風に吹かれて旅ごころ

はんなり旅を楽しむはずが、気づけばいつも珍道中。

夏の西国ひとり巡礼 2-2

2017-08-15 | 近畿(京都・滋賀)
● 次は能登川駅

その1からの続きです。 
近江八幡駅からふたたび琵琶湖線の特急に乗り、2つ先の能登川駅へ移動しました。
電車を降り、駅前に停まっていたバスに乗り換えます。
乗客は数名おり、観音寺口のバス停で降りたのは私だけ。
次のお寺の観音立寺に行く人は、同じバスには乗っていなさそうです。

バスを降りたものの、そこからの道の方向がわからず、しばしうろうろ。
さきほどの長命寺のおまもりにあった、飛び出し坊やのサインがありました。



● 祝神社

事前に観音立寺へ行き方を調べたところ、「祝(いわい)神社の境内から向かう」と書いてありましたが、ほんとかなあと半信半疑。
神社への標識はなく、道を人に聞こうにも車しか通らないため、あてずっぽうに向かってみた方向がたまたま当たっていました。
町内の小さな神社かと思いましたが、かなり威厳のある、立派な神社です。
広い境内は無人で、時が止まったかのようにシーンとしており、別世界に来たかのような違和感。
境内にお寺への道があるということですが、すぐには見つけられず、静けさの漂う境内をぐるりと一周し、くまなく探してみます。



● 古すぎる標識

ようやく見つけました。探している人でないとわからないような小さな標識がありました。
その古さに唖然とします。
「この坂は大変すべりやすい 特に◯◯すること」
古すぎてところどころ読めない箇所があり、注意書きの役目を果たしていません。
長年メンテしていない看板を見て、不安になります。
参道は、ちゃんとメンテされているのでしょうか。



右側が神社の境内。
そこから横道が出ており、どうやらこれがお寺への参道のようです。

● 厳重な柵を越えて

ここを登っていくと、山へと続く道になりました。
すぐに柵に突き当たります。



扉にはワイヤーがかけられており、開けることはできましたが、「開けた人はワイヤーをしっかり固定して開いたままにしないように』との注意書きがありました。
境界線がきっちりとひかれていることに、驚きます。
どうして柵で囲っているの?
山にはイノシシかクマでもひそんでいるの?
柵の中に入っても、本当に身の危険はないのか、一気に不安感は強まりました。



本当に入っても大丈夫なんでしょうか?
それを尋ねられる人は、周りに誰もいません。
バス停を降りてから、人っ子一人会っていないのです。
こんなにちゃんとした神社なのに、誰もいないなんて。
なんだか怖くなってきます。

捨て置かれたような古いままの標識に、柵で仕切られた山の中。
この先に、本当に道はあるんでしょうか。
西国の巡礼者たちがみんな通っていくとは、考えられないような野ざらし感です。
これは、想像していなかった状況です。

● ひとり森の中へ

でも、いくら躊躇しても、他の行き方を知らないため、前に進むしかない私。
本能が「なんだか落ち着かない、進みたくない」と抵抗しますが、仕方がないので歩き始めます。
柵を超えて、うっそうとした森の中へ。
これは虫に刺されると思い、念入りに虫除けスプレーをかけます。
杖を貸してくれる茶店もないので、近くに落ちている折れ技からよさげなものを拾って、杖がわりに使うことにしました。
右手の平は先ほど滑って擦り傷だらけになっており、まだヒリヒリしているため、破傷風にならないように杖は左手で持つことにします。
ワイルド〜。

本当にこの道で合っているのか、怪しみながらそろそろと進んでいくと、観音立寺への標識がまたありました。
ホッとしたのもつかの間、矢印の方向には道がいっさいありません。
いや、これは無理でしょう〜。



● 無人の山中

無理なので、歩ける道の方を進んでいきます。もう山の中なので、神社のところからずっと坂道が続いています。
どう見ても、私の前にもあとにも、人が歩いている気配は全くありません。
道に段が作られている箇所もありますが、夏なので草が伸びて、ぼうぼう。
道もすぐにわからなくなりそうです。



突然道がなくなり、途方に暮れて四方八方を見渡します。
すると、木立の奥に、階段を発見。
あそこだろう、と向かいます。
標識は一切なく、ここが正しいという確証はありません。かなりきわどいギャンブル気分。
上に登っていけば、迷わずに山の頂上に着くだろうという予想だけです。



