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 気候変動がもたらすさまざまな悪影響を防止するための取り組みの原則や措置などを定めている国家間の取り決めに「気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change、UNFCCC、FCCC)」があります。この条約の交渉会議である「気候変動枠組条約締約国会議 (Conference of the Parties、COP) は、1995年から毎年開催されており、第19回締約国会議 (COP19)はポーランドのワルシャワで、11月11日から22日までの期間で開かれています。

(参考) 日本政府の代表団で外務省国際協力局の南博参事官は、COP19の開幕を前に、NHKの取材に応じ、温室効果ガスの削減に向けた2020年以降の新たな枠組みについて、「すべての国に適用される実効的で公正な枠組みであることが重要で、政府としては各国と協調して働きかけを強めていきたい」と述べました。(2012年11月11日配信のNHKニュースより)(注の終わり)

 この会議において、観測史上最大規模の超大型台風30号「ハイエン(海燕)、フィリピン名はYolanda(ヨランダ)」の直撃を受け、死者1万人と推定される被害を出したレイテ島(Leyte)のあるフィリピンの「サニョ交渉官(Naderev "Yeb" Saño(ナデレフ・サニョ))」は涙を浮かべながら、3分の予定時間を大幅に超えて、およそ17分に至る演説を行いました。

(注) 台風ヨランダは、2013年11月8日早朝にフィリピン中部に上陸しました。上陸しても勢力をほとんど弱めることなく、900hPaという激烈な勢力を1日半ほど維持しました。フィリピン中部の島々は風力が60m/s以上という竜巻に匹敵するような強風に晒されることとなりました。レイテ島のタクロバン(Tacloban)という町は、レイテ湾の最奥部に位置し、また台風の進行方向右側の危険半円内に入ったため、台風による局地的な低圧部による高潮に長時間襲われることとなります。

 「デジタル台風」(国立情報学研究所が公開している、台風のデータベースを提供するウェブサイト)は、次のように述べます。

 高潮の高さを説明する二つの要因に「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」があります。まず吸い上げ効果は、台風の中心気圧が低いことにより海面が上昇する効果で、気圧が1hPa低下すると1cm上昇すると言われています。今回の台風は上陸台風の中では史上最強とも言われるほど中心気圧が低い台風であるため、当然ながら吸い上げ効果も過去最大級と言えます。一方、吹き寄せ効果は風速の2乗に比例して海水が吹き寄せられて湾の奥にたまっていく効果ですが、今回の台風はコンパクトなために中心付近の風速はより強めとなっており、最大風速125kt(64.3m/s)と、まるで竜巻のような強風となっていました。(注の終わり)

(注) フィリピンのアキノ大統領は11月12日、地元当局者らが示してきた「死者1万人」という数字に疑いを示し、「2,000~2,500人ぐらいとなるだろう」との見方を示したといいます。しかし、「気象津波」に襲われた地域が広範で、自治体も十分機能していないため、正確な犠牲者数を把握するには時間がかかる見通しのようです。フィリピンの国家災害対策本部は11月13日、死者数が2,344人に上ったと発表しました。(注の終わり)

(追記)  フィリピン中部を襲った台風30号の死者・行方不明者数が、救援活動の進展に伴い急増し、5,000人規模に迫ってきた。アキノ大統領の被害予想を早くも上回っており、被害の甚大さを読み誤っていたことが裏付けられた格好だ。国家災害対策本部は16日、死者は3,637人に上り、1,186人が行方不明になっていると発表した。最大被災地タクロバンの警察幹部らが当初から「死者は1万人を超える」と警告したのに対し、大統領は「恐らく2,500人ぐらい」と反論。被害の過小評価が、初動や救援活動の遅れにつながったとの批判がある。(2013年11月16日配信の時事通信の記事より)(追記の終わり)

(追記)  フィリピンの国家災害対策本部は11月18日、同日午後6時(日本時間同7時)現在で、台風30号による被害で400万人以上が住居を失ったと明らかにした。死者数は3,976人、行方不明者は1,602人。被災者は1,000万人を超える。対策本部によると、被害が大きかったレイテ島やサマール島の死者の大半は身元の確認ができておらず、死因も分かっていない。(2013年11月19日配信の共同通信の記事より)(追記の終わり)

 サニョ氏は、2012年11月26日から12月07日にわたってカタールのドーハで開催された「第18回締約国会議 (COP18)」でも、“The outcome of our work is not about what our political masters want. It is about what is demanded of us by seven billion people. I appeal to all: Please, no more delays, no more excuses. Please, let Doha be remembered as the place where we found the political will to turn things around, and let 2012 be remembered as the year the world found the courage to do so, to find the courage to take responsibility for the future we want. ...”(皆さんに訴えたい。これ以上引き延ばさないでもらいたい。これ以上言い訳はしないでもらいたい。ドーハを、政治が気候変動という状況を大きく改善させた都市として記憶しましょう。2012年を、世界が望ましい未来を求めて責任を取る勇気を見出した年として記憶しましょう。)と訴えています。しかし、世界の指導者らは地球の将来に責任を取ることなく、無策の1年が過ぎることになります。



(注) 第18回締約国会議の開催中の2012年12月4日、フィリピンを直撃した大型台風24号(Bopha、フィリピン名はPablo(パブロ))はミンダナオ島(Mindanao)で洪水と地滑りの被害を起こし、フィリピン国家災害対策本部は2012年12月16日、この台風による死者が1,020人に達したと発表しました。行方不明者は844人で、そのうちおよそ半数は台風直撃前に出港した漁船に乗っていた漁師で、生存が絶望視されました。(注の終わり)

 フィリピンの「メトロ・マニラ (Metro Manila)」 内の都市である「ケソンシティ (Quezon City)」の南部中心に位置する「ディリマン (Diliman) 」地区には、フィリピンにおける最高ランクの大学である「フィリピン大学(Unibersidad ng Pilipinas、University of the Philippines )」のメインキャンパスがあります。

 「Quezon City Science High School(ケソン市科学技術高校)」に入学した(1991年期生)「Naderev Madla Saño(ナデレフ・マドラ・サニョ)」氏は、さらにフィリピン大学へと進み、気候変動における災害管理を中心としたコミュニティ開発を学ぶことになります。1997年から気候変動問題と関わりを持ち続け、“Perfect Storms: What the Philippines Can Do About Climate Change”という著書(共著)もあるといいます。

(注) ノーイースター(Nor'easter、強い北東風を巻き込んで発達した温帯低気圧による嵐)とハリケーンが融合した巨大な嵐を「パーフェクト・ストーム(Perfect Storm)」といいます。1991年に 発生したこのパーフェクト・ストーム(1991 Halloween Nor'easter、ハローウィン・ノーイースター。1991年10月28日に発生、11月4日に消滅。ハロウィーン(Halloween)は、毎年10月31日に行われる)に、「アンドレア・ゲイル号(Andrea Gail)」という漁船が遭遇し、乗員全員が帰らぬ身となった実話を元に、1997年にセバスチャン・ユンガー(Sebastian Junger)がノンフィクション「パーフェクトストーム」(The Perfect Storm)を執筆しており、映画化もされています。この語は意味を拡張されて、「複数の厄災が同時に起こり、破滅的な事態に至ること」をも指すようになりました。(注の終わり)

 フィリピンは、大小合わせて7,000以上の島々から構成される国家です。そのために、海と上手に付き合っていく必要があります。海は恵みをもたらしてくれる存在であると同時に、災厄をもたらす存在でもあるのです。フィリピンは大きく、北部のルソン島(Luzon)とその周辺の島々、中部のビサヤ諸島(Visayas)、南部のミンダナオ島(Mindanao)とその周辺の島々の3つに分類することができます。

 中部のビサヤ(Visaya)諸島は、パナイ島(Panay)、ネグロス島(Negros)、セブ島(Cebu)、ボホール島(Bohol)、レイテ島(Leyte)、サマール島(Samar)の6島で大半が構成されています。サニョ氏は、中部ビサヤ地方(Central Visayas)に属するセブ島、ボホール島などで、持続可能な(sustainable)海洋観光(marine tourism)を提唱して、沿岸資源管理(coastal resources management)、漁場保全(fisheries conservation)、環境教育(environmental education)に関するプロジェクトに4年間従事していたといいます。

 北部のルソン島最南端部にあるソルソゴン州(Sorsogon)ドンソール(Donsol)の周辺の海は、世界で最もジンベイザメが生息しているとみなされており、2月~5月の乾期を最盛期として、ジンベイザメ見学ツアーが開催されています。ボホール島の近くパミラカン島(Pamilacan)では、ホエール・ウォッチング(3月~6月)やドルフィン・ウォッチングを観光資源としています。サニョ氏は、これらのエコツーリズム(wildlife eco-tourism)を開発したプロジェクトにも関わっていたそうです。



 「ジンベエザメ(whale shark、中国語:鲸鯊、鯨鮫、豆腐鯊)」は、「フカヒレ、中国語:魚翅」、「肝油」、「肉」をとるために発展途上国の漁師による乱獲が行われて、大きく生息数を減らしています。フィリピンでは1998年にジンベイザメなどの捕獲が禁止になりました(Fisheries Administrative Order 193)。
 
 ジンベイザメのフカヒレは、高級品とされ、国際市場で1kgで500ドル(およそ5万円)ほどもしたといいます。パミラカン島の漁民たちは大きな収入の減少に苦しむことになります。“WWF-Philippines”の“Coastal Resources and Fisheries Conservation Project Cebu and Bohol”を運営したproject managerの“Yeb Saño”氏は、海洋動物のの生態に習熟した漁民をエコツーリズムの案内人へと変身させていきました。

 パミラカン島には、年間3,000人ほどがイルカを見にやって来るといいます。島民はその手助けをする仕事にやりがいを徐々に持つようになったといいます。海洋天然資源の保護に進んで取り組むようになったといいます。

(注) WWF(World Wide Fund for Nature、世界自然保護基金)は、世界最大規模の自然環境保護団体です。WWFは、各国の環境保護団体と連携しながら、絶滅が心配される野生動物の保護に関する全般的な活動を主に行っています。WWFは、地球温暖化が生物多様性に及ぼす影響が大きいことから、温室効果ガスの排出を抑え、地球の平均気温の上昇を抑えることを目標にした活動も行っています。(注の終わり)

 サニョ氏は、2010年2月15日に「Climate Change Commissioner」(気候変動枠組条約締約国会議代表)に任命され、2月25日に就任しています。

 サニョ氏は、2013年11月11日の「第19回締約国会議 (COP19)」の開会式でこう訴えます。

 Mr. President, it was barely 11 months ago in Doha when my delegation made an appeal, an appeal to the world to open our eyes to the stark realities that we face, as then we confronted a catastrophic storm that resulted in the costliest disaster in Philippine history. Less than a year hence, we cannot imagine that a disaster much bigger would come.(ほんの11か月前、私たちフィリピンの代表団はドーハで開かれたCOP18で、私たちが直面している過酷な現実を直視してほしいと訴えました。フィリピンは、ちょうどその頃、すべてのものを破壊してしまうような台風に襲われ、その台風はフィリピンの歴史上、最も多くの犠牲を払った災厄となったのです。それから1年も経たないうちに、それを大きく上回る災厄がまた襲ってくるとは想像だにしませんでした。)



 サニョ氏は、語気を強めて次のように言います。

 To anyone outside who continues to deny and ignore the reality that is climate change, I dare them—I dare them to get off their ivory towers and away from the comfort of their armchairs. I dare them to go to the islands of the Pacific, the Caribbean, the Indian Ocean, and see the impacts of rising sea levels; to the mountainous regions of the Himalayas and the Andes, to see communities confronting glacial floods; to the Arctic, where communities grapple with the fast-dwindling sea ice sheets; to the large deltas of the Mekong, the Ganges, the Amazon, the Nile, where lives and livelihoods are drowned; to the hills of Central America, that confront similar monstrous hurricanes; to the vast savannas of Africa, where climate change has likewise become a matter of life and death as food and water becomes scarce—not to forget the monstrous storms in the Gulf of Mexico and the Eastern Seaboard of North America, as well as the fires that have raged Down Under. And if that is not enough, they may want to see what has happened to the Philippines now.

 「気候変動の影響から逃避して(outside)、象牙の塔の安楽椅子にのうのうと座って、気候変動の現実を否定し、無視し続けている学者を、そこから引きずり出し、太平洋、カリブ海、インド洋の島々に連れて行って、海面上昇の影響をその目で確認させたい。」

 1999年10月29日、インドの南東部にあるオリッサ州(Odisha)に巨大な「オリッサ・サイクロン」が上陸し、10,000人以上が死亡しています。オリッサ・サイクロンはベンガル湾で記録された最も強力なサイクロンで、上陸時の風速は約70メートルを記録し、被害額は20億ドル(約2000億円)以上に上ったといいます。2013年10月12日、ベンガル湾内で勢力を強めていた巨大サイクロン「Phailin(ファイリン)」は、風速約70メートル、最大瞬間風速は約85メートルに達したことから、沿岸部では高潮が発生し、内陸部でも進路上の地域では大雨が予想されました。アンドラ・プラデーシュ州(Andhra Pradesh)とオリッサ州の境界付近に上陸すると見られ、洪水が発生しやすい人口密集地域を直撃する恐れがあることから、大規模な避難が行われ、およそ55万人が沿岸部から避難したといいます。

 「ヒマラヤ山脈とアンデス山脈の山岳地帯にも連れて行って、氷河湖決壊洪水に直面している地域社会を見せてやりたい。」

 氷河(glacier)は、巨大な氷の塊です。万年雪が圧縮されて、氷となり、低い方へと移動して(流れて)いきます。「氷」の「河」ですから、流域を侵食していきます。氷河が削り取った岩などが土手のように堆積している地形があります。「モレーン(moraine、堆石)」と呼ばれます。

 氷河の後退などによりモレーンが氷河と切り離され、氷河とモレーンとの間に水が溜まって「氷河湖(glacial lake)」が形成されることがあります。ヒマラヤ山脈のネパール側だけでも、3,000㎡以上の面積の湖だけに限定しても2,300以上もの氷河湖があるといわれています。

 「イムジャ氷河湖(Imja Glacier)」は、最も有名な氷河湖です。イムジャ氷河湖は,1950年代には小さな氷河池に過ぎなかったのですが、それがわずか半世紀ほどで幅約650m、長さ約2,000m、面積約1k㎡にも達する巨大な氷河湖になったといいます(水面の標高はおよそ5,000m)。氷河湖はダム状の湖です。ダムは決壊すると下流地域に甚大な被害を及ぼします。

 ダムは貯水池の水量を徐々に放流することで貯水量を一定に保っています。ダムの堤体は多くがコンクリートですが、氷河湖は堤体がモレーンです。貯水量を調節することもできません(氷河湖に水門を作り貯水量を調整する努力がされていることもある)。気候変動で氷河湖の貯水量が増加することになれば、氷河湖は決壊することになります。その結果として起こるのが「氷河湖決壊洪水(glacial lake outburst flood)」です。

(参考) サニョ氏の演説の全部が見られるサイト“Philippines delegate Naderev Saño COP19 Warsaw

(参考) サニョ氏の演説の全文 “Mr. President, it was barely 11 months ago in Doha when my delegation made an appeal, an appeal to the world to open our eyes to the stark realities that we face, as then we confronted a catastrophic storm that resulted in the costliest disaster in Philippine history. Less than a year hence, we cannot imagine that a disaster much bigger would come. With an apparent cruel twist of fate, my country is being tested by this hellstorm called Supertyphoon Haiyan. It was so strong that if there was a Category 6, it would have fallen squarely in that box. And up to this hour, Mr. President, we remain uncertain as to the full extent of the damage and devastation, as information trickles in agonizingly slow manner because power lines and communication lines have been cut off and may take a while before they are restored.

 The initial assessment showed that Haiyan left a wake of massive destruction that is unprecedented, unthinkable and horrific. According to the Joint Typhoon Warning Center, Haiyan was estimated to have attained sustained winds of 315 kilometers per hour—that’s equivalent to 195 miles per hour—and gusts up to 370 kilometers per hour, making it the strongest typhoon in modern recorded history. And despite the massive efforts that my country had exerted in preparing for the onset of this storm, it was just a force too powerful. And even as a nation familiar with storms, Haiyan was nothing we have ever experienced before.

 Mr. President, the picture in the aftermath is ever slowly coming into clearer focus. The devastation is colossal. And as if this is not enough, another storm is brewing again in the warm waters of the western Pacific. I shudder at the thought of another typhoon hitting the same places where people have not yet even managed to begin standing up.

 To anyone outside who continues to deny and ignore the reality that is climate change, I dare them—I dare them to get off their ivory towers and away from the comfort of their armchairs. I dare them to go to the islands of the Pacific, the Caribbean, the Indian Ocean, and see the impacts of rising sea levels; to the mountainous regions of the Himalayas and the Andes, to see communities confronting glacial floods; to the Arctic, where communities grapple with the fast-dwindling sea ice sheets; to the large deltas of the Mekong, the Ganges, the Amazon, the Nile, where lives and livelihoods are drowned; to the hills of Central America, that confront similar monstrous hurricanes; to the vast savannas of Africa, where climate change has likewise become a matter of life and death as food and water becomes scarce—not to forget the monstrous storms in the Gulf of Mexico and the Eastern Seaboard of North America, as well as the fires that have raged Down Under. And if that is not enough, they may want to see what has happened to the Philippines now.

