から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ 【感想】

2018-03-02 23:03:53 | 映画


Mr.ビーンのような主人公の姿にコメディ映画と勝手に予想していたが、しっかりした恋愛ドラマだった。アメリカでの好評も頷ける良作。多民族国家=守るべき文化が異なる民族が隣り合う国家。同じ言葉を話して、同じ価値観を共有しても超えることのできない文化の違いは、ときに個人の生き方を縛ってしまう。本作の場合、イスラム教という宗教が主人公の恋愛の大きな障害物となる。しかし、これは宗教の違いに限った話ではない。コミュニティの最小単位である家族内の様々なルールでも起こり得る状況だ。理解の問題ではなく、受け入れることができるか否かの寛容性の問題であり、とても難しいテーマを扱っている。一筋縄ではいかない状況にも、自身の想いを優先して突破する主人公の姿が胸を打つ。ラストに待ち受けるサプライズに大いに救われた。

他民族国家であるアメリカだが、メディアを通して目にするカップルの多くは同じ肌の色だ。個人の好みの問題もあるだろうが、生活するコミュニティがそもそも違っていたり、本作のように宗教や文化の違いなどで自然と恋愛対象が限定されるのかもしれない。

主人公とその家族はパキスタンからの移民で、家族はみんな敬虔なイスラム教徒だ。物心ついた頃からアメリカに住んでいる主人公はイスラム教を崇拝しておらず、一応、家族のためにイスラム教徒の格好をしている。タクシーの運転手をしながらコメディアンとして舞台に立つ主人公は普通に社交的であり、白人である同じコメディアン仲間と友情を育んでいる。そんな彼がある日、彼の舞台を見た白人女子と出会い、恋に落ちる。

ワンナイトで終わるはずの関係が、何やかんやで何度も会うことになる。出会った彼女は彼にとって運命の人であり、彼女にとっても主人公は運命の人だったのだろう。彼らが愛を育む様子は、よく見る白人同士の恋愛映画のそれであり、深夜のトイレのクダリなど微笑ましく愛おしくなる2人の時間が心地よく流れていく。

ところが、2人の恋愛に大きな障害物が待ち受ける。主人公の家族が押し付けるイスラム教徒内の見合い婚だ。自由の国、アメリカにいても彼らには守るべきルールがある。毎晩のように彼の実家に訪れる結婚候補の訪問シーンが可笑しい。イスラム教徒内では昔から習慣化されたお作法のようなものだろう。映画では、訪問する側の女性の心情も描かれていて「この習慣に疲れたから、早いとこ結婚してしまいたい」と吐露するシーンが印象的だ。互いにアメリカ国民であり、見合い婚なんて望んでないのに自制しなければならない状況だ。これが幸せとは思えない。

この習慣に逆らうと、家族から勘当される。う~ん、間違っている。。。深刻な状況に陥ることがわかっている主人公は、当然、家族に白人の恋人の存在を知らせることはできない。見合い婚によって彼女との将来も見えない。そして、そのことが彼女にバレる。「イスラム教だから仕方ない」とは言えない。彼女が怒ったのはその習慣に対してではなく、「どうせ理解できない」と主人公が決めつけていたことだ。

タイトルの「ビッグ・シック(大きな病)」は、その後、別れてしまった彼女が患う重病を指す。彼女の入院を機に、会ったことのなかった彼女の両親との交流が始まる。これが事態を大きく変えていく。娘を傷つけた主人公に対して嫌悪する両親、マイナスから始まる主人公との交流が笑い感動ありで綴られていく。それは互いを知り、受け入れていく過程だ。一見、宗教に偏見を持たない両親だが、「9.11についてどう思った?」と主人公に切り出す。おそらく深い意味はなく、興味本位で聞いたまでと思うが、主人公は「残念なことだった」というほかない。あの事件はイスラム教と関係はないからだ。

今なおアメリカに蔓延る宗教差別や人種差別を現実として受け止めながらも、それを打破する人間の良心が根付いていることも本作は言及する。深刻なテーマを描きながらも大風呂敷を広げることなく、2人とその家族のパーソナルな物語に終始している点が本作の魅力である。「実話」という事実は劇中で初めて知ったが、どーりでキャラクターが誠実に描かれているわけだ。主人公の彼女へのまっすぐな想いと、勇気ある大きな決断に胸を打たれ、どんどん魅力的なキャラクターに見えてくる。コメディアンとして夢を追う主人公と、同じ仲間たちとの友情を交えたドラマとしても味わいあり。また、エンディングで明らかになるもう1つの事実に驚いた。かなり斬新な挑戦であるが、違和感なく完成度の高い映画になっていることに2度感心してしまった。

【70点】
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ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ 【感想】

2018-03-02 08:00:00 | 映画


昨年、劇場公開で見られなかった1本。レンタル開始日にソッコー借りて見る。やっぱり面白かった。
世界一有名な外食店といってもよい「マクドナルド」がチェーン店として拡大した背景を描く。一代で巨万の富と権力を得る「アメリカンドリーム」は強固な資本主義によって実現されることをまざまざと見せ付ける。そのダイナミズムよりも響くのは、留まることを知らない強欲の恐さだ。
本作の主人公である男はマクドナルドの「ファウンダー(創立者)」という肩書きを持つが、彼がマクドナルドを生み出したわけではない。現在の「早くて、安くて、美味しい(出来立て)」というファーストフードのシステムを作ったのは紛れもなくマクドナルドであり、その生みの親は別人のマクドナルド兄弟だった。主人公はもともと商才に秀でた人間ではなかったことが興味深く、彼の成功は「マクドナルド」のシステムとブランドが多くの人に受け入れられることを確信した点にある。その後の事業拡大は、優秀な人材と出会うことができた幸運に近い。本当の創立者であるマクドナルド兄弟は、事業の成功もさることながら、顧客の満足を優先してシステムを開発した。そのクオリティの担保が第一であり、店を広げることにはこだわらない。ビジネスパートナーとして始まった兄弟と主人公だったがウィンウィンの美談には終わらず、主人公が自らの力で「マクドナルド」を一切合財を兄弟の元から剥ぎ取る形で成功を手にする。兄弟が掲げた品質第一のスピリットも継承しない。金がモノを言う資本主義社会においては何ら問題のないルートであるが、その光景はなかなか残酷だ。本作はそうした感傷に浸ることを避け、「マクドナルド」というブランドがある意味、本来の姿で誕生した経緯を描き出す。主人公演じるマイケル・キートンの妙演に目を見張るが、兄弟を演じたニック・オファーマンとジョン・キャロル・リンチも素晴らしく見事な「受け」の演技を披露、これぞ「助演」という仕事ぶりだった。
【70点】
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