もはや、完全に私一人が山の中。まったく人がいる気配がありません。
助けを呼んでも誰も来てくれない場所で、熊とか出たらどうしよう。
丸腰ですし、擦り傷だらけですし、ここで獣に出くわしたら、逃げられる自信はありません。
変な人に遭遇しても、同じこと。
あとで取り返しがつかない事態になったら、どうしよう。
もちろんネットは通じません。
警戒心の塊になって、とにかく緊張しています。



道しるべがありました。紅葉公園は、スタート地点の神社あたりでしょうか。
お寺まではまだ1.5キロもあります。ずっと上り坂です。

下の画像の石段がわかるでしょうか。そう、これがルートなのです。
生い茂った草をかき分け、顔に掛かりそうな枝を払い、道なき道を進みます。



みすみす山に遭難しに入ることになりはしないか、あとで後悔するようなことにならないかと、悩みながら進みます。
突然大きな石碑があり、ぎょっとしながら近寄ってみると、忠魂碑でした。
石碑の影に賊が潜んでいて、突然襲われたりしたら、もうどうしようもありません。
極力、物音を立てないように、忍者になった気分で進みます。

● 恐怖との闘い

ひたすら石段を上っていく山道登山に1時間掛かるということで、絶望したくなる気持ち。
先程の長命寺の石段ほど段差はありませんが、ここはとにかく整備されておらず、段差以前にメンテナンスの不安があります。
山の奥へと分け入ったが最後、自分がどの辺りにいるのかわからず、何がひそんでいるのかわからないというのも、恐怖感を煽ります。

長命寺よりもうっそうとしている山の中なのに、日光が差し込んできて、暑さで消耗します。
そして自分の周りを山の虫がブンブン飛び交います。前日の施福寺への石段に次ぎ、またかと、げっそり。
なるべく消耗を抑えるために、こまめに止まって、休み休み行きたいのですが、立ち止まるとすぐに虫たちが寄ってくるため、そんなに休めません。
ブヨとかに来られるのもイヤだし。

● 見晴らし台



見晴らし台があったので、虫除けスプレーを再びかけながら、ちょっと休憩。
拾った杖を立てかけています。
もくもくと足を動かし続けて、これだけ眺望がいいところまで登ってきたことがわかります。
眼下には、のどかな緑の田畑が広がっていますが、そんな穏やかな人間の社会から、今は遠く離れています。



● まだこの倍

相当がんばって登り続けて、ここまで歩いたのならお寺まであと少しだと思っても、ようやくあった標識を見つけて見てみると、まだ半分も登れていないことがわかって、がっくり。
これまでと同じだけのきつい思いをさらにする必要があると知って、滅入りそうになります。



早く山の森の中を抜け出したいという気持ちでがんばってきましたが、道はきつくてなかなかたどり着きません。
恐怖感も消えないまま、体力が落ちたぎりぎりの状態になっています。
こういった追い詰められた状況になると、ほとんどのことは頭の中から飛んでいき、ただひたすら、どうやったらこの事態を乗り越えられるかということだけを考えるものですね。
小さなことはどうでもよくなり、目の前をいかに切り抜けるかということだけに集中します。
つまり、余裕がまったくないのです。
標高は400m強ですが、とてもきつい行程です。

● 文明社会が近づいた

夏草をかき分けかき分け、虫を払いながら進んでいくと。ようやくのことで、車の音が聞こえてきました。
あ、文明社会が近くなった。
進む道を見失いそうな深い山の中から、お寺への広い参道に出て、車で来た参拝者と合流できました。
やったあ。助かったわ。
すでに気力体力ともに相当くたびれており、頭は動きません。
脊髄指令による本能で、足を前に動かしているだけです。



ああ、他に人間がいるわ。車も来ているわ。
山の中で獣に牙をむかれずに済んでよかった。
参道の所々に、言葉が書かれた板が立っています。
「一歩一歩の尊さ」
一歩一歩足を進めて、なんとかここまでやってきた自分にはしみる言葉です。



先ほどの長命寺行きのバスで一緒だった人たちはどうしたんだろう、とふと考えました。
車ではなかった人たちですが、このお寺では一人も会いません。
2つのお寺は割と近いので、みんな同じ日に巡ると思っていましたが。



山の上では、まだアジサイがきれい。
巨石を祀る神社がありました。でももうそこまで行く体力はありません。

 

