弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【知財記事(商標)】「ゆっくり茶番劇」商標登録が波紋

2022年05月16日 09時07分37秒 | 知財記事コメント
おはようございます!
雨の@湘南地方です。
そして、ちょっと肌寒いくらいの気温。終日こんな感じらしい。
皆さま体調崩されぬよう。

さてさて、今日はこんな記事。

(ねとらぼより引用)
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人気動画ジャンル「ゆっくり茶番劇」を第三者が商標登録し年10万円のライセンス契約を求める ZUNさん「法律に詳しい方に確認します」

動画投稿者の「柚葉」さんが、動画サイトで人気のジャンル「ゆっくり茶番劇」の商標権を取得し波紋を呼んでいます。今後ゆっくり茶番劇の商標を使用する際は、商標使用許可申請書の提出と年間で10万円(税別)の使用料が必要になると主張しています。

ゆっくり茶番劇は、同人サークルである上海アリス幻樂団が展開する「東方Project」の二次創作。同じ東方Projectの二次創作“ゆっくり”シリーズからの派生系となります。

そんなゆっくり茶番劇の商標権を取得した柚葉さんは東方Projectの原作スタッフではないため、「東方Projectの二次創作ガイドラインに反しているのでは」「ゆっくり茶番劇が衰退する」など批判的な声が寄せられました。また、柚葉さんがUUUM CREAS所属であるためUUUMにも批判する声が上がっていますが、UUUM CREASは申請すれば誰でも加入できるサポートプラットフォームとなります。

(以下略)
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(引用終わり)


この件を取り上げている記事としてこういうのもある。

…登場人物がどわっといて、関係が良くわからんが、読み取れる限りで整理すると(間違ってたらご指摘ください)、

「ゆっくり茶番劇」というのは、人気動画の一ジャンルの名称。
  →このあたりの事実関係から「??」なのだが、
  「ゆっくり茶番劇」という表現をタイトルの一部に用いて、後述の「柚葉」も含め複数の主体がこれまで動画を出していた、ということと理解。
「柚葉」は一動画投稿者。今回(個人実名で)第41類について「ゆっくり茶番劇」を商標登録(内容はこちら)。
・で、動画投稿者界隈が俄かに騒然。「なに一人で抜け駆けしとんだ!」 …ということかな?

「ZUN」というのが、「上海アリス幻樂団」という個人サークルの運営者で、ここで製作されている各コンテンツが総称して「東方Project」と呼ばれている。
 二次創作に対して寛容で、もともとAAから生まれたまんじゅうみたいな顔のキャラクター(魔理沙と霊夢?だっけ?)がゲーム実況や各種動画で良く用いられている。
 当職も何回か見たことがある。
 →「ゆっくり実況」から派生して色々な「ゆっくり〇〇」動画を色々な主体がアップしている、
・・・といったところかな?

[所感]
1.こういうのって「歴史は繰り返す」っていうんですかねー。
 昔あった「ギコ猫」事件と構造的にかなり近いような。
 あのときは出願したのはレピュテーションリスクも考慮しなければいけない大きな会社だったけど、今回は果たして…。

2.一応法的な吟味をすると、
(1)「ゆっくり茶番劇」が動画の一ジャンルを表すものとして(商標法第3条第1項第3号にいう)「普通に用いられる」にあたる程度である、という事情は、上記からは見出せないところ。また類似する先行商標もなく、特定の主体に係るものと認識される事情もない。
  → なので、出願すれば登録にはなる。で、現実になった。 そもそも出願すること自体には何ら違法性はない。登録になっているのは「ゆっくり茶番劇」だけなので、ほかの「ゆっくり〇〇」は、類似しなければ使用は引き続き特に制限されない。検索したところ、特に他の「ゆっくり〇〇」は出願されていない模様。
(2)ざざっと「柚葉」の説明動画を見たけど、ライセンスのあり方も別に違法性を帯びるようなガイドラインでもない(年間ライセンス料10万円払いたくなければ別の名前で動画上げればよいだけのこと)。
(3)東方Projectの二次創作ガイドラインを見てみたけど、そもそも「ゆっくり茶番劇」という名称自体は「二次創作」ではなく(そもそもこのガイドラインが意図するところの「創作物」ではない)、各禁止事項にもあたらない。
  ※但し運営者として、無用の騒動を引き起こすことが「イメージを損なう内容」と捉える余地は無いでもない。ギコ猫の際のひろゆきのような役回りを「ZUN」さんがすることになるのか。
(4)記事の中で“異議申立て期間が経過してから発表したこと”に対して批判の声がある旨言及しているけれど、それはさすがに失当。むしろ法的な安定状態を確保してから事業を行いたい場合はそのようにクライアントに推奨することは普通にある。
(5)更には、“原作者のZUNさんですら商標登録してないのに…”的な言及もあったけど、商標の世界は「先願主義」なので、原作者がどうとか、起源の人でもないのに云々とかは基本関係が無い。

3.ただ、動画投稿者界隈(コミュニティ)にあって、これが妥当な行動なのか?というのは、法律という規範とはまた別物。
 また、動画投稿者界隈で共有財産と認識されていたところにライセンスビジネス持ち込んでいるのだとしたら、ちょっとKYかな、とは思う。
 ※このあたり、「ゆっくり茶番劇」のほとんどを「柚葉」が上げていて、他の人がその模倣的に上げている、といった事情があるのであればまた話は変わってくる。
  自分の動画を守るための措置として必要と思われるからだ。

ちょっと長めの投稿になってしまったけど、
法律では正しいけど、少なくともこんな炎上をしてしまった時点でビジネスとしては??
という事例なのかな、という印象。

<220516_12:31追記>
本件、上記記事記述時から更に話が大きくなっている様子。
出願代理人に対して爆破予告まできているとか・・・
本件登録に無効理由があると考えるのなら、法律上「無効審判」という手続があるのだからそれによればよいだけの話。
自らのコミュニティのルールを守れ、というのなら、その前提として他のコミュニティのルール(ここでは法定化された社会のルールだが)を自らがまず遵守すべき。

コメント
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