弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【知財記事コメント(商標)】「氏名ブランド」…登録が難しい、という現状。

2022年05月05日 09時39分35秒 | 知財記事コメント
おはようございます!
今日も快晴!そして今日は昨日よりも更に気温が高め。
着てくる服を失敗したなぁと思っている@湘南地方です。

昨日8kmほど走りましたが、足の痛みはほぼでていない。良かった。
今日でGW中盤戦がラスト。少しずつお仕事を進めながら、身体の調子も整えていこうと思いますよ。

さて、今日はこんな記事

(朝日新聞Digitalより引用)
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電話帳に同姓同名いればダメ?商標登録拒絶されたケンキクチは考えた

ファッション界を中心に、デザイナーの氏名を含んだブランドの商標登録申請が特許庁に相次いで拒絶される状況が続いている。根拠は、商標法の4条1項8号が「他人の氏名」を含む商標を、同姓同名の他人の承諾なしに登録できないと定めていることだ。「他人」が著名かどうかは判断の基準にならず、特許庁は電話帳「ハローページ」で同姓同名の人物が存在すれば認めないという姿勢だ。アルファベット表記での申請は、漢字だけでなく読み方が同一と推察されるだけでも登録がまず不可能だ。
(以下略)
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(引用終わり)

4条1項8号は、「人格的利益保護の規定」とされている。
商標登録により商標権者は登録商標を独占的に使用できるようになるわけだが、
その裏返しとして
商標権者以外はその登録商標を使用する自由を制限される」ことになるし、「自らの氏名が他人に商標として使用されること」を受忍しなければならなくなる
氏名はその個人のアイデンティティの根幹を為す要素の一つであるところ、
このような状況が生じるのは妥当ではない、という考え方に基づき規定されている条文なわけだ。

一方で、最も本源的な意味でのブランドの作り方、という点では、
自らの氏名そのものが浸透していくことこそがシンプルで強い。
ファッションの分野ではデザイナーの氏名そのものがブランドというのが当たり前な業態慣行でもある。
その意味で、KENKIKUCHIのお怒りはごもっともなところもある。

重要なのはバランスなわけで。
KENKIKUCHIの怒りの背景には、
“「キクチケン」さんが他にもいるって言ったって、ジュエリーデザインとは無関係だろ。
 よしんばその「キクチケン」さんがジュエリー関連のお仕事をしたとしても、自分とは区別がつくし、
 人格権の保護だといっても、逆にその「キクチケン」さんが「KENKIKUCHI」を用いることができる状況を許容することの不利益は
 自分自身だけでなく市場全体に及ぶだろ?”
というところだと思う。

そう。そもそも4条1項8号って、登録の障害となる対象が具体的に事前把握できないという意味で「4条」的じゃないんだよなぁ、と思っている。
…まあ「3条」的かというと、識別力自体はある前提だからそうでもないんだけど。でも生じる効果としては「3条」的なわけで(8号拒絶を受けても出願人が出願した内容について引き続き使用ができる状況は、識別力欠如で拒絶された場合と同じ)。

「マツモトキヨシ」音商標事件では、"取引の実情の下においては、…普通は、「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」、「松本 潔」、「松本清司」等の人の氏名を連想、想起するものと認められない"との判断(=「マツモトキヨシ」のCMで流れるあのジングル←「音声再生」を押すと聞くことができます)で登録されることとなった。マツキヨの場合は「周知」を超えて「著名」であることが登録への後押しとみることができる(その意味で「KENKIKUCHI」は、業界では当然に有名だけれど商品特性的に「著名」に至ることはなかなか難しい。)

法改正に向かっていくのであれば、
・3条2項的な要素を但し書きで入れる、か、
・出願された指定商品/指定役務の分野における取引の実情を考慮する旨を明記する
のいずれかが、バランスとしては適切なのではないかな、と思う次第。
コメント
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