● 西国三十三所第32番札所 観音正寺

お寺にとうとう、やっとのことで到着しました。
他にも参拝者はいましたが、みんな軽装で、涼しい顔をしています。
もらったパンフレットに「最近は徒歩巡礼をする人はほとんどいなくなった」と書かれています。
たしかに下から歩いて登ってきたのは、私一人だけ。
他の方々はみんな車でやってきたようです。
関西の人たちは、ここがきついと知っていて、車を借りるなりするんでしょうか。



ここは聖徳太子が人魚に頼まれてつくったお寺。
平成5年に火災で本堂が焼け落ちてしまい、その後再興されました。
こんな山の上にあるのに人魚?と不思議ですが、お寺が保管していた人魚のミイラも焼けてしまったそうです。
登山のハードさからまだ抜け出せず、ぽーっとしながら、まだ新しい大きな観音様を拝見。
宮島・大願寺の巨大な不動明王像を手掛けた仏師、松本明慶氏の作でした。(堂内は撮影禁止でした)



ごつごつとした迫力ある巨岩が目を引きます。
よくみると、観音像が2体立っていました。
境内には茅葺屋根に樽で作られた、かわいらしい形の小さな祠がありました。
中には北向き地蔵が祀られていました。



本堂の濡れ縁のベンチに座って、一休み。
本堂からのお経を聞き、風を受けながら、眼下の景色を見渡します。
いい眺望です。



● 脚の限界

時刻はちょうどお昼にさしかかったところ。
午後になると、暑さもより厳しくなってきます。
酷使した足は、疲労が溜まって棒のようになっています。

この足の状態で、もと来た道を一人で下るのは、危険だと思いました。
ガクガクして、何度も転んでしまいそう。
そこで一大決心。
参拝者の誰かに、麓まで車に乗せてもらえるか、頼むことにしました。
お寺までのバスはないし、タクシーも来ていません。
突然お願いするのは勇気がいりますが、そうこう言っていられない自分の状況。
背に腹は変えられません。

● ヒッチハイク決行



右が私が登ってきた山道、左が駐車場。
最初にやってきたのは一人の男性でしたが、その人はやりすごして、次にやってきた若ご夫妻にお願いしてみることにします。
さあ、勇気を出して、言ってみよう。
「突然で済みませんが、下まで乗せてもらえませんか?」
これって、超ピンポイントのヒッチハイクですね。
「え〜」とためらわれるかなと思いましたが、「いいですよ」と二つ返事で快く乗せてくれることに。
わあ、よかった〜。ほっとして、握っていた杖を置きます。
頼んだ人全員に断られたら、いくらきつくても歩いて帰らなくてはならないと、左手から手放さずにいたのです。

感謝をして、後部座席に乗せてもらいます。
私が名乗ると「ぼくたちはユゲです。弓に削るって書きます」と言われたので「わかります」といったら、「本当ですか?」と驚かれました。
「なかなか読んでもらえなくて」
「友人にいるので。でも珍しいお名前ですね」
「いつも、ユミケズリって間違われます」
京都市内の方で、私と同じく、長命寺を訪れてからこちらに来たんだそう。
「長命寺の駐車場に停めたから、私たちは100段くらいで済みましたが、下から800段、登ったんですか〜。きつかったでしょう〜」
「ええ、下りで転んじゃいました」

車はくねくねカーブを降りていきます。
山中ではない舗装道路なので、(この横を歩ければいいのに)と思いますが、この道は車専用で、歩行者は通れません。
話をしながら、ふと気がつくと、もう車専用の道が終わって、普通道路に出ていました。
「え、もう山の下? 」と驚くと、その様子に二人が笑います。
あれほど苦労して上った道のりが、車ではあっという間。
「さっきは登るのに1時間もかかったのに…」と言うと、「いやー、ほんとにお疲れさまです!」と労わってもらいました。
やっぱり巡礼仲間は、優しいです。

「どこでも停めやすい適当な所で下ろしていただければ…」と言いましたが、二人は車中から通りのバス停の時刻表を見て「バスは1時間に1、2本しか来ないし、バス停の周りに時間を潰せるところもないから、最寄りの電車の駅まで行きますね」と言ってくれました。
ありがたさに涙が出そうです。