 Mr. President, I need not elaborate on the science, as Dr. Pachauri has done that already for us. But it tells us simply that climate change will mean increased potential for more intense tropical storms. And this will have profound implications on many of our communities, especially those who struggle against the twin challenges of the development crisis and the climate crisis. And typhoons such as Haiyan and its impacts represent a sobering reminder to the international community that we cannot afford to delay climate action. Warsaw must deliver on enhancing ambition and should muster the political will to address climate change and build that important bridge towards Peru and Paris. It might be said that it must be poetic justice that the Typhoon Haiyan was so big that its diameter spanned the distance between Warsaw and Paris.

 Mr. President, in Doha we asked: "If not us, then who? If not now, then when? If not here, then where?" But here in Warsaw, we may very well ask these same forthright questions. What my country is going through as a result of this extreme climate event is madness. The climate crisis is madness. Mr. President, we can stop this madness right here in Warsaw. We cannot sit and stay helpless staring at this international climate stalemate. It is now time to raise ambition and take action. We need an emergency climate pathway.

 Mr. President, I speak for my delegation, but I—I speak—speak for the countless people who will no longer be able to speak for themselves after perishing from the storm. I speak also for those who have been orphaned by the storm. I speak for those of—the people now racing against time to save survivors and alleviate the suffering of the people affected. We can take drastic action now to ensure that we prevent a future where supertyphoons become a way of life, because we refuse, as a nation, to accept a future where supertyphoons like Haiyan become a way of life. We refuse to accept that running away from storms, evacuating our families, suffering the devastation and misery, counting our dead become a way of life. We simply refuse to.

 Now, Mr. President, if you will allow me, I wish to speak on a more personal note. Supertyphoon Haiyan, perhaps unknown to many here, made landfall in my own family’s hometown. And the devastation is staggering. I struggle to find words even for the images that we see on the news coverage. And I struggle to find words to describe how I feel about the losses. Up to this hour, I agonize, waiting for word to the fate of my very own relatives. What gives me renewed strength and great relief is that my own brother has communicated to us, and he had survived the onslaught. In the last two days, he has been gathering bodies of the dead with his own two hands. He is very hungry and weary, as food supplies find it difficult to arrive in that hardest-hit area.

 Mr. President, these last two days, there are moments when I feel that I should rally behind climate advocates who peacefully confront those historically responsible for the current state of our climate, these selfless people who fight coal, expose themselves to freezing temperatures or block oil pipelines. In fact, we are seeing increasing frustration, and thus more increased civil disobedience. The next two weeks, these people and many around the world who serve as our conscience will again remind us of this enormous responsibility. To the youth here who constantly remind us that their future is in peril, to the climate heroes who risk their life, reputation and personal liberties to stop drilling in polar regions and to those communities standing up to unsustainable and climate-disrupting sources of energy, we stand with them. We cannot solve problems at the same level of awareness that created them, as Dr. Pachauri alluded to Einstein earlier. We cannot solve climate change when we seek to spew more emissions.

 Mr. President—and I express this with all sincerity, in solidarity with my countrymen who are struggling to find food back home and with my brother who has not had food for the last three days, with all due respect, Mr. President, and I mean no disrespect for your kind hospitality, I will now commence a voluntary fasting for the climate. This means I will voluntarily refrain from eating food during this COP, until a meaningful outcome is in sight; until concrete pledges have been made to ensure mobilization of resources for the Green Climate Fund—we cannot afford a fourth COP with an empty GCF; until the promise of the operationalization of a loss-and-damage mechanism has been fulfilled; until there is assurance on finance for adaptation; until we see real ambition on climate action in accordance with the principles we have so upheld.

 Mr. President, this process under the UNFCCC has been called many, many names. It has been called a farce. It has been called an annual carbon-intensive gathering of useless frequent flyers. It has been called many names. And this hurts. But we can prove them wrong. The UNFCCC can also be called the project to save the planet. It has also been called "saving tomorrow today" a couple of years ago. And today, we say, "I care."

 We can fix this. We can stop this madness, right now, right here, in the middle of this football field, and stop moving the goalposts. Mr. President, Your Excellency, Honorable Minister, my delegation calls on you, most respectfully, to lead us and let Poland and Warsaw be remembered forever as the place where we truly cared to stop this madness. If this is our imperative here in Warsaw, you can rely on my delegation. Now can humanity rise to this occasion? Mr. President, I still believe we can. Thank you, Mr. President. Thank you.”

                   (この項 健人のパパ)

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 ウイルス感染症の一つである「風疹(rubella(ルーベラ)」では、耳の後ろから首筋にかけてのリンパ節の腫れを前駆症状として、微熱、頭痛、倦怠感などの風邪様症状が現れ、やがて点状の紅斑(発疹)が顔から体や手足へと広がっていきます。風邪様症状から発疹の出現へと進行するので「はしか(麻疹)」に類似し、その発疹は3~5日程度で消えることから、風疹は「三日はしか(英語でも“three-day measles”と言う)」とも言われます。また、この疾患は18世紀中頃に、ドイツ人の内科医 de Bergen(デ・ベルゲン。ロバート・デ・ニーロという人名から推測すると、これが姓?)と Orlow(オルロー)が初めて記述したことから、“German measles”(ジャーマン・ミーズルズ、ドイツはしか)とも呼ばれています。

 風疹は、感染した人の咳、くしゃみの飛沫に含まれた風疹ウイルスによって感染しますが、その感染力は麻疹よりも弱いといわれ、また感染者の5分の1から4分の1には発疹が出現しないとも言われます。小児では咽頭炎のみがみられたり、感染しても症候が現れない場合もあるようです。1度、風疹にかかれば、免疫ができ、2度とかからないといわれていましたが、抗体は徐々に減衰していきます。再感染する場合もありえます。

 風疹ウイルスに遭遇する機会が多かった頃には、免疫力が減衰していく抗体もウイルスに接するたびに免疫力が回復(ブースト)されていました。そのため、1度風疹に感染して抗体を獲得すれば、2度と風疹を発症することはなかったのです。しかし、遭遇の機会が大きく減った現在では、抗体は免疫力をブーストされることなく、感染を予防できないほどにまで減衰してしまう可能性が大きくあります。



 1941年、オーストラリアの眼科医である「ノーマン・マカリスター・グレッグ(Norman McAlister Gregg)」は、先天性白内障(congenital cataract)の子供を診察していて、母親が妊娠中に風疹に患っていたこととの関連に気づき、「Congenital Cataract following German Measles in the Mother」として、先天性風疹症候群を初めて報告します。しかし、英国外科学会が発行する医学雑誌「ランセット(The Lancet)」は、先天性白内障と風疹の関連が十分には証明されていないと否定的に書きます。それから10年後の1951年、シドニー大学の教授「ヘンリー・オリバー・ランカスター(Henry Oliver Lancaster)」が数理統計学を用いて、論文「Deafness as an Epidemic Disease in Australia」を英国医師会が発行する「イギリス医師会雑誌(British Medical Journal、BMJ)」に発表し、この関連を証明します。

 風疹は、風疹ウイルスに感染することで発症するものですが、軽度の感染症です。大きく対処を間違わなければ恐れる必要のないものです。風疹にかかって、特に治療をしなかったとしても完全に治ります。まれに中耳炎を起こすこともありますが、そのときは抗生物質での治療を行うことになります。ごくまれに(4,000~6,000人に1人の割合)、風疹脳炎が発疹が消える頃に起こることがあり、その死亡率は10~20%なのだそうです。

 今年(2013年)の風疹の患者数が1万人を超えたと言います(NHKの2013年6月18日のニュースウオッチ9から)。確率的には、風疹脳炎を発症する人が出る数字に達しています。国立感染症研究所(National Institute of Infectious Diseases、NIID)感染症疫学センター(Infectious Diseases Surveillance Center、IDSC、旧「感染症情報センター」(2013年4月1日名称変更))で、2013年2月に発生した25歳男性の風疹脳炎の事例が報告されています。

第1病日…発熱、両側眼球結膜の充血を認めた。

第2病日…39℃を超える高熱を呈したため、近医を受診し、ロキソプロフェン(loxoprofen、商品名「ロキソニン」。発熱・炎症を引き起こす原因となるプロスタグランジンの生合成を抑制して、炎症などを鎮める)、ガレノキサシン(garenoxacin、商品名「ジェニナック」。キノロン系経口抗菌剤である)の内服を開始した。

第3病日…体幹、四肢、顔面に点状の紅斑が出現した。その後も発熱は持続していた。

第5病日…軽度の頭痛が出現し、同日深夜に軽度の嘔気を訴えた後、全身性痙攣を認めたため救急要請された。ジアゼパム (diazepam、商品名「セルシン」など。ベンゾジアゼピン系の化合物の抗痙攣薬) 投与によりいったん止痙した。入院時より髄膜脳炎と判断して、バンコマイシン(Vancomycin、D-アラニル-D-アラニンに結合して細胞壁合成酵素を阻害し、菌の増殖を阻止する働きがあるグリコペプチド系抗生物質)、セフトリアキソン((ceftriaxone、商品名「ロセフィン」。血液脳関門を通過しやすいという特性を持ち、化膿性髄膜炎の治療にも用いられるセフェム系抗生物質)、アシクロビル (aciclovir、商品名「ゾビラックス」。DNAポリメラーゼを阻害し、ウイルスの増殖を防ぐウイルス感染症の治療薬)による治療を開始した。痙攣重積と判断し、痙攣コントロールのために挿管人工呼吸管理となった。

第7病日…36℃台へ解熱し、皮疹は、入院後消退傾向を示し、経過良好であったため同日に抜管。

第8病日…意識清明となり、髄液や血液培養検査は陰性であったため抗菌薬を中止した。

第8病日…脳波異常を認めたことからカルバマゼピン (carbamazepine、商品名「テグレトール」。脳神経細胞のNaチャネルを遮断する)の内服を継続とした。

第16病日に退院となった。

 風疹を怖い疾患と考えなければならないのは、「胎児」への感染で胎児にいろいろな疾患が出るからです。胎児は胎盤を通して母体から栄養と酸素を受け取り、老廃物を母体に返しています。妊娠14~15週(4か月頃)には胎盤が完成して、胎児の生育環境が安定して、発育速度は向上します。しかし、その前(3か月まで)は、胎児の器官形成の重要な時期です。たとえば、妊娠7週頃には、心臓は左右の2心室に分かれ、肝臓や胃、腎臓、膵臓などの主な内臓の形もでき始めます。さらに、目の視神経、耳の聴神経など、感覚器官の神経細胞も発達し始めます。また、目にはやがて水晶体になる部分ができてきます。

 風疹ウイルスが感染した胎児の細胞では、細胞分裂能力が低下します。それは結果として、先天性風疹症候群の典型的な三大症状である、心奇形(心疾患)、難聴、白内障を惹き起こします。11~16週までの感染では10人に1人から5人に1人に発生すると言われています。妊娠4か月から6か月での感染でも難聴は避けられないと言います。妊娠7か月に入ってからの感染は比較的影響が少ないとは言われています。先天性風疹症候群の発生頻度は、妊娠1か月以内での感染で半分以上、2か月で3分の1ほど、3か月で5分の1ほど、4か月で12分の1ほどであると言われています。

 2011年度の国の調査では、20~40代の女性の4%が風疹への抗体を持っておらず、11%では感染予防には不十分である低い抗体価だったといいます。この年代の女性の7人に1人ほど(15%)は、出産に対してCRS児(先天性風疹症候群の小児)を生むリスクを抱えているのです。もちろん、風疹流行期に、妊娠する可能性、風疹に感染する可能性、妊娠初期に風疹に感染する可能性、妊娠初期に風疹に感染してCRS児を出産する可能性、、、とその割合は小さくなっていきます。しかし、風疹ワクチンを接種していないと、CRS児を出産する可能性を極めて小さいものにすることはできません。

 風疹流行期における年毎の10万出生当たりの先天性風疹症候群の発生頻度は、いつの時期のデータかはわかりませんが、アメリカで0.9~1.6、イギリスで6.4~14.4、日本で1.8~7.7と報告しているサイトがあります。これをどう読むべきでしょう。イギリスや日本は発生頻度が高く、アメリカは低いと読むべきでしょうか。風疹のワクチンを接種するのに、妊娠時に風疹に罹患しないよう中学生女子を対象にする場合(イギリス方式)と、風疹の流行を阻止することを目論んで1歳の男女を対象とする場合(アメリカ方式。アメリカでは12か月~15か月に初回接種、4~6歳に再接種がある)があります。しかし、イギリスは風疹流行のコントロールができず、風疹流行時にCRS児の出生を認めたため、アメリカやフランスが採用していたアメリカ方式に切り替えました。

Children should get 2 doses of MMR vaccine:
 ・First Dose: 12 - 15 months of age
 ・Second Dose: 4 - 6 years of age (may be given earlier, if at least 28 days after the 1st dose)


 アメリカ合衆国保健福祉省所管の感染症対策の総合研究所である「アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)」が2013年3月29日に報告した「Three Cases of Congenital Rubella Syndrome in the Postelimination Era — Maryland, Alabama, and Illinois, 2012」によれば、アメリカでは2004年から2012年にかけて、風疹患者は79例が報告されているだけであり、また先天性風疹症候群の小児は6例が報告されていると言います(2004年に1例、2008年に2例、2012年に3例)。



 風疹の宿主は「ヒト」のみと考えられており、「天然痘」と同じように、その根絶は可能です。感染症排除に向かう段階は3つに区分され、感染症患者の発生、死亡の減少を目指す「制圧(control)期」、全体の発生を低く抑えつつ集団発生を防ぐ「集団発生予防(outbreak)期」、そして最終段階である「排除(elimination)期」があります。アメリカは風疹を国土から排除したと考えていることから“postelimination”という言葉を使います。アメリカで散発的に風疹患者が発生するのは、ワクチンは人工的なものだから受け入れられないと接種を拒否する人たちや、病気は神様の贈り物と考えて接種を拒否する特定の宗教グループがいるからだと考える人たちもいます。



 風疹は、2012年第30週 (7/23~7/29)に2012年度の流行のピーク(診断を受けた発症者:132人)を迎え、減少に転じていたのですが、第44週 (10/29~11/4)に底(21人)をみると、一転増加傾向になります。それでも、2012年度中は急激な増加は見られなかった(40人から60人程度で推移)のですが、2013年に入ると、第4週に100人を超え、第6週(2/4~2/10)には200人超え、第8週300人超え、第11週(3/11~3/17)400人超え、第13週500人超え、第15週(4/8~4/14)600人超え、第17週700人超え、第19週 (5/6~5/12)には800人を超えることになります。

 人口3億人ほどの国のアメリカで9年間での風疹患者は80人ほどであるのに対して、人口1億2千万人ほどの国の日本で半年間の風疹患者は1万人を超える、、、この差はどこから来るのでしょうか。先天性風疹症候群の小児も今年に入ってから6人(2012年10月からでは11人)が報告されていると言います(おおよそ風疹患者1,700人に1人のCRS児)。日本の最近の年間出生数は100万人ほどですから、半年で50万人と考えて、2013年前半のCRS児発生頻度は10万出生に対して1.2となります。

 CDC(アメリカ疾病管理予防センター)の報告を読んでみましょう。

 タンザニア(人口4,500万人の東アフリカの国。東をインド洋に面する)の都市部からアメリカに2011年12月にやって来た20歳後半の女性は、メリーランド州で2012年2月に妊娠36週で小児を出産します(妊娠37週未満の分娩を早産という。出産の約5%が早産児)。小児の体重は1910gでした(日本の母子保健法では、2,500g未満を「低体重児」として扱う)。小児には、先天性心疾患(congenital heart defects)、白内障(cataracts)、聴覚障害(hearing impairment)、脳浮腫(cerebral edema)などがあったと言います。2011年6月に月経がなくなった後に、紅斑状・斑点状丘疹(erythematous, maculopapular rash)が2~3日続いたと彼女は述べています。タンザニアでは風疹ワクチンは定期予防接種スケジュールの一部となっていないといいます。

 風疹ワクチンが定期予防接種スケジュールの一部ではないナイジェリア(人口1,700万人の西アフリカの国。南をギニア湾に面する)から2012年3月に妊娠32週でアメリカにやって来た20歳後半の女性は、アラバマ州で妊娠33週で帝王切開で小児を出産します。全身に紫斑(blueberry muffin rash)のあった小児は1か月後に死亡。CRS児であったことが確認されます。

 風疹ワクチンが定期予防接種スケジュールの一部ではないスーダン(人口3,100万人の北アフリカの国。東を紅海に面する)から2012年1月にアメリカにやって来た20歳後半の女性は、イリノイ州で2012年9月に妊娠32週で帝王切開で小児を出産します。小児の体重は650gでした。2012年4月の妊婦検診で風疹の感染歴があることが確認されます(風疹IgGの結果が陽性)。胎児の異常が超音波検査で確認されての帝王切開でした。CRS児であることが確認されます。この小児は2013年2月に退院したそうです。



 上記のグラフは、国立感染症研究所が全国14の地方衛生研究所の協力を得て、5,094人の健常人の風疹の赤血球凝集抑制(HI)抗体価を測定したもので、HI価8以上を抗体保有としています。しかし、妊婦健診でHI価16以下女性に対しては、低抗体価であると考えられ、産後早期のワクチン接種が推奨されています。

 神戸市環境保健研究所などが「病原微生物検出情報(Infectious Agents Surveillance Report、IASR)」の2013年4月号で報告した先天性風疹症候群の事例を述べてみましょう。

