POWERFUL MOMが行く!
多忙な中でも,美味しい物を食べ歩き,料理を工夫し,旅行を楽しむ私の日常を綴ります。
 





 私の母は踊りの先生をしていて、同年代の高齢者と比べ元気にしていたのですが、つまずいて転倒したことで体調を崩し、最近ではベッドに寝ていることが多くなりました。病院を幾度か変え、現在では私が舟状骨骨折で通ったことのある整形外科に腰痛の治療で通院しています。そこで指摘されたのが、「骨量の減少」。

 骨量の減少で骨の脆弱性が増加し、骨折の危険性が高くなっている状態ですと言われ、再度転倒することがあれば、寝たきりになる可能性を認識してくださいとも言われました。いわゆる「骨粗鬆症」です。私の母は80歳代半ばですから、骨粗鬆症である頻度は60%以上で、自分が骨粗鬆症であったことは、驚きではなかったようです。

 医師から今までの治療に代えて最近発売された(2011年11月25日)新薬、骨粗鬆症治療薬「テリボン(Teribone)」による治療を提案されたので、調べてみることにしました。旭化成ファーマ株式会社が製造する「テリボン皮下注用56.5μg」(注射用テリパラチド酢酸塩、Tetiparatide Acetate)は、骨粗鬆症治療の新薬として、非常に注目される薬なのだそうです。

 しかし、以前に通院していた病院で処方された薬が身体に合わず、歩くのもままならないほど病状を悪化させてしまった経験のある母は、薬を変えることに慎重です。私が薬の副作用を疑い、別の病院に相談して、確信を得て、薬の服用を止めさせたことで、「お母さん、もうだめ。このまま死んでしまうの」という弱気の虫を追い出したのですが、それでも劇的に身体の痛みから解放される治療方法は見つかっていません。

 骨粗鬆症はどのようにして起るのでしょうか。私たちの身体は、古い骨を壊しながら、新しい骨を作っており、骨量を一定に保っています。骨組織において古い骨を破壊(「骨吸収(bone resorption)」という)するのが破骨細胞(osteoclast)であり、新しい骨を形成(「骨形成(bone formation)」という)するのが骨芽細胞(osteoblast)です。骨粗鬆症(osteoporosis、オステオポローシス)は、何らかの原因で、骨形成の速度(bone formation rate)よりも骨吸収の速度(bone resorption rate)が速くなってしまっている状態をいいます。



(注) オステオ(osteo-)は、ギリシア語で「骨」を意味します。ポローシス (-porosis)は、「空洞形成」を意味し、骨の中に空洞が形成される「骨多孔症」とでもいう意味になります。「粗鬆(そしょう、そそう)」は、「細やかでないこと。大雑把で荒いこと」を意味することから、この「骨内空洞形成症」とでもいう状態は「骨粗鬆症」と一般的に呼ばれています。オステオパシー (osteopathy)という整体法がありますが、これはオステオとパソス(pathos、病理、治療)から形成された言葉です。(注終わり)

 骨粗鬆症の治療法が見えてきます。骨形成の速度を上げる方法と骨吸収の速度を下げる方法です。アクトネル(ベネット、経口薬:味の素が製造)やフォサマック(経口薬:MSDが製造)などのビスフォスフォネート(bisphosphonate、BP)製剤は、骨吸収の速度を下げるために使われる薬で、破骨細胞の活動を阻害し、古い骨の破壊を防ぎます。しかし、骨吸収の速度が骨形成の速度を上回っているという状態は、骨吸収が亢進されいている場合と骨形成が抑制されている場合が考えられ、骨形成が抑制されている場合には、ビスフォスフォネートは、効果が薄かったようです。

 体内のカルシウムは骨の中に99%、血液や細胞の中に残りの1%が含まれているといいます。人体は血液中のカルシウム濃度が低下すると、骨の中からカルシウムを調達するなどします。骨吸収(血液から見ると骨を吸収していることになり、骨からみると破壊されていることになる)が起るのです。血液中のカルシウム濃度が低下すると、副甲状腺ホルモンの分泌が促進され、血液からの排出の抑制-尿に出るカルシウムを抑え、血液への取り込みの促進-カルシウムの腸からの吸収を促し、また、骨を壊して骨からのカルシウムを調達する、ことによって、血液中のカルシウム濃度を上昇させます。

 副甲状腺(parathyroid gland)は、首にある甲状腺の後ろ側に4つある内分泌腺です。この内分泌腺から分泌される「副甲状腺ホルモン」は、ビタミンD(血液中のカルシウム濃度を高める)、カルシトニン(甲状腺などから産生。血液中のカルシウム濃度の上昇により分泌が促進され、破骨細胞にあるカルシトニン受容体に作用して骨吸収を抑制)とともに、血液中のカルシウムの濃度の調節に関わります。

