岐阜県美濃市藍川の小児科医院「平田こどもクリニック」で2012年10月17日、同県関市の小学5年生男児(10歳)が日本脳炎の予防接種(阪大微生物研究会の「ジェービックV」。ロット番号はビケンJR155)後に意識不明となり、別の病院に搬送されましたが、約2時間半後に死亡が確認されました。男児は午後5時15分ごろ、ワクチンを接種し、約5分後に「待合室で寝ている男児の様子がおかしい」と看護師が気付き、医師が確認したところ、心肺停止状態であり、午後7時50分ごろ死亡が確認されたといいます。
厚生労働省によると、「日本脳炎の予防接種では2010年度、接種した約440万人のうち1人だけショック症状の報告があるが、死亡例はない。」としており、日本脳炎の新ワクチン開発に携わった専門家は、「数分で血圧が急激に下がるアナフィラキシーショックの可能性が高いのではないか。年間500万回以上注射されているが、こんな事例は初めてだ」と述べてます。
厚生労働省は、日本脳炎の予防接種について、重い副作用(ADEM、acute disseminated encephalomyelitis、急性散在性脳脊髄炎)が報告されたことから2005年度から2009年度にかけては、積極的な勧奨を差し控えていました(いわゆる「積極的勧奨の差し控え」)。しかし、日本脳炎の新ワクチンが開発されたため、2010年度から積極的な勧奨を再開しました。再開後のワクチンの副作用による死亡例は、2012年7月にも報告され、5歳から9歳未満の子ども(性別・具体的な年齢は未発表)が接種7日後に急性脳症で死亡しています(ワクチンは「ジェービックV」、ロット番号はビケンJR128)。
この子どもは、ワクチン接種でのリスクが高くなる「癲癇(有病率は100人に1人から200人に1人と言われています。けっして珍しい疾患ではありません)」(1歳時に発症)で加療中で、超低出生体重児であり、発育遅延でリハビリ中であったようです。
(参考) 「インフルエンザワクチンの副作用(副反応)報告を読む - その2」
ワクチンの専門家によると、「どの予防接種でも、ごくまれにショック症状が出ることがある。また、持病やアレルギーがあればその影響の可能性もあり、詳しく調べる必要がある」そうです。現在、日本脳炎のワクチンは2種類が認可されています(化学及血清療法研究所「エンセバック皮下注用」と阪大微生物病研究会「ジェービック V」)が、死亡した2人は製造のロットが違うものの、同じメーカーのワクチンを接種していたということです。
厚生労働省は、死亡例が2件続いたことを受け、調査を進め、2012年10月31日に開かれる専門家の会議でワクチン接種との因果関係などについて評価を仰ぐことにしているようです。2012年5月23日開催の第22回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会で、委員の1人がポリオワクチンが不活化したことに関して次のように述べています。
「この不活性化ポリオ[ワクチン]の導入は、何かバラ色のように見えるのですが、たしか世界で44例、不活化[ポリオワクチン]だけで、単味[ワクチン](抗原を1つだけ含んでいるワクチン。「混合ワクチン」の対義語)で亡くなっている方がいらっしゃいます。ですから、全く安全ですからということではなくて、麻痺のリスクあるいは死亡のリスクは低くなるかもしれないけれども、我が国で何年間OPV(live oral poliomyelitis vaccine、経口生ポリオワクチン)で死者がなかったか知りませんが、リスクはゼロではないということを公開するべきでは。
既に資料自体は、たしか前の前か何かに公開されています。担当者は世界にある事実をきちんと背景として知っておく必要があるのではないかと思うんですね。今までのOPVがIPV(inactivated polio vaccine、不活化ポリオワクチン)になったというので世界が変わると思った、そんなことではないと思う。
なぜ不活化ソークワクチン(Salk vaccine、1955年、米国の細菌学者Jonas Edward Salkが開発したワクチンで、ポリオウイルスをホルマリンで不活性化したものを筋肉内に注射して用いる)が失敗したか、そういうことが過去にありますから、そういうことも含めて、やはりきちんとしたものを押さえておく必要があるのではないかと。
厚生労働省としての共通の認識のデータを小児科の先生全部に配布するとか、何かそんなことをしておかないと、本当に事が起こったときにワクチンが全部とまるということを考えておかなければいけないと思います。」(議事録から)
子を持つ親として、子に病原体が感染して重篤な状態になることを防ぐために受けたワクチン接種で、子を亡くすことの悲痛さは他人事ではありません。インフルエンザワクチンの接種の時期がやってきます。アレルギー体質の子を持つ親として、今年も無事に接種が終わることを強く望んでいます。
(追記) 岐阜新聞によると、接種を行った平田院長は「接種前の問診に異常はなかった。ワクチンの期限や用量は適正だったので、原因が思い当たらない」と話しているようです。男児は就学前に3回受けるのが標準とされる定期接種を受けておらず、今回が初めての接種だったそうで、平田こどもクリニックによると、男児が注射器を見て院内を逃げ回ったため、母親と看護師で押さえ、平田院長が腕に注射したのだそうです。男児の状態が悪くなった後、母親が平田院長に男児が関市内の特別支援学校に通っていることや、別の病院で処方された薬を飲んでいることなどを伝えたと岐阜新聞は報道しています。しかし、これがアナフィラキシーショックの原因になっているとは考えにくい。
平成22年8月25日に開催された「平成22年度第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」の資料、「推定接種者数及び副反応報告頻度について」にアナフィラキシーショックによって重篤化した事例(回復)が掲載されています。40歳代女性がインフルエンザワクチンの接種後にアナフィラキシーを起こします。その経過を見てみます。
ワクチン接種30分後…痒み出現。
1時間後…痒み増強。上半身に皮疹。
2時間30分後…皮膚科受診。受診時点で全身に蕁麻疹を認め強い痒みを訴えた。直ちにデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム1.65mg点滴静注及びヒドロキシジン塩酸塩25mg静注。
3時間後…蕁麻疹やや軽減するも気道症状(呼吸苦)訴える。
3時間30分後…皮膚科入院。入院時点で全身に蕁麻疹及び軽度の呼吸苦あり。咳著明。
6時間30分後…全身ほてり感あるも蕁麻疹軽減。呼吸苦少し。咳軽減。
8時間後…消灯。咳軽度。
ワクチン接種翌日(ワクチン接種20時間後)…蕁麻疹少し。呼吸苦も少し訴える。咳あり。
26時間後…皮疹消失。呼吸苦なし。咳あり。
27時間後…退院。咳あり。
岐阜の男児の予防接種後の死亡のケースを見ると、アナフィラキシーショックにしては経過が早過ぎるという印象は持ちます。
(参考) 感染患者報告数の少ない日本脳炎のワクチンは受けるべきではないか?
(追記) 12月13日配信の時事通信です。
日本脳炎の予防接種を受けた岐阜県の男児(10)ら2人が死亡した問題で、厚生労働省の専門家小委員会と安全対策調査会は13日、新たな調査結果を検討した上で、改めて「直接的な因果関係は認められない」との見解を示した。
専門家小委などは今後、日本脳炎で緊急性の高い事例が報告された場合、定期的な会合以外に検討会を開くことを決めた。
(この項 健人のパパ)
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