ボクは雑草です

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こだまでしょうか?~金子みすゞの世界~

2020-12-15 23:50:22 | 報道/ニュース
2011年、東日本大震災後、自粛ムードでテレビCMがなくなりACジャパンのCMばかりになった時、ひときわ印象に残ったものが金子みすゞの「こだまでしょうか」でした。「遊ぼう」って言うと、「遊ぼう」って言う。「バカ」と言うと「バカ」と言う。・・そうしてあとでさみしくなって「ごめんね」って言うと「ごめんね」って言う。こだまでしょうか、いいえ誰でも。・・震災のニュースばかりの中で一瞬心がほのぼのとする30秒でした。
先日、深夜にNHKスペシャルの再放送で「心の王国~金子みすゞの世界~」が放送されました。ACジャパンのCMで有名になる前の1995年制作のものでした。演出は今野勉さん、テレビマンユニオンの創立者で84才になる今も活躍中です。25年前の作品でしたが4対3の画面でもそのクオリティの高さに驚きました。同時に、今のテレビ番組が16対9になり機材も格段に進歩したにもかかわらずいかに低レベルかを再認識しました。
映像は機材が撮るのではなく心で撮るもの。カメラアングルがいい、照明がいい。役者がいい、そして演出がいい。60分の番組が2時間にも感じられました。いまテレビの世界にはこんなの作れる人はいない、と思いながら見ていました。
金子みすゞさんは1903年、明治36年に生まれ、1930年、昭和5年に26才で亡くなっています。書き残された詩集が弟の上村雅輔さんからある詩人に渡り、1984年、遺稿集が発表されるとたちまち話題となり、教科書に載るほどの有名詩人となりました。
亡くなっておよそ50年の間、金子みすゞの詩はひっそり眠っていたのです。その数およそ520篇。それらの数々は90年以上経た今でも読む人の心に響きます。

「こどもが小すずめ捕まえた。その子のかあさん笑ってた。すずめのかあさんそれ見てた。お屋根で鳴かずにそれ見てた。」
「ばあやはあれきり話さない。あのお話は好きだのに。「もう聞いたよ」といったとき、ずいぶんさびしい顔してた。ばあやの瞳には野地の花がうつってた。あのお話がなつかしい、もしも話してくれるなら五度も、十度も、おとなしく、だまって聞いていようもの。」

思ったことや、感じた気持ちをすなおに言葉で表現しています。いわゆるプロの作家や詩人が好む余分な修飾語がありません。この素朴さが永遠に新鮮なのです。飾り立てた文章は時とともに古くなり感動も薄れていきます。でも、こうしたかざらない文章は永遠に生きるのです。
金子みすゞさん(本名金子テル)は、小さいときからみんなと騒ぐより本を読んだり静かに風景を見つめている、そんな女の子でした。3才のときにお父さんが亡くなり、お兄さん、お母さん、おばあさんと山口県仙崎(せんざき)の家で育ちました。まもなく弟が生まれました。雅輔(がすけ)さん(本名正祐まさすけ)です。しかし父さんのいない金子家では育てるのが難しく、正祐はお母さんの妹が嫁いでいた下関の上村家に養子として出されます。
戸籍上は従兄弟になった正裕とみすゞ。二人の愛と葛藤をテーマに番組は進行していきます。
みすゞが女学校3年の時、上村家のお母さんが亡くなります。そしてみすゞのお母さんが上村家のお父さんと再婚、それをきっかけにみすゞと正裕の交流が深くなります。

正祐は、従兄弟のテルちゃんが好きでした。結婚するならこんな人と思っていました。そんな正裕の気持ちを察したお父さんはみすゞに結婚話を持ちかけます。相手は本屋をしていた上村家の番頭でした。仕事ぶりもよく働き者でした。本屋を継がせようと考えているほどでした、しかし正裕とは気が合わなく正裕は大反対します。
結婚したみすゞの夫と正裕の仲は険悪となり見かねたお父さんは離婚を考えますが、そのとき、みすゞが妊娠していることが分かり離婚話は立ち消えとなります。そして妊娠中に夫の女郎屋通いはひどくなり、子どもが生まれた後も暴言を吐くようになります。みすゞがずっと続けてきた詩の創作も止められます。
そして夫の性病がみすゞに移ります。ふたりは離婚しました。当初こどもはみすゞのところにいましたが、別れた夫に持っていかれます。みすゞの病気は悪化します。
詩の創作を止められ、子どもを取られ、病気も悪くなる、・・みすゞは書き溜めてきた詩の数々を三冊のノートにまとめ一部は西条八十にそしてもう一部を実の弟の正裕に託し、みずから命を絶ちました。26年の短い人生でした。

みすゞ自殺を聞いて東京から汽車に飛び乗った雅輔(正裕)はみすゞの詩を読み返し自分の存在がいかにみすゞの心の中に大きかったかを知るのです。

流れの岸のみそはぎは、誰も知らない花でした。
流れの水ははるばると、とおくの海へ行きました。
大きな大きな大海で、小さな小さなひとしづく
誰も知らないみそはぎを、いつも思っておりました。
それはさみしいみそはぎの、花からこぼれた露でした。

大きな大海、東京へ作曲の勉強に出て行った正裕のことを思う一篇でした。

1995年制作のNHKスペシャル「心の王国~金子みすゞの世界~」は金子みすゞさんの詩とともに永遠に残ると言っていいでしょう。当時の制作者の職人魂を見た気がします。


2020/12/15
本編はこちらから見られます。
~金子みすゞの世界~
※その後、正裕さんはシナリオライターとなり、上村雅輔(かみむらがすけ)と名を変え劇団若草を創立。平成元年に亡くなりました。正裕さんは金子みすゞ(テルちゃん)の墓に入り、今も共に眠っています。