(CRS症例1) 母親には風疹ワクチン接種歴がなく、前回妊娠時に風疹抗体陰性を指摘されていた

妊娠 7週5日(2012年3月)…発疹・発熱・リンパ節腫脹を認め、風疹と診断された。

妊娠34週4日…胎児モニタリング異常を認め、緊急帝王切開で出生。在胎週数に比して低体重・一過性血小板減少・動脈管開存症・脳室拡大・片側角膜混濁を認めた。

(CRS症例2) 母親には風疹ワクチン接種歴があったが、前2回の妊娠時に風疹抗体低値を認めていた

妊娠 5週(2012年3月)…発熱を1週間認めた。

妊娠10週…風疹HI抗体高値(256倍)を認めていた。

妊娠34週…胎児発育遅延および胎児先天性心疾患を指摘された。

妊娠37週6日…出生。出生体重2,078gと低出生体重であった。出生時より体幹の紫斑と血小板減少、片側先天性白内障を認めた。


                                平成25年3月作製の啓発ポスターの一部

 先天性風疹症候群の小児を2011年10月~2012年9月の1年間にベトナムのカンホア省の1総合病院で観察した長崎大学の報告があります。

 対象児は男児18人、女児20人の38人です。そのうちの3分の1ほど(31.6%)の12人が早産児であり、7割強(71.1%)の27人が低出生体重児でした。臨床症状として、先天性白内障が38人中5人(13.2%)、心疾患が36人中26人(72.2%)、聴力障害疑いが28人中26人(92.9%)、紫斑が38人中32人(84.2%)、肝脾腫38人中26人(68.4%)等を認めたといいます。

 心疾患は動脈管開存症が24人(92.3%)で最多だったそうで、そのうちの13人(54%)で肺高血圧を合併していたと言います。動脈管開存症(patent ductus arteriosus、PDA)とは、出生直後にブラジキニンの作用によって血管壁の収縮が起き、閉鎖するはずの動脈管が閉鎖しなかった結果として生じる先天性心疾患です。動脈管を通って肺動脈から大動脈への血液の流入が生じて、静脈血が全身に循環することになり、低酸素血症を示すのだそうです。肺にかかる血圧が通常より高い状態をさす肺高血圧(pulmonary hypertension、PH)では、体内酸素飽和度が低下し低酸素血症になり、それにつれ運動能力も低下するのだそうです。

 この38人を追跡調査をしたところ、2013年1月までにほぼ3人に1人の13人(34.2%)が死亡したようです。

 このような不幸な状況にならないために、子には風疹ワクチンを受けさせ、理解できる年齢になったとき、ワクチン接種の必要性を教えています。我が子は2人とも男の子ですが、「集団免疫」という考え方から、接種の重要性には変わりがありません。きっと、我が子もその子供に適切な時期に風疹のワクチンを受けさせることでしょう。

 「集団免疫(herd immunity)」とは、集団の構成員が一定の割合以上に免疫を獲得していると、集団の中に感染患者が出ても、そこで感染が阻止されて拡大しないことを意味し、感染すると深刻な結果となってしまう者たちが感染を免れることができます。感染症のウイルスの攻撃に対して、免疫学的弱者は、盾になった免疫獲得者によって守られているのです。ワクチン接種を厭わない(いとわない)心が必要です。

(追記)国立感染症研究所が2013年9月30日に報告した「風疹流行および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第二版」からです。

  現在の風疹流行が始まった2012年以降2013年9月11日までに、18例のCRS児の出生が以下の地域から報告された。東京(8例)、愛知(2)、大阪(2)、兵庫(2)、埼玉(1)、千葉(1)、神奈川(1)、香川(1)。

 18例の母親の予防接種歴は、なし9人、不明8人、あり1人であった。母親の妊娠中の風疹発症は、あり11人、不明4人、なし3人であった。発疹を認めた11人のうち、情報が得られた10人の発症時の妊娠週数の中央値は11.5週(範囲:5〜17週)であった。

 3徴として知られる白内障、先天性心疾患、難聴の主な症状については、白内障・先天性心疾患・難聴の3徴合併(1例)、先天性心疾患・難聴の2徴合併(1例)、白内障のみ(1例)、先天性心疾患のみ(11例)、難聴のみ(4例)、となっていた。

 他の症状としては、色素性網膜症(1例)、紫斑(7例)、脾腫(2例)、小頭症(3例)、精神発達遅滞(1例)、X線透過性の骨病変(1例)、生後24時間以内に出現した黄疸(3例)、が認められた例があった(重複含む)。


(追記) 2013年12月10日配信の医療介護CBニュースの記事より

 妊娠早期の女性が風疹にかかると、胎児に難聴や白内障、心臓構造異常などが起こりやすく、これらの障害が発生した場合、先天性風疹症候群(CRS)と診断される。国立感染症研究所がまとめた今年(2013年)1月から11月20日までの報告数は、昨年の4人を大幅に上回る25人を記録。都道府県別では、東京が最多の8人で、次いで大阪(6人)、神奈川と埼玉(各3人)、愛知(2人)、千葉と和歌山(各1人)の順だった。

 25件のうち、母親が妊娠中に風疹に罹患したケースは18件。母親にワクチン接種歴がなかったケースは、判明しているだけでも10件あった。CRSの発症は、風疹に罹患してから20~0週程度の時間差があるため、1週間当たり800人を超えた5月6日~6月2日のピーク時に罹患した事例の報告が、今後相次ぐ恐れがある。


(追記) 2014年1月14日配信の読売新聞の記事からです。

 2013年の風疹の大流行で、妊婦が感染して胎児の耳や目などに障害を招く先天性風疹症候群(CRS)の出生児の報告数が、2013年1年間で31人に上ったことが1月14日、国立感染症研究所のまとめでわかった。全患者数の集計を始めた1999年以降、最多で、前回流行した2004年(10人)の3倍を超えた。

 風疹患者数のピークが夏頃だったことから、今年前半までに、CRSの出生児の報告はさらに増えると予想される。風疹は数年から十数年ごとに大流行を繰り返す。2013年には、1月から大都市圏を中心に患者が急増。20~40歳代の男性を中心に流行が広がった。この世代の男性は、定期接種の機会がなかったり、接種率が低かったりするため、風疹に抵抗力がない割合が全体の16%と、10歳代の倍以上になる。この世代の男性から、職場や家庭などで妊婦に感染が広がったとみられる。


                 (この項 健人のパパ)

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 約100万人が餓死したという「エチオピア飢饉 (1983年~1985年)」から数年後の1987年5月3日に亡くなった「ダリダ(Dalida、享年54歳)」は、その人生の終焉近くで、「歌いつづけて(Mourir sur scène、Born to Sing)」という歌をアルバム「Les p'tits mots」に収録します(1983年)。“Mourir sur scène”とは、「舞台の上で死ぬ」という意味になります。

 Moi je veux mourir sur scène
 Devant les projecteurs
 Oui je veux mourir sur scène

    私はね 舞台の上で死にたいの
    スポットライトを浴びて
    ええ 舞台の上で死にたいのよ 

 ダリダは、失恋の痛みに耐えかねて、死神を招き入れたようですが、舞台に立つ人の中には舞台こそが人生であると考えて「舞台の上で死にたい」と考える人も多いようです。2012年11月10日に亡くなった森光子さん(享年92歳)も「自分の人生の全うの仕方は、舞台上で静かに逝きたい」と語っていたようです。
 
 自分の死に様は多くの人にとって選べないもの。飢饉で飢えに苦しみ、そして、死を迎えるという悲惨な人たちもいます。少なくともエチオピア飢饉のときは100万人もいたのです。しかし、人生の輝かしい瞬間に死を迎えた人たちもいます。それを本人が望んでいたかどうかは分かりませんが、イギリスのコメディアン「トミー・クーパー(Tommy Cooper)」もその一人でした。

 “Tommy Cooper”と呼ばれた“Thomas Frederick Cooper”(トーマス・フレデリック・クーパー)は、1984年4月15日、現在「オペラ座の怪人(The Phantom Of The Opera)」が上演されている「ハー・マジェスティーズ・シアター(Her Majesty's theatre)」の舞台上で亡くなります(享年63歳)。日曜日の夜に放映されていたテレビのバラエティショー「ライブ・フロム・ハー・マジェスティーズ(Live from Her Majesty's、 1982~1988年)」に出演中の出来事でした。心臓発作(heart attack)で突然に倒れたのです。数百万のテレビ視聴者も劇場の観客も彼のジョークだと考え、笑いが起こりました。強烈な胸の痛みと薄れいく意識の中で、クーパーは観客の笑いをどのようにとらえたのでしょうか。

 それとも、幕が下ろされたその裏で床にその長身(193cm) を横たえて、蘇生のための応急手当てを受けながら、いままでの人生を走馬灯のように思い出していたのでしょうか。8歳のとき、叔母さんからマジックのセットを貰い、夢中になったこと。学校を卒業して、船大工として生計を立てるようになったこと。17歳のとき、造船会社の音楽会でマジックを演じるつもりで舞台に出たが、極度の緊張のために、やることなすこと全てがうまくいかず、しかし、その失敗が大きな笑いを誘ったこと。第二次世界大戦のとき召集されて、エジプトのカイロで過ごすことになったこと。軍の基地で店舗や娯楽施設を運営しているNAAFIという組織に所属し、マジックで舞台に立つようになったこと。小道具(prop)で使うピスヘルメット(Pith helmet、探険帽)を忘れたので、ウエーターからトルコ帽(fez)を借りて被ったこと。それが大いに受けたので、それからトルコ帽を被り続けているということ。7年の兵役を終えても船大工には戻らず、軍での経験を語りながら、舞台に立ち続けて現在に至っているということ、、、



 トミー・クーパーのジョークを一つ紹介しておきましょう。両親は移動式のアイスクリーム屋で週末には祭りのあるところにバンで移動し販売していました。子どもの頃、クーパーはそれを手伝っていたようです。

 「俺は子どもが5人もいる貧しい家庭に育ったんだ。子どもたちはみな一つのベッドで寝ていたんだぜ。そう、ベッドで一人で寝られるようになったのは結婚してからだよ(I came from a very poor family of five children. We all used to sleep in the same bed. In fact, I never slept alone until I got married.)。」

 イギリスに「コミック・リリーフ(Comic Relief)」という慈善団体があります。コメディの台本や映画の脚本を書いていた「リチャード・カーティス(Richard Curtis)」やコメディアンの「レニー・ヘンリー(Lenny Henry)」らがエチオピア飢饉の惨状を見て、1985年に設立した団体です。コミック・リリーフとは、物語が深刻であるとき、その深刻さを和らげるために現れる滑稽な登場人物をいい、またその登場人物が絡む場面をいいます。

(参考) 「英国の「レッド・ノーズ・デイ(RED NOSE DAY)」と日本テレビの「24時間テレビ」

 エチオピア飢饉の深刻さを、深刻にならずに改善しようとする、コメディに携わる人たちのメッセージが込められた団体名です。コミック・リリーフの設立される前年にトミー・クーパーは亡くなっていますが、生存していたならば、コミック・リリーフの活動に大きく関わっていたことでしょう。コミック・リリーフは、「レッド・ノーズ・デイ(Red Nose Day)」を主導しています。

 レッド・ノーズ・デイは、イギリス全土にわたって行われる募金活動です。イギリス放送協会(BBC)が、夕方から朝方にかけて「テレソン」を放送します。喩えるならば、日本テレビが毎年行っている「24時間テレビ 「愛は地球を救う」」です。ただし、レッド・ノーズ・デイは隔年開催で、今年2013年は3月15日に開催されます。



 レッド・ノーズ・デイのグッズも販売され、その売り上げの50%ほどが慈善団体に渡されます。そのグッズの中にTシャツがあります。元「ビートルズ(Beatles)」のメンバーの一人「ポール・マッカートニー(Paul McCartney)」の次女でデザイナーの「ステラ・マッカートニー(Stella Nina McCartney)」がデザインしたTシャツ類は、Unisex Beatles T-Shirt、Kids Beatles T-Shirt、Unisex Tommy Cooper T-Shirt、Kids Tommy Cooper T-Shirt、Ladies Marilyn T-Shirt、Ladies Kate Vest、Ladies Kate T-Shirt、Kids Giraffe T-Shirt、Baby Giraffe T-Shirtの9種類。およそ6ポンドから15ポンドまでと値段はいろいろです。1枚につき2.5ポンドから8ポンドまでが慈善団体に寄付されます(£5.99 with at least £2.50、£6.99 with at least £2.50、£9.99 with at least £5、£14.99 with at least £8 going to Comic Relief)。

 トミー・クーパーも30年ほどを経て、コミック・リリーフの活動に赤い鼻「レッド・ノーズ」をつけて、Tシャツの中から貢献しようとしています。

(注) “Kate”は、イギリスのファッションモデル「ケイト・モス(Kate Moss)」です。ケイト・モスは、俳優「ジョニー・デップ(Johnny Depp)」との失恋の痛みを癒そうとアルコールに走り、アルコール依存症になったこともあるそうです。シェイクスピアの喜劇「お気に召すまま」で語られる言葉、「この世はすべて舞台、男も女もみな役者に過ぎない(This world is a stage and every man plays his part.)」

               (この項 健人のパパ)

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 「骨粗鬆症(osteoporosis、オステオポローシス)」は、骨量が減少し、骨の微細構造が劣化する全身性の骨の病気です。骨粗鬆症になると、骨の脆弱性が増し、骨折の危険性が増加します。背骨(脊椎)は「椎骨(ついこつ)」と呼ばれる骨が連結したものです。椎骨の円柱状の部分を「椎体(ついたい)」といいます。高齢者の女性が骨折で「寝たきり」になる大きな原因の1つがこの椎体の骨折です(寝たきりの原因の第3位)。椎体圧迫骨折は、椎体が潰れた状態で骨折するため、回復させることが難しいのです。



 オステオ(osteo-)は、ギリシア語で「骨」を意味します。ポローシス (-porosis)は、「空洞形成」を意味し、骨の中に空洞が形成される「骨内空洞形成症」、「骨多孔症」とでもいう意味になります。「粗鬆(そしょう)」は、「細やかでないこと。大雑把で荒いこと」を意味することから、この「骨多孔症」とでもいう状態は「骨粗鬆症」と一般的に呼ばれています。

 私たちの身体は、古い骨を壊しながら、新しい骨を作っており、骨量を一定に保っています。骨組織において古い骨を破壊(「骨吸収(bone resorption)」という)するのが「破骨細胞(osteoclast)」であり、新しい骨を形成(「骨形成(bone formation)」という)するのが「骨芽細胞(osteoblast)」です。骨粗鬆症は、何らかの原因で、骨形成の速度(bone formation rate)よりも骨吸収の速度(bone resorption rate)が速くなってしまっている状態をいいます。

 骨粗鬆症に対する現在の治療法のひとつに、アクトネル(ベネット、味の素が製造)やフォサマック(MSDが製造)などの「ビスフォスフォネート(ビスホスホネート、bisphosphonate、BP)製剤」の経口投与があります。この薬剤は、骨吸収の速度を下げるために使われる薬で、破骨細胞の活動を阻害し、古い骨の破壊を防ぎます。しかし、ビスフォスフォネート製剤は、破骨細胞の絶対数を大きく減らすことが確認されたのですが、破骨細胞はまた、骨を修復する細胞である骨芽細胞に働きかけて、その分化・機能(骨再生)を促す働きもあるのです。破骨細胞を減らしすぎると逆に骨が脆くなるということも起きてきます。

 大阪大学免疫学フロンティア研究センターの石井優教授らの研究グループは、破骨細胞には、骨の組織の表面に「蛭(ひる)」のように張り付き強い酸で骨を溶かすR型(resorptive)と、骨は壊さず表面をアメーバのように移動するだけのN型(non-resorptive)の状態があることを発見したといいます。破骨細胞は、R型になったり、N型になったり、形を変化させているのだそうです。石井教授らは、正常なマウスと骨粗鬆症のマウスで観察を行なったのですが、実際に骨を破壊するR型は、正常マウスでは破骨細胞全体の約4割だったのに対し、骨粗鬆症のマウスでは9割以上に増えていたといいます。

 「フェムト秒(femtosecond、fs)」(1000兆分の1(10-15)秒)という非常に短い間隔で光を点滅させる(「フェムト秒パルス(femtosecond pulse)」)と、少ない出力でもそのエネルギーをその「超」短時間に圧縮するので、凄まじいレーザ強度を得ることができます。

 光源に「フェムト秒パルスレーザ(femtosecond pulse laser)」を使用したレーザ顕微鏡を「多光子励起レーザ顕微鏡」と言います。レーザ強度の凄まじさで「多光子励起」が可能となり、従来のレーザ顕微鏡に比べて細胞深部の観察が可能となります。「励起(excitation)」とは、外部からエネルギーを与えられ、もとのエネルギーの低い安定した状態からエネルギーの高い状態へと移ることを言います。原子や分子などが外部から刺激されて、「興奮状態(excited state)」にあるわけです。

 ほとんどの生理活性物質は無色です。そのため、光学顕微鏡でただ観察してもその動きを知ることはできません。そこで、元々は無蛍光性であるが、生理活性物質と反応・結合することで初めて蛍光を発する分子、「蛍光プローブ(fluorescent probe)」を細胞内に存在させることで、生理活性物質の動きを蛍光の変化として、高感度かつリアルタイムに追うことを可能とする技術を「蛍光プローブ法(fluorescence probe technique)」と言います。

 遺伝子・タンパク質分子のレベルで生命現象を解明しようとするとき、蛍光プローブを利用すると、光学顕微鏡では観察できない分解能以下の大きさのものが、暗黒の背景に光る点として(かつ、動く点として)検出できるようになります。生命現象を「生きたまま観察」する技術に「ライブイメージング(live imaging)」があります。大阪大学免疫学フロンティア研究センターのグループは、「生体多光子顕微鏡(intravital multiphoton microscopy)」を用いて、マウスの骨組織において蛍光標識された(fluorescently labeled )成熟した破骨細胞の動きを可視化して観察したのです。

