性のない要請があると回答。大都市、地方都市とも同じ傾向がみられた。

例えば、「119番でかけつけると、入院用の荷物を持った女性が自ら乗り込んできた」(甲信越地方)ケースや、「119番で『○月○日の○時に来てほしい』と救急車を予約しようとする」(関西地方)事例が多い。症状を偽る人もおり、甲信越地方の60歳代の男性は「具合が悪くて動けない」と救急車を呼びながら、実際は緊急の症状はなく、あらかじめ病院に診察の予約を入れていた。

風邪程度なのに、「救急車で行けば、早く診てもらえる」と思って119番する事例も、28消防本部で確認された。

病院では救急外来の患者の重症度をまず看護師が判断する場合が多い。しかし、山陽地方では、切り傷で搬送された患者と家族が、診察の順番を待つよう告げられ、「救急車で来たのだから、優先的に診察するのが当然だろう」と詰め寄った。

診察待ちをしている人が、病院を抜け出して119番するケースも7消防本部であった。

関東地方では、50歳の男性を病院に搬送すると、先ほどまで待合室にいたことが判明。男性は「順番が来ずにイライラし、救急車で運ばれれば早まると思った」と語った。

51消防本部で昨年1年間に救急車が出動した約232万件のうち、安易な要請も含めた軽症者の搬送は約117万件。厳しい財政事情から救急隊の増員が進まず、重症者への対応が遅れるなど支障も出ている。
(読売新聞より引用)


日本では救急車出動1件につき4万円の経費がかかるのですが、高齢化や軽症に対する利用により、救急車の出動回数は近年増加傾向にあり、救急車有料化についての議論が高まっています。そこで横浜市立大学公衆衛生学教室がこのような調査を行っています。

調査対象は20歳以上の横浜市在住の3,600人で消防署職員が調査票を配布できた3,363通のうち2,029通が回収されました。回答者の半数以上が過去に救急車を要請したことがあり、同様に半数以上が救急車を呼ぶのにためらいがあると答えました。

救急車出動1件につき4万円の経費がかかる事を情報として与えたうえでの回答として、「利用者が一部負担すべき」と回答した割合は63.2%でした。適当とする負担額は、半数以上が3,000円または5,000円でした。

年齢別では80歳以上の群で負担額を低く、世帯年収が高い方が負担を高く回答する傾向が見られました。

さらに、軽症での利用を抑制し重症での利用を抑制しない金額の調査では、本人が重症の場合は3万円までは利用の抑制がかからず、本人が軽症では2万円から利用抑制がかかる事が明らかになりました。また世帯年収が200万円未満でも3万円までは利用の抑制がかかりませんでした。同居している子供が重症の場合は利用料がいくらであっても利用抑制はかかりませんでしたが、同居している高齢者が重症の場合は5,000円で抑制がかかりました。

また、救急車を要請することにためらいを感じている人は、1万円以下の自己負担があれば救急車を要請するという結果が明らかになりました。

つまり、救急車を要請することにためらいを感じている人は1万円を自己負担することでそのためらいがなくなるという事です。

その結果、1万円以下の自己負担金額の設定では、要請に対するためらいを取り去る効果が料金負担による利用抑制効果を上回るため、救急車の要請が逆に増加する可能性も示唆されました。

「軽症での要請を抑制するためには2万円以上の料金設定が必要であるが、自分以外の人のために要請する場合、この料金では重症での要請を抑制する可能性がある」と結論づけています。




この調査結果からは1万5千円ぐらいというところでしょうか

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メタボリックシンドロームは糖尿病発症のリスクにはなるが、動脈硬化性心疾患のリスクにはならない

2008年06月19日 | 生活習慣病
いろいろと論文を調べていると、どうもメタボリックシンドロームは動脈硬化のリスクにはなっていないような気がして、もう少し調べていたら最近こんな論文が発表されました。

Can metabolic syndrome usefully predict cardiovascular disease and diabetes? Outcome data from two prospective studies.
Lancet. 2008;371:1927.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