 副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone, parathormone、PTH)には、(1)骨吸収を促進する作用と、(2)骨形成を促進する作用があります。2つは相反する作用です。持続的に副甲状腺ホルモンが高い状態では、骨吸収の作用が発揮され、骨が破壊されて(骨密度が低下して)、カルシウムが血液中に増えてきます。しかし、間歇的に副甲状腺ホルモンを上昇させると、骨形成の作用が発動して、血液中のカルシウムを材料として、骨が形成されます(骨密度が上昇します)(differential effects of intermittent and continuous administration)。そこで、副甲状腺ホルモンを間歇的に血液中に増加させるという骨粗鬆症に対する新たな治療法が試みられることになります。

 「テリパラチド(Teriparatide)」は、骨形成促進作用を持つヒト副甲状腺ホルモン製剤です。テリパラチド製剤には、旭化成ファーマが製造販売する(2011年11月販売開始)「テリボン(Teribone)」と日本イーライリリーが販売する(2010年10月販売開始)「フォルテオ(Forteo)」があります。ともに皮下注射する製剤ですが、「フォルテオ」は毎日1回(20μg、毎日通院するわけにはいかないので、自分で注射する必要がある)、投与するのに対して、「テリボン」は週に1回、1バイアル(56.5μg)を日局生理食塩液1mlに溶解して投与します。

 背骨(脊椎)は「椎骨(ついこつ)」と呼ばれる骨が連結したものです。椎骨は24個からなり、頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個です。椎骨の円柱状の部分を「椎体(ついたい)」といいます。高齢者の女性が骨折で「寝たきり」になる大きな原因の1つがこの椎体の骨折です(寝たきりの原因の第3位)。椎体圧迫骨折は、椎体が潰れた状態で骨折するため、回復させることが難しいのです。

 椎体圧迫骨折が生じる主な要因は、骨粗鬆症で骨が脆くなっている状態で転倒することです。高齢者の女性が転倒することは、寝たきりに直結してしまうとても危険なアクシデントなのです。日本の骨粗鬆症の患者は約1000万人と推定されており、女性が全体の70%ほどを占めています。女性の椎体圧迫骨折の頻度は、50歳から70歳未満では20%、70歳代で25%ほどですが、80歳代では約43%と高率になってきます。

 女性ホルモンのエストロゲンは骨組織に直接的に作用し、破骨細胞の寿命を調節することで、骨吸収の速度を減速しています。18~20歳頃の性成熟期には、女性ホルモンによって、骨吸収の速度が減速させられ、骨形成の速度が上回ることになり、最大骨量に達します。40歳代に入ると女性ホルモンの分泌が急激に低下し、骨吸収の速度が回復して、骨量は減少し始めます。50歳頃(日本人の平均閉経年齢)から女性ホルモンの分泌がさらに急激に低下します。骨量はさらに減少し、骨粗鬆症の発現です。

 テリボンを実験用サル(卵巣摘除。女性ホルモンは卵巣で作られることから、卵巣を摘除して女性ホルモンが低下した状態を作り出す)に週1回18ヵ月間反復投与したところ、対照(テリボン非投与)と比較して腰椎及び大腿骨近位部の骨密度が増加したといいます。また、ヒトに対して行った二重盲検法(Double blind test、被験者を被験薬の投与群と被験薬に似せた薬効のない薬の投与群とに分け、その振り分けを治験実施医師にも知らせない)で、テリボン非投与群の新規椎体骨折発生率が投与72週後に14.5%(281名中40名に発生)だったのに対し、テリボン投与群では3.1%(261名中8名のみに発生)と有意に椎体骨折の発生を減少させています。これはテリボンの骨密度増加効果をヒトでも実証したものといえます。

 椎体骨折のリスクの減少率を求めてみましょう。(14.5-3.1)/14.5を求め、%に変換すると、78.6%ほどになります。テリボンを週に1回、72回投与すると、椎体骨折をする可能性が4分の1に減少するのです。しかし、これは1年4か月ほどにわたって投与した場合で、48週(11か月)では、(10.4-3.1)/10.4×100=70.2で、24週では、(5.3-2.6)/5.3×100=50.9でした。5か月半での投与で、椎体骨折のリスクは半減することになります。



 テリボン投与とともに日常生活で転倒しないように心がけなくてはなりません。家の外階段に手すりをつける手続きが進行中です。手すりがないため、最近外階段から母が転げ落ちました。近所の人が見ていて、すぐに知らせてくれたので、事なきを得ました。頭にこぶを作りましたが、骨折には至りませんでした。