 ここから、今後の骨粗鬆症の治療薬は、破骨細胞の総数を減らすのではなく、R型を減らしてN型を増やす物質を発見することで開発できることになります。骨粗鬆症に苦しむ人たちは、全世界に多数います。この大きな市場を前にして、製薬会社は多額の研究費を投入して創薬に励むでしょう。骨粗鬆症治療の新薬はやがて登場することでしょう。

 多くの人をその痛みで苦しめる「関節リウマチ」では、炎症が起こった関節では、関節が腫れるだけではなく、骨が壊れていきますが、このときに骨を壊しているのも破骨細胞です。この骨の破壊というメカニズムに、炎症性のT細胞であるTh17という細胞が関わっていると考えられていましたが、Th17がN型の破骨細胞に接触すると、R型の破骨細胞にと変化してしまうようなのです。その結果、骨の破壊へと進んでいってしまうようなのです。いま、私の母は、この「関節リウマチ」に苦しんでいます。すみやかに新薬が開発されることを願ってやみません。

 「白血球(leukocyte、ロイコサイト)」の20%~40%ほどを構成する「リンパ球(lymphocyte、リンフォサイト)」には、生まれつき(natural)の細胞傷害性(killer)を持つ「NK細胞(natural killer cell)」、抗体を産生する「B細胞(B cell、Bリンパ球(Blymphocyte))」、「T細胞(T cell、Tリンパ球(T lymphocyte))」などの種類があります。T細胞には、B細胞に働きかけて形質細胞に分化させ、抗体産生をさせる「ヘルパーT細胞(T helper cell)」、他のT細胞の活性を抑制する「レギュラトリーT細胞(regulatory T cell、制御性T細胞)」、腫瘍細胞やウイルス感染細胞を傷害する「キラーT細胞(cytotoxic T cell、細胞障害性T細胞)」があります。

 「ヘルパーT細胞」には、細胞性免疫を媒介する「Th1細胞」、液性免疫を媒介する「Th2細胞」、自己免疫疾患に関わる「Th17細胞」などの種類があります。「自己免疫疾患(autoimmune disease)」とは、異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が暴走し、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで攻撃を加えてしまうことで発症する疾患です。

 「関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis)」は、自己の免疫が主に手足の関節を攻撃し、関節痛が生じたり、関節の変形が生じる炎症性自己免疫疾患です。関節を包んでいる「関節包」の構成要素のひとつである「滑膜」で炎症が起こるものです。関節の炎症と痛みが次第に全身に広がっていきます。日本の関節リウマチ患者は50万人から100万人と言われており、有病率は全人口の0.5%~1.0%になります。200人に1人から100人に1人は関節リウマチに苦しんでいることになります。

 関節を腫れたままの状態で放置しておくと、やがて関節が変形してしまうことになります。そのため、炎症を抑える薬物療法が重要になります。消炎鎮痛剤、抗リウマチ薬(例えば、滑膜組織の破壊に関係するコラゲナーゼ(コラーゲンを加水分解するタンパク分解酵素)の産出を抑制する「メトトレキサート」など)などが処方されています。

(参考) 「注目の新薬「テリボン」は骨粗鬆症の治療に劇的な効果を上げるか。

                 (この項 健人のパパ)

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 ノロウイルスによる「感染性胃腸炎」の集団発生は、どのようにして起こるのでしょう。「国立感染症研究所」はそのサイトに「従事者衣服からノロウイルスを検出した集団食中毒事例について―長野県」という文書を掲載しています(掲載日2012年4月10日)。この文書を読み込んでみましょう。

 2012年3月8日、諏訪保健所に「岡谷市役所」から「食中毒症状を示す職員が11名いる」旨の連絡があります。続いて、岡谷市立「岡谷病院」からも「病院の職員16名が食中毒症状を示している」旨の連絡がありました。この時点で27名の発症者がいたことになります。諏訪保健所は調査を開始し、急性胃腸炎の発症者は3月6日および7日の昼食に弁当製造業者「500円ショップ亀八」(3月10日から4日間の営業停止の処分を受ける)の弁当を食べた3グループに発生し、54名に及ぶことが判明します。発症は3月7日午後1時30分頃から3月9日午後10 時頃にかけてであり、「嘔吐、下痢、発熱」などの症状を呈していました(発症者のうち、2名が入院)。

 発症曲線は一峰性を示すピークが認められたことから「単一曝露」が疑われ、発症者に共通した食事は弁当製造業者が提供した弁当のみであることが判ります。急性胃腸炎の発症者の症状は、ノロウイルスによる症状と一致しており、環境保全研究所は有症者11名と調理従事者2名の協力を得て、糞便を採取してリアルタイムPCR法によりウイルス検査を実施し、有症者10名と調理従事者1名の便からノロウイルスを検出します。いずれもその遺伝子型は「GⅡ/4」だったようです。その相同性は、99~100%であり、感染源は1つであることが推測されました。

 ノロウイルスが検出された調理従事者は3月6日より「下痢・嘔吐」などの症状を呈していたにもかかわらず、既に弁当の注文を受けていたことから、発症後も調理・製造を続けていたといいます。この調理従事者の意識の低さに驚きます。下痢・嘔吐の症状がある人が調理を続けていたことが信じられません。

 この調理従事者は、調理専用白衣を使用せず、日常的に着用しているスウェットシャツのまま調理行為を行っていたといいます。つまり自宅で使用していたスウェットシャツを着替えずに、営業施設で調理を続けたことになります。自宅も営業施設もトイレは洋式の水洗だったそうです。諏訪保健所は調理従事者の衣服がノロウイルスに汚染されていた可能性を疑い、提出させてウイルス検査を行います。 

 スウェットシャツは、100%ポリエステル製の長袖で、肉眼的には特に糞便等で汚染されている部位は認められなかったそうです。トイレ使用時に最も糞便による汚染が考えられるのは「右の袖口」であり、さらに右袖下と左の袖口なのだそうです。その部分をを中心にノロウイルスの検出を試みたそうです。いろいろな処理を行い、リアルタイムPCR法を実施したところ、いずれの検体からもノロウイルスが検出されたといいます。

 この結果から、「下痢症状」のあった調理従事者がトイレ使用時に糞便で衣服を汚染し、さらに衣服から調理器具、食品を二次汚染して、食中毒を発生させた可能性が高いという結論に達しました。

 洋式トイレでの水様下痢便による被服及び周囲への汚染状況を調べた実験があります。その結果、臀部(お尻)の便座面を覆う全体に、肛門周囲から10~15cmにわたって多数の飛散が確認されたといいます。お尻が汚染されてしまうのです。靴やズボンには飛散が確認されなかったようです。洋式トイレではお尻で蓋をした格好ですから、便座裏側及び便器内側全体に多数の飛散は確認されますが、便器の外側周囲には飛散はなかったようです。

 排便後、肛門を拭き取るときの手の汚染では、トイレットペーパーで覆われていなかった親指の付け根の「拇指球」を中心に、広く汚染を確認したといいます。長袖の袖口にも汚染を確認したそうです。

 和式トイレを使用しての汚染実験では、床や壁面など広範囲に汚染が生じることが確認され、調理従事者の使用するトイレは、汚染の少ない洋式トイレが望ましいということが判ったそうです。和式トイレでは、お尻で便器に蓋をするような格好にならないのでこれは理解できます。

 さらに、水を流すレバー、ドアノブ、手洗い流しのカラン(水栓、蛇口)などトイレ使用者が必ず触れる部分に汚染が生ずることが考えられ、次の使用者の手が汚染される可能性があります。袖口の汚染は調理作業中の食品との接触や、付着物の乾燥に伴うウイルス飛散により、食中毒の原因となる可能性があります。

 調理従事者がトイレを使用する際は、「トイレの外で上着を脱ぎ、長袖の場合は袖口をまくる」、「トイレ専用の履物に履き替える」、「手洗いは石鹸を使用し、拇指球周囲及び手首は特に念入りに行う」ということが必要なようです。栄養士を育成する学部に通い、調理師の資格も持っている妻は、これは常識と考えていて、調理従事者でない私たち家族にも、「石鹸洗いをもっと丁寧に」、「流水でしっかりと洗い流して」などという指導が入ります。

 用便後、便器の中ではノロウイルスを大量に含む飛沫が浮遊している。そこに肛門の汚れを拭き取るために手が入れられる。利き腕(多くは右手)の拇指球や袖口にその飛沫が付着する。そういったことで、ノロウイルスに汚染されるのでしょう。これを防ぐには、この汚染のメカニズムを理解し、袖をまくっておく、用便後には必ず手首を含めて石鹸を使って十分に手洗いをする(ノロウイルスをアルコールで不活化することは不可能なので流水で流し落とすというイメージを持って行う)などのことが必要なのでしょう。

 ノロウイルスによる集団感染を防ぐために、医療従事者や調理従事者のより一層の注意をお願いしたいところです。

 2011年に発生したノロウイルスによる食中毒は、296件。そのうち、魚介類が感染源とされたものは、50件(全体の16.9%、すべて二枚貝による)。複合調理食品が原因であったのは27件。原因不明が29件。感染源が特定の食品でなかったものが182件。そのうち、「食事」が原因とされたものが175件(全体の59.1%という高率)であったそうです。調理従事者の努力で、かなりの食中毒は防げるように思われます。

 12月30日(日)配信の毎日新聞の記事からです。

 京都府南丹保健所は12月29日、南丹市営施設「日吉山の家」で食事をした3~82歳の男女30人が下痢や吐き気などの症状を訴えたと発表した。重症者はおらず全員快方に向かっているという。客2人と同施設の調理担当者6人の便からノロウイルスが検出され、同保健所は食中毒と断定。施設を12月29日から3日間、営業停止処分とした。症状を訴えた客は12月15~23日に同施設で食事をしたという。

 2012年12月27日(木)配信の毎日新聞の記事からです。

 山梨県山梨市の弁当製造業「まもかーる」が運営する山梨県甲斐市の弁当店「るんるんランチ」の弁当が原因のノロウイルスによる集団食中毒で、山梨県は12月27日、患者が1321人に上ったと発表した。嘔吐や下痢などの症状を訴えているが、入院患者はおらず、全員快方に向かっている。
 同店は山梨県内の役所や企業などに1日約3800食を提供。山梨県衛生薬務課によると、12月11日から発症し始め、27日現在で県内407事業所に患者が広がっている。


 山梨県の弁当が原因である食中毒の最新の患者の状況ですが、2012年12月11日(火)午後10時から発症が始まり、12月30日(日)午後1時までの666事業所の3648名の調査結果では、435事業所(発症の確率約65%と高率)に患者が発生し、1,445名が発症した(39.6%。不顕性感染者や感染しない抵抗力のある人がいることが確認できる確率です)ようです。症状は、下痢、吐き気、腹痛、嘔吐で入院患者はいません。食中毒の原因施設として食品衛生法に基づく営業禁止の処分とした「るんるんランチ」は、当該施設における再発防止措置が図られたことを確認したため、2012年12月30日(日)をもって営業禁止の処分が解除されています。

 2012年12月18日(火)配信の毎日新聞の記事です。

 宮崎県宮崎市は12月17日、宮崎市瓜生野のスーパー「しょっぴんぐたうん ウィリー」の弁当を食べた26~84歳の男性18人、女性67人の計85人が下痢や吐き気などの症状を訴えたと発表した。10人からノロウイルスが検出されたため、同店の弁当が原因と断定し、食品衛生法に基づき、スーパーの弁当部門を12月18日から3日間の営業停止処分にした。入院者はなく、全員快方に向かっているという。市保健衛生課によると、85人は12月11日、交流会などで弁当を食べ、12月15日までに発症した。メニューは、野菜のかき揚げや巻きずしなどだった。

(追記) 2013年1月4日(金)配信の時事通信の記事からです。

 東京都は1月4日、港区の東京プリンスホテルのレストラン「ポルト」で食事をした76人が食中毒を発症したと発表した。一時入院した69歳の女性を含めて重症者はおらず、いずれも既に回復しているという。患者や調理従事者の便などからノロウイルスが検出された。ホテル側は12月19日夜から同店の営業を自粛しており、港区は1月4日から3日間の営業停止処分とした。東京都によると、ホテル側が、ビュッフェ料理を食べたツアー客らに嘔吐、下痢などの症状が出ていると保健所に連絡。保健所が調査した結果、12月12~13日に同店で食事した男女の客計76人に同様の症状が出ていたことが分かった。

(追記) 2013年1月4日(金)配信の読売新聞の記事からです。

 東京都は1月4日、仕出し料理店「人形町今半フーズプラント」(江東区)が12月18日に販売した「折詰すき焼き弁当」を食べた男女35人がノロウイルスによる食中毒となり、江東区は1月4日から同店を3日間の営業停止処分とした。

(追記) 2013年1月13日(日)配信の産経新聞の記事からです。

 京都市保健所は1月12日、京都市右京区西院高山寺町の飲食店「串八 西院店」で串カツなどを食べた高校生13人が8日朝から下痢や嘔吐などの食中毒症状を訴え、うち10人からノロウイルスを検出したと発表した。男子生徒(16歳)が念のために入院したが、生徒らはいずれも軽症で、快方に向かっているという。
 京都市保健所によると、13人は京都市内の高校に通う15~16歳の男女。ほかの生徒5人を含む18人で7日夜に同店を利用し、串カツやサラダなどを食べた。調理を担当した従業員2人からもノロウイルスを検出したため、同保健所は同店で提供された食事が原因と判断、12日から3日間の営業停止とした。


(追記) 2014年1月16日(木)配信の読売新聞からの記事です。

 静岡県浜松市の市立小学校14校で1月16日、児童905人と教職員41人が、下痢や嘔吐などの症状を訴えて休んだ。12校が同日、学校閉鎖の措置を取り、市教委は1月17日まで休校とした。学級閉鎖とした2校は、給食を取りやめた。入院の報告はないという。
 市保健所は食中毒の可能性があるとみて、学校への立ち入り検査や児童の検便を始めた。市によると、16日午後9時現在、児童11人の便からノロウイルスの陽性反応が出た。14校はいずれも給食を自校で調理しており、共通の食材がなかったか調べる。
 同市の市立小104校のうち、東区の9校と中区の4校、南区1校で発症が相次いだ。いずれも市の南東部に位置し、半径10km範囲に集中している。
 市教委によると、東区中野町の中ノ町小学校では、全児童376人のうち約4分の1に当たる96人が欠席した。教職員はトイレや教室のドア、手すりを消毒液で拭き取るなどしたほか、保護者からの問い合わせなどの対応に追われた。


(追記) 2014年1月17日(金)配信の静岡新聞の記事からです。

 浜松市教委と市保健所は1月16日、市立小14校で計905人の児童が嘔吐や下痢などの症状を訴えて欠席し、12校を学校閉鎖にしたと発表した。市が児童17人の便を検査したところ、11人がノロウイルスの陽性反応を示し、「主にノロウイルスが原因の可能性が高い」としている。入院した児童はいないという。

 浜松市教委によると、1月17日まで学校閉鎖するのは東区の中ノ町(児童数376名中、欠席児童23名、欠席割合25.5%)、大瀬(386名、94名、24.4%)、有玉(623名、113名、18.1%)、中郡(欠席割合10.6%)、和田東(7.6%)、笠井(6.8%)、豊西(5.9%)、積志(5.8%)、の8校と、中区の東(368名、77名、20.9%)、鴨江(338名、71名、21.0%)、上島(922名、158名、17.1%)、双葉(12.0%)の4校。南区の白脇と東区の与進の2校は計3クラスを学級閉鎖する措置を取った。一部の学校はインフルエンザが原因の可能性が高いという。教職員41人も同様の症状を訴えて休んでいる。一方で市立の幼稚園や中学、高校からは同じ症状の報告は入っていないという。


(追記) 2014年1月17日(金)配信の静岡新聞の記事からです。

 静岡県浜松市の市立小14校で児童905人が嘔吐や下痢の症状を訴えて欠席した問題で、新たに市立北小(児童数237名中、欠席児童33名、欠席割合13.9%)と元城小、佐藤小(以上同市中区)の3校と、万斛幼稚園、豊西幼稚園(以上同市東区)の2園が17日午前、学校閉鎖することを決めた。これで学校閉鎖、学級閉鎖は計19校・園になり、欠席児童・園児数は合わせて1182人に上った。
 市教委などは同日、原因究明のため、学校閉鎖した学校の立ち入り調査を実施。学校給食を原因としたノロウイルス感染症の可能性があるとみて調べている。市教委は同日、各校の学校閉鎖を月曜日の20日まで延長することも決めた。さらに原因が特定できていないため、学校給食が原因となった可能性を考慮して市内151の小・中・高校と28の幼稚園で20~22日の3日間、給食の提供を取りやめ、弁当を持参させる。


(追記) 2014年1月17日(金)配信の読売新聞の記事からです。

 静岡県浜松市内の多数の小学校で児童らが下痢や嘔吐の症状で集団欠席している問題で、市は1月17日、給食に出されたパンに付着したノロウイルスが原因の集団食中毒と断定した。給食のパンは市内の同じパン工場で製造されており、工場内からノロウイルスが検出された。市はこの工場を経営する同市東区の製パン会社「宝福(ほうふく)」を営業禁止とした。

 市によると、同様の症状による集団欠席が出ている小学校は、17日には3校増えて計17校となった。欠席児童も16日より155人増えて計1060人。そのうち小1男児(7)は15日夜から入院している。15校が学校閉鎖となり、2校が学級閉鎖となった。