PROSPERとBRHSという大規模臨床試験でメタボリックシンドロームではあるが糖尿病ではない、それぞれ4,812人と2,737人が対象となりました。

PROSPERでは対象は70~82歳と高齢で、平均3.2年調査されました。BRHSでは対象は60~79歳で、平均7年調査されました。

結果ですが、PROSPERではメタボリックシンドロームであってもその後に動脈硬化性心疾患を発症するのはメタボリックシンドロームでない人の1.07倍で、違いがあるとはいえませんでした。

BRHSでも1.27倍と、少しだけ発症率が上昇しただけでした。

一方、糖尿病を発症するリスクはメタボリックシンドロームではそうでない人と較べてPROSPERで4.41倍、BRHSで7.47倍と大きく上昇していました。

論文の中で著者たちは、メタボリックシンドロームが動脈硬化性心疾患のリスクを上昇させない理由として、メタボリックシンドロームを規定する全ての因子が、そうなのかそうでないのか(例えば、腹囲が85cm以上なのかそうでないのか)という二分法であり各因子の重症度を表しきれていないこと、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値や喫煙など、従来から動脈硬化性心疾患の危険因子だといわれている因子を採用していないことを挙げています。

さらに、「メタボリックシンドロームとその構成因子は高齢者の糖尿病のリスクを上昇させるが、、動脈硬化性心疾患のリスクとの関連はないか、あるいは弱いため、動脈硬化性心疾患と糖尿病のリスクを同時に予測しようとするメタボリックシンドロームの判定規準を改定する試みは有益でない」と結論し、「従来どおり、個々の疾患の至適なリスクアルゴリズムの確立に臨床的関心を向けるべきである」と指摘しています。


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疾患の種類により死亡リスクと体重の関連が異なる

2008年06月10日 | 生活習慣病
先日「たかじんのそこまで言って委員会」の「あなたの許せないウソ・偽装は?」というコーナーで、精神科医 和田秀樹氏が「メタボリック症候群の基準はおかしい。病気はいろいろあるけれど、あれは循環器内科医だけが決めたものだ。本当は少しメタボリックな人が一番寿命が長い。コレステロールにはセロトニンを伝達する作用があり、セロトニンが欠乏するとうつ病になる。人間の寿命は心臓・動脈硬化だけで決まっていない」と発言していました。

私も同様の疑問を持っています。体重が多いこと、コレステロールが高いことは本当にこれほどまでに敵視されなければいけないことなのでしょうか。

そこで、こんな論文を調べてみました。

Cause-specific excess death associated with underweight, overweight, and obesity.
JAMA. 2008;298:2028.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

米国の1971年からのデータ全体(最終は1994年)で571,042人の対象者を

低体重(BMI <18.5:身長170cmで53.5kg以下、160cmで47kg以下)、
過体重(BMI 25~30:身長170cmで72~86kg、身長160cmで64~77kg)、
肥満(BMI >30:身長170cmで86kg以上、160cmで77kg以上)、
低体重と過体重の中間の体重(論文の目的上、標準体重とは呼べません)に分けて、

①心筋梗塞などの心血管疾患、②ガン、③心血管疾患とガンでない疾患による死亡が2000年まで調査されました。

結果は、
低体重では心血管疾患とガンでない疾患による死亡が増えました。
低体重では心血管疾患とガンによる死亡と関係はありませんでした。

過体重では心血管疾患とガンでない疾患による死亡が減りました。
過体重では心血管疾患とガンによる死亡と関係はありませんでした。

肥満では心血管疾患とガンでない疾患による死亡と関係はありませんでした。
肥満では心血管疾患による死亡が増えました。


まとめますと、極端に体重が多いと(肥満)これまで言われていたように、心血管疾患による死亡が増えるのですが、過体重であっても心血管疾患とガンによる死亡を増やすことはなく、むしろ心血管疾患とガンでない疾患による死亡が減っていたのです。

つまり、ちょっと太め(過体重)であることに不利益は認められなかったのです。

腹囲を基準として、ちょっと太めの人をスクリーニングしようとしているメタボリック症候群という概念には明らかに修正が必要であることがお分かりいただけると思います。


「標準体重」、「理想体重」といった表現も再考が必要です。


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