 骨量を減らさないためには、骨に刺激が加わる適度な運動は必要です。ウォーキングやストレッチ体操といった軽い運動は日常生活に取り入れなくてはなりません。外へ出て日光浴をすることはビタミンDの生成に必要です。ビタミンDはカルシウムの腸管からの吸収を促進させます。転倒は怖いのですが、恐れすぎて歩かないのは結果、骨量を減少させてしまいます。

 テリボンの副作用の1つに「めまい」や「立ちくらみ」があります。この症状は、投与直後から数時間後にかけて現れることがあるといいます。一過性の血圧低下が現れるのです。骨折を防ぐための投薬が骨折の引き金になってしまうのは、絶対に避けたいところです。

(参考) 「骨粗鬆症治療薬「テリボン」の副作用にはどのようなものがあるか。

 母にテリボンの投与が始まります。その効果のほどと身体の変調などの副作用があれば、またいずれかの機会に報告したいと思います。母の「クオリティ・オブ・ライフ (Quality of Life、QOL)」の向上を目指して、テリボンのことを調べてみました。

 テリボンの1回あたりの薬価は約1万3千円です。年間で、12,971円(1バイアル=56.5μg)×(365÷7)回=676,345円。これを12か月で割ると、12,971円×(365÷7)÷12=56,362円/月になります。後期高齢者医療制度による医療費の自己負担割合は、1割または3割(住民税の基準課税所得額による)ですから、負担する金額は月に5,600円ほどか16,900円ほどになります。

(参考) 「骨粗鬆症治療薬「テリボン」を超える薬はやがて登場するか。R型、N型の破骨細胞とは?

(追記 2013年5月29日) このブログの記事にこんなコメントが寄せられました。
 あの薬(=テリボン)は、毎週通って貰わないと行けないのですけど、一年半もの間、毎週通わせる家族の気持ちを考えたらとても薦められません。
 たしかに、毎週通わせる家族の苦労は大変でしょう。高齢者の仕事を持っている家族は週1回の休みを取らなくてはならないこともあるでしょう。骨折で寝たきりになる可能性との考量でしょうね。

(追記 2013年6月14日) 「通りすがり」さんから、こんなコメントもいただいています。
 テリパラチドは治療期間を満了することが大事です。頭痛や吐気はお辛いと思いますが頑張ってください!応援しています。
もし、本当にお辛い様でしたら、毎日自分で打つテリパラチドもあります。一回の薬剤の量が少ないので、副作用が軽減されるかもしれません。先生に相談して見て下さいね。


                  (この項 健人のパパ)

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コメント
 
 
 
分かりやすくて! (ゆき)
2012-08-20 19:49:23
骨粗鬆症の治療薬を中々、覚えれなかったのですが分かりやすくて、今後の参考になりました。
 
 
 
ありがとうございます。 (健人のパパ)
2012-08-21 00:31:06
お褒めいただきありがとうございます。自分が理解するためにいろいろと資料を読み漁りました。お役に立てれば光栄です。
 
 
 
よく分かりました (みんと)
2013-06-14 10:03:07
フォルテオの自己注射を始めて5か月になります。
最近、神経痛のような症状が出て悩まされています。
他に思い当たる原因もないので、もしやフォルテオの副作用かも? とあちこち検索しててこのブログに行き当たりました。詳しく分かりやすく書いてくださってて助かりました。
現在の症状が副作用かどうかは未知数ですが、いろんな情報を参考にして対処していきたいと思っています。
有難うございました。
 
 
 
テリパラチドの副作用 (健人のパパ)
2013-06-14 10:35:48
テリボンについてではありますが、5か月間ほど投与を続けると、椎体骨折のリスクは「半減」すると製薬メーカーのデータは言います。テリパラチドは、何かの症状を緩和するという性質の薬剤ではありません。リスクを減少させるという薬ですので、強引に例えると、掛け捨ての保険を掛けて続けているようなもので、無駄な経費のようにも思えます。財布が痛むという副作用もありますから、疑問を抱きたくもなります。いざというときに、保険会社に難癖をつけられて、保険金が出ないということもあるでしょう(私にはそんな経験はなく、自動車保険や旅行者保険で、幾度となく、保険会社のお世話になっています。リスクの多い生活スタイルなのかも知れません)(ここでは、製薬メーカーの言うように投与し続けていたのに、骨折をしてしまうという例えです)。私たちはその効用を信じて、副作用をある程度耐えなければならないのでしょう。お大事になさってください。
 
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