 市は、児童や教職員の健康被害の広がりを受け、集団欠席が出ている各校の給食を調査。共通する食材の中で、提供前に加熱処理していない食パンや牛乳、果物などのうち、発症者が共通して食べていたのが食パンであることが判明した。1月16日にこの食パンを製造した工場に立ち入り検査を行ったところ、従業員用女子トイレのドアノブからノロウイルスが検出された。


(追記) 2014年1月18日(土)配信の毎日新聞の記事からです。

 静岡県浜松市の小学校で起きたノロウイルスによる集団食中毒で、原因となった給食用の食パンを製造していた「宝福」は1月18日、今月13日以降に製造された一般用の食パンや菓子パンなどの自主回収を始めた。144種8477点に上り、商品は愛知、岡山、静岡、山梨の4県のスーパーなどに出荷されているという。

 回収対象の商品名は「ホットドック」「メロンサンド」など他社製品と区別しにくいものが多いが、製造者名として包装に親会社の「ヤタロー」と記されている。4県以外の出荷状況は確認中。宝福は送料着払いで返品を呼びかけており、後日、商品代金を返金する。

 一方、市保健所は18日、職員を派遣し、改めて衛生管理や清掃状況などが徹底されていたか確認した。保健所や同社によると、給食パンが製造された13日夜は23人の従業員が働いていた。このうち検査の終わった9人の便からノロウイルスは検出されていないという。検出場所は当初、工場の女子トイレの「ドアノブ」としていたが、18日に「スリッパ」と訂正した。
 パンは個別包装されず、市内60の小学校に複数個まとめて配達されていたといい、工場内で付着したウイルスが拡散した可能性がある。


(追記) 2014年1月19日(日)配信の産経新聞の記事からです。

 静岡県浜松市の小学校児童らが給食パンでノロウイルスによる集団食中毒を起こした問題で、市保健所は1月19日、パンを製造した菓子製造業「宝福」の従業員16人を検便検査した結果、3人の女性従業員から「ノロウイルスGⅡ」が検出されたと発表した。これまでの調査では、同社工場の女子トイレの共用スリッパからウイルスが検出されたが、従業員から検出されたのは初めて。

 市保健所によると、3人はスライスされた食パンを手にとって検品し、配送用のトレーに箱詰めする作業を担当。市保健所の担当者は「検品作業の際にパンにウイルスが付着した疑いが強い」と話しており、手袋の交換頻度など作業時の衛生管理に問題がなかったかを調査する。

 感染源となった食パンが製造された13日には、男性10人と女性13人の計23人の従業員がパンの製造ラインで勤務していたが、嘔吐や下痢などの症状を訴える体調不良者はいなかった。市保健所は残る7人についても、早期に検便検査を行う方針。学校から回収したパンなどの食材についても検査を実施しているが、1月19日現在でウイルスは検出されていない。


(追記) 2014年1月19日(日)配信の毎日新聞からの記事からです。

 浜松市は1月19日、多数の児童が欠席した(児童数623名中、欠席児童113名、欠席割合18.1%)市立有玉小学校の給食室からノロウイルスが検出されたと明らかにした。集団食中毒の原因ウイルスとは遺伝子群が異なるといい、安全管理の不徹底について謝罪した。

(追記) 2014年1月20日(月)配信の静岡新聞の記事からです。

 静岡県浜松市の集団食中毒問題で原因となった食パンを製造した菓子製造業者の従業員3人からノロウイルスが検出されたことを受け、1月19日会見した市保健所は不十分な手洗いが集団感染につながった可能性が高いとの見方を示した。20日に同社で全従業員を対象にした衛生講習会を開き、手洗いの徹底を重点的に指導する。

 ウイルスが検出された従業員は、焼き上がった食パンを切り分けて検品し、容器に移してビニールで包装する工程を担っていた。市は「ウイルスの特性を考えると、人間の手を介した感染の可能性が高い」と指摘。指輪を外し、石けんを泡立てて何分もこするなど手洗いには細心の注意が必要だとし、今回は「(従業員が)用を足した後、正しい洗い方をしていない手で手袋を付けた可能性がある」と述べた。

 工場はウイルスが検出された女子トイレから製造ライン内に入場する際、手を消毒しないと自動ドアが開かない設備があるという。18、19日に工場への立ち入り検査を行った市保健所生活衛生課の松原雅博広域監視グループ長は「衛生的な意識は高い施設」とみる。菓子製造業者の親会社取締役は「(陽性反応があった)3人について、どのような感染経路が考えられるのか作業内容の調査を進める」と話した。


(追記) 2014年1月21日(火)配信の静岡新聞の記事からです。

 静岡県浜松市の市立小で提供された給食パンでノロウイルスの集団食中毒が発生した問題で、浜松市が1月20日に給食用食パンからノロウイルスが検出されたと発表したことを受けて、原因の食パンを製造した菓子製造業者(同市東区)の親会社取締役が21日午前、記者会見し、「一層、感染ルートがはっきりした。あらためておわびする」と謝罪した。

 会見では感染対策や制服管理など、衛生管理の態勢強化も表明した。従業員の靴についた菌やウイルスを除去するクリーナーや発熱の有無を確認する赤外線体温計を導入する。市保健所は20日までに、同社納入の食パンのほか、製造過程で検品作業を担当した女性従業員4人からノロウイルスを検出している。本社工場の女子トイレの共用スリッパからも検出した。


(追記) 2014年1月26日(日)配信の読売新聞の記事からです。

 広島市立中学校10校で1月24日に生徒303人と教職員21人が感染性胃腸炎の疑いで欠席・欠勤し、臨時休校となった問題で、市保健所は25日、発症した生徒・教職員17人の便からノロウイルスが検出されたと発表した。いずれも弁当製造会社「日米クック」(本社・大阪市北区)の広島東部センター(広島市安芸区)で22日に調理・提供された給食を食べており、市保健所はこの給食が原因の集団食中毒と断定。同社に対し、同センターの無期限の営業禁止を命じた。市は、25日になって新たに生徒4人が症状を訴えていることも明らかにした。

 発表によると、市保健所が発熱や嘔吐、下痢などの症状が出た生徒15人と教職員3人の便を市衛生研究所で検査したところ、生徒1人を除いてノロウイルスの陽性反応が出た。同センターの従業員34人の便、給食に出されたのと同じ食品218点などの検体についても検査を進めている。


(追記) 2014年1月27日(月)配信の読売新聞の記事からです。

 広島市立中学校10校で300人を長える生徒らが腹痛や下痢を訴えたノロウイルスによる集団食中毒で、市保健所は1月27日、原因の給食を調理・提供した弁当製造会社・日米クック(本社・大阪市)の広島東部センター(広島市安芸区)の男性従業員1人の便からノロウイルスが検出されたと発表した。

 男性従業員はプラスチック製コンテナ(縦40センチ、横60センチ、高さ10センチ)に入れられた給食の容器の数を確認し、コンテナのふたをして発送担当者に渡す作業をしていた。手袋を着用するなどの規則はなく、素手だったという。

 市保健所は集団食中毒との関連を調べる。市保健所などの発表では、同センターの従業員35人が感染源と見られる22日の給食に関わり、市保健所は全員の便を検査。男性従業員を除く34人は陰性で、ノロウイルスは検出されなかった。


                   (この項 健人のパパ)

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 宮崎県などによると、日南市南郷町東町の「医療法人春光会東病院」で2012年12月12日から22日にかけて、入院患者30人と職員14人の合わせて44人が「感染性胃腸炎」の症状(嘔吐や発熱など)を訴えました。病院が簡易検査を行ったところ、症状を訴えた44人のうち、5人からノロウイルスの感染を示す陽性反応が出たといいます。



 デンカ生研株式会社は、体外診断用医薬品のノロウイルス抗原キット「クイックナビ‐ノロ2」(2012年12月3日発売開始)を製造販売しています(大塚製薬株式会社も販売)。クイックナビ-ノロ2は、イムノクロマト法を用いて、糞便中(自然に排泄された{排泄便」のほか、直腸から採取した「直腸便」も診断できる)のノロウイルス抗原を迅速かつ特異的に検出する測定キットです。このキットは、2012年4月1日より保険点数が新規適用になり、実施料が150点で判断料144点となっています。



1.糞便(「検体」)を採取して、直ちに検体浮遊液(キットに付属する)に浮遊させる。
2.検体を浮遊させた液(「試料」)をテストデバイスの滴加穴よりテストストリップのサンプルパッドに滴加する。
3.試料は毛細管現象によりコンジュゲートパッドへ移動する。
4.抗NV-GⅠ及び抗NV-GⅡモノクローナル抗体(マウス)A及びB結合ラテックスが溶解し,試料中にノロウイルスが存在すれば、NV抗原と免疫複合体を形成する。
5.ノロウイルスが存在してできた免疫複合体はテストストリップのニトロセルロースメンブレン内を毛細管現象により移動し,テストライン上に固定化された抗NV-GⅠ又は抗NV-GⅡモノクローナル抗体(マウス)に特異的に捕捉され,青色のラインを呈する。
6.このラインの有無を目視で確認し,試料中のNV抗原の有無を判定する。
7.反応に関与しなかった余剰の抗NV-GⅠ及び抗NV-GⅡモノクローナル抗体(マウス)A又はB結合ラテックスはコントロールラインに固定化された抗マウス免疫グロブリン(Igs)抗体(ウサギ)に捕捉され,青色のラインを呈する。これはテストストリップ上で反応が正常に進んだことを示す。



(参考) 「息子の発熱と「イムノクロマト法」と「迅速診断キット」の原理と…

 ノロウイルスは、GenogroupI(GI),GenogroupⅡ(GⅡ)の二つの遺伝子グループに分類され、さらに、GIには14種の、GⅡには17種の遺伝子型(genotype)があることが知られています。そこで例えば、genogroupⅡ genotype4であれば、GⅡ/4 と表されます。福岡県内で2004年10月から2007年3月までに検出されたノロウイルスの遺伝子型を決定したところ、GⅡ/4は、ノロウイルスの162件中124件になり、76.5%という高率であったといいます。

 2012年第36週(9月3~9日)から第50週(12月10~16日)までに、ノロウイルスGⅡによる感染性胃腸炎は、26都道府県から550件(詳細な遺伝子型が確定した142件では、GⅡ/4が116件(81.7%)、GⅡ/6が6件、GⅡ/13が5件、GⅡ/2、GⅡ/3、GⅡ/7が各1件、ノロウイルスGIが4県から12件(うち、GI/3が2件)報告されているといいます。

 国立感染症研究所の「ノロウイルスGⅡ/4の新しい変異株の遺伝子解析と全国における検出状況」というページによると、2012年10月に、新潟県長岡保健所管内の2つの福祉施設で、今シーズン(2012/2013)初の感染性胃腸炎の集団発生があったといいます(「新潟県内の食中毒発生状況(平成24年)」では確認できず。新潟県上越市では、2012年12月1日、学校給食で提供された餅菓子から、7校の小中学校にまたがる大規模なノロウイルス食中毒が発生した(患者数445名) )。

 この2事例の患者から、遺伝子型GⅡ/4のノロウイルスが検出され、系統樹解析の結果、このGⅡ/4株は従来のGⅡ/4変異株とも異なる、新しいGⅡ/4変異株(「GⅡ/4 2012変異株」と仮称されている)であることが判明したといいます。遺伝子解析の結果、この新潟県の初発事例由来の12-1242株(1210-151-O-1242/O30/We/NO)は、2012年3月にオーストラリアで検出されたSydney/NSW0514/2012/AU(JX459908)と最も近縁であるといいます。

 アメリカ合衆国西部の山岳地域にあるワイオミング州(State of Wyoming、人口57万6千人ほど。鳥取県の人口が58万2千人ほど)のキャスパー(Casper、人口5万5千人ほど)で、2012年12月の中ごろ、‘buffet and grill’で知られる‘Golden Corral’で食事をした客の167名がノロウイルスによる感染性胃腸炎を発症したといいます。

12月22日(土)配信の毎日新聞の記事からです。

 遺伝子が変異した新型のノロウイルスによる食中毒や感染性胃腸炎が全国各地で流行している。この変異型ウイルスはこれまで東海3県では確認されていなかったが、愛知県で発生した食中毒患者の一部からこの変異型ウイルスが検出されていたことが分かった。ウイルスの解析を行った愛知県衛生研究所は、10月ごろ県内に侵入したとみている。ノロウイルスは遺伝子の配列によって種類が分別される。愛知県で検出された変異型は、2006年に全国的に大流行したウイルスの遺伝子が変異したもの。同じ変異型は国内では10月に新潟県で初めて確認されて以来、北海道や東京、大阪などに広がっている。

 2012年12月24日配信の産経新聞の記事からです。

 ノロウイルスは、日本だけでなく世界各国で猛威を振るっている。厚生労働省などによると、米国や中国のほか欧州諸国などでも感染が報告されている。流行の背景には、ウイルスの遺伝子が変異した新種の出現も指摘される。ノロウイルスにはワクチンなどの予防法がなく治療も対症療法に限られることから、抵抗力の弱い高齢者や子供がいる施設では感染をいかに拡大させないかがカギとなる。

 12月23日(日)配信の毎日新聞の記事からです。

 宮崎県日南市の「医療法人春光会東病院」で6人が死亡したノロウイルスによる院内集団感染。県は「病院の衛生管理が感染拡大の一因」と指摘した。一方、病院側は23日、「申し訳ない」と陳謝しながらも「一医療機関では財政的に不可能」と開き直った。

 県や病院によると、看護師らが使う感染予防対策用の医療用エプロンについて、保健所は1回使う度に廃棄するよう指導したが、病院は「品薄で入手が困難だった」として、汚れがひどいもの以外は一日中使っていた。また、看護師らが手袋を取った後にエプロンを触ることもあり、県は「汚物処理に不手際があったのが一つの原因」と指摘した。


 ノロウイルスによる集団感染を個人で防ぐことはほとんど不可能です。医療従事者や調理従事者に感染予防の一層の努力をしてもらうしかないのです。高齢者や子どもたちを守るためによろしくお願いします。



 データによると、ノロウイルスの検出数は、2012年第46週(11月12~18日)にピークをつけて減少していることから、流行は徐々に終息に向かっているようには見えます。

(追記) 2012年12月29日(土)配信の朝日新聞の記事からです。

 神奈川県横浜市緑区の療養型医療施設「横浜田園都市病院」(375床)で、入院患者72人と職員27人の計99人が12月25日から感染性胃腸炎を発症し、このうち患者4人が死亡した。患者2人の便からノロウイルスが検出されたといい、横浜市はノロウイルスによる集団感染とみて調査している。横浜市によると、亡くなった患者は80~97歳の男性2人と女性2人。26日から29日にかけ死亡したという。

(追記) 2012年12月31日(月)配信の産経新聞の記事からです。

 神奈川県横浜市緑区の療養型医療施設「横浜田園都市病院」で患者4人が死亡したノロウイルスの集団感染で、横浜市は12月31日、発症者が112人に増えたと発表した。横浜市によると、12月30日午前9時までに発症した入院患者77人と職員28人の計105人に加え、12月31日午前9時までに新たに患者5人と職員2人が発症した。発症した患者5人は、2、3階の医療病棟に入院していたという。

 ノロウイルスに感染すると発症するまでには24時間から48時間ある(「潜伏期間」)といいます。発症すると、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などを訴え、これらの「急性胃腸炎」の症状が1~2日続いた後、治癒します。ノロウイルスに感染した人の糞便や吐物には大量のウイルスが排出され、その処理が適切でない場合、さらなる感染を惹き起こします。ノロウイルスは少ないウイルス量で感染するので、ごくわずかな糞便や吐物がいずれかに付着して残ると、塵芥を生じ、その塵芥から経口感染することになります(「空気感染、飛沫感染、塵芥感染」)。

(追記) 2012年12月31日(月)配信のNHKのニュースからです。

 群馬県前橋市によりますと、前橋市樋越町にある高齢の視覚障害者が住む福祉施設「養護盲老人ホーム明光園」で、12月25日から31日にかけて、70代から90代の入所者16人と職員2人の合わせて18人が、下痢や嘔吐などの症状を訴えました。このうち、入所していた90代の女性が病院に入院しましたが、吐いたものが気管に入って肺炎を起こし、12月29日に死亡したということです。病院が検査をしたところ、この女性からノロウイルスの感染を示す陽性反応が出たということで、前橋市はノロウイルスによる集団感染とみて調べています。

 感染性胃腸炎による高齢者の死亡の多くは、この誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎、aspiration pneumonia)が直接の死因になることが多い。食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまう「誤嚥(ごえん、pulmonary aspiration、肺の吸引)」で、咳をする能力が低下していると異物を気管内から排出することができず、肺で炎症が生じます。

(参考) 「ノロウイルスによる「感染性胃腸炎」の集団発生を防ぐには、何をすれば、、、

(参考) 「猛威を振るう「ノロウイルスによる感染性胃腸炎」に対抗する手段はあるか。

(追記) 2014年04月28日の毎日新聞の記事からです。

 東京都は4月28日、「ザ・キャピトルホテル東急」(千代田区永田町)の大宴会場を4月19日に利用した20~60歳代の男女64人が下痢や発熱などの症状を訴え、このうち28人の便からノロウイルスが検出されたと発表した。全員快方に向かっているという。調査した千代田区は食中毒と断定し、大宴会場の調理場などを4月28日から4日間の営業停止処分とした。
 都によると、患者はいずれも同区内の建材販売会社の社員。同社は4月19日午後3~6時、大宴会場で立食パーティーを開き、社員約470人が参加していた。調理員1人からもノロウイルスが検出されたことなどから、調理員経由で食材にウイルスが付着した可能性が高いという。