● 王道があった

この観音立寺は、まちがいなく、私にとって西国最難関のハードな行程でした。
ここまで大変とは、予想だにしませんでした。
でも車で来た人は、全くそうでなさそう。
前日の施福寺には王道がなく、大変さは万人に共通でしたが、このお寺には王道がありました。
車を使うというロイヤルロードが!
夏でなければまだ歩けるかもしれませんが、他の方にはレンタカーで行くことをお勧めしたいです。

車の中で、西国巡礼の情報交換をしました。
第1札所の青岸渡寺は、熊野にあって京都からは距離があるため、阪急の日帰りツアーに参加したそう。
一日がかりですごくハードだったと教えてくれました。
偶然にも、私は翌日、同じツアーに参加して、青岸渡寺に行く予定です。
こっちの人も、巡礼にバスツアーを利用するんですね。

「関東からだと、こっちに来るのが大変ですね。どうして始めようと思ったんですか?」と、きっかけを尋ねられました。
百観音巡礼中だと話しましたが、二人とも百観音のことは知りませんでした。
関西で観音巡りというと、西国巡礼のみを意味します。
百観音巡礼については、あまり知られていません。

● あかねさす八日市駅

八日市駅の前で、車を止めて下ろしてもらいました。
感謝を言って、去っていく車に手を振って見送りました。
彼らに「JRの駅です」と言われましたが、実際には近江本線の駅でした。
土地の人ではないので、馴染みがないのでしょう。
電車の本数はバスレベルに少なく、1時間に2本のみ。
発車まで20分ほど時間があるので、ホーム周辺を見てみました。



八日市駅って特徴的な名前です。四日町駅は三重で、十日町駅は新潟。
八日町という駅はありませんが、八王子にある地名だそう。
もうすぐ映画化される小説「君の膵臓を食べたい」の舞台だそうです。
駅前に万葉集の額田王の「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」のレリーフがありました。
舞台は奈良だと思ったけど、この辺なのかしら。



ポストの上に何かが載っていました。
これがなにか、よくわかりませんが、どうやら凧のようです。
東近江では、日本一の巨大凧を飛ばすそうで、100畳敷サイズの凧が空を舞うんだとか。
う〜ん、体育館サイズくらい?(え〜っ、そんな大きいのが飛ぶなんて!)



● 萌えキャラトレイン

駅のホームには、萌えキャラがペイントされた電車が停まっていました。
「鉄道むすめ」に登場する、八日市駅の「豊郷あかね」 ちゃん。



鉄道と萌えキャラ好きの男性には大人気でしょうね。
鉄子はまだ少ないでしょうから、「鉄道むすこ」は今のところ登場しなさそう。
私が乗ったのはこの電車ではなく、向かいに停まっていた、シンプルな黄色無地の車両。
キャラクター電車は、特別な時しか動かないのかもしれません。



初めての路線を楽しもうと思いましたが、暑いため窓のサンシェードが全て下ろされていて、外の様子はあまりよくわかりませんでした。
近江電鉄にはレトロな駅舎が多いそうですが、電車の中からは見えません。一旦降りないとね。

● 宵山スルー

終点の近江八幡駅に到着し、ここでこの日何度も乗ったJR琵琶湖線に乗り換え。
姫路行きはけっこう混んでいます。結構遠くまで行くんですね。
冷房の効いた電車が快適で、うつらうつらし、周りの喧騒で京都に着いたと気がついて、ぼーっとしたまま降りました。
電車内には浴衣の人もおり、そういえば祇園祭の宵山の日だったなあと思いだします。
でも私はパワー切れ。祇園祭も宵山もパスして、宿に帰ろうっと。

宇治に着いたのは夕方5時頃。
午前中に転んで打った指が、腫れ上がっていました。
背中も足もじんじんと痛み、歩きづらくなっています。
だましだまし宿に戻って、この日はもう外出せずに部屋で休んで、ゆっくり疲れをとることに専念します。
打ち身と腫れが悪化しないか心配だったし、日中暑い思いをしていたために身体の火照りがなかなかとれず、熱中症にならないか気になったので。

旅はまだ2日目ですが、山ばかり登っていて、すっかり体力が落ちています。
今回の旅は、行くのが大変なお寺ばかりを選んでいますが、暑さの中で動いているため、思っていたよりも大変です。

この日の移動ルート。といっても京都ー滋賀間は電車です。



2日目にして満身創痍ですが、それでも予定通りにこなせているので、まあよしとしましょう。
3日目に続きます。



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