                (この項 健人のパパ) 

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 国立感染症研究所は、2012年第48週(11月26日~12月2日)の感染症発生動向調査の「感染症週報」で次のように述べています。

 「感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いており、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では鹿児島県(37.42)、宮崎県(34.72)、福井県(33.59)、大分県(28.67)が多い。

 感染症発生動向調査は、医療機関の協力のもとに、感染症に関する情報の収集と分析を行い、地域における感染症の流行状況を把握し、予防に役立てることを目的としています。全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により「小児科定点」(約3,000か所)、「インフルエンザ(小児科・内科)定点」(約5,000か所)、「眼科定点」(約600か所)、「基幹定点」(約500かカ所)に分かれています。



 ノロウイルスによる感染性胃腸炎は、全国の約3,000か所の小児科定点から報告され、「定点当たり報告数」というのは、「定点医療機関数」を分母とし、「報告数」を分子とします。鹿児島県での定点当たり報告数の「37.42」というのは、1つの定点医療機関での1週間での発症患者数がおよそ37人だったということになり、1日あたり5人強が受診した医療機関で感染性胃腸炎と診断されていることになります。

 全国平均では、2012年第48週の定点当たり報告数は「18.00」ですから、1つの定点医療機関で1日におよそ2.6人が「感染性胃腸炎です」と言われているわけです。最近10年間でみると、もっとも流行したのは2006年で、そのときの第48週の定点当たり報告数はおよそ22人だったといい、そのときに次ぐ勢いのようです。

 1968年11月、アメリカ合衆国オハイオ州ノーウォーク(Norwalk)のブロンソン小学校(Bronson Elementary School)において、急性胃腸炎(acute gastroenteritis)が集団発生します。急性胃腸炎患者の糞便から検出されたウイルス様のものには「ノーウォーク・エージェント(Norwalk agent)」と名づけられます。1972年に、保存されていた糞便サンプルが電子顕微鏡で観察され、ウイルスであることが確認されると、「ノーウォーク・ウイルス(Norwalk virus)」と呼ばれるようになります。

 アメリカで、クルーズ船でのノーウォーク・ウイルスによる急性胃腸炎が多発すると、注目されるようになり、「ノロウイルス(norovirus、Nor(walk)+o+virus)」と短縮して呼ばれるようになります。この名称は、2002年に、国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses)により承認されます。

 アメリカでは、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎を「冬季嘔吐症(winter vomiting disease、ノロウイルスは外界では1ヶ月近く生存すると言われ、この生存期間が低温になるとさらに伸びることから、冬場に流行が起こる。広島県地域保健対策協議会のサイトによれば、ノロウイルスは、下界で乾燥した状態で、20℃での生存期間が3~4週間であるのに対し、4℃では8週間程度生存するとされている)」、「ウイルス性胃腸炎(viral gastroenteritis)」、「急性非細菌性胃腸炎(acute nonbacterial gastroenteritis)」、「胃腸風邪(stomach flu)」などとも呼んでいます。 
 
 感染性胃腸炎は、嘔吐や下痢が主な症状である、細菌やウイルスなどによる感染症です。冬季に流行する感染性胃腸炎の原因はノロウイルス、ロタウイルス等のウイルスが中心で、中でもノロウイルスは感染力が強く、集団感染や食中毒を引き起こすことがあります。ヒトからヒトへ接触感染(患者の便、嘔吐物)するほか、ウイルスに汚染された食品を食べることでも感染します。

 12月15日(土)配信のカナロコの記事からです。

 神奈川県は12月15日、茅ケ崎市幸町の飲食店で料理を食べた17人が、下痢や腹痛などを訴える食中毒が起きたと発表した。県食品衛生課は原因を調べているが、17人に共通するのは同店で食べたコース料理で、患者からノロウイルスが検出されたことから、同料理が原因の食中毒と断定。また、大和市南林間2丁目の飲食店で料理を食べた11人も、15日までに食中毒の症状を訴え、患者からノロウイルスが検出された。

 12月16日(日)配信の毎日新聞の記事からです。

 山梨市の弁当製造業「まもかーる」が運営する「るんるんランチ」(甲斐市)の仕出し弁当による集団食中毒で、県は12月15日、原因物質をノロウイルスと断定したと発表した。患者数は同日現在で97事業所319人に上り、さらに増える可能性がある。

 12月17日(月)配信の毎日新聞の記事からです。

 弁当製造会社「ダイヤス食品」の広島支社が製造した給食弁当が原因とみられる集団食中毒があり、広島市保健所によると12月16日夕方までに1381人が下痢や嘔吐などを発症した。重症者はいないが、患者11人と従業員1人の便からノロウイルスを検出。同支社は10、11日に各約4700食を配達しており、ノロウイルスを原因とした集団食中毒では過去最多に迫る可能性がある。 厚生労働省によると、1000人超の集団食中毒は今年初めて。ノロウイルスによる集団食中毒では、2006年に奈良県で製造した仕出し弁当を食べた1734人の発症が最多という。

 12月18日(火)配信の産経新聞の記事からです。

 大東市龍間の「わかくさ竜間リハビリテーション病院」でノロウイルスに感染した女性患者(88)ら2人が死亡したことについて、同病院は12月17日、同日現在で61人の患者と21人の職員に下痢や嘔吐などの発症があると発表した。同病院によると、発症者は計6病棟で確認され、患者21人の便からノロウイルスが検出された。

 12月19日(水)配信のANNの記事です。

 大分県竹田市の総合病院で、入院していた80代の男性患者がノロウイルスに感染して死亡しました。患者が死亡した竹田市の大久保病院によりますと、16日深夜から嘔吐や下痢の症状があり、ノロウイルスが検出され、18日早朝に亡くなったということです。病院では12日以降、看護師2人を含む9人が嘔吐や下痢を訴え、うち6人からウイルスを検出。

 この記事は数日前から書き始めたのですが、次々と集団感染や食中毒の報告が増えていきます。

 ノロウイルスが感染する部位は小腸粘膜です。細菌のように毒素を分泌するわけではなく、十二指腸付近の小腸上皮細胞を脱落させることで、突発的な激しい吐き気や嘔吐、下痢、腹痛などを引き起こします。胃の膨満感やもたれ感が前記の症状に先行する場合もあるといいます。これらの症状は長くて3日程度で収まり、後遺症が残ることもないといいます。ただし、免疫力の低下した老人や乳幼児では長引くこともあるようです。

 ノロウイルスの感染経路の一つは、ノロウイルスに感染した人が、十分に手洗いを行わずウイルスが手についたまま調理をすると、食品が汚染され、その食品を食べた人が感染するというものです。集団食中毒になることがあります。食品の汚染は、調理者による場合だけではありません。人の糞便中のノロウイルスが、下水を経て川から海へ運ばれ、二枚貝の内臓に蓄積され、それを、十分に加熱しないで食べる(ノロウイルスはカリシウイルス科に分類され、その科のウイルスでの実験では、60℃では30分の加熱でも不活化(体内での増殖を阻止)されないが、70℃では5分間、煮沸では1分以内に不活化されるという)と感染することになります。感染経路の二つめです。これも集団食中毒になることがあります。

 提供された食品でノロウイルスに感染することを防ぐことは不可能に近い。外食をするな、出された弁当を食べるな、病院施設などでの食事をとるな、ということは言えないのです。調理従事者にノロウイルスに対する知識を十分に持ってもらって、注意してもらうしかないのです。個人的に対処するには、食品は十分に加熱することしかないようなのです。



 ごく少量(10~100個程度)で人に感染する(インフルエンザウイルスでは1000~3000個くらい必要)能力を持つノロウイルスの感染経路で問題になるのは、ノロウイルスを含む糞便や嘔吐物を処理した後、手についたウイルスや、不適切な処理で残ったウイルスが、口から取り込まれて、感染する場合です。

 ノロウイルスは、直径が30~38nm(ナノメートル、1nmは100万分の1mm)ほどです。嘔吐物の拭き取りと消毒が徹底されていない場合は、嘔吐物が乾燥して飛沫となって拡散し感染が拡大することもありえます。2006年12月中旬、東京都豊島区のホテルの宴会場の利用客らが嘔吐や下痢などの症状を訴え、池袋保健所がノロウイルスが原因と確定した出来事がありました。

 感染性胃腸炎の発症者(12月2日~10日の利用客372名)のうち300人が12月2日と3日の利用客(残りの72人はホテルの従業員)で、ほとんどが12月2日と3日に、3階と25階の宴会場を利用していた(372名のうち361名が3階と25階の宴会出席者)といいます。池袋保健所は、2日にホテルの3階と25階で嘔吐した客がおり(25階において嘔吐した利用客を介助したホテル従業員からノロウイルスが検出されている)、その際にノロウイルスが絨毯に付着し、利用者らが絨毯を歩いた際などに空気中に浮遊し、経口感染につながった可能性もあると推定しました。

 換気の悪い室内や利用者の通行が多い通路などでは、嘔吐時に発生したウイルスを含む飛沫が嘔吐場所に留まっっていることがあるといいます。また、嘔吐物が乾燥した後でも、その上を人が歩くと乾燥粒子が舞い上がり、手や足に付着し、口に入っていきます。自分が歩いている絨毯やカーペットからノロウイルスを含んだ乾燥した粒子が舞い上がっているなどということを私たちは知ることができません。この粒子が口に入るのを防ぐには、外出時にはいつもマスクをしていることが必要でしょう。

 手指についたウイルスを除去するためには、石鹸類を使い、泡を立ててよく洗い、水でよく洗い流す方法が、一番効果があるといいます。アルコール消毒の効果はなく、とにかく流水で洗い流すことなのだそうです。ノロウイルスは、細菌に比べ、大きさが30分の1~100分の1で、手の皺に深く入り込むので、より丁寧な手洗いが求められます。ハンドソープによる揉み洗い10秒に流水すすぎ15秒を行い、それを2回繰り返すと、ウイルス量は0.002%になるという実験結果があります。

  また、新たなノロウイルスによる感染性胃腸炎の集団発生のニュースが報道されています。

 12月20日(木)配信の毎日新聞の記事からです。

 呉市保健所は12月19日、海上自衛隊潜水艦教育訓練隊の男性隊員ら48人(19~51歳)が、17~18日にかけて嘔吐や腹痛を発症したと発表した。うち5人からノロウイルスを検出し、集団食中毒の疑いで調べている。

(追記) 2012年12月23日配信の毎日新聞の記事からです。
 
 国立感染症研究所によると、今年は下痢や嘔吐を起こす感染性胃腸炎の患者が多発している。全国の小児科で実施している定点調査(12月3~9日、49週)では、1定点あたりの患者報告数が19.62人。同時期では過去10年間で2006年に次いで多い。原因の大半がノロウイルスという。今回は新型が出現したことで、免疫を持っていない人が多いことも流行の背景にあるとみられている。

(追記) 2013年1月5日配信の共同通信の記事です。

 山形県は1月5日、山形県南陽市赤湯温泉の丹泉ホテルで食事をした10~80代の男女19人が下痢や腹痛の食中毒症状を訴え、うち5人からノロウイルスを検出したと発表した。いずれも軽症で快方に向かっているという。山形県によると、19人は昨年12月31日から今年1月1日にかけてホテルで刺し身などの提供を受けた。調理担当の従業員からもノロウイルスを検出したため、食事が原因と判断した。山形県はホテルの飲食部門を1月5日から3日間の営業停止処分とした。

(追記) 2014年5月8日の千葉県健康福祉部の報道発表資料からです。

4月28日
 市川保健所に同ホテル
(ディズニーシーの「ホテルミラコスタ」)から、4月26日に利用した2グループから、嘔吐・下痢を発症した者が複数発生しているとの連絡があった。
4月29日
 同保健所が、当該施設の調査を実施し、施設の利用状況を確認するとともに、施設関係者に対し、消毒方法等の衛生指導を実施した。
5月7日
 これまでに、26日に利用した8グループのうち、4グループの325名中106名が下痢・嘔吐等の症状を呈しており、発症者62名の便を検査したところ、52名からノロウイルスが検出された。また、宴会料理を喫食していないホテル職員25名が同様の症状を呈しており、検査を行った10名中9名からノロウイルスが検出された。なお、調理従事者については、ノロウイルスは検出されなかった。
 保健所では、現時点では同ホテルで調理、提供された食事を原因とする食中毒ではなく、ノロウイルスによる集団感染事例と判断している。保健所では、引き続き調査を実施しているが、重症者はなく、患者は、発症後数日で快方に向かっている。


                  (この項 健人のパパ)

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 「日本脳炎」というウイルス感染症があります。ブタやサギがこのウイルスを保有しており(保有宿主、reservoir)、日本を含む東南アジアでは、主に「コガタアカイエカ」がこのウイルスを媒介します(媒介者、vector)。ブタの中にはこのウイルスを保有しているものがおり、ブタの血を吸ったコガタアカイエカがヒトで吸血を行うとヒトがこのウイルスに感染することがあります。
 
 潜伏期間は1週間から2週間とされており、突然に高熱を発することで感染を知ることになります(頭痛、全身倦怠感が先行することもある)。2~3日で頭痛、嘔吐、痙攣、意識障害へと進行します。治療方法は対症療法のみであり、高熱と痙攣を管理することになります。日本脳炎は発症した時点ですでにウイルスが脳内に達して、脳細胞を破壊しているので、生存したとしても後遺症で悩まされることになるそうです。

 日本脳炎のウイルスに感染したとしても、発症率は100人から1000人に1人と非常に低い(そのほとんどが不顕性感染(感染したが発症しない))のですが、発症して脳炎症状が起きた場合の致死率は20%から40%であり、生存者の半数以上は脳に障害を受けて麻痺などの重篤な後遺症が残るといわれています(発症して全治した例は、発症者の3分の1程度であるとするサイトもある)。

 2011年7月に那覇市で発生した日本脳炎の1歳男児の発症例です。沖縄県健康増進課が7月15日に発表しています。沖縄県では日本脳炎の発症は1998年以来13年ぶりだったといいます。男児は日本脳炎の予防接種を受けていなかったようです。

発症 1日め(7月 4日)…鼻水の症状あり。
発症 4日め(7月 7日)…午前3時ごろ、39度台の発熱のため救急外来を受診。かぜの症状に似ており、上気道炎と診断され、いったん帰宅した。
発症 4日め(7月 7日)…午後9時、痙攣が続いていたため、救急搬送で外来を再び受診、入院した。
発症12日め(7月15日)…髄液検査を実施し、県衛生環境研究所で遺伝子検査をした結果、この日に日本脳炎ウイルスと確認され、報道機関に発表された。男児はICUで治療中だが、病状は安定しているという。

 13年間にわたり日本脳炎の発症がなかったということは、「日本脳炎のウイルスを持った蚊(コガタアカイエカ)」に「日本脳炎の予防接種を受けていない人」が刺されなかったことを意味するわけではなく、刺されたけれど発症はしなかったことを意味するのでしょう。この「発症する、発症しない」の差はどこから来るのでしょうか。「体質」、「体調」などなのでしょうか。沖縄県では、1980年に発症例(1例)があり、それから18年後の1998年に発症例(1例)があり、その13年後の2011年がこの発症例(1例)になります。

 2011年7月16日の沖縄タイムスの記事は、「(日本脳炎を)発症すると死亡率は20~40%に及び、生存者の45~70%に麻痺や精神障害といった後遺症になる」と述べています。およそ15年に1度の発症例しかないけれど、発症すると死亡率が高く、生存しても後遺症が残る確率が高い、ということをどう考えるべきでしょうか。



 感染しても発症する確率は低い(0.1%~1%)としても、わが子をその危険に晒すことはできません。日本においては、生活環境の変化(蚊の侵入を防ぐ気密性の高い家屋など)、媒介蚊に刺される機会の減少(蚊成虫の駆除をする防除用薬品など)などにより、日本脳炎の患者報告数は、著しく減少し、近年では年間数名程度の発生にとどまっています。しかし、0ではありません。

 2012年8月3日に福岡県保健医療介護部保健衛生課感染症係が次のような文書を出しています。

 感染症流行予測調査事業の一環として毎年実施している「日本脳炎感染源調査」(7月から9月まで実施)において、平成24年7月31日に採血された県内で飼養されているブタのHI抗体価保有率が100%(10頭中10頭)となったことから、県民の皆様に対して日本脳炎の感染に注意いただくようお知らせいたします。

 調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると、約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生するという報告があります。現在では、日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により、ブタの感染状況と患者発生状況は必ずしも一致していませんが、夏期のブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では、ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられています。

 日本脳炎は、極東から東南アジア、南アジアにかけて広く分布しています。また、近年では、パプアニューギニアやオーストラリアの一部でも発生が報告され、アジア以外の地域へも広がってきました。日本での過去10年における発生数は毎年10人以下であり、福岡県内では同期間に、年間0~4人程度が報告されています。


 ブタは日本脳炎ウイルスに対して、感受性が極めて高い(感染しやすい)のですが、そのほとんどは不顕性感染です。媒介蚊の吸血によって侵入したウイルスは内臓で増殖してウイルス血症を起こしますが、軽い発熱が起こる程度で、一般的には障害は起こりません。妊娠している豚でも、死産や異常産を起こすことはあっても、母豚には異常が現れないことが多いといいます。

 ブタは、ヒトよりも日本脳炎ウイルスに対する感受性が高いので、ブタの感染がその地域の日本脳炎ウイルスの蔓延の指標となります。ブタの間で日本脳炎ウイルスの感染が広がった場合は、ヒトに対する感染の危険性も高くなっていると考えられます。ブタは生後6か月ぐらいで出荷される(出荷日齢180日ほど)ので、畜産業者の飼育するブタは始終入れ替わっています。そこで、日本脳炎の患者が多く出る時期にブタへの感染率を調べる(ブタの血清中の日本脳炎赤血球凝集抑制抗体価(HI抗体価)を検査)ことでヒトに対する感染のリスクが推定できます。



 ブタの抗体保有率が常に高いのは、九州、中国、四国地方など、南の暖かい地方です。これに対して、北海道や東北地方など、北の比較的寒い地方では抗体保有率が低くなります。日本では、主にコガタアカイエカによって、ウイルスを保有するブタからヒトに日本脳炎ウイルスが感染します。蚊の活動範囲(飛行距離)は、概ね2km前後とされている(wikiには「長崎県における調査によるとコガタアカイエカの通常の1日の行動範囲は1km程度である」とある)ことから、その範囲に養豚場がある場合は、リスクが高くなるでしょう。そのことから、一般的に、郊外より都市部で生活する方が、日本脳炎に対する感染のリスクは低くなると考えられます。

 日本の養豚産業は、一大生産地であった茨城、千葉、埼玉県の関東周辺は首都圏の拡大によって減少していき、岩手県、福島県などの東北地方や、鹿児島県、宮崎県などの九州地方に生産地が移動していっています。2011年のブタの飼育頭数を九州地方で見てみると、鹿児島県 1,372,000頭(全国1位。全国計の約7分の1(14%))、宮崎県 766,200頭、熊本県 287,700頭、長崎県 230,500頭、大分県 151,500頭、佐賀県 93,500頭、福岡県 80,500頭となっています。

 福岡県による「日本脳炎の感染に注意」という文書が出された後、2012年の39週め(9月24日~9月30日)に、日本脳炎ウイルスへの感染が2例報告されています。感染地域は、福岡県1例、熊本県1例です。ともに年齢群は70代でした。



 3歳から19歳までの未成年の日本脳炎ウイルスに対する抗体保有率は、50%から90%で、ほかの年齢群と比べれば高いといえます。しかし、2009年8月、熊本県で7歳の男児が日本脳炎を発症しています。男児は一時入院しましたが、その後回復したそうです。後遺症の心配はないのでしょうか。未成年の子を持つ身としては、気にかかるところです。ワクチンは未接種だったようです。熊本県では2006年にも3歳の男児が発症しています。熊本県は感染のリスクが高い地域といえるのでしょう。

 日本脳炎は治療が難しく後遺症が出る可能性が高いことから、「予防する」ことがこの感染症の最善の対策です。日本脳炎はワクチンを接種することで、発症を有効に阻止することができます。しかし、極めて低い確率ですが、重篤な副反応が起こることがあります。

 これが悩ましいところです。子を守るためにとった行動が逆に子を苦しめ、最悪の場合には子を失うことになることもあるのです。2012年7月に、5歳から9歳未満の子ども(性別・具体的な年齢は未発表)が接種7日後に急性脳症で死亡しています。また、2012年10月、10歳男児が日本脳炎の予防接種後に意識不明となり、2時間半後に死亡が確認されました。

 2012年7月に亡くなったお子さんの場合です。

接種当日…日本脳炎ワクチンを接種(「阪大微生物研究会」製造の乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン「ジェービックV」。ロット番号はビケンJR128)する。接種前の体温は、36.7℃であった。
接種翌日…鼻水・咳・体熱感などの感冒症状が出現する。
接種 2日後…夜、38.9℃の発熱を認めたため、解熱剤を使用するが、発熱が継続する。
接種 2日後…23時55分、硬直性の痙攣を認めたため、病院を受診した。
接種 2日後…01時30分、抗痙攣剤使用にて痙攣を消失させた。
接種 2日後…07時13分、硬直性の痙攣をくり返すようになり、気管内挿管(鼻や口から気管の中に気道確保のために管を挿入すること)する。
接種 2日後…12時、痙攣重積(30分以上持続する痙攣発作で、断続的に発作が起こり、間欠期に意識障害を認める場合)にて転院した。転院先で、急性脳症と診断される。播種性血管内凝固症候群(DIC、血管内で血液凝固が進行して、全身の微小血管内に血栓が形成される)と多臓器不全が認められたために再度転院する。さらなる転院先で、急性脳症に対し人工呼吸管理、血漿交換、持続的血液濾過透析(CHDF)、ステロイドパルス、水分管理による治療が開始された。
接種 5日後…瞳孔が拡大し、対光反射が消失し、自発呼吸が消失した。
接種 7日後…血圧低下と不整脈が認められ、死亡した。

 厚生労働省は、死亡例が2件続いたことを受け、調査を進め、2012年10月31日に開かれた専門家の会議でワクチン接種との因果関係などについて評価を仰ぎました。専門家の意見です。「接種後2日目の発症は、日本脳炎ワクチンに発症原因を求めるのであれば、時間的には発症まで早すぎる。」「ワクチン接種翌日に発症したウイルス感染症が急性脳症の原因となったことも考えられる。」「基礎疾患にかなり重篤な脳神経障害があり、何らかの感染(CRPの上昇あり)で痙攣が多発した。痙攣ではDICや多臓器不全は起こらないので、やはり感染のためと考えるのが妥当。」「基礎疾患が重篤な児の場合は、ワクチン接種後の発熱がきっかけとなり、体調不良となり、癲癇重積状態になったと考えるのは臨床医的には考えやすい。」

 2012年10月に亡くなったお子さんの場合です。

17時15分…来院。接種前の体温36.8℃。不安なのか、診察室から出たり入ったりしていた。
17時20分…待合室ソファーにて、母が右、看護師が左に座り、腕を組むような恰好でワクチン接種(ワクチンは「ジェービックV」、ロット番号はビケンJR128)。その後、絆創膏を看護師が貼り、本人は玄関方向へ数歩歩き、座り込むようにして横になった。その後、数回左右に体を揺さぶり横向きになる。
17時25分…顔が見えない方向の横向きの状態で、母親がおかしいのに気づく。顔色不良・反応なし。心肺停止状態のため心臓マッサージ開始し、救急要請。
17時36分…救急隊現着。モニター装着にて脈なし、嘔吐なし。全身観察にて発疹なし。「ショックやアナフィラキシーぽくない。少し口唇にチアノーゼあり。」(救急隊より聞き取り)
17時55分…心肺蘇生継続し、救急搬送。
18時 6分…病院到着。すぐに挿管し、血性混じりの水分多く流出し、吸引。心臓マッサージ継続しながら薬物投与くり返す。心電図、心エコー等で心拍確認しつつ進めるも、心拍再開なく、全く心臓に動きなし。AEDはつけていたが、心静止状態であり、除細動不可のため、ひたすら胸骨圧迫継続。約2時間心肺蘇生を実施したが、心拍再開は一度もなく、薬に対する反応もなし。
19時49分…死亡。死後CTにて明らかな異常なし。

 専門家の意見です。「発疹などのアナフィラキシーショックの際に出現する症状もなかったことから本児にアナフィラキシーショックが生じていた可能性は低い。」「10歳のお子さんに3剤の向精神薬を投与しているので、かなりひどい基礎疾患があったと推定する。ワクチンでアナフィラキシーやショックがなく、突然死しているので、向精神薬の副作用かなにかワクチン以外の要因が強いと判断する。」「日本脳炎ワクチンそのものというよりは、ワクチン接種による痛み(あるいは驚愕)刺激によって背景として存在した可能性があるQT延長に伴う心室性不整脈が死因となったと推測する。」「アナフィラキシーショックの様な血管虚脱に続く経過としては考えにくく、「心臓そのものに原因がある」死ということである。」

 お二人のお子さんのご冥福をお祈りします。

(追記) 12月13日配信の時事通信です。
 日本脳炎の予防接種を受けた岐阜県の男児(10)ら2人が死亡した問題で、厚生労働省の専門家小委員会と安全対策調査会は13日、新たな調査結果を検討した上で、改めて「直接的な因果関係は認められない」との見解を示した。
 専門家小委などは今後、日本脳炎で緊急性の高い事例が報告された場合、定期的な会合以外に検討会を開くことを決めた。
 

(2013年7月28日追記) 国立感染症研究所 感染症疫学センター ウイルス第一部の2013年7月の報告です。

 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)により測定することで,日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況について都道府県別に示しており,日本脳炎ウイルスの最近の感染が認められた地域を青色,それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色,調査したブタの80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。



 この速報値は、例えば高知県のデータをこう読みます。

 2013年6月5日に採血した「ブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体」を「赤血球凝集抑制法(HI法)」により測定したところ、陽性反応(抗体価1:10以上)があった。つまり、「当該のブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有」していた。さらに「2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)も保有」していたことから、そのブタは「最近日本脳炎ウイルスに感染」したと考えられる。今度は、2013年7月9日に採血した「ブタ血清中の抗体」を「HI法」により測定したところ、10頭中9頭に陽性反応があった。また、HI抗体陽性例のうち8頭は抗体価1:40以上であり、そのうち4頭から2-ME感受性抗体が検出された。高知県では、日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況が「警戒すべき」領域にある可能性がある。

 2013年07月16日に高知県 健康政策部 健康対策課は、「日本脳炎ウイルス感染の注意報発令について」という文書を出しています。

 高知県では、感染症流行予測調査の1つとして、県衛生研究所でブタの血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を測定し、日本脳炎ウイルスの蔓延を調査しています。日本脳炎は、日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカが、そのウイルスに感染したブタの血液を吸血した後、ヒトを刺すことによりヒトが感染します。日本脳炎ウイルスがヒトからヒトへと感染することはありません。
 今回、7月9日に採取したブタの血清検査から、ブタが日本脳炎ウイルスに感染したことが判明しました。このため県内では、ヒトに対する感染の危険性を否定できませんので、県民の皆様に注意喚起のための周知をお願いします。
1 検査結果
   県内の屠畜ブタ10頭から採取した検体について、日本脳炎ウイルスに対する抗体検査を実施した。
      採血月日   HI抗体陽性率     (判定の基準)
      7月9日      90%       抗体陽性率が50%以上、
                        新鮮感染抗体を有するブタの検出
2 全国の患者発生状況(平成25年7月7日現在)
      発生なし
3 高知県の過去の患者発生状況
   日本脳炎患者は全国で毎年数名発生しておりますが、県内では過去5年間で患者2名の発生がありました。
4 予防対策と注意事項
  (1)蚊(コガタアカイエカ)に刺されないように注意する。
  (2)予防接種を受ける。
 平成17年度から平成21年度まで、日本脳炎の予防接種については接種差し控えとなっていましたが、新たなワクチンが開発され、現在は日本脳炎の予防接種を通常通り受けられるようになっています。定期の接種対象者のお子様は接種するようにしてください。
  (3) 十分な栄養をとり、過労を避ける。


(2013年8月15日追記) 福岡県保健医療介護部保健衛生課が2013年8月9日に「福岡県日本脳炎情報」を記者発表しています。

  感染症流行予測調査事業の一環として実施している「日本脳炎感染源調査」(7月から9月まで実施)において、平成25年8月6日に採血された県内で飼養されているブタのHI抗体価保有率が100%(10頭中10頭)となったことから、県民の皆様に対して日本脳炎の感染に注意いただくようお知らせいたします。

 調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると、約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生するという報告があります。現在では、日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により、ブタの感染状況と患者発生状況は必ずしも一致していませんが、夏期のブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスがまん延あるいは活動していると推測される地域では、ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられています。

 (感染予防対策には)日本脳炎ワクチンの予防接種が有効です。日本脳炎の予防接種は、3歳で2回、4歳で1回、9歳で1回の接種が標準的な接種方法とされています。また、過去の積極的な勧奨の差し控えにより、7~10歳及び18歳のお子さんは、十分な接種が行われておらず、平成25年度の積極的な勧奨の対象となっています。


 2013年8月8日現在の「ブタの日本脳炎抗体保有状況(2013年速報第4報)」では、調査したブタのHI抗体陽性率が80%を超えた地域は、採血月日が7月23日で、長崎県と高知県でした。ともにHI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上でしたが、2-ME感受性抗体は検出されませんでした。



(参考)「日本脳炎の予防接種で、アナフィラキシーショックを起こし、死亡か?

(参考)「インフルエンザワクチンの副作用(副反応)報告を読む - その2

(追記 2015年8月7日) 2015年8月1日に三重県健康福祉部薬務感染症対策課が「日本脳炎にご注意ください!」という日本脳炎の注意喚起をしています。

 三重県で、平成27年7月24日に豚の抗体検査をした結果、日本脳炎の注意喚起の基準を超えましたので、蚊に刺されない等、感染予防に心がけてください。
 日本脳炎は、豚などの動物の体内でウイルスが増殖された後、その豚を刺したコガタアカイエカ(水田等に発生する蚊の一種)などが人を刺すことによって感染します。人から人への感染はありません。

 三重県では、感染症流行予測調査において、日本脳炎ウイルスの活動状況を把握するため、毎年初夏から初秋にかけて、豚の抗体検査を実施しています。
 日本脳炎ウイルスは特に豚の体内で増殖し、蚊(コガタアカイエカ等)が媒介して人に感染します。感染した豚は、血液中に日本脳炎に対する抗体が産生されるので、豚の抗体陽性率を日本脳炎ウイルスの活動の指標としています。

 (日本脳炎注意喚起基準)
豚の抗体保有率が50%を超え、かつ最近感染したことを示す2ME感受性抗体が初めて検出された時


(追記の終わり)



                    (この項 健人のパパ)



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 青山剛昌の漫画「名探偵コナン」は、2人の息子が夢中になった時期があります。「名探偵コナン」は「週刊少年サンデー」で、1994年より連載が開始され、現在も連載が続いています。単行本も2012年10月現在で、77巻目を数え、41巻目(2003年4月9日発売)までは我が家の書棚に並んでいます。上の息子が夢中になった時期に買い揃えていきました。

 1996年からはテレビアニメの放映も始まり、下の息子も物心がつきだすと一緒に見始めました。下の息子がテレビに飽きてしまってテレビを見なくなると、私も付き合いで見ていた「名探偵コナン」からは遠ざかってしまいました。

 私の記憶の中では、コナンはよく「密室トリック」の謎解きをしていました。それを見ながら、「そんなことは現実には無理だよ。そんなに都合よくいくわけがない。」と心の中でツッコミを入れていました。口に出すと、「お父さんは、ドラマの楽しみ方を知らない。誰も現実に出来るとは思っていないよ。謎解き自体が面白いのさ。」と反論されます。

 しかし、「密室トリック」が岐阜県各務原市で現実に起こり、その謎解きも現実に岐阜県警が行ったというのです。「名探偵コナン」の中だけではなかったのです。

 2012年9月30日午前9時半ごろ、岐阜県各務原市鵜沼川崎町3丁目のアパートの3階の一室に、臨床検査技師の女性(29歳)の父親が訪れます。その日の朝、1人暮らしの娘が電話に出なかったのを不審に思った父親が訪ねてきたのです。父親は娘から2枚あるカードキーのうちの1枚を預かっていました。

 部屋を開けて父親は、娘の無残な死を知ることとなります。居間の床にうつぶせになっていて、首に布のようなものが巻かれて息絶えている娘を見つけるのです。119番通報します。着衣に乱れはなかったのですが、首にタオルが巻きついており、顔は鬱血していたといいます。救急隊は死亡を確認しました。警察が呼ばれます。部屋は施錠されて、窓も閉まっており、物色の跡はありませんでした。侵入した形跡がないことなどから、自殺の可能性が高いと岐阜県警はみている、と報道されます。

 カードキーは複製が極めて難しく、2枚ある1枚は父親が所有し、他の1枚は室内の玄関で見つかったといいます。完全な「密室」です。しかし、捜査員は何か不自然なものを感じます。それは、玄関ドアの新聞受け。事件発覚のとき、新聞受けの内側の箱のふたが開いたままだったそうです。新聞を取っていなかったという被害者がふたを開いたままにするのは考えにくかったそうです。そこで、ドアに何らかの細工をするために、犯人が開けたものなのではないか、と思い至ります。

 父親が交際していた男性のことを娘から聞いていたのでしょう。おそらくそれが捜査員に告げられたのでしょう。捜査員はその日の夕刻から、同じ病院に勤務する臨床検査技師の男性(32歳)から任意で事情を聞くことになります。女性が亡くなったのは、9月29日の夕方前後。アリバイ工作を十分にしていなかったのでしょう。容疑者は女性が殺害されたとみられる時間帯前後の供述に不審な点があることを見抜かれ、追及によって容疑を認めたといいます。容疑者は女性の部屋の「鍵をかけて出た」と供述したのですが、鍵を持っていなかったのです。

 容疑者は、ドアの外から新聞受けを通して内側の鍵にひもを付け、外側からひもを引いて施錠する工作を説明したのだそうです。「名探偵コナン」に出てきそうなトリックです。ことによると、この容疑者は「名探偵コナン」のファンで、よく読んでいたのかも知れません。しかし、「密室」なだけで「自殺」と判断されるわけではありません。「縊死(いし)」と「絞死(こうし)」では、所見が違います。自分で首を吊って「縊死」で亡くなることはあります。いわゆる「首吊り自殺」です。しかし、「絞死」で自殺することは極めて難しい。自分で首を絞めて意識が遠のいていけば、絞める力が弱まります。何かの道具の力を借りないことには無理なのです。

 記事によると、被害者は首に布のようなものが巻かれてうつぶせになって亡くなっていたといいます。一般的にこれは「絞死」です。首を絞められて亡くなったのです。これを自殺と考えるのは極めて不自然です。容疑者は「自殺に見せかけるつもりだった。交際トラブルで殺害した」などと供述したようですが、こんなトリックで警察を騙せると思ったのでしょうか。

 「鬱血(うっけつ)」があったといいます。定型の縊死では、鬱血はありません。頭顔部の鬱血は、「絞死」に顕著な所見なのです。捜査員がそれを知らないということはありません。岐阜新聞の10月20日の記事は読者の興味を引くようにドラマ仕立てに書いてありますが、記者は知ってて書いているようにも思えます。

 9月30日、午前。各務原市のアパートの1室で、遺体が見つかった。着衣に乱れはなかったが、首にはタオルが巻きついており、顔はうっ血。救急隊が死亡を確認した。(岐阜新聞から)

 コミックでは、実際には人は死にません。だから、被害者の苦痛や残された家族の悲痛に心が及ぶことはありません。しかし、これは現実に起きたことなのです。ご家族の悲痛には強く心を痛めます。

※ この記事は、産経新聞、読売新聞、岐阜新聞の記事などから構成しています。この記事内容が必ずしも真実とは限らないということをご承知おきください。iPS細胞に関して、十分に裏を取らずに報道した読売新聞や共同通信(一義的には嘘をついた研究員が悪いがその嘘を鵜呑みにした報道機関がお粗末)、 遠隔操作ウイルスに感染したパソコンから犯行予告が書き込まれた事件で誤認逮捕が相次いだ三重県警や神奈川県警、大阪府警などの警察(サイバー犯罪対策課(室)の人たちは遠隔操作について考慮しておくべきであった)。何が真実なのか、早計に断定できない時代です。

(追記) この記事を掲載して、妻に「私の旅行ブログに殺人事件のことなんか書いて!」と叱られました。しかし、Yahoo!ニュースが紹介していた岐阜新聞の「県警、密室トリック見破る 各務原女性殺害、現場に違和感」(2012年10月20日11:21)という記事を読んで、書かずにはいられなかったのです。

 twitterには、「よくやった!」という評価するコメントがあったのですが、私は逆に「え!このレベル?」と思えてしまったのです。記事には「県警幹部は「事件の線は薄いとの見方は確かにあった」と振り返る。」とありますが、これが事実だとすると疑問です(記者が面白くするためにちょっと作った?)。「縊死」と「絞死」では、所見が違います。「鬱血」があったといいます。それならば、「絞死」を疑うべきです。

 2010年、全国で警察が扱った死体は、17万体ほど。そのうちの834体が「犯罪死体」(全体の0.5%)で、18,383体が「変死体」と判断されました(10.7%。88.8%が「非犯罪死体」)。犯罪死体は検証・実況見分が行われ、変死体は刑事訴訟法第229条の基づいて検視が行われます。検視の結果、非犯罪死体と判断されたものが56.0%。「犯罪死体またはその疑いのある死体と判断された」のが44.0%。

 岐阜県で警察が取り扱った死体は、2,386体(警察庁刑事局捜査第一課に報告のあったもので、交通関係は除かれている)で、そのうちの614体に「検視官」が臨場していました。臨場率は25.7%。臨場率の全国平均が27.8%、最高が沖縄の84.4%で、最低は神奈川県の11.4%です。「臨場」とは、警察組織の人間が事件現場に臨み、初動捜査に当たることを意味します。

 刑事訴訟法第229条には、「1.変死者又は変死の疑のある死体があるときは、その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は、検視をしなければならない。2.検察官は、検察事務官又は司法警察員に前項の処分をさせることができる。」とあります。刑事部捜査第1課あるいは刑事部鑑識課には、一定以上の刑事経験を持ち、警察大学校において法医学を修了した警部または警視以上の階級を有する者がいて、これを「検視官」と呼称しています。

 「平成10年以降に発覚した犯罪死の見逃し等事案について」(刑事局捜査第一課)という報告があります。それによると、「絞死」を「縊死」としてしまったものが3件。1998年、栃木県で男性59歳が実際は絞殺されたもの(同年に発覚)、2000年、男性42歳が実際は妻とその知人に絞殺されたもの(10年後の2010年に発覚)、2002年、警視庁管内で女性81歳が実際は知人に絞殺されたもの(同年発覚)。

 犯罪を見逃した要因は、関係者からの供述を鵜呑みにした、偽装工作を看破できなかった、保険金照会・薬毒物検査を実施しなかった、裏付け捜査が徹底していなかった、が挙げられるようです。

 記事によると、「逮捕は翌日の未明。地検幹部は「事件、事故などあらゆる可能性を排除せず、迅速に犯罪性を見極めた捜査だった」と話す。」とあります。このスピードは褒められてしかるべきでしょう。しかし、この記事の論調は、出来の悪い子がたまたまいい成績を取ったので、褒めちぎっている感があります。スピードを別にして、この事案で「他殺」として事件性を認めるのは警察として当然の気がします。犯罪が見逃されて、自殺として処理された事件はどのくらいあるのでしょう。警察の捜査力の向上を期待してやみません。

(追記) 「死体は語る」、「死体は生きている」、「死体は知っている」、「死体は切なく語る」など法医学に関する多数の著作で知られる元東京都監察医務院長で作家の上野正彦氏は、ニュース番組にビデオ出演して次のようなことを語りました。

 自分で首を絞めて自殺することもまったく不可能なわけではない。その場合、立って首を絞めることはできず、座って首を絞める。首を絞めるために頭をやや後方にのけぞらせるから、意識を失うと後方に倒れる。自分で首を絞めて自殺した場合には、死体は「あおむけ」である。

 上野正彦氏は、「これまでに解剖5,000体以上、検死20,000体以上の死体を見てきた死体の専門家」(wikiより)なのだそうです。こういう知見を警察が共有していないということは、誤捜査を招く不幸な事態です。

(参考) 毎日新聞が2012年12月15日に配信した「4都府県警が公表したPC遠隔操作事件の捜査に関する問題点の検証結果の概要」です。

 ■警視庁 逮捕には相当の理由があったと考えられるが、遠隔操作に対する知識を捜査員が十分に有していなかった。今後はより慎重に逮捕の要否を検討・判断するよう指導を徹底することが必要である。脅迫メールを送信した経緯や動機についての男性の説明には曖昧な点があり、供述にも変遷があった。
 一時的であっても同居の女性をかばって犯人を装っていたと主張するなど、自白の信用性に疑いが生じる余地も多く見受けられた。結果的に虚偽自白を見抜けなかったが、説明態度や内容を鑑みれば、徹底した供述の吟味が必要だった。PC内に証拠が残され、ウイルス検査でも異常が発見されなかったことから、逮捕後も捜査員は犯行が遠隔操作によるとの認識を持つには至らなかった。
 ネット空間の犯罪については、民間との協力体制を一層強化すると共に高度な知識を有する捜査員の育成が急務である。虚偽自白を見抜けなかったことを教訓とし裏付け捜査の徹底や供述吟味担当官の活用、犯人性や秘密の暴露の有無を確実に検討するなど、「捜査の基本」を改めて徹底させなければいけない。

 ■大阪府警 PCの解析結果から得た客観的証拠を犯人性立証の柱としたため、否認供述の掘り下げが不十分で、供述の吟味が足りなかった。高度なネット犯罪は手段・方法が日々変化・複雑化しており、証拠の意味・内容を一層慎重に検討すべきだった。PC内の全ファイルの解析は、高度な技術力や長期の期間が必要で、1都道府県警察レベルでは困難だった。このためインストールされたソフトウエアなどに対象を絞り込んだが、不正プログラムは発見できなかった。
 サイバー犯罪対策部門が不正プログラムの発見、解析を実施していたが、近畿管区警察局大阪府情報通信部や情報管理課と緊密に連携して組織全体としての取り組みを考慮すべきだった。サイバー犯罪対策部門としては、解析能力を有する捜査員を複数投入し、より多角的に解析することも検討したが、解析資機材の数量不足のため実施に至らなかった。
 取調官から聴取したところ、「取り調べを始める際には供述拒否権を告知した」「客観的証拠による立証に重点を置き、淡々と取り調べた」「自白を強要したり、利益誘導したような事実はない」とのことであり、その他の調査結果からも不適正な取り調べは確認できなかった。

 ■神奈川県警 誤認逮捕された男性のパソコンの解析担当者は、(遠隔操作の手法の)クロスサイト・リクエスト・フォージェリの知見がなく、不審な通信履歴を第三者介入の証拠と認識せず、更なる解析を実施しなかった。上司にも報告しておらず、解析作業を組織的に把握・管理していれば、不審な通信履歴の更なる解析ができた可能性がある。
 男性は容疑を認める上申書を作成し、理由を「少年院に送られる不安と一刻も早く社会復帰したいとの思いから」と説明。自分が置かれた状況の苦しさから、うその供述をした状況が認められ、少年の特性である「迎合性」の可能性もある。取調官の刑事手続きの説明は、少年院に入ってしまう不安を助長させた恐れがある。否認している男性に、自らの犯行でないことを具体的に説明するよう求めた言動は、殊更に困惑させた可能性があり、不適正な取り調べにつながる恐れのある行為に該当する。
 ハンドルネームの由来に関する上申書の裏付け捜査を行わず、男性から示された(犯行予告の)「2秒間での打ち込み」に関する疑問に対し、不自然さを解消する捜査を行っていない。男性が犯人であることを打ち消す「シロにする捜査」が十分ではなかった。

 ■三重県警 警察署の捜査員にネット犯罪捜査の専門知識や、遠隔操作ウイルスの十分な知見がなかった。支援を要請された県警本部のサイバー犯罪対策室員も、遠隔操作ウイルスによる犯行との想定をしていなかった。ウイルスチェックは最新の対策ソフトで行ったが、検知されなかった。大阪府警と情報交換し、PCの解析範囲を広げてウイルス発見に至ったが、府警の関連情報がなければ更に時間を要した恐れがある。
 男性の身柄を拘束する前に、動機があるかなど犯人としての適格性について多角的に検討する余地もあった。関与を否定していた男性の供述について、男性が犯人でないとする方向性の検討を十分に行わなかった。豊富な知見を有する取調官を充てることなどを初期段階から考慮すべきだった。無差別殺人を防止しなければならないという焦りもあった。
 釈放後にポリグラフ検査を実施したが、任意捜査段階や勾留前に実施していれば、供述の信用性を吟味する材料として活用できた可能性もあった。取り調べに不適正行為は認められなかった。今後は、捜査部門から情報技術解析部門に初期段階から支援を要請し、連携の強化を図る。


              (この項 健人のパパ)

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 岐阜県美濃市藍川の小児科医院「平田こどもクリニック」で2012年10月17日、同県関市の小学5年生男児(10歳)が日本脳炎の予防接種(阪大微生物研究会の「ジェービックV」。ロット番号はビケンJR155)後に意識不明となり、別の病院に搬送されましたが、約2時間半後に死亡が確認されました。男児は午後5時15分ごろ、ワクチンを接種し、約5分後に「待合室で寝ている男児の様子がおかしい」と看護師が気付き、医師が確認したところ、心肺停止状態であり、午後7時50分ごろ死亡が確認されたといいます。

 厚生労働省によると、「日本脳炎の予防接種では2010年度、接種した約440万人のうち1人だけショック症状の報告があるが、死亡例はない。」としており、日本脳炎の新ワクチン開発に携わった専門家は、「数分で血圧が急激に下がるアナフィラキシーショックの可能性が高いのではないか。年間500万回以上注射されているが、こんな事例は初めてだ」と述べてます。

 厚生労働省は、日本脳炎の予防接種について、重い副作用(ADEM、acute disseminated encephalomyelitis、急性散在性脳脊髄炎)が報告されたことから2005年度から2009年度にかけては、積極的な勧奨を差し控えていました(いわゆる「積極的勧奨の差し控え」)。しかし、日本脳炎の新ワクチンが開発されたため、2010年度から積極的な勧奨を再開しました。再開後のワクチンの副作用による死亡例は、2012年7月にも報告され、5歳から9歳未満の子ども(性別・具体的な年齢は未発表)が接種7日後に急性脳症で死亡しています(ワクチンは「ジェービックV」、ロット番号はビケンJR128)。

 この子どもは、ワクチン接種でのリスクが高くなる「癲癇(有病率は100人に1人から200人に1人と言われています。けっして珍しい疾患ではありません)」(1歳時に発症)で加療中で、超低出生体重児であり、発育遅延でリハビリ中であったようです。

(参考) 「インフルエンザワクチンの副作用(副反応)報告を読む - その2

 ワクチンの専門家によると、「どの予防接種でも、ごくまれにショック症状が出ることがある。また、持病やアレルギーがあればその影響の可能性もあり、詳しく調べる必要がある」そうです。現在、日本脳炎のワクチンは2種類が認可されています(化学及血清療法研究所「エンセバック皮下注用」と阪大微生物病研究会「ジェービック V」)が、死亡した2人は製造のロットが違うものの、同じメーカーのワクチンを接種していたということです。

 厚生労働省は、死亡例が2件続いたことを受け、調査を進め、2012年10月31日に開かれる専門家の会議でワクチン接種との因果関係などについて評価を仰ぐことにしているようです。2012年5月23日開催の第22回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会で、委員の1人がポリオワクチンが不活化したことに関して次のように述べています。

 「この不活性化ポリオ[ワクチン]の導入は、何かバラ色のように見えるのですが、たしか世界で44例、不活化[ポリオワクチン]だけで、単味[ワクチン](抗原を1つだけ含んでいるワクチン。「混合ワクチン」の対義語)で亡くなっている方がいらっしゃいます。ですから、全く安全ですからということではなくて、麻痺のリスクあるいは死亡のリスクは低くなるかもしれないけれども、我が国で何年間OPV(live oral poliomyelitis vaccine、経口生ポリオワクチン)で死者がなかったか知りませんが、リスクはゼロではないということを公開するべきでは。

 既に資料自体は、たしか前の前か何かに公開されています。担当者は世界にある事実をきちんと背景として知っておく必要があるのではないかと思うんですね。今までのOPVがIPV(inactivated polio vaccine、不活化ポリオワクチン)になったというので世界が変わると思った、そんなことではないと思う。

 なぜ不活化ソークワクチン(Salk vaccine、1955年、米国の細菌学者Jonas Edward Salkが開発したワクチンで、ポリオウイルスをホルマリンで不活性化したものを筋肉内に注射して用いる)が失敗したか、そういうことが過去にありますから、そういうことも含めて、やはりきちんとしたものを押さえておく必要があるのではないかと。

 厚生労働省としての共通の認識のデータを小児科の先生全部に配布するとか、何かそんなことをしておかないと、本当に事が起こったときにワクチンが全部とまるということを考えておかなければいけないと思います。
」(議事録から)

 子を持つ親として、子に病原体が感染して重篤な状態になることを防ぐために受けたワクチン接種で、子を亡くすことの悲痛さは他人事ではありません。インフルエンザワクチンの接種の時期がやってきます。アレルギー体質の子を持つ親として、今年も無事に接種が終わることを強く望んでいます。

(追記) 岐阜新聞によると、接種を行った平田院長は「接種前の問診に異常はなかった。ワクチンの期限や用量は適正だったので、原因が思い当たらない」と話しているようです。男児は就学前に3回受けるのが標準とされる定期接種を受けておらず、今回が初めての接種だったそうで、平田こどもクリニックによると、男児が注射器を見て院内を逃げ回ったため、母親と看護師で押さえ、平田院長が腕に注射したのだそうです。男児の状態が悪くなった後、母親が平田院長に男児が関市内の特別支援学校に通っていることや、別の病院で処方された薬を飲んでいることなどを伝えたと岐阜新聞は報道しています。しかし、これがアナフィラキシーショックの原因になっているとは考えにくい。

 平成22年8月25日に開催された「平成22年度第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」の資料、「推定接種者数及び副反応報告頻度について」にアナフィラキシーショックによって重篤化した事例(回復)が掲載されています。40歳代女性がインフルエンザワクチンの接種後にアナフィラキシーを起こします。その経過を見てみます。

 ワクチン接種30分後…痒み出現。
 1時間後…痒み増強。上半身に皮疹。
 2時間30分後…皮膚科受診。受診時点で全身に蕁麻疹を認め強い痒みを訴えた。直ちにデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム1.65mg点滴静注及びヒドロキシジン塩酸塩25mg静注。
 3時間後…蕁麻疹やや軽減するも気道症状(呼吸苦)訴える。
 3時間30分後…皮膚科入院。入院時点で全身に蕁麻疹及び軽度の呼吸苦あり。咳著明。
 6時間30分後…全身ほてり感あるも蕁麻疹軽減。呼吸苦少し。咳軽減。
 8時間後…消灯。咳軽度。
 ワクチン接種翌日(ワクチン接種20時間後)…蕁麻疹少し。呼吸苦も少し訴える。咳あり。
 26時間後…皮疹消失。呼吸苦なし。咳あり。
 27時間後…退院。咳あり。

 岐阜の男児の予防接種後の死亡のケースを見ると、アナフィラキシーショックにしては経過が早過ぎるという印象は持ちます。

(参考) 感染患者報告数の少ない日本脳炎のワクチンは受けるべきではないか?

(追記) 12月13日配信の時事通信です。
 日本脳炎の予防接種を受けた岐阜県の男児(10)ら2人が死亡した問題で、厚生労働省の専門家小委員会と安全対策調査会は13日、新たな調査結果を検討した上で、改めて「直接的な因果関係は認められない」との見解を示した。
 専門家小委などは今後、日本脳炎で緊急性の高い事例が報告された場合、定期的な会合以外に検討会を開くことを決めた。
 

           (この項 健人のパパ)

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